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[#19-ギャップ萌えがヒトの持つ一番の技能]

[#19-ギャップ萌えがヒトの持つ一番の技能]


「ティナちゃんさ、この線路歩いてたよね?」

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯え」

ゾクリ⋯とした。

何を言おうとしているのか、何となく予想は出来たけど。チスポーがそんなブラックな事を突然言うような人間じゃないのは私がよく知ってる。


──────

「ティナちゃん、轢かれたとか無い?」

──────


「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯何バカな事言ってんの。第一、もし轢かれようもんなら、私らが歩いてる線路にはバラバラの肉片が撒き散らされてるわ」

「“掃除”されてたら?」

「────はぁア?」

意味不明だ。何が掃除、だよ。鉄道会社の深夜帯勤務職員が働く時間を、あの場所で過ごしてたって言うの?

『気絶してた』⋯とでも言いたいわけか?この女は。まずは何から反論していいか困りに困ったが、二発目ぐらいにポン⋯と浮かんだ反論を、バカ女に向けて提出することにしよう。

「私らがずっーーーーとここに居て、清掃職員さんが働いてる一夜を明かした⋯とでも言いたいわけぇ??バカか!」

「違うよ。もっとさ、イマジナリーな出来事をさ、考えてみれないの?」

“考えれないの?”の間違いだろうが。“考えてみれないの?”って⋯⋯⋯もう完全に、私に論破される事が確定し切っていて、負け戦トーンダウンしてるじゃないか。

だからそんな言葉の使い方にミスが発生するんだ。人は追い込まれると、顔に出ずとも思考回路に“切れ込み”が生じる。

それが余日に明らかとなっている時点で、討論的にはチスポーの負けである。


「イマジナリー?この期に及んで、フィクション方面を想像しろ⋯って?」

「さっき、そんなような事が起きたんじゃん」

「──────」

それは、そうだ。

意味不明。

どう、言葉を紡ぎあげていけばいいのか分からない現象が、私たちには起こっていた。先程まで一緒に居た友人は消え、時間の流行を断定出来ないまま現在まで至っている。

これは確かに、チスポーの言及している“イマジナリー”に相当する内容と言えよう。しかし、『ティヒナが轢かれた』⋯だとかはあまりにも現実離れし過ぎている内容だ。

それをイマジナリー、と判断するのは種類がちょっと違うと思う。それに、普通に良くないし。そんな事を頭の中で整理するだけでも嫌なのに。


「ティナちゃんがどうして線路に一人でいて、前方からやって来た貨物列車が現れた“瞬間”に消失したのか⋯」

「まるでその一部始終を見ていた、かのような言い草だな」

本当にそうだった。証言台にでも立っているような感じ。

「これが“イマジナリー”よ。想うだけなら何でも良いんだから」

その顔は、いつものチスポーとは違っていた。能天気な彼女の性格から発揮されない、サイケな表情管理。ふざけた言葉も不使用で、何だか“違う人間”と接しているみたいだった。凄く簡潔にまとめると、気色の悪いコミュニケーションだ。


「仮説を立てるにょ」

「仮説って言ってもさぁ、自分の友達を『轢かれた』とか、嘘でもそんな事言わない方がいいと思わない?」

真っ当な意見だと思ったが、対するチスポーは『???』と言った感じ。そのポンコツな脳みそが入ってる頭蓋部分から“ポカン”と擬音が聴こえてきてもおかしくない。

「あんた、いつからそんな無秩序になったのよ⋯」

「ふざけてないもん!!わっぽはほんの少しだけ“んな事ありえるかもなぁあ”と思ったから言っただけ!」

ファイウェルのゆく道を塞ぐように、とおせんぼうをしたチスポー。⋯⋯いや別に、どっかのおデブモンスターじゃあるまいし、歩きを妨げてまでする事でも無いだろ。

言いたくないけど、こちとらだってチスポーの頭が弱いのは承知済みだ。『轢かれた』⋯という意見が出てくるのは少々オフザケにも程があると思ったけど、チスポーの友達をしている段階でこのレベルの破壊力のある“回答”は、身構えて置くべきだった。

