Episode.7《魔族の女》
ノア・レノンにいじめられていた女子は、食堂から泣いて逃げ出して庭園に来ていた。
木陰に座り込みながら、俯いてすすり泣いている。
「安心して、私はあなたを絶対に拒絶できない」
リアーナが慰めている。
「私の知り合いにも魔族がいるの。正確にはハーフ、魔族の血が半分の人間ね。私、その人とは仲がいいわ」
へーそうなんだ、初耳。
「だから話して欲しいの。苦しみを分かってあげられるかもしれないわ。全部じゃなくても少し」
魔族に真摯に向き合える人が、この世にどれだけいるか。多分それは一パーセントにも満たない。
リアーナは優しい。でも正しいのかは、まだ僕には分からない。聞いた限りだと、魔族が人間にしてきた事への報復としては、いじめなんか可愛いものだ。
──とはいえ魔族全体の罪が、彼女個人に対するいじめが正当化される理由には成り得ないよ。
「あの様子だとあなたは、普段から食堂に行けていないんですか? 僕らが見かけたのも今日が初めてです」
僕が聞くと彼女は涙を拭い、顔を上げてこう言った。
「普段は母がお弁当を作ってくれていて、それを持ってきて食べていて。でも今日は忘れちゃって……」
「じゃあ、もしかしてお腹空いています?」
彼女が頷くと、リアーナは「なにか買ってくるわ!」と伝えてすぐ走って行ってしまった。
──数分後、リアーナは食い切れない程のパンを抱えて、ダッシュで戻ってきた。その必死な姿を見て僕は、微笑まずにはいられなかった。
「リアーナ、おかえり」
「ただいまフレディ! はいあなたこれ食べて!! 食堂でたくさんパン買ってきたわ!」
リアーナが大量の包装されたパンを、座っている彼女の膝元に山積みにした。呆然とした表情を浮かべている彼女は、リアーナに感謝しつつパンをひとつ取り、食べ始めた。
「私もたーべよっ!」とリアーナも一緒にパンを頬張り、「まだ食べるのか」と僕が水を差すと「さっきは邪魔されたからノーカウント」とモグモグしながら言った。
「ごめんね……僕が食堂にいたからだよね」
ちょっとした会話で彼女を落ち込ませてしまい、僕とリアーナは慌ててフォローをして、話を切り替えるために流れで名前を聞いてみた。
「──“ビリー・ホワイト”だよ。よ、よろしくね」
名は体を表すように、髪も肌も白く透き通っていて、まるで天使みたいな美しさがある人だ。
僕とリアーナも自分の名を教え、ビリーさんがどういう人なのかを、踏み込みすぎない程度に聞いた。
「僕、クォーターなんだ。パパが魔族のハーフで、魔族の血は四分の一しかなくて、魔族特有の魔力は無いに等しくて。だから怖がらないで欲しくて……」
魔族の誇る魔力量は、人族や獣人族、エルフやドラゴンなどが持てる魔力量の凡そ三倍はあるらしい。
その中でも“魔族を総べる王たち”がいるようで、それらに至っては、この街一つを消滅させるほどの魔力量があってもおかしくはないとか。
レッスンでは毎日、このような魔族のことを重点的に教え込まれている。魔族の総本山がいつその気になるか分からない今の状況。自分たちは常に、死と隣り合わせだと。
「私は、ビリーに魔力があろうがなかろうが接し方を変えるつもりはないわよ! 全然怖くなんてない!」
「リアーナさんはかっこいいね。僕なんて、いつも隅っこで縮こまってばっかりで、かっこ悪くて……」
自分を卑下する癖がついているのかな。まあ、ルナ・レノンにあんな扱いされてたら、そうもなるか。僕はビリーさんにノア・レノンとの関係性について聞いた。
「彼とは一緒のクラスで、いつも避けられるだけであまり話したことはなくて。でもたまに近づくと今日みたいに怒ってきて、クラスに僕の居場所はなくて」
ルナ・レノンとクラスが一緒ってことは三年、先輩か。
「ビリーッ……!! いつでも会いに来て! 私とフレディは一年の教室にいるわよ!」
「ちょっとリアーナ、ビリー先輩だぞ」
僕が注意すると、ビリー先輩は目を潤ませながら笑って、
「ううん! そのまま呼んで!」と言っていた。
──昼食休憩を終えて、僕のクラスは実技のレッスンを受けていた。実技とは、魔法の訓練だ。
学園の敷地内に、頑丈な石垣の壁に覆われた闘技場みたいな場所があって、実技のレッスンはそこで行われる。
僕らはブルーノ先生の手本を見ながら、教えの通りに魔法の練習をするけど、できる人とできない人がいる。
最初は呪文詠唱とかしなきゃいけないのかと思っていた。でも今この世界で使われている魔法の全般は無詠唱でできるらしい。実際に僕も、無詠唱でできている。
ちなみに、今のところ成績優秀な僕だ。
【炎魔法・水魔法・風魔法・雷魔法・大地魔法・植物魔法・治癒魔法・光魔法・闇魔法】などは人並みに出来る。
恐らく前世記憶保持があるおかげで、他の子よりも理解が早いだけなのと、単純に父から受け継いだ才能だ。
それとこの父から貰った魔法の杖、グレンジャーを使いながらだから成長が早いのかもしれない。
もちろん基本中の基本だから伸び代はまだまだある。どの魔法を極めていくのか、しっかり考えながらやるべきだろうけど、僕は旋律魔法を極めたいのだ。
とはいえ旋律魔法だけが、未だに出来てない……。
魔術師には幾つかの位があるみたいだけど、僕は当然まだ初級魔術師とかだ。父は王級魔術師とか言ってたっけ。果たしてそれは如何程なものなのだろうか。
あと不思議なことに、リアーナは魔法をやらない。
本人は魔力がないからと言っているけど、ブルーノ先生が見た限りではリアーナは魔力を持っているらしい。
なのに何故か頑なに魔法をやりたがらないリアーナなのである。魔法をやらないメリットなんて存在するのだろうか?
その代わりなのかは分からないけど、学園終わりに剣術の訓練を毎日のようにやっているとか。
リアーナは将来、剣士になりたいのかな?




