5
昼間の町は、一見、何もかもが平和で平等で安全に見える。
商店には、人も獣人も同じように買い物に来て、挨拶を交わしたりする。
「そろそろこの屋台も修理がいるわよね」
物売りに使っている屋台の、ガタガタとした木の車輪をテルマが揺する。
「そうね。ずっとここに置きっぱなしだし、一度村に持って帰らないといけないわね」
ビアンカは、レースで編んだ布を敷き、台の上に花の入った籠を並べ始める。
「姐さんは、赤毛も似合うね」
ビアンカの頭巾から零れるクルクルとした赤毛を見ながら、ネイサが恨めし気に自分の赤錆色の髪に触れる。
「ネイサの色が可愛いから真似をしたのよ。赤って元気な感じがしていいじゃない?」
その言葉と向けられた笑顔にネイサが打ち震えた。
「姐さん!私と結婚して!」
それを聞いてテルマがゲラゲラと笑い転げる。ビアンカも笑いながら「あらー残念。私、人妻なのよ」とふざけて返す。
花籠を売り始めて、ものの30分ほどで半分以上が売れていった。
「さあ、ユリベル聖堂の幸福の花籠だよ。この花籠は幸せを呼び込む祈りがかけられてる。幸せごとおウチに連れて帰ってあげて頂戴!」
3人で道行く人たちに笑顔で声をかける。
「お姉さん! 小さい花籠いくら?」
「おばあちゃんちにお土産で持って行くわ」
教会で作る花籠は、町に出て来たついでに買って帰るにはちょうどいいサイズ、ちょうどいい値段なのだ。
「あ、やな奴と目が合っちゃった」
調子良く売り込みの声を上げていたら、テルマが低い声で小さく呟いた。
昼を過ぎ、朝の賑わいがひと段落する頃、巡回中の保安警備隊が商店や屋台に調査に入り始める。
――それは“調査”という名目のみかじめ料の回収なのだが
「よー、テルマ。良く売れてるなぁ。見たところあと小一時間もありゃ完売って感じだなぁ。いやー商売上手だねぇ。さすが。あんたら姉妹の屋台は何売ってもよく跳ねるよなぁ」
頬に痣のあるニキビ面の男が、他にも数人を連れて屋台の前を占領する。
「んー。管理料は半分ってとこかな」
ニヤニヤと、台の上の花籠をいじりながら、そう告げる。“半分”とは売り上げの半分ということだ。
「はぁ?何言ってんのよ!先月は売り上げの2割って言ってたじゃないの。それだって大概なもんだけど――」
テルマが怒りに震えて叫び始めた時、ビアンカがそれを諫める。
「そうね。売り上げが上がればそれに従って徴収金額も上がるんでしょうね」
「さーすが、お姉さんは頭がいい。駄犬のテルマとは中身が違うな」
後ろに付いて来た別の男たちも、その言葉にゲラゲラと笑い声を上げる。
今にも噛みつきそうなテルマをネイサが必死で止めていた。ネイサのこめかみにも血管が浮いている。
ビアンカは売り上げの入った箱を台車の下から出して、男たちに見えるようにして台の上に札や硬貨を並べ、半分をきっちり男に渡す。
「はい。これでちょうど半分よ。これからも管理をよろしくね」
男は金を掴むと、テルマの方を向いて上から下まで舐めまわすように見た後、いやらしく口を歪めた。
「テルマ。おまえもちゃんと管理してやってもいいんだぜ。いつでも頼んで来いよ」
そう言い捨てて彼らが去って行く。
「姐さん。なんで黙ってあいつらに金渡しちゃうんですか。争っちゃいけないってわかってるけど、悔しい!」
テルマが、男たちが去って行った方に石を投げながら、そう喚く。
「そうよ。騒ぎを起こすのはご法度だわ。それに緩い相手だと思われてる方が何かと得なのよ」
ネイサは、後ろを向いて涙を拭いている。ビアンカは、そんな2人の肩を抱きしめた。
「ね、2人とも私のズボンのお尻のポケットに手を入れてみて」
両肩を抱かれた2人は、いたずらっぽい表情を浮かべたビアンカの言葉に、それぞれ左右のポケットに手を突っ込んだ。
「きゃはは。くすぐったい。もぞもぞさせないで」
ポケットで手を動かされて、ビアンカがそう言って体をひねる。2人は手に触れた紙幣を握ってポケットから出した。
「姐さん!いつの間に」
「んふふー。大きな額の紙幣だけ隠したのよ。なんたって、あの男テルマにぞっこんだから、見とれてる内にね」
「やめてくださいよ!おえ」
テルマが眉間に皺を寄せて舌を出した。それから3人でゲラゲラと笑った。
「さ、あいつらにまた見つからないうちに、残りを売り切ってさっさと村に帰ろう」
ビアンカが笑いながらそう言って、そこから10分もしないうちの残りの籠はすべて売り切れた。
そして、3人は近くの雑貨屋で飴やマシュマロといった菓子を買い込んで、きゃあきゃあとくだらない話をしながら、村へと馬を駆った。
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