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[#3-不良漫画にアリがちな展開だったけど]

こえぇくねぇ。

[#3-不良漫画にアリがちな展開だったけど]



5月1日──。


オレはティヒナと登園するようになった。

「おはよーイゾラス!」

「うん!おはよう」

「昨日は大丈夫だった?なんか何かを思い出したかのように帰って行っちゃったけど⋯」

「ごめんね⋯ちょっと⋯母さんとの約束があって⋯」

「なぁんだお母さんか。だったらそう言ってくれればいいのに!どうして飛び出して帰ったりなんかしたのよ〜」

「ごめんね⋯ホンとに⋯申し訳ない」

「まぁご家庭の事情なら全然構わないけどね」


「ねぇねぇイゾラス」

密着度が半端無い。ヤバい⋯ちょっと待って⋯⋯⋯

「うん?どうしたの?イゾラス」

はしたない⋯⋯興奮が抑えられない⋯急角度過ぎる人生だ。昨日までこんな体験してなかったのに、いきなり過ぎる⋯。


あれ⋯そっかーそっかそっかぁー、イゾラス⋯興奮してるんだね⋯こんなことで⋯?もうそんなにまでなっちゃうんだぁ⋯へぇー、イゾラスはこういうの好きなのかなあ⋯。好きだよねぇ⋯ンフフフ⋯好きだから受け入れてるんだもんねぇー。


「イゾラスー、ヒナね、やっぱりアダ名で呼び合いたいなぁって思うワケよ」

「うん⋯」

会話に集中出来ない。

「それでね、色々と考えて見たんだけど⋯。ちょっとリストを作ったから、この中から選んでほしいの!」

「リスト⋯?う、うん⋯分かった⋯」

「はい!どーぞ」


┌────Tihiena:choice/nickname/list─────┐

・ティーちゃん

・ヒナ

・ヒナち

・ヒナちゃん

・ヒナっち

・ヒナラス

└───────────────────────┘

「どれでもいいよん!」

ティヒナから渡されたリストの中に、オレが所望している名前は無かった。

「オレ⋯⋯“ティヒナ”って呼びたいんだけど⋯」

「えええ!やだあ!つまんないつまんない!」

「えぇぇ⋯」

「イゾラスは女心分かってないね。付き合ってるんでしょ?ウチら」

「う、うん⋯」

「じゃあもっと特別感味わいたくないの??」

「⋯!」

ティヒナが制服のワイシャツを浮かし、胸をチラつかせてくる。一瞬ながら中身が見えてしまったが、コレはティヒナの思惑通り。一瞬見せた後にティヒナは“ワイシャツ胸元浮かせ”を撤退。どんだけオレで遊ぶ気なんだ⋯。

「ねぇ⋯イゾラスぅ⋯おねがーい⋯この中から選んで⋯?」

「そうだなぁ⋯⋯」

名前が一番可愛いんだけどなぁ⋯。

「なんだったらイゾラス作、でもいいよん?」

「あ、オレがあだ名作ってもいいの?」

「もちろん!平気だよ!その代わり⋯」

「うん⋯」

───────

「可愛いアダ名にしてね!」

───────

ティヒナがオレへの腕組をやめ、真正面に立った。

とおせんぼう。

良いアダ名が付けられるまでここから離れない気だ。


「そうだなぁ⋯うーーーん、、、、、、、、、、、『ヒノ』って⋯」

「うん⋯?『ヒノ』?」

「うん⋯『ヒノ』ってどうかな⋯⋯⋯」

「『ヒノ』ぉ?うーーーーーーーーーーーーんーー⋯、、『ヒノ』おお?。『ヒナ』だよ?」

「うん⋯そうなんだけど⋯なんか⋯響きが可愛いかなぁって⋯思ってさ⋯⋯」

「『ヒノ』ねーー⋯ヒノ⋯⋯ヒノ⋯⋯ヒノ⋯⋯⋯ヒノ⋯」


熟考。


「やっぱり『ティヒナ』でいいや!」

「だ、大丈夫??」

「うん!大丈夫!ごめんね、無理強いさせちゃって!さっ!行こう!行こう!学校いこー!」


『ヒノ』⋯結構良いと思うんだけどなぁ⋯。



学園前に着いた。前って行ってもまだもうちょいあるんだけど、もうそろそろで多くの生徒と鉢合わせになる十字路となる。

「ティヒナ」

「うん?どうかした?」

「あのさ⋯⋯このまま⋯学園⋯行く?」

「え?どしたどした?イゾラス」

無邪気になるティヒナ。どんだけ変貌してもただただ可愛いだけのオレの天使。ただ⋯ちょっと今回は⋯話を聞いてほしい⋯。

「ティヒナさ⋯オレと付き合ってるってこと⋯学園の生徒に知られてもいいの?」

「⋯⋯え?」

「え、、、」

今までの天使だった様相はどこへやら⋯。これまでに無かった表情でオレに迫る。

「ねぇ、さすがに怒るよ?ぶぅんんん⋯」

「え、、、ど、して?」

「ヒナ達付き合ってるんでしょ?じゃあ別に、隠す必要なくない?」

「いやあの⋯オレは⋯全然いいのよ⋯ホントに⋯⋯なんだけど⋯⋯あの、、、ほら、、」

「え?まさか⋯イゾラス⋯ヒナの事考えてる??」

「う、うん⋯もちろん⋯ティヒナが⋯オレなんかと付き合ってたら⋯周りから何言われるか⋯」

「イゾラス⋯」

「オレみたいな陰キャと付き合ってるなんて知られたら⋯ティヒナが⋯⋯」

「はぁ⋯ほんんんんっと、イゾラスって疲れるなぁーーー、ちょっとさすがにプンプンモード突入カモ」

「あ、いや!あの!ごめんなさい⋯!違くて⋯!本当に!本当に⋯!本当に⋯!ティヒナの事を思ってのことなんだ!」

「じゃぁああ!!」

「⋯⋯」

ティヒナからの思いもよらぬ、声量にビビる。

「ヒナの事そんなに考えてくれてるなら、ヒナが嫌がる行動はやめてほしいなぁー」

「うん⋯分かった⋯」

「うんじゃあ行こ!」

「ホントに⋯いいの?」

「あったりまえじゃん。イゾラス、ヒナと付き合ってるんだよね?」

「う、うん⋯そうです⋯」

「うん、じゃあ⋯もっとラブラブで行こー!」

腕組が再開。更に密着度が上昇した気がする。

心臓が飛び出そう⋯とはよく言ったものだが⋯本当にそうなりそうなシチュエーションへ躍り出る舞台が演出されるなんて⋯オレは誰か全く知らない赤の他人の夢を見ているのだろうか⋯。どんだけオレは運を使ったんだ⋯。一生涯の運を使い切った気がするぞ⋯。これ以上の事なんてあるのか⋯。これからもこうしたティヒナを彼女とするシナリオが構成されるなら⋯現在以上のシナリオを期待してしまう。

