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[#15-神器転移実験]

[#15-神器転移実験]


〔開始された予告の前に、各種シナリオの充填確保を実行する。直ちに総てのドリームウォーカーを連結ラインに積載。ドリームウォーカーから発出されうる能力値のゲインをハイパワーへ繋げ〕



「あぁ⋯」

「知らない⋯おと?」

「うん⋯⋯⋯」

ティヒナが言う、『この音、知らない』。

ファイウェルとチスポーは、彼女の疑問に対して疑問が生じる事となった。ティヒナがどれ程、この駅への造詣が深いのか定かではないが、自分の知らない列車ぐらい走るだろう⋯と思っているからだ。その文章が、二人の脳内にて直ぐに執筆された事は、言うまでもない。しかし、そんな回答用紙を提出しようとしかけた時、ティヒナの顔色はかなり曇天な表情だったのだ。

ファイウェルはセーブ出来る。相手の表情を観察しながら物事を並べ、その時々にあった言葉と表情を形成。それが対人コミュニケーションの基本であり、人としてやらねばならない事だから。反して、チスポーは傍若無人。とにかく自分が中心的な世界で進行されていき、他人のストーリーなんてまったくのお構い無しに、自分の言葉が紡がれていく。だがそんなチスポーですら、ティヒナの表情を見ると停止を余儀なくしてしまう。

こんなチスポー、初めてだった。


「知らない⋯何今の⋯⋯⋯」

あまりにも深刻な顔をするティヒナを無視する訳にもいかない⋯と思ったファイウェルは、ティヒナに声を掛ける。

「ティヒナ」

「⋯⋯⋯⋯」

と、共に、先に思った内容を包み隠さず伝えてみる事にする。少々、棘の入った言い方をしてしまうかもしれないが、これに関してはしょうがない。それに⋯⋯“本当にそうだと思っているし”。

「ティヒナ、別に、ティヒナが知ってる貨物列車以外にも、走ってくる列車はあるんじゃないの?それにさ⋯⋯」

ファイウェルの口が止まる。それは先程、貨物列車の接近を判断とした時の構図と相違のある部分があったから。


それは、向こう側のターミナルステーションに居る乗車作業員の反応によるものだ。ファイウェルは無意識的に作業員たちの顔を見る。そこまで彼等に興味があった訳でもなく、ティヒナの顔色が曇っていくのを永続的に見物したくなかったので、“逃げ道”として作業員へ偶然、視界が行く事となっただけ。⋯となると、それはもはや“無意識的”という意味でも無いのかもしれない。彼女自身は、そう思っているだけで客観的に言ってしまえば、“救済”を求めていたのであろう。

自分の大切な友人が⋯。しかもここまで失墜する直前のような姿。たかだか自分の知らない音が聴音されただけで、そこまでの表情をするのか⋯⋯⋯⋯?


ファイウェルは“意識的な逃げ場”として作業員たちへと、視線を移す事になるが、それは逃走経路となりうるものでは無くなってしまう。作業員たちも、その音に対して不快感を募っている様子が見えたからである。

当然、作業員たちの通常音量で行われる会話音声というのは、50メートル先に居る三人の少女へ、聴こえるはずも無く。


だが明らかに作業員たちは、焦っている様子だった。それは、“一般人を招き入れてしまった事への不法侵入許可申請”か?ファイウェルは、自分たちが一般人である事への、当該廃駅不法侵入を考える。そりゃあ、普通に考えてみればやってはいけない事をしてしまっている。50メートル先に居る⋯だとしても、作業員たちが女子高生三人を注意もせずに、廃駅へと居させてしまったのは完全にアウト。


きっと私たちを恨み、蔑み、呪うだろう。

だって彼等はこれでも仕事が失われるんだ。新たに接近してくる列車に乗車中の人物が、当該状況を目に入れるのはほぼ確定的。この音の聴こえてくるボリュームで言ったら、もうすぐそこまで来ている。私ら三人はこの廃駅から姿を消すまでにかかる時間は、そう易々なものでも無い。


