[#7-デートの約束]
[#7-デートの約束]
集合時間、8時10分──。
イゾラス・ヴァルマンは7時55分に到着。
13分後。
この待機時間、、、、心臓がいくらあってもダメだこりゃ。多くあればある程、全身へ送らなきゃならない血液が増えるだけだから、オレ、死ぬかも。未知なる病気になって突然死なんて全然有り得る。血液の運動が異常値を叩き出して死亡⋯って、最後の最後にオレは人類の未来、医学の歴史に名を残す奇病への素体として記録され、伝説的な人物に。
そうなれば、オレはこの世に生きていて良かったな⋯と思える。
人体実験なんて、オレなんかでやりゃあいいのにな。
オレなんて、どうせそんじょそこらの攻撃じゃ死なねぇんだし。
「あれ?おーーい!」
「あ、⋯ティヒナ⋯さ、、」
「うぅうんん??いま、なんて言おうとしたァ?ヒナのこと」
「あ!?ご、ごめんなさ⋯⋯」
「ウウウン??」
「あ、、、」
こりゃあ⋯ムズいな⋯。何を言おうとしても敬語に繋がってしまう。やめる⋯とそう約束したんだ。
「ティヒナ、、お早う」
「⋯はい!よく出来ました。おはよう!⋯固いよ、イゾラス。もっと気をラクにして、ね?」
「あ、うん⋯分かった。じゃあ行こっか」
「うん、行こう!」
◈
やっぱり、周りの目線は気になってくる。公園を通るカーマ・ノドンス高等学園在学生は当然ながら、オレたちだけでは無い。男グループ、女子グループで固まったり、オレらのようなカップルがまばらにいたりと、登園手段は様々。
あー、案外、こう見ると一人で登園してる生徒も少なくは無いんだな。オレ、いっつも下を向いて歩いてたから、周囲の状況とか確認してなかった。
「イゾラスは、私とこうなる前はどんな感じで登校してたの?」
「どんな感じ?」
「うん、音楽聴きながら⋯とかさ、あ!イゾラスって趣味いっぱいあったじゃん?」
「どれも全部インドアだけどね」
「どうして急に暗くなったりするのよ」
「オレはティヒナみたいに明るい性格じゃ無いから、そうやって毎朝を明るい気持ちで過ごした事が一度たりとも無いんだ」
「そっか⋯ちょっとヒナ、無理させちゃったかな」
「ううううん!!!」
「え、それっちどっちのヤツ?『否定:うううん!』なのか、『正解:ううううん!!!』なの??」
「否定に決まってるって!」
オレは言葉の勢いのままにティヒナの身体に急接近。横に居たティヒナはそれに驚き、一歩足を引く。
「あ、そうなのね⋯わかった分かった」
「ごめんなさい!!あー⋯もう⋯オレって⋯何やってんだよ⋯⋯⋯」
「イゾラス、ごめんなさいって言うほどのことしてないでしょ?」
「いやでも⋯ティヒナが嫌な気持ちになったのは事実であって⋯」
二人は今、かなり近い距離感の中にいる。それを作ったのは、イゾラスだ。
「いつ?」
「え?」
「いつヒナが、『嫌な気持ちになった』って言ったの?」
「それは⋯」
「言ってない」
「⋯⋯ティヒナ」
「ヒナは言ってない。イゾラスから、初めてこんな積極的に近づいてくれた。これってなんかイゾラスの中で、ヒナへの想いが変わったって合図なんじゃないの?」
「あ、、、」
「うん?その反応は、、、“どっちなの”?」
「んぁえ?!!」
暖かくも優しい眼差し。ティヒナといると日頃溜まってきた鬱憤やらなんやらが浄化されていく。正直な所を言うと、オレからのこの“接近”は意図したものでは無い。ティヒナはこれを“変化”として捉えているが、無意識下の中で勝手に働いたものであり⋯とても恥ずかしい行為として自認している。
だが、ティヒナからの認識とは違うようだ。
「イゾラス、今だったら⋯⋯はい」
「え⋯」
「手、繋ご」
「あ、、、う、うん⋯⋯」
ティヒナの手に触れる。別に初めての事じゃないのに、今までの温もりとはかけ離れた次元の違うものを感じてならない。こんなにもシチュエーションが違うだけで効力が異なるものなのか⋯。
