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[#25-緊張する相手って、感情の変化を深化させる装置になっている]

[#25-緊張する相手って、感情の変化を深化させる装置になっている]



その後、というもの。

イゾラスとティヒナは互いの領解を次第に侵食させていく程の、より親密な関係値を構築することとなっていった。


─────短期休暇。


原世界では、カタカナじみた言葉で形容されるようだが、戮世界テクフルに置換されると、ただの“短期休暇”として収まっている。

5月の初週から二週目にかけて、人々はこの休暇を“待ちに待った日々”として、楽しみにしているようだ。

オレはそうまでもなかった⋯⋯⋯が。

今年は違う。


所轄、それはティヒナという存在がいるからである。


前々から『どっか行こうよ〜』と誘ってくれていたティヒナの期待に応えなければならない。この短期休暇を“インドアで送る日々”として通り過ごしていたオレとしてみれば、どこに行けばいいのか、どこに行けば何があるのか、もっと細かく言うなら“ティヒナをどうやったら楽しませられるのだろう”⋯と思う毎日。


そんな未熟者に対してティヒナは『ヒナがセッティングするからイゾラスは何もしなくていいよ』と気遣ってくれた。


⋯⋯⋯⋯⋯⋯これは、確実にオレのセンスを疑われている。⋯⋯⋯⋯てか、そりゃあそうだろ。寸分の狂いも無く、彼女の起こしている行動は正当だ。正し過ぎる。

こんなクソ陰キャにデートのプランなんて考えられるはずも無い。ティヒナは一緒にオレとの時間を楽しみにしてくれている。それは、間違いない⋯⋯⋯んだよな⋯⋯⋯。

いや、そんな、、、、こっちから彼女への“容疑”を掛けるなんて、なんてオレは“上”の人間になっちまったんだ。

そこん所はしっかりしよう⋯と決めたはずじゃないか。


今まで人生を、他人で彩った事のない陰キャに希望の天使が降臨すると、絶対⋯絶対絶対絶対に、罰が下る。

いつか罰が下る。

理由は、調子に乗るから。

過去に類を見ない人間と身体を横に並べさせてしまえている⋯この異常事態を真に受けることの出来るクソ陰キャなんてそうそういない。だが、それを乗り越えてしまった陰キャが最終的に周囲の人間へ与えてしまう感情というものは、断定されている。


“不愉快”だ。


明らかに釣り合わないカップル関係。

百以上の点数を余裕綽々で繰り出す女の子に対して、男の方と来たら大したツラでも無く交際経験値の浅さが露呈してしまっているあられもない姿。


⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯はぁ、オレはこんな事を考えて時間を潰して良いのか⋯。

もっと有意義に時間を費やしたい。

これは絶対違う。

未来に不利益な事なんて脳に溜め込んで置くべきじゃない。パンパンになった考えをそのままにし、また次に発生してしまう考えも放置。

放置、放置、放置、放置⋯。


答えが直ぐに出たらいいのに。

そうか、“実体験”というものはやはり必要なんだな。読書でもしてれば、恋愛についての知識を豊富に出来ると思っていた。本を過信していた⋯と言ってしまえば、簡単に済む話なのだが、本に罪は無い。本は本で紡がれてきた文字を後々から編集するのは不可能だ。


読書に頼り過ぎていた⋯のかもしれないな⋯⋯。


イゾラスは一冊の本を机上にセッティングされている本棚から取り出す。


「どれだけのSF小説を読んでも、今、オレの道を灯してくれる光としては作用しない。⋯⋯⋯変だな、こんな気持ちになりながら本を読んだ事ない⋯⋯⋯」


誰かの役に立ちたい⋯立とうとしたいから、もっと本を読みたい。


イゾラスの読書ターゲットになっている現在所持中の本には、恋愛要素は皆無。読了した所で、今までの感想に一文二文程度の新たな感想が追筆されていくのみ。その感想には恋愛への関心・興味を増幅させた⋯等といった所感は述べられないだろうな。


