【連載版始めました!】 魔境の森に捨てられたけど最強のテイマーになって生還した~外れギフト【スライムテイム】はスライムを“無限に”テイムできるぶっ壊れチートみたいです~
女神様、どうか良いギフトを下さい!
心の中で叫び、正座のまま必死に願う。
周りにも、同じ姿勢の人がたくさんいる。
“ギフト”を授かる儀式の最中だからだ。
「これは……!」
そんな中、神々しい光に包まれ、体の中に何かが灯った感覚がした。
僕の中にギフトが宿ったみたいだ。
内容を確認すべく、心の中で念じてみる。
僕が受け取ったギフトは──
「【スライムテイム】……?」
とんでもなく外れの予感がした。
しかし、世間は後に知ることになる。
これが無限の可能性を秘めた“ぶっ壊れギフト”であることを。
★
「もうお前に用はない。出て行きなさい」
父上の静かな声が部屋に広がった。
僕はうつむいたまま、次の言葉を待つことしかできない。
「その服も持ち物も、全て置いていけ。もうお前はフォーロス家の者ではない」
「……はい」
父上に従うと、僕は代わりに懐かしのボロい服を着た。
この布切れを見ていると、どうしても思い出してしまう。
僕──アケア・フォーロスは、元々この家の者ではない。
孤児院出身で、侯爵家であるフォーロス家に養子として迎えられていたに過ぎなかった。
理由は、僕が【祝福の儀】を迎える十五歳前だったからだ。
「多少はマシなものを授かるかと思えば。期待した私がバカだったか」
「……すみません」
──【祝福の儀】。
十五歳になった者が一同に会して、女神様からギフトを頂く儀式のことだ。
ギフトとは、天からの才能と言っても良い。
剣士系のギフトを授かれば身体能力が向上するし、魔法系ならば魔力が上がったりする。
どんなギフトを頂くかによって、その後の人生が大きく左右されるんだ。
「やはり孤児などあてにならぬか」
「……」
頂くギフトは、多少血筋が関係するものの、ほとんどランダム。
だから、実子ではない者もあらかじめ養子にすることで、もし当たりギフトを引いた時に家の手柄にするんだろう。
そして、例に違わず、孤児だった僕もこのフォーロス家に迎えられた。
しかし、愛情はないからか、毎日ただ生き長らえるだけの日々だった。
食事は最低限。
住まいは本家とは違う汚い別館。
他にも色々と差別を受けて来た。
でも、良いギフトを授かれば認めてもらえると思った。
そうして、一発逆転を願い、先ほど行われた【祝福の儀】。
僕が授かったのは【スライムテイム】というものだった。
「ただでさえ使えないテイマー系。加えて“スライム”テイムとは。聞くに堪えない外れギフトのようだな」
父上の言う通り、テイマー系はいわゆる外れギフトだ。
理由は色々あるけど、一番の原因としては“英雄の不在”だろう。
剣士系、魔法系などには名誉を残した者がたくさんいるものの、テイマーにはそれが一人としていなかった。
さらに、スライムは言わずと知れた最弱の魔物。
協会では初めて聞いたギフトだったそうだが、不遇と不遇を組み合わせたギフトが当たりのはずなかった。
「もう顔を見せるでない。去れ」
「……お世話になりました」
冷たい父上の言葉を最後に、僕は部屋を去った。
「アケア様!」
後方から高い声が聞こえて、僕は振り返る。
焦った顔で走ってきたのは、メイドのポーラだ。
「ポーラ、もう様はいらないよ。僕は勘当されたんだ」
「だからって、すぐに追い出すなど!」
ポーラは、養子の僕にも優しくしてくれたメイドだ。
でも、だからこそちゃんと言っておかなければ。
「もう僕に近づかない方が良い。これ以上僕に関わると、ポーラまで差別されてしまうよ」
「ですが、アケア様はどこへ行かれるのですか!?」
「僕は──」
自分でも心がズキっとしながら、口にした。
「“魔境の森”に送られるそうだよ」
「そ、そんな……!」
魔境の森とは、フォーロス家の領土の外れにあり、どの国にも属さない広大な森のこと。