一つ⋯どうしても出来ない事があるけど⋯。



カーマノドンス高等学園──。

校門。


「え、、、なにあれ⋯⋯」

「嘘⋯⋯」

「イヤイヤイヤイヤ⋯まさか⋯えっ?」

「うそでしょ??」

「は?え、、、マジで???」

「いや⋯アレだろ⋯⋯放送部が作ってる映像のヤツだろ?確か夏に映画コンクールがあったはずだぞ?」

「ええっ?でも⋯⋯どこにもカメラなんて無いよ⋯?」

「アイツ⋯誰なんだよ⋯」

「あの男誰?」

「誰か知ってるか?」

「知らなーい」「知らんな」「誰?アイツ」

「なんでティヒナちゃんと一緒に登園してんの?」

「一緒に来てるどころか⋯」

「はぁ?」

「はぁ?」

「はぁ?」

「はぁ?」

「はぁ?」

「なんで⋯」

「なんでアイツ⋯ティヒナちゃんに腕組されてるんだよ!!!!」


「ちょっと⋯!ティヒナ?」

「あ!おはよー!どうかした?」

「いや・どうかした⋯って⋯⋯コイツ誰だよ⋯」

「コイツって言わないで?⋯⋯イゾラス。ヒナの⋯新しいカレシ!」

「え」「え」「え」「え」「え」「いや⋯」「え」「え」「え」「え」「ええ」「え」「え」「え」「え」「はぁ?」

「ええええええええええええええええええ!!!!!!」


「なに⋯そんなに嬉しいの?」

「いや⋯ティヒナ⋯コイツさぁ⋯」

「陰キャじゃん⋯ティヒナに釣り合う男じゃねぇだろ」

ティヒナとオレを取り囲む第1層と第2層の人間達。そんな各層の人間達が執拗なティヒナへの疑念を投げ掛ける。それはオレの人格を否定するものも少なく無かった。

オレは⋯この状況に固まってしまう。対するティヒナはと言うと⋯


「みんな、言いたい事はそんだけ?」

いつの間にか校門は生徒だらけになった。それほどティヒナの注目度は高いという事だ。オレには一切の興味を示していない。ある意味で興味を示されているのでは無いかとは思うが⋯。良い気分にはなれないものだな。というかこんなにもの人間に包囲される時点で良い気分になれる訳が無い。

その中心にオレとティヒナがいる。

良い気分じゃ無い。不快だ。不快感でいっぱいになる。

オレは⋯うずくまってしまった⋯⋯情けない⋯非常に情けない⋯でも、、、立って居られないぐらいにツラい圧迫感がここにはあった。押し寄せる人の圧と、暴投気味な言葉の数々。こんな劣悪な環境でもティヒナは依然として包囲する生徒らの相手をしている。するとティヒナがオレの身体に手を当てる。

───────────

「大丈夫。安心して⋯」

───────────


「みんなだまれーーーーーーーーーーーーーーー!」


ティヒナから、尋常じゃない声量が発せられる。包囲した生徒は全員が一斉に黙る。


「みんな聞いて。はぁああ⋯ふぅうう⋯、ヒナは⋯イゾラスと付き合ってます」


静まり返った包囲連中から静寂が消えつつある。それは次第に蔓延し、明瞭な言葉として完成されていった。

「ティヒナちゃーん!嘘だろー??」

「嘘じゃないよ!ヒナは⋯イゾラスの事が好きなの!イゾラスを悪くいう人がいたら⋯赦さないから」

『赦さないから』の文言に強い意志が乗っけられた。イゾラスを否定する者全てに対しての宣戦布告とも取れるものだった。

包囲連中は唖然とする。

うずくまっていたオレはティヒナの言葉を受けて、上を向く。

するとそこにはティヒナが優しい視線と表情が映った。

「じゃあ行くから。そこの道、開けて?」

ティヒナとイゾラスが歩くロードが包囲連中から開かれる。一筋の道が出来上がると2人はその道を歩き進めた。その際、イゾラスの背中をさするティヒナの光景が包囲連中には印象的なものとなる。羨ましがっていたり、妬んでいたり、僻んでいたり⋯とにかくそれはイゾラスに対しての殺意的な衝動に駆られるに十分な材料となった。


出来上がった一本の道。その両側には当然として包囲連中がいる。その中をティヒナとイゾラスが通ると、ティヒナの選択を残念がる生徒の声で溢れ返っていた。


「ティヒナ⋯⋯マジかよ⋯」

「ティヒナちゃん⋯なんでよりにもよってそんなヤツを選ぶんだよ!」

「俺の方が絶対にティヒナちゃんを幸せにできるのに!」

「考え直してよー!」

「俺たちのティヒナを返せー!!」


「お前⋯」

開かれた道。先は短いようで物凄く遠いものだった。終わりに差し掛かる直前、一人の男がオレの肩を握り、立ち止まらせる。

「テメェ⋯後でツラ貸せよ」

「⋯⋯⋯」

「ゼイファー、やめて」

ティヒナがオレの肩に置かれた男の手を払い除けた。

「ティヒナに用があるんじゃねぇんだよ。お前に用があるんだ。なぁ?イイだろ?」

「イゾラス、無視して。行こ?」

「⋯⋯⋯⋯分かった」

「イゾラス⋯?」

ティヒナは疑問に思った。今までのイゾラスだったら絶対にこんな誘いは断るだろうし、なんなら泣いてしまうんじゃないかと思ったからだ。しかし今こうしてゼイファー⋯学園の中での最も悪性な一部であり⋯“ヒナの元カレ”でもある男の招待に乗った⋯。


「昼だ。昼に体育館裏に来い」


「行こイゾラス」

ティヒナはイゾラスの腕を引っ張り、その場を後にした。しかしそれでも着いてくるやつは後を追ってやってくる。

複数名⋯男がついてくるのが確認できた。校舎に入り、イゾラスとティヒナが教室に向かおうとする中で、ティヒナがなんの前触れも感じさせずに後方を振り返る。

「なに?」

「ティヒナちゃん!そんなヤツじゃなくてオレと付き合おうよー」

「うん?なんで?」

「いや・なんでって⋯愚問だなぁー。そんな影の薄いヤツと付き合ってても楽しくないでしょ?どうせ童貞なんだろ?夜とかも楽しくねぇだろ?だけど⋯俺と付き合えば夜もハッピーハッピーな時間を過ごせる」

「⋯⋯」

「さっき、お前ぇ⋯蹲ってたろ?そんなヤツ、ティヒナの彼氏として務まるワケがねぇだろうが。いったいどうやってティヒナを落としたっていうんだい?」

「いい加減にして⋯」

ティヒナが小声で言う。だが男はそれでもイゾラスへの口撃を続けた。

「君じゃあ務まらない。この学園には君よりもハイスペックな生徒は山ほどいるのさ。テクフル四大陸のエリートが集うカーマノドンス高等学園なんだからね。君は頭だけで成り上がったただの勉学崩れだろう?。学びの方はどうなのか知らないけど。見た感じ⋯大した筋肉も持ち合わせていないようだし⋯つまんない男だよ。凄く、とっても⋯」

「トレイル、やめて」

「ティヒナもティヒナさぁ。俺たちの夢を壊さないでくれよ⋯。なんだって最近は、告白の申し出を断り続けていたらしいじゃ無いか⋯それなのにどうしてこぉんな下層人間の彼女になんてなったんだよ。変わり種か?童貞卒業させてやりたいの?」

「⋯最低⋯キモイんだけどマジで」

オレが見たことの無いティヒナの眼光がそこにはあった。多幸感しか感じていなかったかのような彼女の姿が偽りなんじゃ無いか⋯と思ってしまう程に出来上がってしまっていた“堕天使の異妖”。

