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[#8-世界が全部敵でも、わたしはずっとあなたの味方だから]

[#8-世界が全部敵でも、わたしはずっとあなたの味方だから]


彼女とのデートは5月の大型連休中に設定された。オレはいつでも良かったのだが、ティヒナが『どうしても⋯!』と言うので大型連休中の日にデートが確約。しかも大型連休の最終日。そこに意味があるのかどうなのか⋯は、オレには分からないけど、結構な剣幕で差し迫って来たのには若干違和感が残る。


────────

「イゾラスお願い!どうしてもこの日がいいんだ⋯⋯!」

「え、、、あ⋯うん⋯ティヒナがそういうなら⋯」

「ほんと?ありがとう!」

────────


あんな暴力的な妖しい瞳と、乙女の攻撃特化型対ネクラ男殲滅魔術戦法を行使されてしまえば、オレからの抵抗なんてものは何も無い。喜んでオレは、彼女の下僕となって彼女に従事するつもりだ。


約束は成された。

彼女とのそれまで⋯。『それまで』と言ってしまうと、なんだかデート以降は当該関係性が破綻の運命にある⋯との事を予見しているようになってしまうか。

何でもかんでも物事をマイナスな方向に捉える事はもうやめにしよう。

こんなにも天真爛漫な女の子が横にいるのだ。

だが世間は簡単に、そんなオレを認めてくれるような容易い社会性を帯びてはいない。


あんな事があった翌日から、良くもまぁ普通に登園出来ているよな⋯それはオレ自身も思っている。並の人間じゃ耐えられない劣等感であろう。



約束の日まで、そう遠くは無い。

期日となるその日まで、ティヒナとは通常時と同様、普通に会話をして、普通に喋って、普通に横に並ぶんだと思う。

その傍らで、ビッグイベントが控えている事を頭ん中で思い返しながら相手をしていると、とてもじゃないけど気が気じゃなくなるんだ。


『オレなんかが、、この人と、、デート⋯⋯⋯??』


まったくもって、信用に足る話では無い。今までの自分なら有り得ないコースに直結が果たされた。悪路をのっそのっそと歩き続け、障害物なんてあるようで無いようなもの⋯と認識してきたガタガタな道程。

いっつも自分にとって簡単な選択をしてきた。面倒な事を放っておいて、時間短縮を念頭に置きながらの生活は全然苦じゃなかったから。自分が正解。

自分が正義。

真心のこもった自分なりのアドバイスは、誰も傷つけないし、誰からも声を荒らげる事は無い。平和的解決が必要とされている昨今の世情を鑑みても、ここまでラブアンドピースな人間がいたであろうか。

人間は全員、オレのような平べったい心を持ちながら、時間という概念、さらに言えば、社会性を十分に保った異次元的で尚且つ、異常な習性を多く孕んだダークサイドな世界⋯“他者”を承認する力があるかどうか⋯。


今のオレにそんな余裕があるとでも思っているのか?


いいや、思ってない。

思ってないし、それに、、、、どうやら、その余裕ってものが物理的に掻き消される程、今のオレにはスポットライトが当たっているようだ。



教室に入ると、案の定、クラスメイトからの異様な目つきがぶち刺さった。クラスメイト以外にも、オレの登校を今か今かと待っていた人物も少数だが存在している。

隣のクラス、その隣のクラス、更に言ってしまえば、他学年のなんの関係性も無い(そんな事を言ったらほとんどの人物が当てはまるけど⋯)人間達が、オレの登校を待ち望む。

別にオレからの発信なんて何も無い。

そして、このような状態で迎える朝になるだろう⋯という事は、予測の範疇にあった。

当然だ。

当たり前だ。

こんな事を予測できないほど、頭が出来ていない人間では無い。


だからティヒナとの登校には⋯⋯⋯⋯考えた。

オレへ向ける意識というのは、普通の人間へ向けるような大した感情が積載されたものではない。

常識を逸脱した人間⋯として、他の人間には思われているはずだ。そんな人間と“付き合っている”だなんて、ティヒナの性格が疑われかねない事態に発展してしまう⋯。


だがそれを予見していたかのように、ティヒナはオレの感情を晴れ晴れなものとせしめる。


教室までの道程は長く険しいものかと思われていた。案の定、多くの生徒の的になっており、本当に申し訳なく思っている。

オレは何度もティヒナに、『オレの傍から離れてくれ⋯』と合図を出した。アイコンタクトとか、肩をポンポンと叩いたり、普通の人間だったら絶対に理解が出来るような範囲で、サインを提示していった。しかし何をやっても、彼女からの反応は無い。