文字通り“魔境”であり、超危険な魔物が住み着いているせいで、国すら手が付けられないという噂だ。
つまり、実質的な流刑のようなものだろう。
「どうしてそんなひどいことを!」
「おそらく父上にも面子があるんだと思う。自分の手で始末すると体裁が悪いから。あくまで魔境の森へ探索に行かせる名目でね」
「アケア様……」
少しあっさりした僕の態度に、ポーラの口が塞がらない。
僕も不思議と落ち着いていられるのは、ずっと覚悟していたからだろう。
だからせめて、最後はちゃんと伝えたかった。
「ごめんね、お世話になりっぱなしで」
「そんなことありません! むしろアケア様は、いつもメイドのなってくださいました! 私たちで悪く思っている人は一人もいません!」
「そうかな、ありがとう」
そういえば、よくあいつからポーラ達を庇ったこともあったっけ。
ふと思い出すと、ちょうどその人物が歩いてきた。
「よお、こんなところにいたのかよ」
「……マルム」
「マルム様な? クソ孤児が」
マルムは、フォーロス家の実子だ。
僕と同じ年で、共に先ほどの【祝福の儀】を受けてきた。
でも、彼は“当たり”を引いた。
「それにしても良かったぜ。【剣聖】を与えられた俺は人生イージーだ。てめえみてえな貧乏人と違ってなあ!」
「いたっ!」
「アケア様!」
マルムにドカっと蹴られ、ポーラに手を伸ばされる。
マルムの【剣聖】は剣士系の上位ギフト。
誰もが羨ましがるギフトを当てたんだ。
乱暴を受けても、僕は何も言い返すことができない。
「ふん、外れすぎて張り合いにすらならねえか。分かったらさっさと行って、そのまま野垂れ死ねよ!」
「……くっ、はい」
魔境の森には、僕だけで行くことが命じられている。
僕は悔しながらも、最後にポーラに別れを告げた。
「今までありがとう」
「アケア様! どうか、どうかご無事で……!」
涙目を浮かべるポーラを後に、僕は馬車に乗った。
★
「ここが魔境の森……」
馬車に揺られ、数時間。
捨てられるように置いて行かれ、僕は魔境の森に降り立った。
雰囲気から、ここが改めてどんな場所かを感じさせられる。
鬱蒼とした、領地では考えられない高さの木々。
昼間なのに暗い雰囲気だが、決して静かではない。
どの方角からも魔物の声が聞こえ、常に争い合っているみたいだ。
「でも、前に進むしかないんだよな」
ここから一歩下がれば、フォーロス家の領地。
勘当された僕は、二度と領地を踏むことを許されていない。
残された道は、どんなに危険でも進むことのみだ。
「い、行こう」
恐怖しながらも、僕は前に進んだ。
恐る恐る森を進んでしばらく。
ついに魔境の森の魔物に出くわしてしまう。
「ブモオオオオオオオオ!」
「……っ!」
体長が縦横五メートルほどもある、巨大な豚。
これは『ギガピッグ』だ。
図鑑で見た情報を思い出すまでもない。
こんなの何をしても勝てっこない。
「ブモッ!」
「速い! がはっ……!」
突進の直撃はなんとか避けたものの、少し当たっただけで僕は吹っ飛ばされた。
そのまま木に叩きつけられ、全身に痛みを感じる。
「なんて力だ……」
これまで、実は陰で努力をしてきた。
ランニングや剣の素振り、街で譲ってもらった本を読み込むなど。
でも、それでどうにかなる相手じゃない。
完全にこちらが捕食される側だ。
これが魔境の森の魔物なのか。
「う、うぐっ……」
体は悲鳴を上げ、恐怖で震えている。
僕はここで殺されるのか。
そう半分諦めた時、手元に何かがふよっと乗っかる感触があった。
「ぷよっ!」
「スライム!」
手より少し大きいサイズのスライムだ。
攻撃の意思はなく、俺に寄りかかるように気持ち良い肌をすりすりしてくる。
でも、こんなことをしている場合じゃない。
「ブモォォ……」
ずしん、ずしんと、ギガピッグは一歩ずつ向かってきている。
このままでは確実に食われるだろう。
「どうにか、しないと……!」
