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[#18-線路に立っていた、立っていなかった]

[#18-線路に立っていた、立っていなかった]


自我と虚偽の狭間。

至る中空に流れる謎の意識。

これが、自分のモノ⋯では無い事なぞ、判別のしようが無い。

だが、心地の良くないものでは無かった。

何故なら、ティヒナを“否定する言葉”は一切無かったからだ。


言葉。

そう、言葉。

言葉で紡がれたドリームウォーカーからの可逆促進プログラミング。

対象への“夢”を見させる事によって目覚めの生じと共に起こり得る魔性の輪廻。

足掻き切っても、目的遂行までの区間で全てを語り終わらせ、虚飾的な願望でもその者の頭の中で描写されたビジョンの具現化と、それに倣った最適解な手段を模索する。

ティヒナに視えたのは、未来で寵愛を紡ぐ者。

それは他非ず、イゾラス・ヴァルマン。


個体データに一切の迷いが無く、彼女は“可逆促進プログラミング”のウイルス侵入で、真っ先に彼の存在を脳内で描いたのだ。

あまりにも精細。

濃密な彼の個人情報。

共にしていた時間は、深いとは言い切れないものの、ティヒナは、イゾラスの高校生活を語るに足らない存在と言える。



広範囲に渡って実行されたドリームウォーカーからのジャミング。主的対象者ティヒナ・プラズニルの傍らにその身を置いていたファイウェルとチスポーは、ドリームウォーカーから見れば、ただの登場人物に過ぎない。


ティヒナへの軌道修正ジャミングに“異物”として識別判定が発出されたファイウェルとチスポーは、バースノード駅に居た⋯という記憶を削除されてしまった。

ドリームウォーカーが紡ぐ計画に無関係なシナリオ進行は、かえって大きな損失になるのみ。削ぐべき道、というのは、前もって消しておく必要性があるのは、シナリオを形作る存在として当然の礼儀だ。

それに、ティヒナを取り囲む役者たちでは、画的にも不足要素が多分に生じてしまう。


〈物語に必要なのは、舞台装置を操る概念と、その概念を如何にして収束させる事の出来る力量の有無。それに限る。自己との境目を失くし、感情的な気持ちに流されつつも、魂と器の欠片さえあれば、総ての通りは最低ラインをマークしていくのだ。個性を削ぎ落とし、偽りの理念に囚われた舞台装置を、我々が破壊し、新たな個体生命の形を、埋め込む───。虚構と現実を等しくもまた、不平等に、社会主義と道徳主義を反故の意を持ち、蠕嚢尊を捧げられん〉


〈シナリオ進行に障害無し。計画遂行までの道筋が完成しました〉

〈今の所は⋯だろ?〉



「う───んん⋯⋯⋯⋯」

「⋯⋯あ、、、あれ⋯⋯⋯ぇ??」


二人が目覚める。

ここで言う、“二人”というのは⋯ファイウェルとチスポー。二人が瞼を開けたのは同じタイミング。

まるで後ろに電源ボタンが設定されている機械人形オートマタのよう。彼女たちは、置かれた状況を飲み込むのに、そこまでの時間を要する事は無かった。


「──チスポー⋯ティヒナは?」

ファイウェルの疑問はチスポーの思考にも当然巡り散らかしている。彼女からの問い掛けよりも先に、チスポーの方がその思考を芽生えさせていたかもしれない。

「⋯⋯わかんないよ⋯⋯ティナちゃんは⋯⋯どこ行ったの、、、、、」

チスポーの深刻な表情。顔面の形象崩壊なんて一切していないのに、そう考えなきゃ整理が追いつかなくなるぐらい、今の彼女の顔面は、見るに堪えたものじゃなかった。

通常時を知っているから。いま、隣に居るファイウェルは日常コマにて送られるチスポーの表情を知っているから。

そこからの落差が激し過ぎる。


「─────、、、、、ティナちゃん⋯⋯⋯⋯」


⋯⋯⋯⋯⋯そんな顔をしないでくれ⋯と今でも泣き喚きながらチスポーの聴力を破壊する分量のある発声をかましたい。


何度も言う。


“落差”。

もっと真剣に言おう。


“知らない友達”と一緒に居るみたいだから。


「そうだ⋯ティヒナは確か線路に⋯」

ファイウェルの言葉によってチスポーの意識は線路へと直ぐに向けられる。その速度は、一瞬コミカルな動きにも見えなく無かった。二度見に相当する段階の速さがチスポーの首振りには搭載されており、ここでファイウェルは、彼女の体調が不調では無いことを悟る。


