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第2話:『騎士団長さん、ボタン取れかけやん』

「歩け。罪人」


 王城の冷たい石畳の廊下。  私、スカーレットは、地下牢へと連行されていた。  前後を固めるのは、王国最強と謳われる近衛騎士団。


 その先頭を歩くのが、騎士団長グレン・アイゼングナードだ。  銀髪にアイスブルーの瞳。「氷の騎士」の異名を持つ彼は、その名の通り、私に対して氷点下の視線を投げかけていた。


「(……それにしても、ええ男やなぁ)」


 私はオカン目線で彼の背中を査定していた。  肩幅よし。足の長さよし。ただ、ちょっと雰囲気が暗い。昔の韓流ドラマに出てくる幸薄いイケメンみたいや。


 と、その時だった。  私の「オカン・センサー」が、異常を感知して激しく警報を鳴らした。


 ――ピロン。


 グレン団長が歩くたびに、彼の完璧な軍服の袖口から、何かが頼りなく揺れている。  第二ボタンだ。  糸がほつれて、今にもブチッと取れそうになっている。


「……あかん」


 気になり出したら止まらない。  あれが取れたらどうするんや? 予備のボタンなんか持ってへんやろ? だらしない格好してたら、せっかくの男前が台無しや!


「ちょ、待ちぃ!」 「貴様、騒ぐなと……」


 グレンが振り返り、剣の柄に手をかけた瞬間、私はその懐に飛び込んだ。  縮地(スーパーのタイムセールで培った足捌き)である。


「動くな! じっとして!」 「なっ、貴様、何を……!?」


 私はドレスの隠しポケットから、携帯用ソーイングセット(カバンには常備が基本)を取り出した。  針に糸を通す速度は0.5秒。老眼などない、今の私は十八歳のピチピチボディや!


「腕出して! ほら!」 「は? う、腕?」 「ええから!」


 混乱する氷の騎士の手首をむんずと掴むと、私は神速で針を動かした。  シュッシュッシュッ!  迷いのない運針。玉止めは頑丈に二回。最後は糸を歯で食いちぎってフィニッシュや。


「……はい、出来上がり!」


 所要時間、わずか十秒。  私は満足げに頷いて、補修したてのボタンを指で弾いた。


「これで大丈夫や。プラプラしてて気持ち悪かったやろ?」 「……は?」


 グレンは目を丸くして、自分の袖口と私の顔を交互に見ていた。  周囲の部下たちもポカーンとしている。


「お、お前……今、ボタンを……?」 「せや。あんた騎士団長なんやろ? 下がついてくるんやから、身だしなみはピシッとしとかんと。威厳に関わるで」


 私は「やれやれ」といった風情で針を片付けると、今度は逆のポケットから何かを取り出した。


「はい、これ」 「……これは?」 「のど飴や。あんた声低いしボソボソ喋るから、喉痛めやすいんちゃうか? カリンエキス配合やで」


 グレンの手のひらに、黄色い包み紙のアメちゃんを乗せる。  彼はまるで聖遺物でも渡されたかのように、震える手でそれを見つめた。


「……母上……」 「へ?」 「亡き母も……よく私の服を直してくれた……」


 見れば、氷の騎士の頬が、ほんのりと桜色に染まっているではないか。  クールキャラ崩壊の瞬間である。


「あったかい……。十年ぶりに、人のぬくもりに触れた気がする……」 「大げさやな! ボタン付けただけやんか」 「いや、スカーレット嬢。……いや、スカーレットさん」


 グレンは咳払いをすると、急に優しい目つきになった。アメちゃんを大事そうに胸ポケットにしまう。


「地下牢は寒い。……特別室を用意させよう。毛布も三枚つけよう」 「おっ、話がわかるやん兄ちゃん! そういうとこ好きやで!」


 私はバシバシと彼の背中を叩いた。  もはや連行というより、仲の良い親子のお散歩である。


 こうして私は、本来ならネズミが這い回るはずの地下牢ではなく、ふかふかベッド付きの貴賓室へと案内されることになったのだった。


(第2話 完)

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