そんな時だった。
目の前に、メッセージが浮かび上がったのは。
≪スライムをテイムしますか?≫
「……!」
これは、ギフトをサポートする『ギフトウインドウ』か。
どうせ僕だけの力では敵わない。
だったらもう、迷っている暇はない。
「スライム、君をテイムするぞ!」
「ぽよ~っ!」
その瞬間、僕の体とスライムの体が光に包まれる。
同時に、新たなギフトウインドウが浮かび上がった。
ーーーーー
アケア
MP :10/10
ギフト:スライムテイム(1)
スキル:【スライムテイム】【スライム念話】
魔法 :なし
ーーーーー
これはステータスが見られるギフトウインドウだ。
新たなものがあるなら、とにかく使ってみるしかない。
「【スライム念話】!」
『アケア、アケア!』
「あ、スライムの言葉が分かる!」
スライムとコミュニケーションが取れるようになった。
これならやりやすい。
だけど、色々と聞いている暇はない。
「君は何ができる?」
『【火球】なら打てるー!』
「魔法を!?」
そんなスライムは聞いたことがない。
でも、今は賭けてみるしかない。
「じゃあ頼む!」
『うん! うおー!』
スライムはギガピッグに向け、あーんと口を開けた。
『【火球】ー!』
「ブモオッ!」
宣言通り、スライムから火の球が放出される。
だが、しゅうううと煙が晴れると、ギガピッグは再び姿を現した。
「ブモォ……」
「全然効いてない!?」
本当に魔法を放ちはしたが、スライムはスライム。
やはり威力が足りなかったみたいだ。
それどころか、ギガピッグは今の攻撃で完全に怒ってしまった。
「ブモオオオオオオオオ!」
「まずい!」
『ひいー!』
ギガピッグは僕たちをギロリと睨み、一気に突っ込んで来た。
すぐさま背を向けて逃げるが、スライムはタッと僕と逆方向に走り出す。
『ぼくだけじゃ勝てっこないー!』
「え! スライム!?」
そして、そのままぴゅーっとどこかへ行ってしまった。
まさか、逃げちゃったのか!?
「ブモオオオオオオオ!」
「くうっ……!」
ギガピッグから離れるよう、僕はとにかく全力で走る。
火事場の馬鹿力とでも言うのか、なんとか体を動かした。
しかし──
「ブモオオオオオオオオ!」
「……ハァ、ハァ」
しばらくして、いよいよ追い詰められてしまう。
前は狙いを定めたギガピッグ、後ろは巨大な岩壁。
もう逃げる場所は無い。
「こ、ここまでなのか……」
十五歳まで、陰で体を鍛えてきた。
そのおかげで多少は動くことができる。
でも、授かったのは【スライムテイム】という謎の不遇ギフトだ。
この状況でどうにかできるギフトではない。
──そうして、若干諦めかけた時だった。
『『『やめろー!』』』
「え?」
草陰から大量のスライム達が飛び出してきた。
スライム達はギガピッグに一斉に突進し、意識を逸らしたのだ。
『アケア! 遅くなってごめんね!』
「仲間を呼んでくれたの!?」
『うん! あっちにもー!』
スライムは逃げたわけではなかった。
一人では敵わないと悟り、最善の行動をしてくれていたんだ。
また、反対方向からもたくさんのスライムが救援に来てくれた。
すると、大量のギフトウインドウが浮かび上がる。
≪スライムをテイムしますか?≫
≪スライムをテイムしますか?≫
≪スライムをテイムしますか?≫
・
・
・
「これは!?」
さっきと同じギフトウインドウだ。
でも、数が多すぎる。
「こんなの聞いたことがないぞ!?」
定説では、テイマーがテイムできる魔物は、一匹や二匹程度。
テイマーで最上位と呼ばれるギフトでも、三匹までというのが常識だ。
だからこそ、テイマーは不遇ギフトと言われていた。
だけど、目の前に広がったウインドウは──およそ“百”。
もしかして、見えているスライムを全員テイムできるのか。
「ブモオオオオオオオ!」
「……! 戸惑ってる暇はないか!」
ここまでくれば、もうどうにでもなれ!
