Episode.4《学園に入学だ》
スタンダードと謂われる世界地図を見たときに、東西に二つの大陸があり、海を挟んで中心に最も大きい大陸が位置している。その北東に【ウィズダム】という国が存在する。
──僕の生まれた国だ。今日はそんなウィズダムにある【エーデル学園】に入学する日だ。
僕はあっという間に七歳となり、漸く学園へ通うことになった。ウィズダムの中でも、高貴な人間が多いこの街の学園であるが故に、入学するのは当然エリートばかり。
そして、この僕も例外ではない。
先程、父と母が僕を学園まで送ってくれた時に、他の生徒の親が何人も父に挨拶をしていた。
きっと著名人なんだろう。
ちなみに両親は既に帰宅している。どうやらこの世界では、前世にあった入学式というものがないようだ。
学園に着くや否やクラス分けをされ、教室の席に座ると、このクラスを受け持つ教師がやってきた。
「もしかしたら変わることもあるかもしれないが、基本的にここでの六年間は、俺と過ごす。今日から君たちの担任教師になる“ブルーノ・パーカー”だ。よろしくな」
ごわごわな茶髪で、サングラスをかけている若そうな見た目の男が、担任教師と名乗りやってきた。
以降この学園におけるガイダンスを受けると、流れで他の生徒との交流の場が設けられた。
あの教師は、かなり大雑把な性格のようだ。入学して早々に「皆で好きに話してて」と僕らに丸投げだ。
これだと誰とも話せず、寂しい思いをする人が出てきてしまう……。とはいえ、僕にはどうすることも。
僕も適当に会話して時間を潰そう。
──数分後、結局一番ぼっちだったのは僕でした。なんか知らないけど、みんながみんな社交的すぎて、圧に押されて黙りを決め込んでしまった。
最初こそ、父が有名であるが故に、声をかけられていたけど。段々とこいつは喋れないとバレてしまった。
確かにこれなら、教師も丸投げするね……。
これがエリート集団か……僕なんて前世では庶民も庶民だった人間。端から馴染めるわけないよね……。
先が思いやられるな。
こうして学園生活初日を終え、僕は帰宅すると母が「エルヴィス様がお帰りになったら、今晩は入学祝いで外へディナーにいくわよ!」と言った。
僕は喜びを露わにしていると、足元に二歳になった妹のマライアが抱きついてきた。
……愛おしいにも程がある。僕の初めての兄妹だ……前世では一人だったから。
しかし生まれたばかりの頃は思わなかったけど、どんどん母に似てきている気がする。
マライアは父譲りの黒髪だから、少し雰囲気は違うけど、既にもう美人の片鱗が見える。
非常に将来が楽しみだ。
日が暮れ父が帰宅し、街の中へと家族で出かける。レンガ造りの建物が沢山のこの街並みは未だ見慣れず、今も歩けば、海外旅行に来ている気分になる。
前世でいうところの、ヨーロッパみたいだ。
少し歩き予約していた料亭に着くと、従業員に案内され、大きな食卓を四人で囲んだ。妹のマライアは母が抱っこ紐で抱えている。
料理が来ると、僕は食事マナーというものを教えられながら、黙々と口に含んでいった。
料亭の中はとても静かで、他の客も皆上品だ。
頻りに父と母は、初めていった学園の感想を尋ねてきて、僕が担任教師や他の生徒たちのことを話していたら、マライアが急に泣き出してしまった。
すると他の客の視線が一気に僕たちに集中し、母は慌ててマライアを宥めつつ料亭の外に出ていった。
流石は僕の妹。僕に負けず劣らずの声量と空気の読めなさだ。赤ん坊としての役目を全うしていて偉いぞ。
「マライアはあのように赤子らしくよく泣くが、フレディは全く違っていたな。お前は涙を流すことはなかった上に、言葉を自ら学び、すぐさま理解して使っていた」
そういう父の目は笑っていて、「私は何一つ父親らしいことをしていない。私如きが鼻を高くするような息子ではないのではないか、とすら思った」と冗談半分で話した。
父がこのように自分を卑下するのは、初めて見た。
僕のは完全に前世記憶保持の恩恵でしかないから、狡いという他ないんだけどね。
少しして母が眠ったマライアと共に戻ってきて、残りの食事を全て平らげ、帰ろうと僕らが席を立つと──。
「これはこれは奇遇ですね……キンナーラ御一家様。どうも、“ルーバン・レノン”です」
金髪の眼鏡をかけた男が、父に馴れ馴れしく声をかける。
「ルーバン……。偉くご無沙汰だが、貴様がこのような場所で一体何をしている? ブレイバーはどうした?」
「そちらはもうお役御免になりまして。ここには私も家族でディナーに来ていましてね。そしたら赤子を連れ込むような品のない一家に出会し、姿を拝見したらなんとエルヴィス閣下ではありませんかー、と声をかけさせて貰いました」
絵に書いたような、いけ好かないやつだ。
「気分を害したのなら謝罪はするが、他の客もいる中で声を張り上げ、そのような文句を垂れるのは褒められたものではない。それこそ品のない人間だ」
「はぁ……やはり、あなたの正論は嫌いだ。幾年ぶりかも覚えていませんが、その面白みの欠片もない性格は今も尚健在のようですね。では、失礼します」
ルーバンとかいう男は、鋭い視線を散らしながら振り返り、僕らに背を向けて最後にこう言い残していった。
「あ、キンナーラの倅殿。どうぞ、よろしく頼みますよ。うちの倅も、エーデル学園の生徒ですので」
僕はのちに父から、ルーバン・レノンという人間の詳細について教えてもらった。どうやらあの人は、父がブレイバーの構成員だった時の、直属の部下だったらしい。
まあ最も、元部下の態度には到底思えなかったけど。
料亭で食事をした帰りに、父がある所に寄ろうと言った。
そこでは魔法の杖という物が売られているようで、父は入学祝いということで、前々から特注で何やら凄い魔法の杖を、頼んでおいてくれたみたい。
店内を覗くと、杖の他に魔法の指輪や魔法の髪飾りなどが売っていた。どれもこれも高そうだ。
少し待って父が店主から杖を受け取り、そのまま僕に「フレディ専用だ」と手渡し、こう言った。
「この杖は通常のものに比べて、特別、高性能に作らせた。使う者の魔法の成長を促進し、のちの魔力アップに繋がるだろう。仮の名をグレンジャーというが、フレディが好きなように名付けてもよい」
僕はその名も、将来を見据えてか僕の身長よりも杖が長いところも、全てをとても気に入った。
これからよろしくだ──“グレンジャー”!!