「はぁ⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯やっぱ読むか。お気に入りの本だ。ティヒナとの繋がりを強固なものにさせる力はこの本には無いと思うが⋯⋯⋯心を落ち着かせる為にも、こいつには頑張ってもらう事としよう⋯⋯⋯?───なに?」


携帯へメールが届く。その通知音は、アドレス帳に登録されている人間からのもの。イゾラスのアドレス帳に登録中の人なんて、ルシース、レノルズ、しか⋯⋯⋯⋯ティヒナ⋯⋯⋯。

家に居て、ティヒナからの携帯メッセージが届くのは初めての事じゃない。

⋯⋯⋯それでもやはり、彼女からの文字というのは他とは違う異質がある。彼女の声を脳内で変換させながら読む事になるから、身震いと言うか、受け取り手の問題が多分にあるのは否めないけど⋯⋯⋯⋯⋯簡潔に言うと、緊張するんだよな⋯。軽はずみにキーボードをタップが出来ないの事実。


⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯見ました。


─────

『あのさぁイゾラス?今って話せる?』

─────


⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯

『はい、大丈夫ですよ』


『あ、ホント?ありがと!じゃあ』


え、『じゃあ』⋯っ⋯⋯えっと⋯⋯なんだ⋯⋯⋯⋯⋯⋯え、、、うそ、、、、


【着信Tel:ティヒナ】


想像の範囲内で起こり得る出来事。それがもし、現実的な場面として我の目の前で発生するもんなら、我はこの時の最適解を早急に決定し無ければならない。それが、どの選択をしたとしても、我に後悔の時間も無い。加えて、不正解を選んだとしても、相手が相手なら、どんな状況でも、受け止めてくれるかもしれない。我は、甘えていいのか、否なのか。


「⋯⋯んゆ、、はい⋯⋯」

「もしもし?イゾラス?いまって大丈夫?」

「んはあ⋯⋯⋯はい、大丈夫⋯です⋯⋯」

「どうしたの?なんか息、荒い気がするけど」

そんな事は無い⋯⋯そんなことは無い⋯⋯そんなことは⋯⋯⋯な⋯⋯⋯⋯

「ううん、大丈夫だよ。どうしたの?」

正気を取り戻した。⋯⋯と、自分の中ではそう思っている。ティヒナがどう思っているかは、次の発言から判るはずだ。俯瞰的な立場としての言葉を聞きたい。

「ぜんぜん大丈夫には聞こえないけど」

ガアアァ⋯⋯⋯⋯⋯

「ごめん、大丈夫だよ。ぜんぜん大丈夫」

「無理にでも元気にしてるようなら、今夜は遠慮しておこっか?」

「いや!大丈夫です!ほんとに!ほんとに!!」

「ほんと?⋯⋯まぁ、なら良いんだけど⋯」

ティヒナの声が射下ぎみになっていく。段々と声が落ちる音というのは、相手の感情をかなり不安にさせるんだな。彼女と関係を構築してからというものの、ほんと色んな対人情報を学ばせてもらっている。ティヒナには感謝だ。

人間というのは奥深くも、簡単に答えを得る事が出来る模造品。


「あのね、この前、デートしよって言ったじゃん?その話って憶えてる?」

「もちろんだよ。憶えてる」

「それでさ、ヒナがアレコレ考える〜って言ったじゃん?それ⋯⋯なんか申し訳ないかなぁと感じまして⋯」

「え?それは、どういう意味?」

ティヒナの声がか細くなった。ベース元気である事は、電話越しからでも伝わるのだが声質の変化は、気掛かりの一つとして受け取ってしまう。

「うーん、ヒナがぜんぶ決めちゃって良いのかなぁ⋯と思ってね。それってイゾラスの事、なんも考えてない事になるじゃん?」

「それは、大丈夫だよ。ティヒナが提案してくれたところに行きたいんだ」

「⋯⋯う、そ、そう?」

ティヒナの言葉に詰まりがあった。コンマ単位で発生した彼女の溝の部分が、違和感を感じる語り口だったので、記憶しておくには珍しい出来事と言える。⋯⋯⋯まだ、彼女を隣にして短い期間ではあるが。