行為は一緒だ。
人も一緒。
ただ、環境と言葉が明らかに異なる。
これだけで、ここまで世界観が変わってくるのか⋯。
オレは、ティヒナを通して社会を知っていく。社会性を帯びた人間になんて、なれないと思っていた。きっとそれは、根幹からの血が関係して来ている。だが、今となってはそれに抗いたい。
彼女が、どうやって今まで生きてきたのかをオレの身体にトレースすれば、人生をガラッと変えるチャンスだって巡ってくるに違いない。
そうだ。
そうなんだ。
「そうなんだよ!」
「え、、、、な、ど、したのよ?」
「ティヒナ!」
「は!?はい!」
ティヒナの両肩を抑える。ガッシリと抑えられた肩へ、イゾラスの熱き想いが迸り、ティヒナの感覚を刺激。触覚から始まった感覚への訴えは、目を通して、耳までも侵食。十分な時間を要する事なく、そのままダイレクトな流れで、事が運ばれていった。
「オレは、愚かだ⋯愚かな人間、男だ」
「え?どうしたの??そんなこと無いよ?」
「そんなオレに光を当ててくれたのは、ティヒナだ」
「あー、うん⋯ありが⋯とう」
突然過ぎる感情の爆発。点火源がなんだったのかは彼女に分からない。分かろうはずがない。
ティヒナがどうしてそこまで驚いているのか⋯。それはこれまでのオレの動きを把握しているならば、当然の反応だ。オレだって一応は人間だ。こうして他の人間とも何ら不自由なく生活出来ている。
⋯⋯⋯限られた生活圏内でやりくりしている。
「イゾラス、もう少しで大型連休が始まるじゃない?」
「うん、そうだね」
大型連休。言わずもがな、オレはインドアを貫いてきた人生だ。家ん中でゴロゴロして、いつも通りの土日の繰り返しを赤くなった平日のカレンダーにコピーペースト。
休日は嬉しい。
平日のうちに溜まりに溜まったエンターテインメントを消化出来るからだ。三連休にもなると、消化出来るエンタメが多くなるので、嬉しいは嬉しいのだが、頭ん中に蓄えるスピードが異様に速いので暇な時間が生まれてしまう。
結果、消化し切ったその後はダラダラダラダラ⋯。
新たなエンタメ作品を見つければいいのだが、速攻で『オレ、これ蓄えたい!』と思えるような作品が見つからない。
不思議だよな。学校に居ると、『面白そう⋯』と思えるような作品によく出会い、根城である家だと、なかなか見つからない⋯。
⋯⋯⋯⋯どゆことよ。なんだコレは。
──────────────
「私とさ、デートしない?」
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オレの中で、覚えたことの無い感情。
『恋愛』の関する映画作品を観ておけば、何となくは恋愛というものへの“理解”は可能だ⋯と思っていた。だけど、ティヒナからのこの発言に対して⋯オレは⋯⋯⋯
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯はい」
七秒間の沈黙を許してしまった。
「ほんとに?ありがと!」
そんなに嬉しがってくれるんだ。
男からの誘い、が普通だと思っているのは、外野からの言葉が投げられたからでは無い。
わかっている。
分かっているって。
わかァっている。
ハイハイ!解っとる!!
女からのデート誘いなんてご法度!!!
⋯なんでしょ?
確かに、今まで鑑賞・読破してきた作品にカップルで女からの“デート誘い”(そもそもデート誘い、という言葉が存在するのかどうかも危うい知識量)は無かった。
ちょっと系統の違う恋愛を主軸として来た作品だったみてきたのだ。
単純に言うなれば、SMもの。それがどうやって恋愛に転がるか⋯と言ったら、そりゃあもうこっからはオレの舌力の見せどころ!っていうわけだから、時間を作って“良きかな”⋯な時に紹介するとしよう。
⋯⋯⋯⋯オレは、純真無垢な女の子を前にナニをムサムサと述懐してるんだ。




