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獣の王は花嫁にもう一度恋をする  作者: けもこ


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長い、長い変革の時代だった。


ロイドは若い獣人たちの先頭に立ち、この国の流れを変えるために力を尽くしてきた。


仲間のために。

ビアンカが願った、公平に生きられる世界のために。


王政が崩れ、共和制へと移り変わり、獣人が議会に座ることを許されるまでになった。町の空気がようやく落ち着きを取り戻すころには、五年の歳月が過ぎていた。


「ロイド。本当にここを出るのか」


教会の小さな部屋で荷をまとめる背に、ヨナスが声をかけた。


かつての「黒牙の群れ」は、今では「正牙の党」と名を変えている。虐げられてきた獣人たちの声を世に届け、若い者たちが政治に関わる道をこじ開けた。


「ああ」


ロイドは振り向かない。


「もう、俺がここにいる理由はない」


戸口にもたれたヨナスを見ようともせず、木箱に荷を詰めていく。


議会に加わるようになって二年。

旗印として立ち続けてきた男は、ようやくその役目を手放そうとしていた。


動いているあいだだけは、考えずにいられた。


あの日のことを。

崖の縁で、ビアンカを失ったあの瞬間を。


ジェラルドの屋敷の地下から見つかったものが、国を動かした。獣人の剥製。人身売買の証拠。名を連ねた貴族たちの記録。

それで多くが失脚し、国外からの非難が押し寄せ、血を溢れさせる大きな反乱もなく、国は変わった。


変わらないのは

――ビアンカがここにいないという現実


「……ビアンカを探しに行くのか」


その言葉に、ロイドの手が止まる。


ほんの一瞬だけ。

やがて小さく息を吐き、また荷に手を戻した。


崖から消えたビアンカは、とうとう見つからなかった。

周辺をどれだけ探しても、遺体ひとつ上がらなかった。


「ヨナス。俺は」


ロイドは低く言った。


「ずっと、ビアンカと生きてる」


ヨナスは何も言わない。


ロイドはこの五年、何かを決めるたび、何かを壊すたび、胸のどこかで問いかけてきた。

ビアンカならどう思う。

彼女は、これを望むだろうか、と。


「俺の中では、あいつがこの世にいるかどうかなんて、もう関係ないんだ」


最後の荷を収め、蓋を閉じる音が小さく響く。

その音のあとで、ロイドはようやく振り返った。


「なあ、ヨナス」


目は驚くほど静かだった。


「俺たち、よくやったよな」


返事を待たず、少しだけ口元をゆるめる。


「だから、少し休みたい」


凪いだ水面のような顔だった。

この五年、ロイドは獣人たちのために、持てるものをほとんど投げ打ってきた。立ち止まれば飲み込まれてしまうものから逃れるように、ただ前へ進み続けてきたのだと、ヨナスにはわかった。


だから、もう引き留められなかった。


「ロイド」


ヨナスは戸口に立ったまま言う。


「マチルダも俺も、ここにいる。おまえの帰る場所はなくならない。それだけは忘れるな」


ロイドは答えなかった。


木箱の中のものは皆で好きに分けてくれとだけ言い、革の大きな鞄を肩に掛ける。

すれ違いざま、ヨナスの肩を軽く叩いた。


それだけで、部屋を出ていった。


扉の向こうへ消える足音は、思ったよりも静かなものだった。

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