表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

世代交代

〈昨日早やネックウォーマー洗ひたり 涙次〉



【ⅰ】


村川佐武ちやん。云はずと知れた目黑「ギャレエヂM」オーナーである。彼は自分の店と「特定小型原付」(説明は以前したので繰り返さない)で知られるメイカーELEMOsとで、特約店契約を結んだ。狙ひのエンスージアスト目当ての名車がなかなか入つて來ないご時世である。穴埋めと云つては何だが、その隙間を縫つて、佐武ちやん「特定小型原付」を賣つてみる事を決意した*(以前、尾崎一蝶齋が「ギャレエヂ」でELEMOs社の便利4輪、スーパーエレカーゴの良質な中古品を購入したので、それで「ビビつと來た」のである)。佐武ちやんに拠れば、「あたしは4輪の未來を讀んでゐるのよ。モータリゼイションの未來をね」。特に同社、エレポーターProはまさに(メイカーが主張してゐるやうに、免許不要の世の中が來る事を示唆してゐた)完成の域に逹してゐる。** 生前の永田も買つて大分重寶してゐたやうだ。



* 當該シリーズ第132話參照。

** 當該シリーズ第153話參照。



【ⅱ】


で、エレポーターProの新品を店頭に飾つてゐたところ、妙齡の美女がそれをキャッシュで買つて行つた。(あたしの讀み通りだわ。)と佐武ちやん。彼女が鰐革Jr.に憑依された、魔界の「祭壇」役だと云ふ事は、佐武ちやん勿論知らない。彼女の名は果野睦夢(はての・むつむ)。彼女の家族は彼女を除いて全員、基督教異端・ピューリタン系新興宗教「ものみの塔」の熱心な信者だつた。彼女は大學へ行つて靑春をエンジョイしたかつたが、家族は傳道の為、それは已めろと強要、そのお蔭で「グレた」睦夢は、魔道に足を踏み入れた。良くある話である。



【ⅲ】


鰐革Jr.は「もう一つの」魔界を造るべく、* 魔界の金庫から(ルシフェルが冥府に逃げてゐる間に)カネを拐帯、魔界造りの為に人間界で色々と買ひ揃へてゐたのだ(前回參照)。何故「特定小型原付」を? と問はれゝば、Jr.の展開した新しい世界は、「思念上」の世界であり、廣大な敷地を持つてゐたからだ。つまり、彼は「足」が慾しかつた譯。彼は「それ程の大器ではない」と後ろ指を指されても、氣にしなかつた。「思念上」の、と云へば** 怪盗もぐら國王の掘つた「思念上」のトンネルがまづ思ひ起こされる。あれと同じ現象をJr.は魔界で展開して見せたのだ。



* 當該シリーズ第81話參照。

** 前シリーズ第43話參照。



※※※※


〈あな不思議晝飯前の充實は閑暇に押して流されたのか 平手みき〉



【ⅳ】


場面はカンテラ事務所付「開發センター」に移る。カンテラとテオ、水晶玉を覗き込み、鰐革Jr.と睦夢との活動を眺めてゐた。彼らはJr.が初めて立ち上げる黑ミサの準備に追はれて、忙しく動いてゐた。で、睦夢は當然「祭壇」を勤めないといけないので、Jr.、他の【魔】を彼の「乘り物」にすべく、憑依のし直しである。テオは、安保さん製作の「對【魔】スコープ」のオペレイターとして、特別にカンテラの「方丈」に招かれてゐた。このギアは、【魔】の秘められた動きを知るには恰好のもの。無色透明なJr.の立ち振る舞ひも一目で分かると云ふ、インプットされたロボット番犬タロウの視線で、【魔】を見られる優れ物。テオ「この儘で行けば、謎【魔】の(カンテラ逹は鰐革Jr.と云ふ存在を知らない)『もう一つの』魔界作戰、上手く行つちやひさうですねえ」。カンテラ「後は必要な面子を集められるか、だな」。牧野がお八つとして手製のアイスクリームを饗してくれた。それは甘く冷たく、要するに美味かつた。



【ⅴ】


黑ミサ、と聞いて、三々五々【魔】逹が集まつて來た。黑ミサは魔界住人にとつては必要不可欠な「娯楽」である、心躍る行事だ。だが其処に闖入者が。云はずと知れたルシフェルである。「お前ら儂に受けた大恩を忘れたか!?」-【魔】A、「あんたはもう古いんだよ、とつとゝ冥府なり何処へなりと尻尾を卷いて失せろ!」-何と云ふ事だらう、「思念上」の世界は活氣を帶び、あのルシフェルが爪彈きにされやうとしてゐる- だが、「光陰矢の如し」。魔界にもこれぐらゐの光芒があつて然るべきだらう。



【ⅵ】


テオ「あはゝ、ザマあねえや」-カンテラ「後はこの世代交代を、だう云ふゝうに俺らが利用出來るかだ」-「流石兄貴。其処まで讀んでたんスね」。然し、一向に謎の【魔】である鰐革Jr.の身許は割れない。カンテラとテオ、睦夢を「祭壇」にしてのJr.の黑ミサを、飽かず眺めるばかりだつた。



※※※※


〈冬らしくスカート長き貴女見ゆ 涙次〉



【ⅶ】


魔界のこの世代交代が長持ちするかは未知數だつた。然し、カンテラの頭の中では、ルシフェルを味方に付けられるんぢやないかと、冷徹な計算が行はれてゐた。ルシフェル程の妖力を持つ者は他にはゐない。この話、鰐革男の遺志を継いだJr.の、孝行振りをたゞ(結果として)喧傳するだけで終はるか否か、カンテラ一味の勝負どころであつた。お仕舞ひ。



PS: ルシフェルは冥府には戻らず、幽冥界を彷徨ふ亡靈となつた。覆水は盆には返らない。時間の動きを逆行する事は、さしものルシフェルにも叶はぬ願ひだつた譯だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