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[#22-胸の去来]

[#22-胸の去来]


アリアドネスラウズ高原────。


ティヒナの来襲によって普通なら一番に思いつくであろうはずの疑問がここに来てようやく生まれた。それはもう、アリアドネスラウズ高原を二人で歩いてから二分後(と、思われる)の事。


「ティヒナ」

「ん?」

いちいち横から暴力的な可愛さを振り撒くんだな。耳元が髪で隠れており、オレへの応対によって髪が靡く。フワッとなった髪の毛が後退すると、前衛後衛が入れ替わるように、彼女の顔面がコチラに向けられた。

────

『ん?』

────

たったこんだけの一つの所作で、彼女が如何にして気品のある女性か⋯がよく分かる。


「⋯⋯ティヒナは、なんでオレがここに居るって分かったんだ?」

正直、答えは分かっている。恐らく⋯いや確実にレノルズ或いは、ルシースから聞いたんだろう。


─────────

『あのさっ、イゾラスがよく行きそうな場所、どこかは分からない??』

『え、あ、ああ、分かるよ?モチのロンで』

『ああ、まぁ、アソコじゃねぇの?』

─────────


あの二人の事だ。学園一の美少女が目の前に現れたら、情報なんてポロッと零すだろう。

⋯⋯一応、聞いてみるだけだ。


「なんとなく」

「な⋯⋯⋯んとな⋯⋯⋯く⋯⋯⋯」

え、、、言葉が出ない。『何となく』今、彼女はそう言ってのけた。

「『なんとなく』って、さすがにそれは嘘でしょ?」

「ううん、ほんとだよ。イゾラスの事考えてたらココかなぁって思って、気がついたらここにいた。そんでー、イゾラスがいたから、後ろからぎゅ〜ってしたの」

「そ⋯⋯⋯ティヒナにこの場所って⋯⋯」

「ヒナ、こんなとこ初めて来たよ!凄いね!イゾラスは自然が満ちた世界が好きなの??」

オレが今、彼女へ向けている疑問なんてなんのその。ティヒナはティヒナでオレが好意を寄せる世界観について問い掛けている。

「ん?どうしてそんな不思議がってるの?」

「そんなの⋯当然でしょうよ」

「どして?」

頭を入れてくる。⋯⋯オレの視界に。そんな動作入れてこなくても、ティヒナの顔は充分映っている。それなのに、彼女はあざとい動きをやめようとはしない。

「ティヒナに、『ここが好きなんだ』とか話したことないじゃん。それに、トゥーラティ大陸 北東区域バーセラーリュートには名所が沢山ある。アリアドネスラウズ高原をピンポイントで当ててくるなんて⋯⋯⋯」

「絶句してるね!ヒナの勘に!」

「勘⋯」

勘⋯か。そう、、、、だよな。勘⋯だよな───。

北東区域バーセラーリュートにある三十七もの、シェアードフィールズ現象によって発生した原世界からの共有遺構史跡。アリアドネスラウズ高原だって、共有現象の賜物。高原はここだけじゃないし、オレが足を向ける場所なんて⋯⋯⋯予想が立てられるものなのか?

そんなこと、可能⋯⋯なんだろうか。

勘⋯⋯⋯⋯⋯⋯勘か。


「凄いね⋯ティヒナ⋯⋯」

「んね!でもヒナはそこまで驚いて無いんだー」

「どうして?」

「ここに居る。絶対にイゾラスはここにいる⋯って分かってたから」

「そんな確固たる意思があったの?」

──────

「───うん!好きだから!」

──────


「!?!!」

味わったことの無い気持ち。心臓のバクバク。

血液以外にも送られているような気がする。たぶんそれ、生きてる上で必要性の無い物質ですよ。血だけで人間は生きていけるんですって⋯。

だから、心臓さんオレのコア。

もうオレの胸をドキドキバクバクさせるのはやめて下さい⋯⋯。胸が苦しくなるぐらい、この女の子は優しいんです。これまでに会ってきた(見てきた)どの人間よりも優しいんです。こんなオレに嘘でも『好き』と言ってくれた。


「イゾラスの事を考えてるだけで、なんだかココが熱くなるの」

「⋯⋯⋯⋯」

ティヒナが右手で抑えたのは(左手はオレと繋がっている)、心臓部分。女の子の場合、胸があるのでそこに手を当てる状態となっている。制服の上からでも、ティヒナの胸の膨らみはよくよくよく伝わる。

⋯⋯⋯D、E、Fかな⋯。

こんなの肉声にしていたらマジで嫌われるぞ。


「イゾラスはヒナの事考えてると⋯熱く─────」

「ア!?」

「────ならない?」

オレの右手。ティヒナの左手。繋ぎ目が解かれた直後、彼女の左手は、そのままオレの胸部へと移った。その道筋には、一瞬でも乳頭に接触するシーンがあり⋯⋯⋯それはもう⋯⋯⋯キモい声(決して外界では出していいものではない声の事)を噛み殺す事で精一杯だ⋯⋯⋯。


「──あ、イゾラスも心臓ドクンドクンって言ってるよ」

「そ、、、それは、、、当たり前⋯⋯だよ、、、」

「え?そうなの?」

絶対確信犯だ。『そうなの?』なんて、確信犯にきまっている。そんな小悪魔な表情、明確な殺意があると見えた。

「ドクンドクン⋯⋯⋯男の人の心臓って、案外女の子と一緒なんだよね。身体の作りは違うのに、身体の中身はほとんどが一緒。ねぇイゾラス⋯」

「ちょちょっと⋯⋯」

「ヒナのも触って?」

「こ、ここ⋯⋯ちょ⋯⋯ここで、、そんなこと⋯⋯⋯」

ここじゃなくても⋯だ。声を出さずに、落ち着いてなんていられない。それでもティヒナはオレの右手を自身の胸へと移す。胸には触れず、心臓の部分への上から接触させるような類のもので良かった。

さっきのティヒナは、上から心臓さわる⋯では無く、“大胸筋を通っての心臓”というルートであったから、それの“ティヒナVer.”が始まってしまう⋯と思い、どうにかなってしまいそうな感情に包まれる。

性的対象として見ずにはいられない。


「ヒナとイゾラスの心臓。お互いの鼓動が深くなっていく⋯⋯⋯。凄い⋯⋯⋯すごいよこれ、イゾラス!」

「⋯⋯⋯⋯⋯」

「一つになるみたい⋯。こうして、身体のたった一部分だけでも重ね合わせるだけで⋯こんなにも⋯⋯」


「やめよう!」

「───?どうして」

彼女の手を胸から振り払う。

イゾラスの手も彼女の胸から離そうとしかけた時、ティヒナの左手が、その右手を固定する手段に出た。

「⋯⋯ティヒナ⋯⋯⋯??」

力が強い。

女の子⋯⋯女性とは思えない、力の強さ。

誰かにでも操れているかのような⋯。ティヒナの身体なのに、ティヒナが制御していないみたいだった。

「ティヒナ、もう離そう」

「どうして?これ、二回目だよ?」

「二回目⋯⋯⋯そうか⋯⋯二回目か⋯⋯」


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