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ヨナスの所へ向かい、集めた資料を机に並べる。
「ジェラルドのやっていることの摘発は、革命軍に動いてもらった方がいい。できれば、ヤツはどこかで足止めして、隠滅を図らせないようにしないと」
ロイドがそう言っていると、執務室のドアが静かに開き、フードを深くかぶった大柄な男が入ってきた。男の後ろには、護衛らしきさらにガタイのいい男が立っている。
フードの奥の男の顔に、ロイドは思わず呟いた。
「ハネイグ卿……」
ロベルト・ハネイグ侯爵。
獣人の革命派と手を組み、改革派に属する貴族。
かつて、ジョナサン・クレイグとして革命派のリーダーだったヨナスの命を救い、新しい人生を作り出す手助けをした人物。
「人身売買と虐殺行為については、こちらで動こう。証拠を押さえ、一気に膿を出し切る」
「では、我々『黒牙の群れ』は、軍の動きをサポートし、保安警備隊が動けないように」
「じゃあ、私とテルマたちで保護された子どもたちを安全な場所へ移動させるわ」
ロベルト・ハネイグら改革派の動きは速く、ジェラルドが屋敷の剥製を処分する前に屋敷を包囲し、証拠を確保した。
この事件に関わっている者は皆、これから国全体が大きく動く政変が起こることを予感した。
集会所で保護されている子どもたちは、戦火を逃れるためさらに田舎への移送が決まった。
「大変だったよね。もう少しだけ、頑張れるかな。一緒に馬車に乗って牛や羊のいるところへ行こう」
怖い思いをした子どもたちは、あちこち連れ回されるとひどく怯える。とはいえ王都に近いここは危険だ。改革派の貴族が持つ隣国に近い牧場へと子どもたちは避難させる。
「あれ? 今日は、ミルバは?」
テルマがそう声を上げた。いつも子どもたちの世話をしてくれるミルバの姿がない。
「子どもたちと一緒に牧場へ行く予定だから、町にいる親御さんにしばらく留守にするって話をしに行ったのよ。出産も田舎でする予定だし、心配をかけないようにって」
別の尼僧がそう言って、子どもたちに温かいスープを飲ませていた。
ハネイグ卿らの根回しとロイドやヨナスの働きで、王室に関わる貴族たちの所業が公にされることになった。
とりわけ、高位貴族たちの“趣味”については国外からの批判が大きく、文明社会を脅かす許されない行為だと非難を浴びている。
「恐らく、今以上に王政廃止の声が高まるだろう」
ヨナスは、ロイドらにそう告げた。ハネイグ卿たち改革派の貴族らは、王政を排して共和制への移行を望んでいるらしい。
「そうなれば、他国と同じように、この国でも獣人がもっと政治に参加して住みよく変わっていけるはずだ」
ずいぶんと希望的観測だとは思うが、それでも自分たちが人に虐げられずに生きていける社会になるきっかけにはなるだろう、とロイドは思った。
王都の改革軍と行動を共にしていたグルドが戻ってきた。
「どうやらあの保安官は取り逃がしたようだ。貴族たちもあいつに随分と後ろ暗い情報を握られているらしくて、口を割らない。もしかしたら口封じにどこかの貴族に殺されたのかもしれないな」
自宅を包囲されたジェラルドは、保安官事務所の襲撃後、どこかへ消え去ってしまったらしい。
王都は改革派の軍に包囲されている。そうそう簡単には逃げおおせられないだろう。グルドの言うように、これ以上罪が露呈することを危惧した貴族に殺されてしまっていればいいのだが。
ただ、証拠のないことを信じてはいけない。ロイドは、経験でそれを知っていた。
◇◇◇
保護された子どもたちの移送準備に追われていたビアンカのもとに、ミルバの母親が訪れた。
その様子が尋常ではない。顔色が悪く、思いつめた表情をしている。
「どうしても、ビアンカさんだけに話がしたい」
他の人には聞かれたくない話があるというので、ビアンカはミルバの母を祈祷所の奥の小部屋へ連れて行った。
ビアンカが何があったのかと声をかける前に、ミルバの母親が皺のある手で震えながら小さなカードを差し出した。
ふっと手渡された瞬間、嗅いだことのある匂いが立ちのぼり、嫌な予感がした。
『ナグスの森の奥へ来い。おまえは鼻が利くからわかるはずだ』
「だ、誰にもこのことを言うなと。でないと、ミルバも腹の子も無事ではいられないって」
母親はカタカタと歯を鳴らしながら、恐怖に震えてビアンカにすがった。
「お、お願いです。娘のミルバを助けてください。お願いです、お願いです」
掠れた声で絞り出すように言い、涙を流した。
ミルバは母親と二人暮らし。
お腹の子の父親である婚約者は、身に覚えのない罪で投獄されてしまっている。
これは罠だ。
それははっきりとわかっていた。だが、行かなければミルバもお腹の子の命も確実に失われてしまう。
声にならない嗚咽を漏らして震えるミルバの母親に、ビアンカは静かに声をかけた。
「わかったわ。大丈夫。私が必ずミルバを無事に連れ戻すから」
そして、老婆のことを尼僧の一人に頼むと、誰にも気づかれないよう静かに教会の裏門を抜け、森へと向かった。
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