「⋯俺は正直に言ってるだけだよ。それにコレはみんなが思ってる事だ」

「⋯⋯トレイル、いい加減にしないと怒るよ⋯⋯」

「ティヒナ様を怒らせるワケにはいかないな。ここで引くとしよう⋯」

トレイルの後ろには観衆が⋯廊下の果てまでそれは完成されていた。


【チャイムが鳴る】


「行こ、イゾラス⋯」

「うん⋯ティヒナ⋯」

「後で⋯話しよう⋯ね?」


教室に入る。当然ながら向けられるティヒナとオレへの注目。教室の窓・ベランダからは、校門で巻き起こっていた事態を全て視察可能。校門での盛り上がりに反応した教室の生徒達は上から見下ろしていたのだ。当該事象はもちろん、3年翠組に限ったものではなく、校門を視察可能な教室に配属された生徒は殆どがあの光景を目撃した。

一躍、イゾラスは時の人となってしまう⋯。



一限目が終了。ティヒナからのテキストメッセージを受け、オレは指定された場所に急いで行った。

「ティヒナ?」

「ごめーん、ちょっと用事」

「あ、うん⋯分かった⋯」


「絶対イゾラスでしょ?」

「うんうん、だって二人で一緒に出て行ったもん」

「5分だよ?二限目までたったの」

「どうする?めちゃくちゃにラブラブだったら」

「それはそれでめっちゃ良い!ティヒナのそんな姿想像するだけで、女子のウチらでも激エロもんよ」

「ンね?ほんと、どうしてイゾラスなんだろう⋯」

「ティヒナ⋯最近は色んな人からの誘いを断ってたのに⋯」

「ティヒナ⋯あーいう男⋯嫌いだと思ってけど⋯」

「飽きたんじゃない??陽キャに」

「うーん⋯そうなんかなぁ⋯」


傍から見ると、ティヒナとイゾラスが2人揃って教室から離れた形となる。当然、クラスメイトは2人の密会に興味を持つものだ。



廊下の果て。3階に続く階段横の非常扉前──。


ティヒナが真っ先に教室から飛び出すのを確認した。テキストメッセージを送信した直後に動き出したようだ。オレはその姿を見て、テキストメッセージを見て、直ぐに教室から出た。その際、クラスメイトからの視線を感じなかった⋯と言ったら嘘になる。

─────Tihiena→Isolas:textmessage-application─────

『南棟階段 非常扉前で』

───────────────────────────────────

教室から出たら、ティヒナが急いで指定場所に向かっているのが見えた。曲がり角を超えた先が非常扉前。オレは急いでティヒナの元へと向かった。一瞬、魔が差したかのように後方を振り向いた。すると教室の扉から少数の女子クラスメイトがこちらを見つめているのが確認出来た。振り返ったオレに『やばい⋯!』となったのか、直ぐにクラスメイトは教室へと頭を引っ込める。


角を曲がり、非常扉前にはティヒナがいた。一限目と二限目の間は5分間という限られた休憩時間。だから生徒が行き交う様子も見られない。通常だと生徒で行き交っていてもおかしくは無い、この場所だが現在は全くのゼロ。人の気配すらない。ティヒナは知っていたのだ。この時間は人が通らない⋯ということを。全学年の授業時間を把握し、移動性のある特別授業等も考慮している。その上でこの場所を指定した⋯。ティヒナはそうだ。確実にそうだ。言い切れる。オレには⋯判るんだ。


「ティヒナ⋯」

「⋯⋯」

するとティヒナが思いの丈をぶつけるかの如く、勢いよくオレの身体に抱きついてきた。

「ティ⋯ティヒナ⋯ちょ、ちょっと⋯こんな⋯⋯学校だよ⋯!?ちょっとて待ってよ⋯⋯!」

「嫌だ⋯絶対にヤダ⋯⋯離さない」

ティヒナのオレを抱き締める両腕が強くなる。その強くなっていく締め付けにオレは⋯⋯⋯⋯

「ティヒナ⋯⋯」

「イゾラス⋯ごめんね⋯本当に⋯ごめんなさい⋯あんな目にあわせちゃって⋯⋯」

「ちがう⋯オレが悪いんだ⋯オレがみっともない男だから⋯ティヒナに見合う男じゃないから⋯」

「ううん⋯違うの⋯ヒナ⋯⋯今まで⋯何人もの男の人と付き合ってきた⋯。良い思い出も沢山あったけど、あんまり良くは無い思い出も沢山出来たんだ⋯。それで⋯⋯ヒナの事⋯良いように思う人⋯少ないんだよね⋯」

「そんなことないよ!オレからは⋯ティヒナの悪い噂なんて聞いたことがない!」

オレの唯一の友達であるルシースとレノルズは学園のゴシップマスターだ。学園ほぼ全てのゴシップを知り尽くした二人からはティヒナ関連の悪い情報を聞いた覚えが無い。なので、こうしてティヒナがオレに謝罪する理由が見当たらないのだ。


ティヒナの抱き締める腕が強くなる。こんな時、オレはティヒナと同等の行動をすべきでは⋯と思った。しかし⋯オレはティヒナを抱擁する勇気が無い⋯。


「ティヒナ⋯」

「イゾラス⋯⋯ごめんね⋯。ヒナから一方的になっちゃって⋯。驚いてるよね、急にこんなんしちゃって⋯」

「ううん、気にしてないよ」

なんだこの素っ気ない返しは。自分の目の前に誰がいるのか⋯本当に分かっているのか⋯。どうしてもっと人を⋯女の子を⋯彼女を思いやる言葉が出せないんだ。たかだかそれを述べるだけでいいじゃないか⋯。どうしてそんな簡単な事が出来ない。


⋯怖いから。怖いんだ⋯単純に⋯普通に⋯ただただ⋯嫌われるのが怖いから。嫌われるのが、はっきりするのが怖いから。

一方的な愛情が現環境を取り巻く事象としては一番に適したものだと思ってる。

オレからの愛情を捧げる場として、ここは不適格だと思った。だからオレはティヒナを物理的に支えるような真似はしない。


「ありがとう⋯。もう、大丈夫」

「⋯⋯ごめん⋯」

「ううん、ヒナの日頃の行い的な部分でもあるから⋯。イゾラスは今まで通りに生活してたのに、ヒナと付き合ったがばっかりにこんな目にあわせちゃって⋯」

「それは問題無いよ。オレの方から告白したんだから」

「⋯うん⋯そうだね⋯でも、色々と言っておくべきだった。ヒナと関係を結ぶって事は、それなりの⋯⋯うん⋯なんだろう⋯ごめんね⋯言葉にしづらいんだけど⋯面倒な人達と対立する事になるかもしれない」

「うん⋯そうだよね⋯。オレがティヒナへの見積もりを見誤ってた。オレが思ってる以上にティヒナは、ビッグな女の子なんだね」

「ンフフ⋯ビッグ⋯そう、ビッグか⋯」

ティヒナが笑った。非常扉前で相対した時の彼女からは、想像もつかない程に、明るい表情となる。曇天⋯雷に近い黒雲が描かれていた表情から一転して、世の中のダークなテーマを一切寄せ付けない非常に強烈な光。こんなものを食らったら一溜りも無い。一回でもティヒナの顔面を味わっていなければ、死すら感じてしまうに等しい破壊的な美しさ。

