魚人先輩の乳首当てゲームを初めて30年が経ちました
たった今、自分が出したばかりのチョキに渋い顔を向け、そのままケタケタ笑うクラスメイトに目潰しを食らわしてやった。
「負けたんだから、見苦しい足掻きしてないで、さっさと魚人先輩を乳首当てゲームに誘えよ」
「くっ……!!」
魚人先輩はおっかない先輩だ。
普段なら冗談すら言えないくらいの人で、ふざけていて魚人先輩とぶつかった後輩が、体育館裏でピクピクにされたのは記憶にも新しい。
「せ、先輩……い、今……いいですか?」
「ぎょ?」
魚人先輩はスパイクの靴紐を結びながら声だけで返事をした。殺される。俺は逃げたい衝動に駆られた。
「お、俺と……その……ち、乳首当てゲーム……しません……か?」
「ぎょぎょ!?」
先輩は、近くにあったバットを手に取った。たまらず俺はドアの後ろに隠れた。
「せ、先輩が勝ったら一万! 一万払います……!!」
「ぎょ〜?」
バットがスッと下ろされ、俺は少しばかり生き延びた喜びに満たされた。
「百万だ」
「えっ!?」
「俺が勝ったら百万よこせ」
「ま、マジすか……!?」
先輩は悪そうな顔で、てか悪い顔で言った。
普通に喋れるとか、そんな事すらどうでも良くなるくらいの金額に、俺の頭の中は一瞬で恐怖に支配された。
「わ、分かり……ました……」
「ぎょぎょぎょ〜!!」
そう言うと、先輩は来ていたユニフォームのボタンを外した。薄黄色のスポーツブラが──
「先輩女だったんスか!?!?!?!?」
「ったりめーだろ!! テメーまさか……」
「いやいやいやいや!!!!」
魚の顔で男女の区別つくかよ!!
「下顎見りゃあわかんだろ、常識だぞ」
知らねーよ!! サンマかよ!!
「てか先輩乳首あんスか?」
「……ぎょぎょ〜?」
クソ、肝心な所を『ぎょ』で誤魔化しやがった。
「乙女の秘密だよ。当てたら教えてやる。勿論外れたら百万だからな」
「……」
こうして、世界一楽しくない乳首当てゲームが始まった──。
──カランカラン。
「ママ、久しぶり」
「あら芳さん、久しぶり。どうしたの? ここに来る時は大抵何かあった時じゃない? いつものでいいかしら?」
「ああ……。昼間にな、ちと知り合いと揉めちまって」
「あら、そうなの?」
「大抵月に一回は会って、メシ食ったり、どっか遊びに行ったりする仲だったんだけどよ……」
「ふ〜ん。それで?」
「今までは大抵お互いの空いてる日が重なってて、それでその日にしてたんだけど……しばらく忙しいって言われてよ……」
「あら、寂しくなっちゃって喧嘩したの?」
「べ、別にそういうんじゃなくてよ……なんつーか…………俺も歳食ったのかなって」
「ふふ。別にいいんじゃないかしら? またそのうち会えるわよ」
「そう……かな。ママは居ねぇのかい? なんつーか、別に約束とかしてなくても、ふらっと会って適当に飲んで食ってする様な相手」
「そう、ねぇ……」
「つーか、ママはそろそろ身を固めたりしねぇのかい? 余計なお世話かもしれねぇけどよ」
「分かってたら言わない方がいいんじゃなくて?」
「だな。ママ、おかわり」
「はいな。……まあ、ね。居ないことは無いのよ、別に」
「え?」
「月に一度、もう三十年になるかしら」
「そうなのかい? そんな奴がいるなんて、初めて聞いたぞおい」
「百万払うのが嫌だからって『勝負はまだ終わってない』とか言って、月に一度やって来ては酷いことをする奴がいるのよ? 五年くらいは一緒に住んだ事もあるわ。私が結婚しないのも、それが理由の一つかしらね」
「よく分からんが、気になるなあ」
──カランカラン
「あ、噂をすれば……私の乳首を当てに来た奴が」