そんな思いで、全てのウインドウを一括で承認する。
すると、僕とスライム達の体が一斉に光を帯びた。
『『『うおー! やるぞー!』』』
「みんな……!」
どうやら本当にスライム百匹をテイムできてしまったみたいだ。
一致団結したスライム達へ、僕は声を上げた。
「みんな【火球】は使えるか!?」
『『『うんー!』』』
「よし! だったら全員で一か所に集めるんだ!」
完全なる思い付きだった。
それでも、なぜかこのスライム達となら出来る気がした。
「いくぞみんな!」
『『『おうー!』』』
一つならば、弱々しい【火球】。
ただし、それが百集まれば、上級の魔法と同等の威力となる。
『『『【業火球】ーーー!』』』
「ブモオオオオオオオ!」
百の【火球】を組み合わせ、上位の魔法へと進化した【業火球】。
その威力によって、ギガピッグの身を焼き焦がした。
「やった……やったんだ! 魔境の森の魔物を倒したんだ! みんなすごいよ!」
『『『わーい!』』』
魔境の森は、序盤でも超危険地帯だ。
それこそ、冒険者ランク上位一%未満であるAランク相当の力が必須と言われている。
そんな魔境の森の魔物を倒せるなんて。
「これが僕のギフト……」
テイマー系ギフトの特性として、テイムした魔物の力は主にも還元される。
魔法やMPなど、テイムしている間はステータス強化の恩恵を受けるんだ。
その証拠に、ギフトウインドウには魔法が色々と追加されていた。
ーーーーー
アケア
MP :750/1000
ギフト:スライムテイム(100)
スキル:【スライムテイム】【スライム念話】【スライム収納】【スライム合体】【スライム分解】
魔法 :火魔法
ーーーーー
「す、すごい……!」
初めの一匹をテイムした時は、MPが10だった。
つまり、スライム一匹のMPが10ぐらいなんだろう。
ギフトの右側の数字はテイム数のようなので、単純に百匹増えてMP1000ということか。
「魔法も使えるようになってる」
魔法スキルの火魔法をタップすると、【火球】と【業火球】が出てきた。
火属性の魔法でまとめられているんだろう。
また、スキルも増えていた。
これはたくさんスライムをテイムした結果なんだろうか。
スライムには色々とできることがあるらしい。
「【スライムテイム】か……」
このギフトは、スライムしかテイムできない。
けど逆に、スライムに特化したギフトと言える。
状況から考えるに、スライムならば“無限に”テイム出来るのかもしれない。
「これは……」
一体なら最弱でも、百体集まれば“魔境の森”の魔物にも勝てる。
それに、スライムは最弱だが、それゆえに最も数が多い魔物だ。
テイムするほど力は大きくなり、その度に僕にも還元される。
つまり──可能性は無限大。
「これはもしかして、ものすごいギフトを授かったんじゃないか?」
それはまさに、誰もが死ぬはずの魔境の森にて、僕が希望を見出した瞬間だった。
「一度休もっか」
スライム達と共に、ギガピッグを倒した。
色々ありすぎて疲れてしまったので、少し休むことにする。
しかし、その間にギガピッグの体から光を発し始めた。
その光はギガピッグの体を離れ、僕の体へ取り込まれていく。
「あ、これは!」
これは“経験値”だ。
魔物を倒すと、倒した者へ魔力などが流れ込んで来る。
それでギフトに応じたパワーアップができるらしい。
