3
草の海みたいな高原に、風車がいくつも回っていた。赤土の道の向こうに、木立があり、その奥に小さな教会が覗いている。
木立に向かう荒れた道を、幌のついた馬車がゴトゴトと進む。
「いい天気だな」
深く帽子をかぶり、眼鏡をかけた農夫の格好をした男が馬を操る。その横に、赤毛のはみ出した頭巾をした女が寄り添っている。
「ホントね。いい風。もうすぐ夏が来る匂いがするわ」
男の肩に頭を寄せて、そう言いながら笑みを浮かべて目を閉じる。
「ヴィー。疲れてんだったら荷を運ぶのは俺一人でも良かったんだぞ」
男がそう言いながら、女の額に唇を落とした。
それに機嫌を良くして、女はさらにグリグリと肩に頭を擦りつける。
「いやよ。だって、宿にいたんじゃこんな風にロイに甘えられないもの」
男は手綱を片手でまとめて持つと、空いた手で女の腰を引き寄せる。
「なんだ。昨日の夜の甘え方じゃ、全然足りなかったか?」
そう耳元で囁くと、女の首筋がほんのりと紅をさす。
「そ、そういうのとは別で、なんていうか、こうイチャイチャしたいのよっ」
頬を赤らめながらも、満足げに口元を緩めるビアンカを、ロイドは愛しげに見つめた。
ロイドとビアンカの出会いは、ロイドの母が貴族の家で雑役婦として働いていた頃だ。
ロイドは、子どもながらに庭師にくっついて植栽の手入れを手伝っていた。
その家に、主人の慰み者として買われてきたのがビアンカの母だった。
母親に抱かれ使用人の部屋へとやってきたビアンカは、まだ言葉もおぼつかない幼子だった。
一年もたたずしてビアンカの母が死に、売られそうになっていたビアンカをロイドの母が引き取った。
そんな頃から2人はずっと寄り添って生きて来た。
教会が近づいてくると、建物から尼僧の格好をした女性が、小さな子どもたちの手を引いて出てくる。
ビアンカは、その女性に向かって大きく手を振った。
「マチルダ!」
馬車を降りるとビアンカはその年配の女性と手を取り合った。
「この間来たときは、ヨナスと巡礼に出てたから会えなかったでしょ? 2か月ぶりよ」
マチルダと呼ばれた女性が握ったビアンカの手をそっと引き寄せて、頬に軽く挨拶の唇を寄せる。
馬を繋ぎなおしたロイドが、後ろからやってきて揶揄うように言う。
「巡礼だとか言って、2人で楽しい旅行してきたんだろ。ゆっくり話を聞かせてくれよ、母さん」
教会に入り、若い神父に荷を下ろすように声をかけると、3人は司祭の部屋へと向かう。
部屋の中には、顔の真ん中に引き攣れたような刀傷をつけた片腕の無い男が、似合わない司祭服を纏って執務をこなしていた。
男は、部屋の扉の開く音に顔を上げ、笑みを浮かべた。片方の目は白く濁っている。
「久しぶりだな、ビアンカ。元気だったか?」
「元気よ、ヨナス。巡礼の旅は楽しかった? 船に酔わなかった?」
ビアンカは、男にハグをする。
男がその頬に唇を寄せようとするのを、ロイドが早々に回収した。
「楽しかったよ。いい時間を過ごした」
ロイドの表情に、苦笑を浮かべながら、ヨナスと呼ばれた男は皆にソファーに座るように促した。
「今回は、随分と収穫があったんだな。あまり荒稼ぎはするなよ。分け前が増えると欲の出る者も増えるからな」
窓の外の荷を下ろす作業をちらりと見て、ヨナスが言う。
「あぁ。前回の捕り物中に、あぶりだした裏切者は、向こうの罠に引っかけておいたよ」
そんな会話にマチルダが眉間に皺を寄せる。それを見てビアンカは、彼女の手の甲にそっと触れた。
「ねぇ、マチルダ。子どもたちにお土産がたくさんあるの。一緒に配って」
そう言うと、マチルダの手を取ってソファから立たせ、部屋を出て行った。
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