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[#29-練乳イチゴ]

[#29-練乳イチゴ]


「!!!??!!!?!!グギガァ!!!」

機械人形だったのか、イゾラスの全身から、聞き覚えの無い破砕音が轟く。しかしこれはイゾラスの内的宇宙空間内でのみ発生しているサウンドエフェクトであり、決して外部に流れているものでは無い。

想像だにしていなかった言葉。


「違うよ!それは⋯⋯⋯」

「ンヒィ⋯絶対そうじゃん。⋯⋯ほら、よく見て?イゾラス」

「いや、、、ティヒナ、それ⋯⋯⋯あの、、、」

イゾラスはずっと、ずっーーーーーーと、声を出しているつもりだ。だが、ティヒナにはそれが聞こえていない。一切聞こえていない。音として聞こえるものは、無作為なカットされた映像を垂れ流しているかのような、イゾラスの肉声。そこに、正当な“喋り”は無かった。と言うより、ティヒナはそんなイゾラスを完全に無視している。


『イゾラス、そんなエッチな事妄想してたんだ⋯なぁんだ、そんな事なら早く言ってくれればよかったのに。こういうの、好きなんだ⋯⋯⋯意外かも。練乳がアレに見えるってことでしょ?───んで、アレに酷似したイチゴをヒナが口で“受け止める”。“食べる”じゃなくて、“受け止める”。そっちの方が理解はより一層の妖艶さを帯びてくるもんね』


「イゾラス、見て?」

「⋯⋯⋯⋯⋯ちょ」


それまでラブラベリージュスタッフから受け取った専用フォークでイチゴ食べていたが、ティヒナは食べる手段を“素手”に変更。イチゴの瑞々しい部分がティヒナの右手に滴っている。その美しく白を基調としながらも、血の流動を程々に感じる健康的な手。その手がイチゴの果汁によって汚れていく。汚れて、汚れて、汚れても、果汁の色は基本的には透明なので、そこまでのダメージは無いように思えた。

問題は果汁なんぞの話で済むものではない。


各イチゴには練乳が既にかけられている。イチゴを素手で掴み、その後は流れるように口へと運ばれる。食物をいただく⋯そのような行為の過程で、“流れるように”なんて意味不明な表現をしていることに対しての詫びはここで入れておこう。


「イゾラスぅ⋯見て?」

「ティヒナ、いけないと思う。すごく、イケナイとおもお」

「んん?なにぃ?ちゃんと言ってくんなきゃわかんない。カタコト、混じってる」

口へと運ばれたイチゴ。それは一個丸々では無く、50%程残された状態だった。ティヒナの歯形“聖痕”が刻まれたイチゴを、ティヒナは右手で持ったまましている。

「イゾラス、そこにティッシュあるよね?」

「⋯⋯⋯は、はい」

「取って?」

「⋯⋯⋯⋯」

「ねぇ、、早くぅ。唇から落ちちゃうよ“白いの”」

「白いの⋯⋯⋯白いの⋯⋯落ちる⋯⋯⋯」


何故、“練乳”と言わない?──────。

どうして、“白いの”と遠回りな表現をしたら、色気付くのか?─────。

女の子が放つ色気のメカニズム。ますます分からない。


『もっと見たい。─────これ、ティッシュ取って、拭いたら⋯⋯⋯もう終わり?─────』


「ん、イゾラス、ここ、唇にちょっと付いちゃったからぁ」

「⋯⋯」

生唾を飲む。グビっと、減量明けの炭酸飲料でも飲むかのように。絡みに絡みまくった唾液が、口内を除染してくれるのは有難い事だが、故に、唇の乾くスピードも早い。


『唇⋯ティヒナの唇⋯⋯⋯こんな間近で⋯⋯しかも、“白いの”⋯⋯あいやいやいや⋯⋯“練乳”が最高の機能としてマスタリングされているではないか。酷いぞこれは⋯ヒドイヒドイ⋯⋯!!ヒドすぎて、オレ以外の男がこれを経験していると思うと⋯⋯⋯気が気じゃなくなる⋯⋯⋯⋯』


テーブルに置かれていたティッシュを取り、ティヒナの口唇部に付着している練乳を拭う。


「ありがとイゾラス」

「───────ティヒナ。もう丸ごといってくれ」

「ん?ナゼ?」


なんでそんなトボケ顔がカマセるんだ。


そう言っている間にも、ティヒナは二つ目の練乳イチゴに手を掛ける。


ティヒナが唇を尖らせる。開口すると、これまた甘美な舌が現れる。舌なんてこちら側が“見よう”としないとほぼほぼ見えないものを、イゾラスは普通に定点観測してしまっている。

イゾラスが悪いのか、ティヒナが確信犯的な動きをしているのか。


どっちもどっちな気がしてならないが、ティヒナの動きは確実に獲物を仕留めに来ている。


「ンン〜!美味しい!練乳とイチゴってなぁんでこんなに合うんだろう〜。⋯⋯⋯ね!」

「うん⋯⋯⋯そうだね⋯⋯⋯」

「イゾラス食べないの?」

「い、いや、食べるよ」

「ヒナが食べさせてあげよっか?」

「──────」

「⋯⋯⋯ほら」

「⋯⋯⋯!オレまだ!なんも言ってないよ!?」

「何も言ってないって事は、『嫌じゃない』って事っしょ?」

「そんなむちゃくちゃな⋯⋯⋯」

「ヤなの⋯⋯⋯?」

「そんな!むちゃくちゃな!」

「でしょ?はい、アーン」

「⋯⋯ア⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」

持つ手にイチゴ果汁。少し付着しているティヒナ側の練乳。まったく汚いと思わないのは、オレが単に、この行為を楽しんでいるから?⋯⋯⋯楽しんでる⋯⋯⋯


『楽しんでるのかよ、オレ』


ティヒナが一つ。大ぶりの練乳イチゴに手を掛けた。

イゾラスの皿からイチゴが一つ無くなり、ティヒナの手の元へと移動する。

今から食べようと思っていた練乳イチゴが無くなってしまった。気付いたら、絶世の美少女が代わりに持っていた。

今から食べようと思っていた訳じゃないが、もう少ししたら食べようと思っていた練乳イチゴが奪われてしまう⋯強奪した人間がオレの好きな人だったので直ぐに許す事にした。

食べ方をどうするべきか、受け取っていたフォークで刺して普通に食べようかと思っていたが、ここは素手が通例か⋯それでも、こういうのを食べた事が無いので、他人の食べ方を他所目で見ていた時、一番近くにいた美少女が、まっさきに食べ方を提案した。


「⋯⋯⋯⋯あー、、、ん、、、あちょ⋯⋯ちょ」

「うん!イゾラスの口は大きいから、ぜんぶ入っちゃった」

これだったらまぁ、口元に練乳が付くことはない。ティヒナは賢明な判断をした。

「楽しいね、イゾラス」

ハツラツな笑顔に、弾ける感情。この世が作り上げた創造物とは思えない。まさに完成形。理想の人間。全てにおいてマイナス面が無い。このブレイクタイムで、相当数の人間がこちらに興味を示しているのは視線を向けなくても把握出来る。

ティヒナだってそれは分かっているはずだ。それでもティヒナは、オレとの距離感を第一に考えてくれている。対して、オレというのはどこまで期待に応えられたのか。

そんな自分を卑下したい気持ちは山々だが⋯⋯⋯ティヒナが口角を上げてくれる⋯これだけで充分満たされた。

どうでも良くなった。

一生を賭けて守りたい。


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