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白へ戻るその日まで  作者: 石見柚子
第一章
2/5

2 喫茶店

カランコロンッ

「いらっしゃいませ、1名様でよろしいですか?」

「はい」

「お好きな席どうぞ」


店内を見回すと、平日の昼間というのもあってか、客はほとんどいなかった。一歩踏み出すと、コーヒーの独特な香りが鼻腔を抜ける。死前カウンセラーである成海ナナは、依頼人行きつけの喫茶店87(ハナ)にやって来ていた。一通り店内を見て、窓際のソファ席を選ぶ。新妻がいつも座っている席だ。席につくのと同時に店員が水を持ってきた。最初に出迎えてくれた店員と同じ人だ。


「お決まりになりましたらお呼びください」

「もう決まっているので注文いいですか?」

「はいお伺いします」

「エチオピアコーヒーと懐かしのレトロプリンお願いします」


プリンと言えば伝わるのだが、メニュー名はしっかり読む派だ。理由は特にない。

店員は復唱し、少しした後にコーヒーを持ってきた。

ちらりと名札を見ると、藤原と書いてある。大学生だろうか。ふんわりとした雰囲気の可愛らしい子だ。キャラメル色で、ゆるく巻かれた髪がなびく。


コーヒーを一口飲むと、どこか知っている味に感じる。あぁそうだ。新妻が出してくれたコーヒーと同じ味だ。この店は確かコーヒー豆を店頭で売っていた気がする。新妻はいつもここで豆を買っていたのか。


ほどなくしてプリンが到着した。銀の器に鮮やかなレモン色とカラメルが混ざり合って、ところどころ鼈甲を連想させられる。名前の通り、昔ながらのプリンという感じだ。

早速スプーンで抉る。


(お、固めプリンだ)


スプーンに乗るそれを口に運ぶと、バニラの甘さと少し遅れてカラメルの苦みが調和し始める。これは美味しい。...けど毎日は流石に飽きるな。新妻はこれを毎朝食べているらしい。


エチオピアコーヒーと共にゆっくりと味わい、最後にお冷を飲み干した。

私も退職したらこんな風にのんびり過ごしたいなぁと、まだ先の老後に思いを馳せる。そうだな、そんな最期も悪くない。私からは、新妻はそれなりの幸せを手にしているように見える。家族はいないものの、良い家に住み、趣味も充実しており、優雅な毎日を過ごす。正直なぜ死前カウンセラーを頼んだのか分からなかった。そこを早いところ掴みたい。もっと仲良くなったらそこまで踏み込んで良いものだろうか。


思考の波が収まったところで席を立ち会計に向かう。また藤原さんが対応してくれた。

店を去ろうとしたところで、脳内の私が一つ提案してきた。


「あの、毎朝来て私と同じ物を頼むおじいさん分かりますか?」


私以外の目線から見た新妻を知れば、彼の新しい一面が見えると思ったのだ。


「あぁ、あのおじいちゃんですね。今日もいらしていましたよ」

「本当にこのお店が好きなんですね」

「えぇ、なんでも60年近く常連さんらしいです」

「なぜいつも同じものだけ頼むのでしょうか」

「あー、、なんかの思い出の味とか言っていたような...」


思い出の味。なぜだかそこに、新妻の秘密が隠れている気がした。


「そうなんですね。ありがとうございました、美味しかったです」

「またお持ちしております」


喫茶店を後にし外に出ると、暖かい風が吹いていた。

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