Episode.5《求婚された》
──うるさいよ、なんで分かってくれないの……。僕がこんなに本気で喋っているのに、聞く耳を持たないなんて。
来実のため、幸せになれない、何度も何度もそう言われ続けてきた。でも幸せなんて誰かに決められるもんじゃない。
だから僕は両親を拒絶し、家を飛び出した。
本当に僕の幸せを願ってくれているなら、もっと僕のことを信じて欲しかったのに。ひどいよ……。
◇◇◇◇
はっ?! 夢か……。はぁ、最悪の目覚めだ。学園生活は二日目からが肝心なのに、大丈夫だろうか。
ノックし扉を開け、「おはようございます」と挨拶をし、教室の中へと足を踏み入れる。教室の内装は、エリートが通う学園の割には、意外と素朴だ。
僕が席に着くや否や他の生徒たちが、昨日父から貰った魔法の杖、グレンジャーを見て集まってきた。
どこで買ったの? かっこいいね! 流石キンナーラ様! などと言いながら、グレンジャーにベタベタ触るもんだから僕はついイラッとして、一人の女の子の頭を軽く引っ叩いてしまった。
────へ? 女の子から腑抜けた声が出た。
即座に僕は我に返り、思わず叩いてしまった女の子の頭を撫でながら必死に謝った。
しかし女の子は泣くこともなく、ただずっとポカーンとしている。まるで生まれて初めて人に叩かれたみたいな反応だ。多分親が甘やかしているんだろう。
いや、むしろ親はそれくらいでいいのかも。僕なんて前世の親に何度叩かれたか……。
少しすると女の子は、僕の手を弾いて奇声を発して教室を飛び出してしまった。僕の学園生活、早くして終了……。
顔を赤くしてたから相当怒らせてしまったかも。
その後、周りにいた他の子たちにも怖がられてしまって、誰も僕に近づかなくなりました。
教室にブルーノ・パーカー先生がやってきて、クラスの生徒たちにある物を渡し始める──。
「配布しているのは、この学園において学ぶ様々な科目の教本だ。【魔法史・論理・科学・記述言語・種族・実技】」
──あれ、音楽が……ない?
「この六つが基本になる。今後のレッスンでも使うから無くしたりするんじゃないぞ」
僕は科目に音楽がないというモヤモヤを抱えたまま、今日一日の教育課程が終了し、帰宅する時間となった。
ちなみに朝、頭を引っ叩いてしまった女の子がレッスン中ずっと、こっちをチラチラ見ていた。完全に目をつけられた……恨みを買ってしまったか。
あの子、どっかの令嬢とかじゃないよね? もしそうだったら本格的に人生が詰んじゃう。
もう一回謝りに行くしかないな。けど、その前に──。
僕はブルーノ・パーカー先生のところへ行き、この学園の科目に音楽はないのかと聞いた。
「音楽? あー、旋律魔法とかの。一応、魔法史のカリキュラムには入っていたと思うが、正直そこはあまり時間をかけないつもりだぞ」
僕の熱意とは裏腹に、淡々とそう言った先生に「でも父はこの学園で旋律魔法を学べるって、そう言って……」と言葉を返し、僕にとっての音楽の重要さを示唆した。
「おまえ、あのエルヴィス殿の息子だろ? 旋律魔法なんか覚えてどうするんだよ」
「え、夢を叶えるんですよ!!」
「いや、そういう意味じゃなくて……将来は王族に仕えるんだろ? ブレイバーとか対魔族の部隊に入ってさ」
僕がブレイバーに? 父が入っていたからって事?
「そんなの、興味ないですね。僕はただ旋律魔法を覚えて、ひたすらに歌いたいだけです」
すると出会ってからずっと怠そうな態度だった先生が、かけてたサングラスを上にあげ、ニンマリと微笑した。
「フレディ……だったか、変なやつだなぁ。この学園の生徒は貴族ばっかで、子どもらしさを感じたことがない」
それなっ!
「別にそれが悪いというわけじゃないが。ただ、全くもって面白くはないんだ、教師として。だから俺は、フレディ──おまえみたいな目をギラつかせた奴は、嫌いじゃないぜ」
印象が大きく変わった。最初は大雑把でダラしない人なんだと思ってたけど、それは貴族のませた生徒たちを相手にしていたからで、ってことなのだろうか。
ブルーノ先生は、レッスンでは旋律魔法を扱える余裕がないからと、代わりになる物を後日持ってきてくれるらしい。
僕は一旦満足して、帰ろうと学園の玄関に向かった。しかし途中で「ちょっと待って!」と声をかけられた。
振り返るとそこには、僕が引っ叩いた女の子がいた。
僕は思わず「あ、忘れてた」と心の声を漏らし、朝のことを謝ろうとしたら、どういうわけか──。
「ねぇファーストネームは? 私は“リアーナ・ガルシア”っていうのよ! あ、あのさっ……よかったら私と、結婚してください!────ねぇちょっと、聞いてるの?!」
は、はい? んー、えっと、え? どういうこと……?
幾らなんでも過程をすっ飛ばしすぎでしょ。ませてるとかいう次元じゃないんだけど……。
てかそもそも嫌われたと思っていた相手が、なんで僕に好意を抱いているんだ?
僕が、キンナーラ家の息子だから? 財産目的か……? この子の親がうちの家に嫁入りさせようとしてる?
にしては強引すぎるやり方だけど。
僕はプロポーズに対して、はいともいいえとも答えず、あまりにも急すぎるから、まずは友達からと言った。
「いいわよ! なら、今から友達ね! ただしいつか、いつか絶対……私に惚れさせてあげるから! 覚悟してよ! それで、ファーストネームはなんなの?」
わざわざそっちを聞くってことは、やはりキンナーラの方は知っているんだね。財産目的じゃなきゃいいけど……。
僕はフレディと名乗った。
あの子は、僕の名を知ると、満足そうに帰っていった。
しかしこの世界の子供は、七歳にして既に顔が完成させている。やたらと成長が早いような……。
──リアーナ・ガルシア、か。艶やかな赤髪が特徴的で、稀に見るお転婆娘だった。
しかし女の子に告白されるのは、こういう気分なんだ。まあ、告白というかプロポーズだったけど。
悪くはないけど、ただそうか……僕はもう男になったし、女に異性として好かれることが増えるのか。
前世でも特に恋愛には興味なかったから、別にいっか。