「笑ったね」

「えぇえ?」

「笑った…ティヒナはその顔が良いよ。絶対」

「うん、ヒナもこのヒナの方が好き」

「チャイム鳴るから、もう行こっか」

「うん、どうする?教室帰ったら、絶対凄い目で見られると思うよ?」

「そうだね、でもオレは大丈夫」

「ほんとに?」

「うん、ティヒナは全然大丈夫なんでしょ?」

「ヒナは大丈夫!⋯けど、イゾラスは⋯」

「本当に大丈夫だから」

ティヒナが密着して来た手に、ゆっくりとだが手を当てる。現在起こした行動が、正解なのかは彼女の反応を見なきゃ分からない。だがこの時、オレはティヒナの反応を直視する事が出来なかった。仮にでも現行が間違ったものなら、オレはここでティヒナからの除名宣告を受けることになる。

オレは⋯正解不正解を確かめる程の覚悟・勇気・根性を持ち合わせていない。なんとも憐れで醜くて、惨めでみっともない男だ。トレイル⋯あの男の言う通りだ。

─────────

嬉しい以外の何者でもない。嬉しかった⋯。嬉しいっていう感情の他に何か合ってるか表現があるとするならば⋯『大歓喜!』。これかな!イゾラスがヒナの手を“ニギニギ”、“サワサワ”してくれた時は一瞬だよ?一瞬だけど⋯『えぇ⋯』ってなった。ごめんね!本当にごめん!ただ、イゾラスなりに頑張ってくれてるんだろうなぁって、スキンシップなんだろうなぁって思えたから安心して!本当はヒナの一から百まで伝えたいんだけど、時間も時間だし⋯それに、イゾラスはあの後、全然目を合わせてくれなかった。

『一緒に行こう』

それだけ言ってくれて、教室まで先導してくれた。本当は横になって行きたかったんだけど⋯なんかそんな感じじゃ無かったから⋯やめた。アソコでイゾラスが、ヒナを求めているとは思えなかったの。

────────


教室を入ると、予想通り⋯というか、それ以外考えられない⋯というか、クラスメイトからの視線が二人に送られる。

ティヒナへの視線は、困惑の感情概念を帯びたもの。

イゾラスへの視線は、不安の感情概念を帯びたもの。

この視線の中には当然として、ルシースとレノルズも入っている。そういえばまだ二人と一回も話をしてない。

ルシースとレノルズの座席を探す。しかし、探す際も四方八方に視線が張り巡らされている事を恐れ、彼等の視線にまで辿り着けなかった。


──────

〈イゾラス⋯⋯なんか協力出来るような事があれば絶対に言えよな〉

〈イゾラスが⋯⋯真っ直ぐ⋯直線的な視線を向けている。誰からの送信も受け付けない態勢だ⋯〉

──────


ルシース、レノルズはイゾラス側。一方で二人以外のクラスメイト26名の中でイゾラスを支持している人間はいないように思える。てか、いない。断言。


【チャイムが鳴る】


言葉を発するわけでも無く、静寂の中に包まれる教室。『異物』としてイゾラス、ティヒナが放り込まれたかのようだった。二人は自身の席に行き、周りのクラスメイトは静かに二人が座るまでの動線を見届けた。

クラスメイトも、座る。


「はい二限目は、原世界考古・『メッセンジャー』についてだ」



『二限目と三限目』

『三限目と四限目』

この2つの授業の間にも、先程と同様に5分の小休憩が挟まれている。その時、ティヒナはオレの元に来る事は無かった。ティヒナは他の女子に囲まれて身動きが取れない状態⋯と言ったら、拘束されているような表現となるが、それに近しいものだった事は確か。

ティヒナはこちらに近づけないし、オレの接近に関しては論外。近づこうもんなら、女子勢からの罵声が飛ばされるに違いない。

ティヒナを取り囲む様子を心配する中、オレの元にルシースとレノルズがやって来た。


「イゾラス、やったな!」

ルシースの優しい声掛け。それは少しながら違和感を覚えるものだった。ルシースはいつの時だってフランクに接する。

「すごいよ!本当にやってくれたな!」

レノルズもイゾラスの告白成功を讃えた。


3年翠組で巻き起こっている事象は大枠として考えれば2つに分けられる。

一つはティヒナを取り囲む連中。ティヒナを包囲するのは男女に限らず、層を問わない男女が詰め寄っていた。オレ以外にも第3層人間に相当するクラスメイトは少なからずいる。そんな第3層人間もティヒナの方へ興味・関心を向けているようだ。

一方、2つめに該当する枠はオレを取り囲むルシースとレノルズ。クラスメイト30名がいる訳だが、26名⋯つまりはオレとルシースとレノルズ以外はティヒナを取り囲んでいる形だ。当たり前と言われれば当たり前⋯という形でしか収まりがつかないのは事実。一番左の列にして黒板に最も近い前列。ここがティヒナの席なのだが、そこに群がるクラスメイト。

離島のように残されたオレとルシースとレノルズ。

そんな光景が授業と授業の合間である【5分休憩】時には発生した。


なんだろう⋯先ず言えるのは⋯


『2人ともありがとう⋯』


これだ。


「ありがとう⋯2人とも⋯。こんな状況になってもオレのところにいてくれて」

「はぁ?何言ってんだお前」

「そんなの当たり前じゃん。ていうかさぁ⋯したの?」

「え?」

「いや⋯したって⋯ねぇ?ルシース」

「そんなさぁみなまで言わせるなよ!ヤッたのかって聞いてんだよ!」

なんとこの2人はこんな状況下に置かれても、セックスの有無を問い質してきた。すごいな⋯空気とかそういうのは一切感じないタイプなんだな⋯。

「いや⋯今聞く?」

「だって⋯これからイゾラスはティヒナと一緒に居るんだろ?」

ルシース⋯ティヒナを包囲するあの状況を見ても、そんなことが言えるのか⋯?

「いや⋯学校では⋯⋯というか⋯⋯無理だろ⋯⋯」

「はぁ?なに?」

レノルズが迫る。オレを取り囲むのはたったの2人。しかしこの2人からの圧はあちら側の勢いに迫るぐらいのもの。ルシース、レノルズという距離感の近い2人だからこそ成せる技である。