「イゾラスが良いなら、良いんだけどさ。⋯⋯⋯⋯⋯」

「何か言いたそうなら、ぜんぶ言ってくれて大丈夫だよ?」

「⋯⋯⋯だいじょうぶ?」

「うん、大丈夫だよ」

⋯⋯何を言おうとしてるんだろう⋯⋯⋯

「⋯⋯⋯言いづらいんだけど⋯⋯ヒナ、今まで色んな男の人と付き合ってきたの」

「⋯⋯⋯」

これまた予想外からの射角放物スロー。ティヒナはモテる。そんなのは当学園に生きる生徒なら周知の事実。

それがここに来て、本人の口から語られる日が来るとは⋯。ティヒナはこうして、オレ以外の人物へも恋愛遍歴を口にしているのかな。⋯⋯⋯ごめんなさい、変な妄想だった。

「それで、よく分かんなくなっちゃったの。色んな所に行ってきたんだけど、そこが本当に、お互いの愛を確かめる場所なのかが分かんなくなってるの」

「⋯⋯それは⋯⋯⋯」

言ってる意味は正直分からなかった。難解な言葉で作られた台詞では無い。だからこそ理解に苦しむ内容ではあった。

恋愛を多く積んでいる人物こそ、愛を育む場所をチョイスするのは難しい⋯という事⋯⋯なのかな。

それか、過去の男たちと“オレ、イゾラス・ヴァルマン”を比較した時、人間性に桁違いな相違がある事は、デートプラン作成に非外的な要因が生じる⋯⋯⋯。

それって、オレを気遣い過ぎているんだよな⋯。

オレの特異な性格のせいで、ティヒナは思い悩んでいるんだ。


「イゾラスがね、どこに行きたいか⋯っていうのが、読めなくて⋯⋯。それで、出来るなら、イゾラスが考えたプランで、ヒナは動きたいなぁ〜⋯って、思ってるの」

言葉は優しい。音もこれ以上の無い、天使の囁き。息遣いも小刻みにサウンドスピーカーから鳴らさり合う事で、聴覚保養への大部分となっていく。

「⋯⋯そっか⋯⋯⋯、ありがとう、そんなオレのこと想ってくれて」

「うん、イゾラスって、何で幸福になるのかなぁって考えると⋯⋯⋯うーん⋯⋯って、ずっとあたま抱えちゃうんだよね」

「それは申し訳ない事をさせてしまっている⋯」

「いや!ごめんゴメン!冗談冗談!!⋯⋯でも、深く考えちゃうのは⋯⋯⋯チョコっと事実」

「⋯⋯⋯何でも良いけどね、ティヒナが考えてくれた⋯っていうだけで、オレは何でも大満足な気持ちになれルと思うよ」

「なんか、カタコトな部分があった気ぃ、するんですがぁ?」

「⋯⋯⋯すご⋯⋯⋯」

「やっぱり。電話って普段人と目の前で話してる以上に、耳、研ぎ澄まされる感じがするんだよね。だから、少しの違和感で“あれ?”なっちゃうの。あれなんかいつもと反応違くない?⋯ってね」

「それ凄いねティヒナ」

「うん!これはね、ヒナのマジカルパワー的な!?カッコイイでしょーお?」

「うん、凄いよ」

「もお⋯⋯なんか倦怠ぃな感じィ、『凄い』と思ってくれてるなら、もっと褒めた方がイイよ?」

「あ⋯⋯そ、そう?今のじゃダメだった?」

「うん!ぜんぜん!ダメ!!ダメダメのだーめ!」

「ごめんなさい⋯⋯」

確かに、電話という概念は感覚器官が一つに一極集中される手段だ。脳伝達情報個体細胞の流れが、複数方向に定められる人間としては、思考能力への覚醒的兆候を発現させる事の出来る最短ルートなのかもしれない。彼女が当該手段を“覚醒”として考えているかはともかく、ティヒナは電話で対人コミュニケーションを図る際に、通常会話で受信出来ない人の感情を読み取っているようだ。

