[#13-命からがら、切に乏しき]
[#13-命からがら、切に乏しき]
⋯⋯⋯⋯男って、いっつもこうだったっけ?
私は、ダメな事をしていたんだ。
多くの男性と付き合ってきて、そりゃあもう色んな体験をした。初めての事だってしたし、初めましての事だってした。
色々な形があって、私はそこに生きがいを感じてもいたんだ。私を求めてくる人は大勢いる。その中でも、“異性”の存在は私にとって特別だ。私は自分にも“特別な何か”が欲しいと感じていた。それでも、そんなチャンスは中々やって来ない。
その割には、男からの告白は止まらない。私がそこで『今ゴメンね⋯』とか、『もう男子とは付き合う気無いんだ』等を言えれば、私がここまで男に固執することは無かったように思える。
それでも違った。私はそこで特別な何かを得ようとしていたんだ。
それこそが、特別な何か。
四六時中、考えていた。私がどうやったら特別になれるのかを。
一人称だって変えてみた。『私』とかよりも自分の名前を、更に味付けして“愛称”で言ってみればいいじゃん。そうすりゃあ明確にも自分が他の人間とは違う事にはなれるし、私だってちょっとは“特別な何か”になろうとする気概に生まれていく。
でも、それはただの幻だった。今でも自分の愛称を一人称にしているのは、よく分からない。ハッキリとした理由が無いので、反応に困る。
おかしいよね、自問自答のコーナーなのに、『反応に困る』ってさ。
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「………え?」
「………自問自答…?わっぽたちに話してたんちゃんの?」
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ファイウェルとチスポーに大きなはてなマークが、ドカンと頭上に現れる。それもそうだ。自分たち二人に向かって話していると思っていたのに、急にその話し手が『自問自答のコーナーなのに』と言ったのだ。驚くと言うよりも、不安になった。
「……ぁあ!ごめん…ごめんごめん……」
まるで正気を取り戻したかのように、ティヒナは二人へ謝る。別に表情が変わっていた…というわけでは無いのだが、二人からしてみれば“摩訶不思議な世界観を漂わせる女”。実存する言葉を当てるのならば、“不思議ちゃん”。
ファイウェルがこの世の中でトップクラスの中に入る程の、苦手なタイプの女。
且つ、チスポーにとっては、当人である。
「今、どうしたの?なぁんか、別の人みたいな感じで食っちゃべってたけど??」
別にヒナは、何を食しながら話をしてた訳では無いのだが⋯チスポーにとってはそう見えていたのだろう。横にいるファイウェルにも目を配ると、チスポーの言葉に僅かな頷きで反応していた。チスポーの表現に異を唱える事が多いファイウェルらしからぬ行動だったので、本当にヒナは歪な動きをしていたのだな⋯と感じでしまう。認めるしかないみたいね。
「分からない⋯ヒナにも、変な感じで⋯こう、、身体がゾクゾクっとしてね、でもそれは、今さっきの事」
「ティヒナ、ちょっと顔も火照ってきてね?」
「え、、、嘘⋯⋯」
「嘘じゃねえよ、ほら、見てみぃよ」
ファイウェルが自身の携帯を取り出しカメラアプリを起動。スクリーンをティヒナに映し、自信で確認してもらうことに。ティヒナは自分の顔面を確認するが、ティヒナのリアクションは薄いものであった。
「え?ファイウェル、嘘つかないでよ、いつも通りの肌色じゃん」
「は?ティヒナ⋯それがいつもの純白なら、本当に発熱したらどんだけ赤くなるんだよ」
「ティナちゃんけっこうヤバくない??大丈夫??」
これまでに無いくらいのチスポーの血気迫る表情に、ティヒナは事態を重く受け止めざるを得なくなった。しかし、スクリーンで顔面を確認してもそこに映っているのは、ただの自分の普通の顔面。いつも通りの顔過ぎて、リアクションにも困るが、スクリーンから顔を上げ、二人の顔を見ると眉間に皺を寄せた気力全てを“心配”に注ぎ込んだような表情を並んでしていた。
全く同じ感情が横一列に並んでいるのを見て、ティヒナはほくそ笑んでしまう。
「ちょっと!何笑ってんのよ!ティヒナ!」
「ゴメンゴメン!⋯ヒナンフフフ⋯なんか二人が一緒の、顔、し過ぎててウケる⋯ってゆうかさ、なんか笑っちゃえる面白さなんだよね⋯んフハハ」
「変な笑い方だな、ティヒナってば」
「エヘヘ?そうう?じゃあそんな変な笑い方する女の子に、発熱でも帯びてるって言いたいわけ??」
「ますますその可能性は出てきたよ」
「んヘェ?!なんでよ!」
「ティヒナがラリった」
「ラリったラリったー!」
「大丈夫だから!!ええーっと⋯⋯⋯エエッー⋯⋯⋯ほら!!」
ヒナは自分が本当に本当に本当に何の体調への心配も不要な事を二人に見せ始める。その証明にしようとしたのが、廃線となった線路の片方のみを使用した綱渡り的なもの。右足、左足、右足、左足⋯と一歩ずつ一歩ずつ、確実に前進をして見せているその姿を見せれば!きっと二人は、ヒナの体調を何とも思わなくなるはず。だって⋯これは、ヒナがいつもやってる“儀式”みたいなものだから。
ファイウェルとチスポーは毎度恒例の光景は、幕開けすることに少しばかりか不安を強調する。何故なら、ティヒナの顔面は更なる紅に染め上がり掛けていたからだ。
正常では無い。間違いなく彼女の身体には正体不明の悪影響が及んでいる事を察知した二人だが、ティヒナが線路の上に直立した瞬間、ティヒナの表情がガラッと変化するのを感じた。
「⋯⋯⋯⋯⋯よっし。ヒナに問題があれば、ヒナはこの線路の上から落下する。15cmの高さから急行落下よ。さぞそれはそれで情けない姿を二人にお披露目する事になるね⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯はい、出来た。なぁんにもない」
先程やってのけた“線路の軌道を歩く”という行為。ファイウェルとチスポーはティヒナから異常際立つイメージ螺旋を感じていた。説明し難い光景だったが、いつもティヒナとの会話を欠かさない二人には痛いほど伝わってくるものだった。
「二人とも?どうしてそんな顔してんの??⋯⋯あ!そういやもうこんな時間じゃん!今日もいつものやつ!見届けよー!お」
「⋯⋯⋯⋯⋯」
「チスポー?」
「んぁ!うん!そ、そうだね⋯」
なんだかヤケに平常心を失っている心が顔面から溢れ出ているチスポー。いつも能天気に絡んでくるチスポーからして、現在の彼女の姿は“見ていられない”と厳しく判断してもいいようなものだ。
現在の時刻は、17時23分。
この時間になると、廃駅には貨物列車が来訪してくる。
来訪、といっても、ただただこの廃駅を通過するだけのものだ。ティヒナ達が居る廃駅、元々は貨物列車と在来線のターミナル駅として運用が果たされていた。歴史もかなり古いらしい。
そんな由緒正しき場所が、ノスタルジックさを100パーセント感じるエリアに様変わりしたのは、ずっとずうーっと前の話。
駅の雰囲気が変貌してしまった経緯を説明するのは、来るべき時と、最も適切な処置段階に入ったら、にするとしよう。