ティヒナを包囲する連中はティヒナとの面識が両極端に分かれているのが見て取れた。


『一応⋯みんなが行っているから⋯』

等と思っているのだろう。大した感情を持ち合わせもせず、周りの雰囲気に流されて行動している単細胞な人間達だ。

─────────

「昼に⋯⋯ゼイファーからツラ貸せって言われた」

─────────

ヒソヒソ話で展開されている最小枠『イゾラスサークル』。イゾラスサークルの中心人物が驚きの言葉を言い放った。

「うわ⋯マジかよ⋯」

「イゾラス⋯ゼイファーは⋯けっこうヤバいかも⋯」

「うん、そうだよね⋯。なんかヤバい男に絡まれた⋯ってなったよ」

「そん時、ティヒナはいたのか?」

ルシースは、ティヒナファーストな意志を感じる。相当好きなんだろうなぁ。

「いたよ。ガッツリいた」

「お前…そん時、ゼイファーの誘いに乗ったのか?」

ルシースがイゾラスに迫ると共に、ここは迫る流れか…?と空気を読みながら気持ちの悪い小刻みで接近するレノルズ。

「うん乗ったよ」

「クウぅぅううう!!!お前は男だ!すっげぇな!!あのゼイファーの誘いを受けたんだぞ!?」

「イゾラス…マジで?ゼイファーだよ?」

ルシースとレノルズのリアクションが両極端だ。ルシースはオレの行動を賞賛し、レノルズはオレを不安死している。

「イゾラス⋯知ってんだろ?ゼイファーに関わるとロクな事ないよ?」

「うんまぁ⋯そうだけど⋯話せば分かってくれるんじゃないかと思ってさ」

「おお!!イゾラスはいつからそんな逞しくなったんだよ!!」

ルシースの興奮度がマックスパワーを漲らせる。ルシースのこういった場面は幾度となく目撃しているが、オレに向けての表現としてはレアリティの高いものだと言える。

「イゾラス!」

オレの肩にポン⋯でも無く、『ドスン!』と手を叩き落とす。

「俺は応援しているぞ!」

「ルシースはゼイファーに文句があったりする関係性だったんだよね?」

「まぁなぁ。アイツは学園の有名人だからな」

確認のため言及しておくが、ルシースとレノルズはオレと違ってスクールカースト制度は高層の人間。『第1層人間』へ近しい『第2層人間』に相当する人物と言える。

オレのような『第3層人間』では繋がりを構築出来ない人間とのコミュニケーションを“通常の空気感”で実行する事が可能な層の人間だ。

それもあってルシースとレノルズはゼイファーを始めとする様々な学園裏情報が日に日に更新されていく。これの影響が良い時もあれば悪い時もある。

今回の彼の表情からしてみれば、“悪い方向”に傾いてしまった実例があるようだ。


【チャイムが鳴る】


「イゾラス、ゼイファーとの会話、後で教えてくれ」

「うん、分かったよ」

チャイムが鳴り、“イゾラスサークル”は席に着くために各々の席へと移動する。しかし教室の左端前でのティヒナを取り囲むサークルは依然として包囲を継続させたままだ。4限目開始の為、次の講師が訪れる。その限界まで包囲を続けるつもりのようだ。

包囲状態が続く中で、ほんの少しだけ“隙”が見えるシーンがある。殆どのクラスメイトが包囲を止めない中で、次第にではあるが着席を実行する者が現れていく。

しかし人集りは出来ている状態だ。だが少しずつ少しずつ⋯ティヒナの顔を遠目から⋯自分の席から確認する事が可能になる。オレはその一瞬を見逃さずにティヒナへ顔を向けた。ティヒナは未だに包囲を継続中のクラスメイト女子によって拘束中。オレなんかに構ってる暇など無い。

それにこうしてオレがティヒナサークルへの興味を示した様子が、他のクラスメイトの目に留まり、逐一報告として伝わる。

────────────

「すっごい見てない?イゾラスのやつ」

「なぁ、本当にティヒナと付き合ってんのか?」

「ティヒナちゃん、ほんと、、どうしてあんなヤツと付き合ってんだろ⋯」

「飽きたのかね⋯」

「味変的な?」

「あー、陰キャはどんな感じなんだろう⋯的なね」

「えぇーー?そんなん有り得るのかなぁー」

────────────

まるでネットワークから拾ってきたかのような言われようだ。口に出してこのレベルが飛び交っているのなら、それぞれの心の中ではどれほどの悪魔じみた言葉が並べられている事か⋯。


「おーい、そこ席つけー」


ガラガラ〜と教室の扉を開け、ようやく先生がやって来た。これにはティヒナを取り囲む勢は無くなり、自らの席へ戻る事になる。

「チャイムが鳴ったら、自分の席に着いておく⋯。これ基本中の基本だからね?私が来るまでに最低限の授業準備と一式の用意もしておくこと。基本中基本だからね。いちいち説明されなきゃ分からないのなら高校生失格です。みんなはもう大人なの。子供じゃありません。その自覚をしっかりと持って今後の学園生活を送ること。自分達の態度を改めなさい。いいわね?」

特に反応は無い。オレは小さい小さい頷きを数回、小刻みで行う。先生が立つ教卓側から見れば、判断がつく程度のものだ。

「⋯相手が何かを言ったらそれに反応する。これ基本中の基本だからね。⋯さてオープニングは小説教で終わった事で、授業の4%が削られる形となりました。誰か⋯代表して当状況への謝罪をしてほしいのだけれど⋯」

──────

「始まったよ…」

──────


「先生え」

「なんですか??」

「先生だってこの教室に入ってくるの遅れてませんでしたかー?」

「そうよ!先生も遅刻してたじゃん!」

一人のクラスメイトからの告発によって先生の立場が危うくなり掛ける。しかしそれには一切の動揺する様子も見せない。

「私は教室の前にいました。あなた達が着席するまで廊下にて待機をしていたまでです」

「なにそれーズゥルー」

クラスメイトの野次が飛ぶ。

「⋯」

先生が何も言わず、教室の電気を消灯。教室内は陽光のみが照明となる。クラスメイトは何事か⋯と一時騒ぐ。

先生は教卓上でデジタルサイネージスクリーンを開く。最初、先生が見る方向の画面であったが、直ぐに生徒方面へと画面は移行。教室の横幅をこれでもかと十分に活用し、巨大モニターが生成された。

ただただクラスメイトは驚くしかない。後ろから全体を見渡せるオレの席。当然、オレはティヒナの動向に注目していた。ティヒナも他のクラスメイト同様に驚いていた。

驚いていたし引いてもいた。怪訝な表情。

そんなティヒナがオレの方へ顔を向ける。オレは嬉しくなりモニターの事なんて関係なくなり、ティヒナの方へ意識を全集中させた。

ティヒナは笑顔で対応してくれたが、直ぐにモニターへの意識へと変更。この言葉無しの意識交換でさえも自分には初体験のことだったので嬉しい。ティヒナがオレを見た直ぐにモニターへ向けたのは少しばかり気にはなったが⋯。

まぁあまり深く考えるのはやめにしよう。この状況を楽しんでいるのは⋯

────────────

オレだけだ。

────────────


先生は生成したモニターにとある映像を表示・再生する。


「⋯⋯⋯⋯⋯これが高校三年生が行う所業か?」


先生がモニターしたのは教室を映した映像。しかしそれは単なる映像では無かった。


これまでの5分休憩にて繰り広げられた数々の3年翠組内の状況を映像に収めたもの。それが記録撮影日と共に次々と展開されていき、徐々にその数は膨れ上がっていく。もにたーに表示・再生された記録映像は次に表示・再生される記録映像の邪魔になるので一旦は除外される。しかしその除外は単なる“映像外へのはみ出し”という意味では無い。新規の記録映像が出てくると前段の映像は除外されるが、サイズが小規模化を遂げ、モニターの端々に拡散。つまりは表示・再生されるサイズが大胆に変わっただけで、教室へ横に長く展開されたモニター内に出ていることには変わりない。月日が更新されていく度に、映像は増えていき、今日までの約1ヶ月間全ての映像が“記録”されている⋯という事実を知らされた。これに3年翠組の上層クラスメイト達は、多少言葉の種類は違えど、“意味”はほぼ通ずる内容だった。