なんだったら⋯“無視”とまで言ってもいいようなものでもあった。


群衆⋯と、表現しても良いだろう。

オレとティヒナのクラスである3年3組までは、多くの生徒で賑わっている。その目的というのは⋯もはや言うまでもない事だ。目的は、生徒達から嫌でも聞こえてくる、イゾラスとティヒナの関係性を揶揄する言葉の応酬。


オレには、それが聞こえている。

ティヒナには、どうだろうか。

オレが“普通”じゃないから聞こえているだけか?




教室に入るまで、ティヒナはオレの傍から離れる事は無かった。

教室には、異様な空気が流れている。廊下には他クラスの生徒がごった返すように、教室内を覗き込む。教室から廊下の風景が確認出来るが、とてもそこには目を配りたくは無い。オレがそうやって視線を少しでも向けると、ザワザワしだすのは目に見えているから。


『こっち向いた』ってな。

訳も分からず、オレの事を化け物扱いする人間達の顔が容易に予測出来る。


ティヒナと教室に入り、オレたちはすぐさまクラスメイトに包囲された。教室の後ろから入室したのは、黒板の前にクラスメイトが集中していたから。だがそんな事関係無く、オレとティヒナが入室すると自然的な流れで、クラスメイトはオレたちへと近づく。そして行く手を阻むかのように、バリケードを作成。その“バリケード”というのは、本物のバリケードでは無く、人間。何か、物を置く⋯という事よりも、人間が眼前にいた方が効力は圧倒的だ。


本来だったら、自分の力を使ってしまおうとするならば、こうした壁⋯となりえた人間達は自分の支配下に置くことなど簡単だ。しかし、現状から鑑みて、超常的現象が目の前で発生すると真っ先に疑われるのは、オレだ。

無闇に、軽はずみに、異能に関する事を考えない方が良い。オレを始めとする多くの超越者は、人間への当たりが非常に強いように設計されている。

どういう訳か、根幹からのものだと思われる“それ”は、克服のしようが無いもの。

先祖代々にわたって繰り返されてきた人間と超越者の衝突戦争が、血統にも深く刻み込まれた⋯という事だと、方々から聞いている。


人間がバリケードとなって、オレとティヒナの道を塞ぐこの事態。教室はもちろん、広い⋯と言い切れない空間だ。特段、個々に広いスペースが用意されているわけでは無い。そんな限界点が定められた中で、オレとティヒナは自由を奪われる。


「⋯⋯お二人さん、ちょっと止まってよ」

同じクラスメイトのメイアーツが口火を切った。『止まってよ』なんて言われなくても、物理的にこれ以上の進行は不可能だ。それでいて、果たさなくてはならない言葉を投げ掛けて来るのだから、ほんと、人間というのは理解の出来ない生き物だな。自分だって器としては人間なのに、まるで完全に別に生き物かと思ってしまうよ。


「なに?メイアーツ。ヒナたちに用があるわけ?」

メイアーツとティヒナは友達だ。オレはもちろん、友達じゃない。知り合い⋯と呼べる関係性にも至っていない。

⋯⋯⋯不服なのだろう。自分が仲のいい友達が、こんなにもの陰キャと慣れ親しむ⋯では飽き足らず、“恋人関係”を構築しているのだから。


メイアーツの周りに女子が集まる。そうして段々とグループが形成されていく。そのグループの中には、男が紛れていたりと、クラスメイトの幅、というようなものが浮かび上がってくるな。オレはクラスの人脈関係を知らない。

