9
群れの大半は、グルドが率いて保安官事務所に侵入し、子どもたちを探す。
残りの数名を連れて、ロイドとビアンカが中心となって、ジェラルドの家を家探しすることになった。
「予定通り、保安官事務所への襲撃を聞いて、ジェラルドが慌てて出て行ったな」
屋敷を見張っていると、慌てた様子の警備隊の訪問から間を置かず、ジェラルドが慌てて馬を飛ばして出て行った。
ビアンカは家の周囲を見回し、警備が手薄な場所を確認して侵入のタイミングを計る。
この家の使用人が、通いだという調べはついている。ジェラルド自身が保安官事務所に行った今、この家には誰もいないはずだ。
それでも、細心の注意を払いながら彼の執務室へと向かった。
ひんやりとした、薄暗い執務室。
「今日はここでは仕事をしていなかったみたいね。彼がいた気配が無いわ」
机の引き出しを探り、書類を確認する。
「めぼしい物は無さそうだな」
微かな外の月明かりを頼りに、奥の寝室へと向かう。
「さっきまでここにいたみたいだけど……寝台を使った気配も、ティーテーブルを使った気配もないし」
彼はでかける寸前まで、いったいどこで何をしていたのか。
寝室の隣の書斎も、灯りをつけていた気配が感じられない。
何かを考えこんだ表情をしていたビアンカが、ロイドの肘を引いて囁いた。
「ねえ、ロイド。さっき、微かにだけど、この間の役人の家で嗅いだ香の香りがしたの」
ビアンカの鼻はなんでも嗅ぎ分ける。そしてけして間違わない。
書斎をくまなく調べた後、再び寝室に戻った。
部屋のあちこちを気にしながら、壁や棚の裏も丁寧に探っていく。
「何かありそうなのに……これだっていうのが無いわ。確かに香るんだけど、ここじゃないのかしら。服についてきた匂いとか」
ビアンカは腑に落ちないというような表情で、片足のつま先をトントンと動かしながら、顎に手を当てて考え込んだ。
はぁ、と小さくため息をついて、扉に向かおうとして、足を止めた。
さっきと同じように、トントンとつま先で床を叩く。少し場所を移して同じように。
「……地下か」
ビアンカの心を読んだようにロイドが呟く。
軽い音を立てる場所にロイドがしゃがみ込み、拳で軽く床を叩いて確かめる。
数か所、同じように確かめた後、床板のつなぎ目を強く押すと、その部分が浮いた。
ずれた板を持ち上げると、数枚が繋がった状態で動き、それを横へずらしてみると、床下に階段があらわれた。狭く急な、下へと向かう階段。
「部屋の外でミゲルが見張っている。彼を呼んできてこの入り口の番をしたもらおう」
ロイドのその言葉に、地下への入り口の傍に、寝室の入り口にいたミゲルを呼んできて、2人でその狭い穴へと潜り込んだ。
地下だと言うのに、湿気やカビ臭さは少しも感じない。人が良く出入りしている証拠だ。
「……彼のお気に入りの場所、というわけね」
急な階段を下りると、扉に行きあたった。
「さっきよりも、例の香の匂いが、すごく強くなったわ」
「あぁ、俺にもはっきりとわかるよ」
この扉の奥が、ジェラルドのお気に入りの場所なのはわかる。
しかし――どうにもこの奥を覗き見るのは、胸がざわついてしょうがない。
ロイドは、扉のノブに手をかけるのを躊躇せざるを得なかった。
「どうしたの? 中を確認しないの?」
扉の前で躊躇するロイドにビアンカが声をかけた。
「ああ、いや。そうだな」
嫌な予感に胸の内を燻らせながら、ロイドは扉をゆっくり開ける。
開いたドアの先に目にしたものを『ビアンカに見せてはいけない』と警鐘が鳴った。
しかし、それはすでに遅く、ビアンカは、ロイドの肩口から部屋を覗き込んでしまった。
そして、口元を押さえたまま、二歩、三歩と後じさり、石の冷たい壁に背をつけた。彼女の尻尾が、恐怖を隠せず強張ったまま揺れる。
ロイドは反射的に扉の前へ身を滑り込ませ、開ききったドアを押し戻そうとした。――見せてはいけない。見た瞬間に、彼女の中の何かが壊れる気がした。
「ビアンカ、見るな――」
言いながら、自分の声が震えているのがわかった。
扉の隙間から流れてくる甘ったるい香の匂いは、吐き気を誘うほど濃い。あの役人の家で嗅いだ匂いと同じだ。清潔で、贅沢な、そして――血の気配を隠すための香り。
だが、もう遅い。
ビアンカの瞳は、扉の奥に釘づけになっていた。
薄闇の中、磨き上げられた木の台座が並び、その上にそれらが置かれている。
妙に艶やかな毛並み、命の温度だけが抜け落ちた、獣人の剥製。
胸から上だけ、首だけ、手だけ――丁寧に飾り立てられ、まるで戦利品のようだ。
ビアンカの喉の奥で、幼いころの記憶がざらりと擦れた。
もし、このお話を好きだ!と思ったらイイねやブックマークを!
気になる、気に入ったと思ったらコメントや評価☆☆☆☆☆,をお願いします。
定期更新を心がけてます。ぜひブックマークを!大変喜びます♪