「え、先生マジでなにこれ…」

「マジでドン引きなんだけど⋯」

「天井から撮ってんじゃん⋯それに⋯端っこからも⋯黒板の横⋯それに⋯」

クラスメイト全体の肝が冷えたシーンが⋯


「一人一人の頭上、こちらを全て記録している」

「なんの意味があってですか?」

クラスメイトの女が苦言の体裁で怒号に近しい文言を放つ。

「君たちは監視されている。特に害悪を与えるシステムではない。だからさほど気にするものでも無い」

「だったらこうして取り上げるのは何故ですか?害の無いものなら僕達に提示する必要性は無いように思えます」

3年翠組で一番の優等生である男が放つ。全員の総意の代弁者となってこれを言い放った。

「言ってただけだ。それ以上でもそれ以下でもない」

「⋯⋯」

優等生は無言になる。


「ここから先は生徒の踏み込む領域では無いので、質問の受付を終了する。まぁ最初から受付しているつもりなんて無かったが⋯。あまりにもな顔色の変化だな。どうした?君たちは高校三年生にもなるのだろう?そして、一年後には立派な社会人の仲間入りだ。そのお手伝いとして我々学園が全力を上げてバックアップに掛かっているまでだ。それの一つが⋯これだ」

モニターに指を指し、プロジェクトの概要である『監視』

を強調する。

「学園側から⋯何か⋯あるんですか?」

「えらく抽象的になったな。もっと内容物のある言葉で話す事をお勧めする」

“優等生”をねじふせる表現を

「⋯⋯学園側から、生徒に対しての課題というものはあるんですか?」

「鋭いな。⋯⋯⋯⋯これが答えだ」

「⋯⋯」

答えになっていません⋯と言えば簡単に返事が完結する。しかし、それだけの言葉じゃあ、毒にも薬にもならない。


「では⋯遅くなったが授業を始めよう。今、原世界では世界大戦が勃発している⋯」



13時──。


四限目の授業が終了。オレはゼイファーからの呼び出しに応じる為に、指定された場所に行った。その時、ティヒナがオレに話し掛けようとする素振りを見せたが、オレは『今はムリだ⋯』と思い、彼女の想いには応えなかった。本当はティヒナと話したい。話したいけど、片付けなければならない優先的な事案があった。

ゼイファー。ティヒナと関係を構築する事が無ければこの男なんかと交流なんて絶対に無い。こんな言い方をしてしまうとティヒナに全ての元凶があるような言い方になってしまう⋯。

もちろんそれはお門違いで、オレの高校生活2年間が暗黒過ぎたのだ。だとしてもゼイファーと交流関係を築きたい⋯と思う陰キャはいない。ゼイファーは名前からしてみても何となく、その“ナリ”というものは伝わるように思える。

かなり刺々しい奴で学園の乱暴者。自分の気に入らない奴がいたら直ぐに喧嘩をして、学園の派閥を支配・コントロールする。クレバーな性格を持ち合わせ、何事もとにかく暴力で解決することを惜しまない。ラリったやつ。


ティヒナから何度もテキストメッセージが送られてくる。オレはそれにかなりの高頻度で返信を行う。


「ヒナも行こうか?」

「いいや、大丈夫だよ。ありがとう」

「本当に?ねぇ本当に?すっごく不安なんだけど」

「大丈夫、ティヒナは待ってて」


『待ってて』というのもぶっきらぼうなメッセージだった⋯と反省している。教室にいれば、取り巻きからの執拗な迫りに耐えなければいけないし⋯“ティヒナ”というブランドを保つ為にある程度の“感情解放も抑制させなければならない。ティヒナは本当に、とても大変なポジションについていると思う。


体育館裏。

なんともまぁそれらしい場所に誘われたもんだな。体育館裏に行くと、ゼイファーの姿があった。

「定刻通り⋯」

案外時間通りの男である事に先ずは少々驚いた。こういうパターンってだいたいはオレみたいな弱者⋯誘われた側が結構な分数待って、相手がようやく現れる。みたいなパターンが定石だと思っていたから。

予想が当たっていたのは、ゼイファーの他にも取り巻きのような分際が9名はいるということ。少ないような気もしたが、まぁ相場を知らないからな。エンタメ作品からしかオレは情報を得られていない。それと無作為に垂れ流されるルシースとレノルズによるゴシップニュース。オレにとってはゴシップニュースはどうでもいい、“付き合い”という名目だけで一応は耳に入れといてる程度のもの。


なぁんだ⋯あの映画だとこのパターンは20人以上のヤツらにタコ殴りにされるかと思ってたら、この少数か。

少数精鋭⋯って考えも可能だよな⋯。まぁどうであれ、オレは多分、ここで殺されるんだろう。

話で解決なんてコイツらの噂を何回も聞いているが一欠片も無い。つまりはオレはここで暴力沙汰に遭遇して、失神手前で済まされ、特に救急搬送されることも無く、ここに残置されながら、通り掛かった先生に助けられるのだろう。

何となく未来は見えた。

こんな未来を脳内で描いていたら、いつの間にやらゼイファーの眼前まで来ていた。



「てめぇ」

ゼイファーの両脇に構えていた男4人がビジョンを描いていた最中のオレの胴体を抑える。動きを止められたオレはようやく現実世界の出来事を直視した。

「あ、ごめんなさい」

「ごめんなさいじゃねぇてめぇ。遅せぇんだよ」

ゼイファーでは無い、幹部の男が口を開く。幹部はゼイファーの真横に鎮座しており、ゼイファーとの関係性がオレを拘束したヤツらより濃ゆい事を察した。

「すみません、指定した場所が分からなくて」

「まぁそうだろうな。お前はクソが付くレベルの陰キャだからな。こうやって学園内をウロチョロするのなんて初めてなんじゃねぇのかぁ?あぁん?」


男たちが爆笑する。

大して面白いことを言っているとは思えないのだが、彼等のツボにはハマったのだろう。だがゼイファーは一切笑っていない。表情をニンマリとさせた位で、幹部連中程は笑っていなかった。これは⋯どういう事なんだろう。

幹部が放った文言がそれほど刺さらなかった⋯というサインなんだろうか⋯。とても理解に苦しむものだった。これ⋯外界では当たり前の⋯“常識”ってやつなのかな。

いまいちピンと来ない空気が流れていく。


そんな不条理な空気を味わえていないのはオレだけのようで、男達の爆笑は更に新たな文言を放った後に連鎖する。

「お前え、よくここに来ようと思ったよな!?」

「マジでお前最高だわ!!」

「お前今から何されっかわかってんのかぁ?」

「いや⋯よく⋯分かってないです⋯」

このパターンはよくある流れのやつだ。オレは陰キャで⋯(まぁ作品では見た事が無いけど、何となくの原世界文献で同系統の“流れ”は熟知している)、陽キャに囲まれると、陰キャはウジウジしちゃって、上手く言葉を話せなくなる⋯みたいな。コミュニケーション障害になっちゃうみたいな。

原世界文献を読破していて正解だった。映像作品では陽キャ対陰キャのバトルなんて無いから(イゾラス統計)。

このような場合の時、先述した通りだと陽キャに絡まれた陰キャは動く事もままならない程に硬直してしまう。その後、喋りかけても反応の無い事に腹を立てた陽キャ達は、手を加える。