知ろうともしたことが無い。ルシースとレノルズが、勝手にオレの耳へ吹き込んでくる事があったり、コソコソと話している様から簡単に聞き出せたりしまったりと、イレギュラーな状態のせいで、クラスの内情を知ってしまう場合もある。

そんな時によく耳にするのは、ティヒナの聖女っぷりと、メイアーツの暴君っぷり。彼女がこの期の頂点に君臨する存在なんだろうか。もっとも、そのような権力抗争めいたものが、当学園で行われている事すら興味も無いけど⋯。


じゃあ、どうして彼女のたった一言の発言でここまで思考を膨らませているんだろうか⋯⋯⋯⋯。不思議なんだけど、少しだけ気持ちが悪いな。


「ティヒナ、どうしてこんな男と一緒に登園してんのよ」

「これで分からないの?ヒナたちの関係せェ」

そう言ったティヒナは、オレとの距離を一気に縮め、急激な身体の密着行動を始める。それにオレはどうやって対応していいのか分からず、その場にて硬直状態へと至る。周りで傍聴しているクラスメイトは、ティヒナの予想外の動きに戸惑いを隠せず声をあげる。

男と女。性別によって、ティヒナの行動に対するリアクションは異なっていた。男はイゾラスへの嫉妬を感じる事が出来る鬱屈な表情に乗せられた言葉。

どうせだったらこの空間に居ることを楽しもう⋯なんて、呑気な考えに至ったのも束の間、どうやらクラスメイトの顔色から察するに、相当オレには不信感が募っているようで⋯。


「みんな、こうしてヒナがイゾラスと一緒に居るのが、そんなにおかしいって言うの?」

「当たり前だろ。コイツ、ど陰キャじゃねえかよ」

「そうだそうだー!こんな“インケ”な⋯」


そんな言葉聞いた事が無いけど、オレが知らぬ間に男友達で流行ったものなのだろうか⋯。ど陰キャ、といった言葉の次に発された言葉なので、“陰気”⋯と表したらいいのかな⋯。

そんな考察をしている合間も平気で浴びせられるオレへの執拗な口撃。

鬱陶しい⋯。

ただただ、鬱陶しい⋯とそう思う。

そして、ティヒナに申し訳なく思う。

心の底から。


自分が抵抗の意を示した方がいいのか⋯。

だがそんな事をしてしまっては、更なる“イラつき”を相手に与えかねない。ここはもっと慎重にいきたいところ⋯なのだが、ティヒナはグイグイと、ガツガツと、攻勢に出るつもりでクラスメイトへの口撃に望む。


「誰も知らないだけだよ。イゾラスはみんなが思ってるような人じゃない。イゾラスを悪く言うのは止めて。やめてくれないんだったら、ヒナ⋯みんなのこと嫌いになっちゃう」

「え、いや⋯⋯俺ら別にそういう訳じゃ⋯⋯」

男連中がみんな、ソワソワとしだした。どうやらティヒナに嫌悪感を抱かれるのは相当嫌なようだ。それもそうだ。ティヒナはこの学年で一番の権威を持つ人。それに加えて、美貌も然る事乍ら、成績優秀の才女。

何でもそつなくこなす、五角形パーフェクトウーマン。男達はそんな神のような存在からの裁きには、どうする事も出来ず⋯。ただ、一部の男は俺に睨みをきかせてきた。オレはその男達と目線が合ってしまい、ソッと目を逸らす。しかし男達はそれだけでは無い。クラスメイトオレ以外の男は全て敵である現状から見て、ティヒナの言葉を受け、去った人間は19人。

そう、オレ以外の男全員だ。よって、目を逸らしてもそこには男がいる。オレを敵として認識中の男がいる。

そいつとも目が合った。

そいつとも目を逸らした。


リピートされる行為に嫌気が差したのか、突如ティヒナがオレの身体を引っ張った。先程は吸着的なものであったが、今度は強引なように感じられしまい、少々こちらの方が驚きは強い。だが、次の行動で今までの“驚き”は軽々と越えられてしまう。


───────────────

「要らないオトコども、退治完了」

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