───────と、自らに落とし込む。


プラスアルファで、やっぱり少しこの事は当人へ伝えたい⋯と思い、弱攻撃としてチスポーへ投げる。


「チスポー、幾ら“仮説”だとしても、そんなグロテスクな事言わないで。分かった?」

かなりコンパクトにまとめた。もっと言いたい事はあるが、こんな所で喧嘩していてもしょうがない。

「────うん、そうね。ごめんファイちゃん」

両手を合わせ、上目遣いでコトン⋯と頭を下げる。

「分かってくれたらいいのよ」

こういう所は生真面目なんだよな、この女。それに、ギャップ萌え⋯というものがある。私はこういった人間の“差異”が発生するフェーズに非常に弱い。

最たる例として、チスポー、あなたがいるのよ。

いっつも、『ウッキャうっちゃ』『ギャッパギャッジャギャッパギャッジャ』『うへへへへハハハハハハ!!!』⋯と、原世界からのシェアードフィールズ現象である、ホモ・サピエンスの進化系統を逆行するような猿化を見せつけられる始末。

だけど、いざこうして濃密に関係を構築してみると、新たな発見があるやあるやで驚くばかり。


「うん!」

チスポーの笑顔が弾ける。そう言えば、さっきから見せてきた顔面は、類の違う笑顔だった。口角だけが上がっただけの、“笑顔”とはとても言えないもの。いや、チスポーを初めて見た人間が、この顔を見るときっとみんなは“笑顔してる”と判断するであろう。

しかし笑顔とは言え、“キショい仮説”を論じ立てていたチスポーは⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯もういい、やめよう。


「ササッ!歩こう!歩こおー!ティナちゃんはきっとこの線路の先にいるはずだよ!」

「⋯そうね。そう思ってたら会えるかもだしね」

「おっ、ファイちゃん分かってんねぇ!今絶対、『確証なんてあるはずないでしょうが』んてぇ、思っとんだべ??」

「げく⋯⋯⋯」

スルドイ。────スルドイぞ、こいつ。


「さすがにこのまま線路を歩くのは危ないから、脇道よれよう」

「ウーーんんん⋯⋯⋯」

抵抗の意思アリ⋯と見えた。さっき私は、彼女からのコミュニケーションツールとして“上目遣い”がある事を報告した。これだけだと、私と“この女”に明確な身長差があるような表現になってしまったが、ここで追加をさせて頂く。


我々に身長差は無い。

そっちが勝手に膝をガクッとさせ、身長差を生み出しているのだ。それもこれも自分を可愛く見せる為。そして、上目遣いというメインウェポンを装備する為。

現在そんな、あざとキモイ“膝ガクっと”のアクションが実行に移されている。今回のは当該アクションに加えて、新規装備が試用されていた。


「なんだその目、頬の膨らみ、唇の噛み締めは」

「ンンンンンンンンン───」

如何にも“抵抗”を中断させる気の無い続行っぷり。

「仕方ないでしょ?ずっと線路なんか歩いてたら、私は本気で捕まっちゃうって。そしたらティヒナを見つけるのにも面倒な手間が生まれちゃう」

「⋯⋯ソレもそうじゃ⋯⋯⋯⋯⋯⋯ウウウ⋯」

上目遣いは止められたが、そっぽを向き、暫くはこっちに顔を振り撒いてはくれなくなる。まぁこれはこれでチスポーの声がカットされる⋯という事として、範疇に留めておこう。


「じゃあ⋯⋯⋯あそこ。あそこに逸れましょう」

「はーーーーい」


そんなに乗り気じゃないのか⋯。

ここは強引にでも彼女を線路から離した方がいい。線路は逸れた道からでも普通に視認が可能である。線路の上を歩行する事にこだわる必要性は無いのだ。だが、線路上を歩きながら目的である友人を見つけ出す⋯というのは、確かに非現実的な体験ではある。


