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手配書の紙は、いつも獣人の顔を醜く描く。
牙をむき、目を吊り上げ、毛並みを汚して――「人間に害をなすもの」として、誰の良心も痛ませないために。
けれど、その一枚だけは違った。
白銀狼の女。耳は小さく、艶やかな尾は静かに垂れ、口元にだけ、かすかな笑みが残っている。
保安官ジェラルドは、その微笑を指先でなぞり、薄く息を吐いた。
「……美しいな。この体を部屋に飾ったらどれほど満たされるだろうか」
この世界は、人間と獣人が混じって暮らす。
表向きは“共存”。
しかし、その秤は最初から傾いている。
獣人が罪を疑われれば証拠は要らない。噂が証拠になり、偏見が判決になる。
この国境に近い町で、保安官ジェラルドはその歪みを、誰より上手に使っていた。
狼獣人の強盗団――『黒牙の群れ』。首領は、黒狼獣人ロイド・ウォルフガング。
森の奥の獣人の集落を守り、腐った貴族の隠し資産や悪徳商人の不正利益だけを狙う。
そして、人も獣人も分け隔てなく貧しい者に恩恵を与えるという。別名『黒狼王』
……そんな噂もあるのだが、これはこの国の上流社会では都合が悪い話だ。
ジェラルドは、もともと伯爵家の三男だった。
本来、家督を継げる立場では無かったが、父は莫大な資産を持ち、独り立ちした時に分けられるモノだけで、十分に贅沢ができるほどはあった。
しかし、『黒牙の群れ』によって父が隣国へ子どもを輸出していた事実が明るみにされた時、人身売買、隣国への情報漏洩、王家への反逆などを次々に暴かれ、家紋は没落した。
幼い自分はなんとか逃げ延びて、母の血筋の田舎の子爵家に身を寄せ、名を変えた。
得られるはずだったモノを、泡のように蹴散らした『黒狼王』に強い復讐心を抱き、手を回してこの町の保安官の座をもぎ取った。
この思いを満足させるために、この仕事はうってつけだ。
正義の顔をした保安官にとって、彼らは「討つべき害獣」だからだ。
ジェラルドが手にした手配書には、美しい白銀の狼獣人ビアンカの姿。
『黒狼王』ロイドの番であり、『黒牙の群れ』の首領の有能な右腕。
強盗団が動くとき、必ず半歩前に出る女。罠の匂いを先に嗅ぎ、銃声の方向を先に読む女。
そして、同じ強盗団の仲間にも隙を見せない『黒狼王』が唯一心を許す相手。
ロイドは狡猾で、慎重で、そして厄介なほど民に慕われている。
正面から追っても捕まりはしない。
――だから、女だ
「王様は、花嫁がこの部屋に飾られている姿を見たら、どんな顔をするだろうな」
ジェラルドには、父親譲りの“崇高且つ素晴らしい趣味”があった。
彼は、壁に無数の獣人の剥製が飾られた薄暗い書斎で、不気味な笑みを浮かべていた。
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