Episode.6《ブレイバーの倅》
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僕はブルーノ先生から、ある物を貰った。旋律魔法専門書初級編という、なんとも有難い教本だ。
エーデル学園に入学してから数ヶ月、基本の魔法も学びながら僕は、必死にその教本を読み込んでいた。
旋律魔法には、【声楽型】と【器楽型】の二種類があり、僕は歌がしたいから声楽型のことについて色々と調べた。
どうやら声楽型には、主に五つの種類があるらしい。
【アンセム】────魔法能力を向上させる。
【エレジー】────体力回復の効果がある。
【バラッド】────身体能力を向上させる。
【ブギウギ】────精神回復の効果がある。
【レクイエム】────昏睡状態に陥らせる。
いずれも第一番から第三番まで決まった歌があり、その通りに歌うことで魔法を発動させるらしい。
よくある魔法の呪文詠唱と違う点は、決められたメロディがあるかどうかで、メロディの音を外せば発動しないようだから、なかなか厳しい条件だと思う。
でも例外があって、ブギウギだけは正しい詩もメロディもないみたいだ。自由に、そして心躍る歌を、アドリブで作って歌うしかないと。
確かにこれは、自ら進んで旋律魔法を覚えようとする人は少ないだろうね。普通の呪文詠唱に比べて難しすぎる。その上、父曰く旋律魔法は無力らしいし。
しかしメロディは教本を読むだけじゃ分からない。だから実際に楽器で譜面通りに奏でてみるしかない。
メロディを覚えたら後は、譜面の詩をメロディに乗せて、歌えばやっと旋律魔法が使えるはず。
そんなこんなで僕は、教室で教本とひたすら睨めっこしていると、リアーナが食堂に行こうと誘ってきた。
もうそんな時間か。ここ数ヶ月、僕は昼食の時間になると毎回リアーナと食堂に通っていた。食堂を使える時間は、下級生と上級生で分けられている。
「はぁお腹空いた! やっとご飯が食べられるわ!」
リアーナはよくレッスン中や会話をしている最中に、お腹を鳴らしている。常に飢えているのだ。
「ごっはん! ごっはんっ! いっただっきまーす!!」
僕もリアーナの隣の席に座り、前世名残の合掌をした。
ちなみに初めて食堂に来た日は、僕がリアーナと向かい合うように座ったら、リアーナはここに来いと言わんばかりに隣の席を叩いて、指を差した。
以来、僕は何も言わずに隣に座るようにしている。リアーナは比較的、子どもらしい可愛い部分があるのだ。
「困りますよ。貴様風情がこの食堂に来たら、私たちの食事が腐ってしまいます……さっさと消えてください」
突然そう小耳に挟む。声のした方へ目を向けてみると、男三人がかりで一人の女子に詰め寄る様子が確認できた。
──いじめか。
「なによあれ、気分悪いわ! せっかく楽しみにしてたご飯が台無しになるじゃない! 注意してくるっ!!」
──え? 気づくとリアーナは、首を突っ込んでいた。
ちょちょちょ、嘘でしょ!? 僕も見過ごそうとしてたってわけじゃないけど、それはあまりにも判断が早すぎる。
「ねぇあんた! やめなさいよそんなこと!」
リアーナが注意すると、取り巻きの二人がリアーナに詰め寄ってきたので、僕はリアーナを庇うようにその間に入った。すると取り巻きが──。
「君らは……相手がどなたか分かっているのか?」
「は? 知らないわよ、そんなやつ」
やたらリーダー格を持ち上げる取り巻き。女子にキツく当たっていた張本人の、この金髪がなんなんだ?
「この方は──“ノア・レノン”様。あの元ブレイバーの、ルーバン・レノン様のご子息だ」
ルーバン・レノンって……そうだ。父が僕の入学祝いで、連れていってくれた料亭で会った、いけ好かないやつだ。
確か父の部下だったとか。そういえば、息子がこの学園にいるとか言ってた気がする。
それがこの金髪と……親が親なら子も子か。
リアーナが「だからって許させることじゃないわよ!」とノア・レノンとやらに向かって言い放った。
するとそいつは、紺青の目を尖らせ歩み寄り、僕らに学年を尋ねてきた。そして一年と答えた僕に対して、ノア・レノンは何かを見透かすような顔で──。
「私は三年だ。一年というと今学期の新入生には、エルヴィス・キンナーラの息子がいると聞くが……貴様であろう? 私には分かる、父様が語っていた人物像そのものだ」
年上に加え、このタレントっぷり。関わりたくない。
「まさしく僕は父の息子の、フレディ・キンナーラですが。そんな事はどうでも良くて、あなたは彼女に対して酷い扱いをしていましたけど、父親の顔に泥を塗るつもりですか?」
女子は涙を流している……とても見過ごせない。
「貴様は、ネズミと食事をしても平気というのか? 女子は人ではない────“魔族”だ」
ノア・レノンがそう言うと、食堂全体がどよめいて、食事をやめる者まで現れ始めた。
──魔族。その恐ろしさは、僕でもよく知っていた。両親からも深く教え込まれたし、最近もレッスンで扱っていた。悪逆の限りを尽くす、それは──敵であると。
僕はノア・レノンの言葉を聞き、正直どうすることが正しさなのか分からなくなり、口篭りしてしまった。
そもそもなんで、この学園に魔族がいるんだ……?
僕らが反論できずにいたら、いじめられていた女子は泣いて立ち去り、リアーナがその子を追いかけて、僕もそのあとを追い食堂を後にした。