『あの男の人たち⋯きっと私らを呪うんだろうな⋯。自分らが注意して、この場から退去させなかったから。私らはどんな罪になるんだろう。剣戟軍の警察部隊が来て、長い事事情聴取されて⋯とか、嫌な時間が流れる事は目に見えている。⋯⋯⋯⋯⋯はぁ⋯⋯こっからもっと早めに退散しておけばよかったのに⋯⋯そんでもって、あの大人どもが真剣に“ここは危ないよー”とか何とか言ってくれさえすれば良かったんだ』


────────

「おい、この転動音はなんだ?」

「分かりません、聞いた事のない音ですね」

「それに⋯このダイヤで走行中の車両車はウチだけのはずでは?」

「ああ⋯そのはずだ。本部からも走行車両許可が下りているのは、我々だけど聞いている、それに実際の記録帳も今朝確認した」

「じゃあ⋯⋯⋯⋯」

────────


乗車作業員らは、少女三人の不法侵入をどうするべきか⋯接近する列車に警告を出されてしまう⋯等、そんな事に思考を働かせていなかった。それ以上に、不可解な事態が発生している事を作業員らは感じていたのだ。バースノード駅エリア付近のターミナルステーションを使用する車両は、本日で言えば現行停車中の《長大型貨車牽引ジェットファイア》のみ。


正体不明の謎の車両接近。作業員たちはそれに不穏な影を帯びつつ、ようやくして女子高生三人への退避をサインする。


「君たちーーー!もうそこから離れなさい!」


一人の作業員男性が大口を開く。ティヒナとの会話を始めた男性だ。比較的他の作業員よりも若めの年齢で、二十代前半も思われる。ティヒナとの距離感も精神的に見ればかなり近いと言えよう。とは言っても。ティヒナは高校生。高校三年生の身分で成人を迎え終わっている男と交際関係を持つというのは許されざる断交。


男からの警告を受け、ファイウェルは我に返る。呼び掛けをした男もファイウェルたちと同様に、ターミナルステーションからの退行をしている。

きっと、自分たちが一般人の不法侵入を許可した事かバレたくないんだ⋯。ファイウェルはそう思うと共に、『申し訳ない』という気持ちが込み上げてくる。

チスポーを引き付け、呆然と立ち尽くすティヒナの手にも、自身の手を伸ばす。チスポーは自分に身体を預けたのに対し、ティヒナはと言うと、まったくそこから動こうとしない。不動直立を維持したまま、ずっと⋯ずっとそのまま。そして顔は、線路へ。視線が次第に遠方の線路から足元付近の線路へ⋯。

直下を見つめ続けるティヒナの姿は明らかに普通じゃない。首の曲がり方がほぼ九十度になっている事が、何よりの証拠である。後方から彼女の身体を見れば、首から上の頭部が消失している状態。

不気味すぎる彼女の線路への愛執に、さすがのファイウェルもおかんむり。


「ティヒナ!ほら!あんたなにしてんの!?」


〈居心地の良い世界へようこそ〉


「だめ、私はここにいる」

「はぁ??あんた何言ってんの?線路なんていつでもどこででも見れるでしょうが!」


〈感情適応リンクに異物の混入が確認されました。排除行動への実行ノードは、イマジナリーハブステーションの概括に設定されていない解読コード、“DW0206”が必要となります〉


「私はここにいる」


いつものティヒナとは違う事は、第一声目で明確なものとなっていた。一人称が“私”になっている事もおかしいし、『私はここにいる』との発言は如何にも、幼い子供を感じてならない。ティヒナはこんな幼稚な対応を見せた事が無いし、モジモジとした態度はティヒナが忌み嫌う人物でもあるのを、二人は知っていた。

自分が嫌な事はしない⋯それがティヒナのモットーである。

そして何よりティヒナは、友人からの言葉には、視線を必ず向ける。どんな事があってもだ。


二人の前にいるのは、二人が知らないティヒナ。ティヒナの肉体を借りた、謎の魂が乗り移った人間のようだったのだ。

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