⋯⋯⋯⋯⋯⋯相当、人間と関わるのが好きらしい。


「まっ何でもイイけどね、イゾラスはイゾラスのまんまで大丈夫!あ、でも、イゾラス考案のデートプラン!これは、本気で考えてよ!─────だめ?」

「⋯ああ⋯⋯⋯⋯⋯⋯」

「おねがい」

彼女は今、どんな表情を形成しているんだ。考えただけでも、多幸感に酔いしれます⋯⋯⋯。一つ一つの文字に癒しの音色が響き渡っている。味付けは濃くもなく、薄くもない。丁度の良い味わい深い肉声ながら、まったく飽きがこない不可思議現象。たった四つの文字で構成された言葉なのに⋯⋯⋯そうか、これが耳だけから感じ取れる人の“伝達する”という、手段への所感か───。


「⋯⋯分かったよ。考えてみる」

「ほんと?!やった!ありがとう!!すっごく嬉しい!」

「⋯⋯⋯あ、う、、うん⋯⋯」

どうしてそこまで歓喜の声を上げてくれるのかは分からない。だけど、そこに虚偽は無いように思えた。

「じゃあ来週の15日はどう?」

「⋯⋯15日?うん、平気だけど⋯」

「うん!じゃあその日にしよう!その日で、なんかイゾラスがデートプラン考えてみて!もう何でもいいから!イゾラスがヒナと一緒に行きたいとことか、食べたいものとか、見たいものとか⋯⋯捻りとこもゼンゼン無しでダイジョブ!!だからお願いね!」

「うん、分かった」

「それじゃぁおやすみ」


電話は切れた。結構に足早な対応だったな最後は。反抗の余地すらも無かったぐらいに押されてしまった⋯⋯。

だがまあ、あれほどに言われてしまえば⋯⋯抵抗なんて出来ないだろ。ティヒナから『おねがい』なんて言われる人生⋯⋯⋯。想像だにしない出来事過ぎるぞ。いくら何でも⋯。オレの人生のシナリオを書いてくれる神様が居るもんなら、ソイツに投げ問い掛けてやりたい。

どうしてオレは、ティヒナ・プラズニルという女の子と一緒にいれる権利があるんですか⋯と。

アッチには拒否する権利だってあったんだ。それなのに、オレは名門大学のセンター試験に合格したかのような素晴らしき人生の花門を通過する事が出来た。


来週の15日。


来週か⋯⋯この日は休日。学園の無い日。彼女と会うまで、これ以上に休日を意識したことは無い。オレの趣味なんてほぼいつでも出来る行為。そんな中で、雑音が無ければなお良い⋯といっただけの事だから、学園内でも遂行は可能。

⋯⋯⋯と、格好付けているが、結局のところ、家が一番好きだ。自分の好きなものでしか作られていない空間があるからな。


⋯⋯⋯さて、宿題を出されてしまった。

休日とはいったい何なのか。

その本質について、ここから七日間は考えていかなきゃならない。

映画鑑賞や読書で培ってきた知識というのはかなりある方。だからそこからコピーしてそのまま実行に移せばいい。⋯⋯⋯と、思った⋯⋯⋯⋯のだが、、、本当に、ティヒナはそれで満足してくれるのか⋯⋯。


こりゃあ⋯⋯⋯⋯⋯⋯今まで使って来なかった脳の部分を使うぞ。

頼むからこういう時こそ、超越者としての力ってもんはねぇのかよ⋯⋯⋯何かさ、先祖たちの記憶を掘り起こす⋯とかさ。

⋯⋯⋯⋯⋯⋯──────⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯──────


⋯⋯⋯⋯⋯寝よう


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