『ハァ⋯良かった⋯一応、そんな過剰に動けるぐらい、力は入るんだな』


「そうだよ!!ティナちゃん、ひとりで線路の上を歩いてて⋯そんで──」

「⋯⋯⋯どっかに消えていった⋯⋯」

「わっぽ⋯誰かと半分こしてたよ⋯⋯」

「“半分こ”⋯⋯うん、チスポーそうだよ」

「ファイちゃんもそうだよね?」

チスポーからの発言によって、タガが外れたかのようにファイウェルの脳内には、当時刻までに起こっていた不可解現象を思い出す。


「向こうの貨物列車の人達、いつの間にか居なくなってて、わっぽらも『ヤバい!』と思ってこの廃駅から居なくなろうとしたら、ティナちゃんが急に視界から消えたの⋯」

ファイウェルと視えた“世界”は同じ。どうやら二人が視た視界情報に相違は無いようだ。これだけで充分。

証人となる人物はファイウェルとチスポーのみ。二人が捕捉した情報に多少なりとも異なるものがあった場合、そこへの“探り”に時間をかけてしまう。

だが、当該案件ではその必要性は無い。


良かった⋯と一息つくファイウェル。

チスポーは、そんなファイウェルを見て⋯


「わっぽと同じモンみたのにゃあ、そんなゼェハァゼェハァすることあったちゃ?」


コイツ⋯⋯⋯⋯⋯⋯。

こんな時でも、ムカつく女はムカつくんだな。

まぁいい。取り敢えず今は⋯


「チスポー、私達は⋯」

「この線路辿ろー?」

「んぐっ!?」

目を離した隙に、チスポーは線路の上に立っていた。それも廃駅より離れ、ターミナルステーションとの間に設置されている線路。当該線路はティヒナが歩行していた線路でもある。

だが、それはターミナルステーション寄りの線路でもあったので、現在でも使用されている可能性は大。それに、明らかな不法侵入。

⋯⋯⋯⋯これに関しては、今に始まったことではないが。


「チスポー!」

「ファイちゃんも!早く早く!コッチよーん」

「んてぇ⋯もお⋯!!」

あんなバカな女を独りにさせると色々マズイ事が起きそうだ⋯。それに、、、なんだか分からないけど、何となく私も“ティヒナはこの線路の先に居る”ような気がした。

確固たる意思は無い。

無いけど⋯何となく⋯。

言葉には表せない、心がそう言っている⋯と言えば良いのか⋯?

心理学とか、学術的な面で公言してみたいけど、あいにく私にはそこまでの知識が無い。

ただ言えるのは、ティヒナ捜索、という気持ちをイメージさせる時に、不思議とマッピングされたように、ピン刺しが行われる。その示している場所というのが、私の近くにあり、現在チスポーが『コッチコッチー!』とひょうきんに来い来いアピールをかましてくる線路上。


チスポーにもきっと、その“ピン”は刺されているのか⋯。


────て⋯⋯⋯。


「ふんふんーんふーんふふーんふーーんあレ???」

チスポーが振り返る。気が付けば、チスポーとファイウェルの距離は二十メートルも離れていた。

「チスポー!待ちなさい!」

「ファイちゃんおいてくー」

後方から友達の気配を感じず、一瞬独りになった事が現実となった事への恐怖が募る。それでも彼女の進行は一時的なものであり、直ぐにその足は前方へと戻された。そして、そんな刹那的な恐怖があった事を知る由もないファイウェルは、駆け足で問題児の元へ。


「ここ、使われてる線路だって」

「それがー?なに??」

「いや、私達、バレたら捕まるって絶対⋯⋯」

「捕まらないよ」

「ハァ?あんた、何を根拠にそんな事言ってんのさ」

平行に二人は横一列となり歩行。ファイウェルはチスポーに顔を向けていたが、チスポーからその様子は無い。視線はずっと向こうへと全集中。


⋯⋯⋯⋯⋯何してんだろ⋯⋯⋯私⋯⋯⋯。


「ねぇ、さっきさ、何が通ったのかな」

「貨物列車でしょうよ」

「この線路だよね、通ってたの」

「────あぁ、確かそうだった」

正直、これは誤魔化した。私はそこまでさっきの出来事を憶えてない。記憶から不必要なメモリ⋯と判断されたのか、私の意見なんてお構い無しに“削除”が行われたのだ。


⋯削除⋯⋯⋯⋯?

“削除”って、どうしてそんな言い方するんだろう⋯私。


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