逸れた道へと続くのは、産業道路。

運がいい事にこの道路の通行量は少ない。線路地帯から制服を着装中の女子高生が出現でもし、その様を見られでもしたら⋯確実に明日は学園からの呼び出しが決定される。そんな事は是が非でも避けたい。

二人は産業道路へと続く道なりの部分へと移動する。そこまでの道へ至るまで、先程まで歩いていた線路とは違う線路を三回越えなければならない。

ハードル飛び越えじゃあるまいし、障害物と成りうるものでも無いため、警戒心ゼロでトコトコと歩行を進める。


だがその時、二人の中には既に混入されていた“異物”の兆候めいた現象が開始の合図を遂げようとしていた。

二人の神経意識は徐々に暗いものへと様変わっていき、視界に移される情報が限定化されていく。

見えていた光景である、鉄道が走行する交通の肥えたエリアは“謎のエリア”として書き換えられる。


赤。

青。

緑。

黄。

紫。

茶。

水色。

白。

黒。


これといって特別な色彩と呼べない色だが、彼女たちの視界には上記の色が矢継ぎ早に再生されていった。


消えない。

消せない。

足掻いても足掻いても、その声はどこにも届かない。

二人はそれぞれに置かれた宿命を理解する。

何故かそこには懐かしさが満ちていた。

不思議と心地の良い空間となり経たのは、いったい何故か?

それは、二人が一番知りたい事であろう。

意識は、ある。

だが総ての感覚器官に障害が発生。

思い通りに、感覚を研ぎ澄ます事が不可能に陥る。


〈神経接続へのバグコントロール対処完了〉

〈よし、このまま続けろ。傍役者への介入は最小限に留めるんだ〉


⋯⋯⋯⋯また、何かが聴こえてきた。

知らない声だが、声質は同じようなものだ。

というか、この状況で聴こえてくる声なんて───


〈おい、まだ生命兆候への反応があるぞ〉

〈駆動機能停止〉


─────────

─────────

─────────


〈感覚器官のサンプル採取を完了。こちらに停止プログラムをスキャンした役者二人のパラメータが記載されています〉

〈ご苦労。⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯あぁ、計画時では、もっと“慈母”との繋がりを深化させる筈じゃ無かったか?〉

〈“慈母”へのコントロールは、イゾラス・ヴァルマンが阻害電波を張っている事によって一定箇所、送信が滞っている場面カットがあったようです〉

〈クソ⋯だから“純血盟”の設定はやり過ぎだと言っていたんだ、ラヴは。第一、ジェノサイドフェーダの発端分子であるヤツの名前を半分くれてやる、ってぇいうのが悪魔として生きさせる気満々じゃないの〉

〈“黄昏の残光”にもそれは該当案件ですね〉

〈“セルブストモード”の暴悪っぷりは今後のシナリオにも軌道修正の難が多数出てくると思います〉

〈“黄昏の残光”の処理は、我々の管轄外だ。こちらはこちらで、務めを果たすぞ、仕事再開だ〉

〈了解〉

〈了解〉


その場から二人の肉体が消える。

二人が線路地帯に居た⋯という痕跡も完璧に消去された。

二人の記憶内には、今まで体験して来たデータというのは内包されている。だが、ティヒナがあの場、バースノード駅に居て、そこから一人で離れて行った⋯という記憶だけは、唯一の削除対象として選別が成された。

つまり、ファイウェルとチスポー、最初から最後まで二人は二人だけの世界を楽しんだ⋯という記憶に書き換えられたのだ。


そんな二人の現所在地は、それぞれの自宅の真ん前。

お別れの挨拶もしていないのに、“したような気”にさせている。“納得”という感情を直ぐさま脳から身体へ一斉送信されていくプログラミングが、ドリームウォーカーによって埋め込まれており、全くの無駄の無い人体リソースを形成。


こうして二人の一日は終わった。


〈“慈母”の現在地は?〉

〈はい。現在、我々が計画の中心人物として選定中の“悖逆”へと接近。間もなく、ダイレクトコンタクトのフェーズドアレイに入ります〉


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