7
ロイドの片眉が上がり、横目でちらりとビアンカの方に視線を投げる。
ビアンカは、それに答えるように目を細めた。
扉の奥は狭い階段になっていて、床下の小部屋へ続いている。
石壁の湿り気。金庫の鉄の匂い。
そこにある大きな金庫の前でロイドがその黒い鉄肌を撫でる。
「ビアンカ。耳、貸して」
ビアンカが分厚い冷えた鉄に耳を寄せる。
ロイドがダイアルを右へ左へと回し、ビアンカはかすかな変化を、掴んだ彼の腕に伝える。
――ガチン
重たい鉄の扉が息を吐くように手前へと開く。
中には硬貨袋、紙幣の束、そして管理印のついたいくつもの封筒。弱い者から集めた金が、ここでぬくぬく眠っている。
部屋で待機していたネイサたちを呼び、素早く確認する。取るのは着服分だけ。必要以上は奪わない。――群れの掟だ。
「これ、半分以上が“孤児院の修繕費”って名目」
帳簿を確認してテルマが低く言う。
「修繕してないのにね」
ネイサの声が少しだけ鋭くなる。ビアンカは短く首を振った。
「証拠も忘れずに持っていくわ。ヨナスに回しておく」
「了解」
ネイサが紙束を別の袋へ分け始める。
その時、上階からグルドが顔を覗かせた。
「そろそろ香が切れる。急ごう」
金庫を元通りに閉じ、隠し扉を戻す。本棚の埃の位置まで整える。
書斎のランプ芯を、さっきの明るさに戻す。
眠っている役人の手元に、インクで汚れた指布を小さな木彫りの狼を重しにして――“自分の汚れは自分で拭け”という、置き手紙にした。
外へ出ると、夜気が肺を洗う。路地の奥で若手が腕を上げ、『巡回、無し』の合図をくれる。
テルマが屋根から滑り降りてきて、ネイサが書類の入った袋の口を締め、ロイドへ差し出す。
「主、予定通り」
ロイドは袋を受け取り、群れの安否を確認するように全員を見回して、最後にビアンカと視線を合わす。
「撤収」
静かなその号令に、一度集まった群れが、再び四方の闇へ溶け込んでいく。
ビアンカは、ロイドに寄り添い、肩が触れそうな距離で、ともに市内を囲む塀を飛び越えた。
来た時には隠れていた月が雲間から顔を出し、尻尾を絡めあいながら森へと駆け出す2人を照らしていた。
◇◇◇
ロイドは、ビアンカが初めて自分の前に現れた日のことを、今でもはっきり覚えている。
母親のスカートのひだに隠れるようにして、不安そうに大人たちを見回していた小さな子。
――俺と目が合った瞬間、ふっと肩の力が抜けたみたいに安心した顔になって。
花がほころぶような、笑みを浮かべた。
あの日からずっと、ビアンカは彼の心を掴んで離さない。
朝、瞼を上げて最初に目に入る、白銀の艶やかな髪。
それが幸せじゃない朝なんて、ない。
ロイドは、目の前の寝息を含んだ赤い唇を親指でそっと撫でた。
ビアンカが小さく身じろぎし、白く長いまつ毛に覆われた瞳が、うっすらと開く。
「んん……ロイド?……朝ごはん、食べに下りる?」
ぼんやりした声でそう呟きながら、艶々の毛並みの白銀の尾がロイドの腰を撫でる。
「まだいい。もう少し、ゆっくりしよう」
長いまつ毛が、再び澄んだ青を隠す。
さっきよりほんの少しロイドの胸に頬を寄せて、口元に笑みを浮かべ、ビアンカはすぐに穏やかな寝息を立てはじめた。
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