テイマーの場合は、MPや魔法が増えたりするのかな。
「なんだか力があふれてくる……」
強い魔物ほど、経験値は大きい。
経験値を初めて得たのもあるけど、ギガピッグの経験値がそれほど多いんだ。
やっぱりすごいな、“魔境の森”の魔物は。
そうして感心していると、スライム達が話しかけてきた。
『ねえねえ!』
『ブタさん食べないの?』
『すっごく美味しそうだよ!』
「え!? い、いやあ……」
ギガピッグは丸焦げになっており、正直あんまり食べたくない。
それに毒がないとも限らない。
食事の代償に死亡なんてごめんだ。
と、そんな心配を察したのか、スライム達は続けた。
『ぼくたち分解できるよ!』
「え?」
食物連鎖の最下層にあたるスライムは、いわゆる分解者にあたるのかな。
詳しくは分からないけど。
そうして、スライム達は動き始める。
『ぶんかーい!』
『ぶんかいー!』
『悪いものを取り込むよー!』
「す、すごいな……」
本当にギガピッグの分解を始めたみたいだ。
また、ギフトウインドウにも気づくことがあった。
ーーーーー
アケア
MP :790/1020
ギフト:スライムテイム(100)
スキル:【スライムテイム】【スライム念話】【スライム収納】【スライム合体】【スライム分解】
魔法 :火魔法
ーーーーー
スキルの中に【スライム分解】というのがある。
僕はこれを使用してみた。
『わ、いつもより力が湧いてくる!』
『うおーやるぞー!』
『もっとぶんかいだー!』
スライム達の働きを強化できたみたいだ。
見るからに動きが早くなり、そのまま待つこと一分ほど。
『分解したよー!』
『毒素はないよー!』
『アケアも食べられるよー!』
「みんなすごいよ!」
【業火球】によって大部分は焦げていたが、可食部が残っていたらしい。
ついでに毒素も抜いてくれたそうで、これなら食べられそうだ。
戦闘も分解も含めて、全員で得た食べ物だ。
みんなにお肉が行き渡ったところで、僕たちは手を合わせた。
「じゃあ、みんなで──」
『『『いただきます!』』』
僕がもらったのは、ギガピッグのお腹辺りのお肉。
バラ肉っていうんだっけ。
見た目がまだ若干生だったので、少し【火球】で炙って食べてみる。
口にした瞬間、自然と目がパッと開いた。
「美味しい!!」
『でしょー』
『よかったあー』
『おいしいよねー』
こんなに美味しい食べ物は初めてだ。
フォーロス家ではお肉はおろか、ほとんど残飯ばかりだったから。
それに、これもスライム達が頑張ってくれたおかげだ。
「ありがとうね、みんな」
思わず感謝を伝えると、スライム達も笑顔になった。
『うん-!』
『いいよー!』
『ぼくたちもお肉食べれてうれしい!』
「あははっ、そっか」
自然と、あの家にはなかったような温かい空気になっていた。
「次はこっちに進んでみるか」
ギガピッグを食してから、しばらく。
僕たちは慎重に進みながら、夜を過ごせる場所を探していた。
深い茂みの中だと、周囲を警戒しにくいと考えたからだ。
また、途中で色々と発見もあった。
「お、これも上回復草だな。それにハイルビー鉱石もある」
魔境の森には、貴重な植生や鉱石がたくさんあるんだ。
序盤でこの調子なら、奥へ進めばもっと珍しいものもあるかも。
人が寄り付かないため、荒らされた様子もない。
ただ、これだけ数が多いと運ぶのは大変だ。
