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第1話:『あんた、背筋伸びてへんで!』

「スカーレット・ディ・ヴァンディール! 貴様との婚約は、今この時をもって破棄する!!」


 学園の卒業パーティー。  煌びやかなシャンデリアの下、第一王子レオナルドの高らかな宣言が響き渡った。  静まり返る会場。色めき立つ貴族たち。  そして、主役である私、公爵令嬢スカーレットは――。


 ――ズギャンッ!


 あまりの衝撃に足をもつれさせ、派手にすっ転んで後頭部を強打した。


「痛ったぁ……何すんねん……」


 星が飛ぶ視界の中で、私の脳裏に強烈な光が走った。  走馬灯だ。  でも、それは貴族としての優雅な記憶ではない。


 商店街のタイムセールで競り勝つ瞬発力。  近所の子どもに「アメちゃん」を配る謎の使命感。  ヒョウ柄のスパッツこそが最強の戦闘服であるという信念。


(あ、思い出してもた。私、前世は大阪のオカン、吉村ヨシ子(五十八)や)


 スカーレットとしての十八年の記憶と、ヨシ子としての五十八年の記憶が、脳内でちゃんぽんになり、そして完全に「オカン」が勝った。


「おいスカーレット! 聞いているのか! マリアへの陰湿な嫌がらせの数々……この僕が知らないとでも思ったか!」


 壇上のレオナルド王子が、隣にいる小柄な少女マリアの肩を抱き寄せながら叫んでいる。  私は、よっこいしょ、と掛け声を出しながら立ち上がり、ドレスの埃をパンパンと叩いた。


 そして、王子を見た。  私の婚約者。国の未来を背負う男。  オカンのスカウターが、瞬時にその状態を解析する。


 ――顔色が悪い。  ――頬がこけている。  ――そして何より、猫背すぎる。


「……あかんなあ」


 私は、つかつかと壇上へ歩み寄った。  周囲の騎士が剣に手をかけるが、そんなもんは無視や。


「な、なんだ? 逆上して襲い掛かる気か! 衛兵、こやつを……!」


 怯える王子。  私は王子の目の前まで詰め寄ると、その背中を、バチコーン!! と全力で叩いた。


「ぐはっ!?」 「あんた、背筋伸びてへんで!!」


 会場の全員が息を呑んだ。公爵令嬢が、王族をしばいた。


「な、ななな、何を……」 「男がそんなヘナヘナしてどうすんねん! 胸張り! アゴ引く! そんでシャキッとする!」


 私は王子の背中をさらにグイグイと押し込み、強制的に姿勢を矯正した。  そして、王子の青白い顔を両手で挟んで覗き込む。


「アンタ、ちゃんとご飯食べてんの? 野菜嫌いやろ? 目の下にクマ作って……夜更かしばっかりしてたら身長伸びへんで!」 「ぼ、僕は公務で忙しくて……」 「公務か公文か知らんけど、身体が資本やろがい!」


 私はドレスの胸元(なぜか四次元ポケット的な収納力がある)に手を突っ込み、キラキラ光る包み紙を取り出した。


「ほら、これ食べ」 「……なんだこれは」 「パイン飴や。穴開いてて鳴るやつやないけど、糖分補給にはこれが一番や」


 私は呆然とする王子の口に、無理やり飴をねじ込んだ。  甘酸っぱい味が広がったのか、王子の目が白黒する。


「……あ、甘い……」 「せやろ? 脳みそ疲れてんねん。ほら、マリアちゃんやったか? アンタもや」


 私は王子の隣で震えているヒロイン、マリアにも向き直った。   「細いなぁ! ちゃんと肉食べなアカンで! これ黒糖飴な。ミネラルたっぷりや」 「は、はい……?」


 断罪の場は、一瞬にして「親戚の集まり」のような空気になった。  私は腰に手を当て、会場を見渡して高らかに宣言した。


「婚約破棄だか何だか知らんけど、そんな大事な話、立ち話でするもんちゃうわ! 全員座り! お茶淹れたるから!」


 王子は口の中の飴を転がしながら、なぜか私に逆らえず、おずおずと玉座に座り直した。  その背筋は、さっきよりも少しだけ伸びていた。


(第1話 完)

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