そのようにはなりたくない⋯と、思ったのだが実際の所どうなんだろう⋯。オレはその役を1回だけでいいからやってみたい⋯と思うようになった。

好奇心と言ったら話は早いけど。

そんなもんでオレは今から陰キャの更なる“硬直”の演技を披露したいと思う。


「おいおいどうしたぁ??」

「コイツ、まだ俺ら何も手ぇ出してねぇのに、ビビりやがってるよ!」

男達は笑う。人を馬鹿にする際に使用される顔面の種類が、そこにはあった。

「ご、ご、ごめんなさい⋯ぼぼぼぼぼぼぼ⋯⋯ぼぼぼぼぼ⋯く⋯」

「あぁん?何言ってんだテメェ??」

「滑舌悪すぎだろぉ!?」

断続的に訪れる笑い。

「僕に⋯なにか⋯ごよう⋯ご、、ごごが、がなにかあるんですか、、、」

「フン、ゼイファーぁ?」

「⋯」

奥。取り巻きが多くオレに集中しているので、大柄で大層な居様でいたゼイファーがとてもよく目立っていた。そんな“大将”として瓦礫の玉座に座っていたゼイファーがようやく動いた。

ほぼ動作を起こしていなかったので、今日はもう話は無しで明日以降に予定がズレたのか⋯と思ったがそうでも無いみたいだ。


ゼイファーは無言でオレに近寄る。接近の距離が近づくにつれ、取り巻きの男達がオレから離れていく。離れた時、オレを取り囲むサークルが形成された。比較でも無いが、先程ティヒナを取り囲むものと比べてればかなり小規模に収められた形と言える。先ずそもそもの問題で“人数”が上げられる。ので、オレを取り囲むサークルはティヒナを取り囲むサークルと比べたら圧倒的に小規模なもの。

9人のサークルの中心にオレとゼイファー。この2人が残された。


「んッ⋯!」

ゼイファーは無言でオレの腹部に拳を入れて来た。オレはそれを、避けずにまともに食らった。

「はじまった⋯」

「ンククククク⋯もうこいつぁ終わったな」

サークル構成員が端々で、現状を伝え上げる。当然ながら、中立的な立場とオレを支持する側の人間はいないので、言葉の全てはゼイファーを持ち上げる内容。オレには暴投の言葉すらも与えられなかった。最早オレをサンドバッグとして見ているよう。

もう、生き物としてオレを見る程の価値が無い。ただの玩具として扱う事がここに可決されたのだ。オレはゼイファーからの攻撃を受け続ける。

ゼイファーからは一切の呼吸の乱れや、少々休止のタンマを感じさせない。かなりのタフでありメンタル面でも相当な男である事を思わせる。ただの喧嘩自慢な不良では無い⋯ということが、脇腹に入れられたキックの直後に分かった。

「ゼイファー、こいつ殺す気かよ」

笑いながら言う。文章だけでは“そのようには”伝わらないだろう。かなり笑ってる。誰かが爆笑一発ギャグをお披露目しているのか⋯?


その爆笑の対象物はオレだ。

オレ、そんな面白い感じに映っているんだぁ。

へぇー。

ただ殴られてるだけだよ?


「死ぬんじゃねぇの〜?」

「ゼイファー、それまでにしとけって」

「無駄だよ。ゼイファーは相手が力尽きるまで叩きのめす。このクソ野郎はまだ余力がある⋯と見てんだよ」


「アノよぉ⋯」

ゼイファーが口を開いた。オレを殴ってからは初めての開口だ。オレの髪の毛を引き上げ、顔面を無理矢理ゼイファーの方に向けさせる。別にそんな事をしなくてもゼイファーの方を向け⋯と言われたら向くのに⋯。なんでわざわざそんな事までして⋯

「⋯ンン⋯」

髪の毛の根元をがっちりとホールドされた。逆に思うのはオレは全く力を身体に入れていない。今、オレはゼイファーの引力⋯髪の毛を引き上げている力が無ければ地面に突っ伏してる状態だ。

喩えるならば⋯『マリオネット』の吊り糸。

吊り糸がゼイファーの右手、みたいな感じだ。そこまで体重の軽い人体では無いはずなのに、軽々とそこまでの血管を浮かせる事なく、持ち上げていく。


ゼイファー、、、、、、、、、、、すごいな。


「⋯⋯お前⋯なんでティヒナと付き合ってんだよ」

ゼイファーが話し出す。髪の毛を引き上げられた状態でオレはその問いに答えようとした。しかし、周りの人間⋯取り巻きがそれを許さなかった。

「答えろテメェこの野郎ォ!!」

ゼイファーによってサンドバッグのように上に吊り上げられたオレ。もちろん天へ伸びる程に上げられている訳では無いから、足は地面についている。

だけどオレがこの人たちに“やられている”とカモフラージュを取るには地面に付く足の位置を最低限に抑えた方がいい。


つま先。

今はつま先だ。

ゼイファーは背も高く、身長は193cmと読んだ。怪力の腕を上へ引き上げると、プラスアルファで10cm以上は増長させる事が可能。弱った相手を演出する手段として地面に着く足の部分は“つま先のみ”にしよう。

ジタバタする訳でもなく、もう抵抗の意思が無いことを示す。


いや、そうしたらどうなるんだろう。

オレが瀕死状態になった⋯と錯覚し、これ以上の暴力を中止するか⋯。体育館裏に置き去りにするか⋯?

それだと正直困るんだよなぁ⋯。ここはどうしたらいいんだろうな⋯。


そんな自分のメモリに無いシチュエーションに枝分かれするビジョンを描いている時も、打ち付けられる周辺からの打撃。これ、本当に学園なのか⋯。凄いな⋯学園はこれをスルーしているんだ。このような通常では体験し得ないものを経験値に加える事で、自分のパーソナルデータは更新されていく。

“無駄な情報”なんて、この世に一切無いからな。ただそれをオレは怠って来ただけ。

面倒だなぁ⋯と思い、今まで投げやりになっていた。作品で飢えを満たしていたが、たまにはこうして“体験”するのも悪くない。


「ゼイファー、こいつ⋯全然呼吸乱れてねぇぞ」

「ああ⋯。随分タフな事は分かった。お前、ほんとは喋れんだろ?話してみろよ」

話そうとしてるのに、周りの取り巻きがずっと殴ったり蹴ったりしてくるんだろうが⋯。さすがにお腹を重点的に狙われると発声に障害は起きるさ。


「はい⋯すみません⋯ティヒナさんと付き合っています⋯」

イゾラスが口を開く。散々暴力を受け、外傷も酷い。それなのにも関わらず、イゾラスは通常人間の流れのままに言葉を垂らした。

男達はイゾラスの状態に引く。

ゼイファーはその様を表面に示さない。

「質問への回答を待ってる。どうしてお前ごときがティヒナと付き合えたんだよ」

「知りません。それはティヒナさんに聞くのが一番だと思いますが⋯」

「お前がティヒナと釣り合う人間なのかどうかを見極める為にこうしてお前を呼び出した」

「おもてなし⋯ということですか?今までの殴ったり蹴ったり応酬は」

「俺らなりのサービスだ」

男達は笑う。笑って笑って笑いまくる。笑い時は必ずみんなが一斉になって笑う。誰か一人が笑わなかったりは絶対に無い。

基本ベースは『ゼイファー』『ゼイファー以外の“取り巻き”』に分かれる。『ゼイファーの取り巻き』は笑うけど『ゼイファー』が笑わない時だってある。

スイッチかなんかを押されているのか⋯と勘違いしてしまうぐらいにみんなが一斉に笑うんだ。それがなんとも⋯気持ちが悪い。


引き上げられた髪の毛は、ようやく握り手の解放で終わる。毛髪細胞から伝達された意識信号によるとかなりの発汗性が確認された。これによって導かれた分析結果は、

『ゼイファーは頑張っていた』

表情で見せることは無かったが、手指から流出していた汗は相当数の数が計量された。今頃、ゼイファーの手は汗まみれで、ぐしょぐしょに違いない。そんなぐしょぐしょの手によって上へ引き上げられていたんだ。


⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯え、やだ。

最悪すぎ。


きも。


地面に落とされたイゾラスは立ち上がる。119秒ぶりに踵が地面に着くのを感じて、少し気持ちが高揚した。こんな事にも高揚⋯気分が上がるのか⋯と思い、自分の人生を怪奇に思う。


「サービス⋯ですか⋯」

「お前⋯イゾラス・ヴァルマンっつぅんだよな?聞いた事ねぇ。一軍にも満たねえ奴がな、ティヒナと付き合っていいとでも思ってんのか?」

「すみません⋯自分が悪いです」

「じゃあ別れてくんね?」

「え、、、それは⋯⋯あまりにも横暴過ぎませんか⋯自分、せっかくティヒナさんと付き合えたのに、こんな早く終わっちゃうのは嫌なんですけど⋯」

「自分の立場分かってモノ言ってんの?」

「嫌です。自分はティヒナさんに告白して振られずにやって来れたんだ。だから自分からティヒナにそんな事言えない」

────────────

「ティヒナがお前を心から愛していると思ってんのか?」

────────────

それに近い文言を聞いた事があった。

朝の校門前⋯だったっけ⋯あれ⋯なんか色々と言葉が投げられてたから、どこであの言葉⋯この言葉⋯だったかが定かじゃ無くなってしまった。確か言われてた気がする⋯忘れちゃったな⋯。


酷いな。

そんなの言われなくても分かってるよ。分かってるけど、奇跡が起きたんだ⋯と思って、自分を褒めたんだ。

それなのに、他人からも言われてしまう始末。自分が思うより他人からの方がよっぽど心への負荷がかかる事を知っているだろ?なのに⋯はぁ⋯そうだよな、、相手が相手だもんな、オレの事を1mmも気遣わない連中だもんな⋯。

まぁそれは⋯この連中⋯ゼイファーグループ以外もそうか。オレの事を気遣わないグループ・生徒なんて学園に山ほどいる。改めて自分のポジションを確認する機会が出来たことに感謝しつつ、ティヒナの心を勝手に定義するゼイファーに対しての反論を実行する。


「ティヒナの心を勝手に決めつけるのはやめてもらえる?」

「はぁ?お前、馬鹿じゃねえの?何が心だよ。笑わせんじゃねぇーよ」

ゼイファー以外の男達が笑うがゼイファーに笑みは全く無い。イゾラスの反論に対して、反駁か行われた直後、ゼイファーは怒りの拳を振り上げた。

拳がイゾラスの左頬に直撃しかけたその時、ゼイファーの攻撃が止まる。まさにそれは一時停止ボタンが押されたかのように、急激な停止反応だった。取り巻きの男達はゼイファーの急過ぎる攻撃ストップにどよめく。

「ゼイファー?お前、何やってんだよ」

「さっさとやっちまえよ」

「もういいだろ。こいつ半殺ししてやれ」

「俺も賛成だな。もうこいつ面白くねぇしな」

「だな。大した反応もねえし」

「ちょっとは泣くぐらいのリアクションしてくれると思ったんだけどな〜」

「これだから陰キャは嫌いなんだよなぁ」

「俺らみたいな陽キャと話したことねぇ、同族としか話したことねぇから、俺らの言葉についていけなかったんじゃね?」

「有り得る有り得る〜う」

男達が笑う。

サークルを形成する男達が笑う事で、笑い声が交差。立体的に笑い声が重なり合う。

中心に位置するゼイファーは、その笑い声を⋯聞き流すしか手段を選択出来なかった。


「おい⋯ゼイファー?どうしたんだ?」

「⋯⋯」

「おーい、ゼイファーあ?お前、何ずっと止まってんだよ」

「⋯⋯」

表情は動いている。しかし⋯右手が動かない。それを言葉に言い表すのは簡単だ。なのに、ゼイファーは自分の仲間にそれを伝えようとしない。自身のプライドが原因だと思われる現象だった。


『コイツらに⋯今俺の身に起きている状態を話しても馬鹿にされるだけだ⋯。ここは俺一人で解決させねぇと⋯。、、、、、、、、動かねぇ⋯全くだ⋯ぜんぜん動かない⋯なんなんだよお前⋯⋯てめぇ⋯てめぇがやってんのか?⋯⋯』

ゼイファーは眼球をイゾラスの方へ向ける。すると、イゾラスはゆっくり眼球をゼイファーの方に向け、視線で応える。

両者の視線が合う。ゼイファーは表情を変えずにいる。

すると⋯

『なんだお前⋯⋯お前の顔面が⋯⋯溶けていっている⋯なんだテメェ⋯いたい⋯ああぁ、、、イテェ、、、イテェ⋯⋯イテェ⋯⋯お前⋯、、オマアアアエエエェ⋯⋯何しやがった⋯イテェえ⋯アアああァァァ⋯⋯やばい・溶けそうだ⋯⋯いたい⋯いたい⋯イタイ⋯、、、イタイ⋯イタイ⋯燃える⋯』


一瞬、イゾラスの目が見開いた。その直後、ゼイファーの容態に激大な負荷が発生。


────────

「おい!お前達何をやっている!?」

────────


学園の警備員がやって来た。考えてみれば普通もうちょい早めな段階で来るのが普通じゃないか?だって、別にここって⋯学園内だし⋯この警備員⋯やる気あんのかな⋯⋯。オレはこう思ってるけど、警備員の焦りよう⋯というか、注意の仕方的に⋯今気づいたっぽいのは確実視できる。そして無視していた感は無い。だから、遠巻きからオレとゼイファーらの“お話し合い”を見ていた⋯という事でも無いみたい。

要は、イジメの発見に遅れた⋯という事になる。警備員が一人猛ダッシュでここへ近づいてくる。オレは溜め込んでいた力をゼロにした。

するとゼイファーは一気に強制停止から解放され、身動きが取れる状態へと戻った。

「おい⋯!逃げるぞ」

「あ、ああ⋯」

ゼイファーの声掛けによって男達は退散。その声は思いっ切り振り絞ってる感があった。「無理してるなぁ⋯大丈夫かなぁ⋯この後、どうやって説明するのかなぁ⋯みんなに⋯あいつにやられたんだよ⋯なぁーて言ってもたぶん信じないだろうしねぇ⋯まぁいいや」と思った。

警備員は退散した男達に目もくれず、オレのところへやって来た。


「君、大丈夫かい?」

案外、、、良い大人だな。完全に信じ切れる訳じゃ無いけど。3パーセントは信頼を寄せてもいいかなぁっと思える。

「はい。大丈夫です。ちゃんと虐められてました」

「いじめられてたって⋯⋯きみ⋯⋯⋯」

─────

「イゾラス!」

─────

物凄く聞き馴染みのある声が前から聞こえて来た。オレはその声に鋭敏だ。どんな人間の声よりも直ぐに反応が出来る。たとえどんだけに喧騒としてる空間でも、この人の声筋が通れば、オレは直ぐに判断が着く。そんな声が耳を刺してきた。

お久しぶりです。1ヶ月半ぶりの更新。

本篇が結構進んだので、ここでエリヴァリース・デッドリンガーに路線変更します。

イゾラス×ティヒナの物語。

本篇とはひと味ふた味も違う、同軸世界線。

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