そう思っていると、またもスライム達が助けてくれた。
『じゃあ持っていようかー?』
『また合体するー?』
「うん、お願い!」
スキルにあった【スライム収納】。
これを使えば、スライムが代わりに持ってくれる。
さらに、【スライム合体】で一つになることで、容量は大きくなる。
「何度も聞くけど、苦しくない?」
『ぜんぜーん! まだまだよゆー!』
容量に関しても、この通りだそう。
さっき聞いた話だと、自分でもどこに収納しているか分からないとか。
それでも、取り出す時は正確に取り出せた。
これもスキルの影響なのかな。
とにかく便利なのはありがたいことだ。
そうして歩いている内に、ステータスにも変化があった。
ーーーーー
アケア
MP :1210/1430
ギフト:スライムテイム(130)
スキル:【スライムテイム】【スライム念話】【スライム収納】【スライム合体】【スライム分解】
魔法 :火魔法
ーーーーー
「MPの上がり方がすごいな……」
スライムの数は、ちょくちょく増えて百三十匹。
スライムにも個体差があるらしいけど、平均すると一匹10MPぐらいだろう。
また、ギガピッグの後にも何匹か森の魔物を倒したので、経験値でMPが上がっている。
このままいくとどうなってしまうのか。
他人や他ギフトがどれぐらいかは知らないけど、ワクワクしていた。
と、ステータスを眺めていると、周囲を警戒するスライムから念話が入る。
『アケア! ぼくの方から魔物がきてる!』
「了解! まっすぐこっちに戻ってきて!」
『うんー!』
念話の方向から、北東だ。
そのスライムが帰ってきたのを確認し、魔法を放つ。
「【業火球】!」
スライムの【火球】百個分の魔法だ。
道中と同程度の魔物なら、これで一撃のはず。
「やったか?」
「ウオオオオオオン!」
「……!」
しかし、魔物は煙を振り払うと、獰猛な声を上げた。
【業火球】が効かないなんて!
少し戸惑うも、その姿が露わになって納得する。
「炎を帯びている!? まさか耐性を持っているのか!」
「ウオオオオオオン!」
現れた魔物は、炎を纏ったオオカミだ。
見るからに火魔法は効きそうにない。
『やばいよー!』
『どうするのアケアー!』
「くっ!」
業火球はすごい威力だが、効かければ意味がない。
後退気味に戦線を維持するが、これではジリ貧だ。
どうする──と思っていた時、後方より念話が聞こえてきた。
『ぼくたちの魔法なら効くかも!』
念話が届いた方向にいたのは、同じスライムの集団。
でも、通常のスライムより水分を多く帯びているように見える。
すると、テイム済のスライム達が反応した。
『わあ! 水スライムくんだ!』
『久しぶりだねー!』
『水スライムくんは、水魔法を使えるよ!』
「水魔法を!?」
彼らは水スライムというらしい。
たしかに水魔法なら、炎耐性のあるオオカミにも効くかもしれない。
僕はすぐさま行動に出た。
「みんな、僕にテイムされてくれないか!」
『うんいいよー!』
『たのしそうだからねー!』
『ごはんくれそうだからねー!』
二十匹の水スライムをテイムすると、ステータスに変化が現れる。
ーーーーー
アケア
MP :1440/1630
ギフト:スライムテイム(150)
スキル:【スライムテイム】【スライム念話】【スライム収納】【スライム合体】【スライム分解】
魔法 :火魔法 水魔法(←New!)
ーーーーー
「よし、僕も水魔法が使える!」
MPが増えたのと、水魔法の習得を確認できた。
あとは力を合わせるだけだ。
「みんないくぞ!」
『『『【洪水球】ーーー!』』』
みんなと協力して、【業火球】と同等の威力を持つ【洪水球】を放つ。
水スライムの数は少ないが、その分僕が多大なMPを使うことで、魔法の威力を高めたんだ。
「ウオオオオン……オ、オォォ……」
「やった!」
水魔法が弱点だったのか、炎を纏ったオオカミは倒れた。
すごい、これが水スライムたちの力か。
「みんな助かったよ! ありがとう!」
『そうでしょー!』
『どういたしましてー!』
『その分ご飯ちょうだいね!』
こうして危機を乗り越え、水スライムという新たな仲間を手にして、僕たちは無事に安全地帯を見つけるのだった。
「もう真っ暗だ」
夕方過ぎ、偶然見つけた洞窟にて。
魔物はいないようなので、僕たちはここで夜を過ごすことにした。
周りは岩壁で覆われている為、警戒は前方のみで済むためだ。
これからの拠点にしても良いかもしれない。
「今日は色々あったなあ」
寝る前に、今日一日を振り返ってみた。
朝に【祝福の儀】を受け、そのまま勘当。
森に捨てられるも、スライム達のおかげで半日を生き延びることができた。
それどころか、今は家よりも幸せなぐらいだ。
またそれは、衣食住に至ってもだ。
『ぼぼー!』
あるスライム達は、目の前でたき火をしてくれている。
火があるとなんだか落ち着く。
簡単になら、ここで調理もできるだろう。
『気持ち良いでしょー』
また、あるスライム達は、自慢のボディを生かしてお布団になってくれるそうだ。
僕と触れ合えて嬉しいみたい。
『次は見張りよろしくねー』
『はーい』
『お肉くうぞー』
そして、あるスライム達は交代で警戒をしてくれている。
これ以上ないぐらいの待遇だ。
ただ、やっぱり少し申し訳なさもあって。
「みんな大丈夫? 疲れない?」
『大丈夫だよー』
『たくさんお肉くれたから!』
『食べ物のお返しはぜったい!』
『あんなに美味しいの初めてだよー』
『明日からもよろしくねー』
でも、スライム達はこの調子だ。
というのも、どうやらスライム達だけでは、直接森の魔物を倒すのは難しいらしい。
いつもは死骸などを漁り、なんとか生きていたそうだ。
それが僕のギフトや指示が相まって、新鮮なお肉を食べられたんだとか。
つまり、食の見返りということらしい。
お互いにとって良い関係ならば、僕も気持ち良い。
明日からもちゃんとご飯をあげないとね。
それから、そういえばと思った事を水スライム達にたずねてみる。
「みんなはどうして水魔法を使えるの?」
『どうしてだろー?』
『水辺で生まれたから?』
『ねー、湿り気あるしー』
詳しくは分からないみたいだ。
ただ、聞く限りは生まれた環境に由来するのかも。
だったら、他にも気になることが出てくる。
「もしかして、水以外にも属性を持ったスライムとかはいるの?」
『いるよー!』
『ぼくは雷スライムくんと友達だよー!』
『風スライムくん見たことあるー!』
『すごい物知りな長老スライムさんもいるよー!』
『知らないスライムくんもいるかもー!』
「ええ! そんなに!?」
予想以上の答えが返ってきて、思わず驚いてしまう。
だけど、これは妙だ。
スライムにそんな話は聞いたことが無い。
「まさか……」
ここから推察できるのは、スライム達も環境に順応しているということ。
この魔境の森は、至る所が魔力に満ちている。
その恩恵でスライム達も進化を遂げているのかもしれない。
そして、そんなスライム達をテイムすれば、僕も強くなる。
【スライムテイム】には数の制限がないので、スライムの種類が増えるほど、僕ができることは増えていく。
まさに“無限の可能性”と言えるだろう。
「よし。次の目標は決まったな」
『『『そうだねー!』』』
こうして、僕は生活基盤を固めつつ、色んなスライム達に会いに行くのだった。
──そして、半年後。
成長を遂げた僕たちに、ついに転機となる日が訪れる。
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