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異世界吟遊 〜魔法のメロディ〜  作者: 死馬奇大造
ようこそ異世界
3/12

Episode.3《夢を》

「あのパパ……そ、そのホイットニーさんを愛していたとか、ママがいるのに言って大丈夫?」


 僕は父に顔を近づけ、小さな声でそう言った。しかし父は、困惑した表情を浮かべている。


「なぜ私が愛していた者を、腫れ物扱いする必要がある? 私は何度でも胸を張って言える。彼女を愛していた……いや愛しているぞ!!」


 えぇ……本当に大丈夫なの? 僕は母を横目に見るけど、別に怒っている様子はない。

 この世界ではもしかして、元恋人に触れることは大して禁忌ではないのだろうか? それとも母が寛容なだけか。



「……しかし私は、フレディに旋律魔法を薦めたくはない。何故ならその魔法は、非常に無力だからだ」

 不意に穏やかな空気感は一変し、父はあまり僕には見せた事のない鋭い眼差しを向けてきて緊張が走る。


 あ、まさに僕はこれを恐れていた。僕は常に思ったこと素直に言いたいし、自分の気持ちを曲げるつもりは無い。

 なのに人とは衝突したくないんだ。特に親とは……。


 だけど僕は妙に思った。父が先程まで愛していたと言っていたホイットニーさんを否定しているとも捉えられ兼ねない事を、ここまで言い切るなんて。


 気になった僕は、そのまま単刀直入に父に聞いた。



 すると父は目を瞑り、何らかの想いを押し殺したかのように顔を顰めた後、こう言連ねた。


「私が彼女のことを愛していたのは、旋律魔法の使い手だからではなく、一人の女として魅力を感じていたからだ。フレディには、そうだな、経験が無いから分からないだろうが、愛するとはそういうものなのだ」


 経験がない……一応、僕にも恋の経験くらいはあるけど。まあ、前世の話だし仕方ないよね、まるで煽られているかのように感じてしまったのは前世記憶保持(・・・・・・)の弊害だ。


 これからも度々前世と現世の記憶ギャップが生まれるだろうけど、ちょっとずつ慣れていかないとなぁ。


「何よりフレディは、“王級魔術師”であるこの私の息子なのだ。これは父の我儘にはなってしまうが、期待させてはくれないだろうか?」


 父はそう話し、真剣な瞳で僕の視線に合わせてきたけど、僕は思わず目を逸らして返事を有耶無耶にしてしまった。


 察するに父は、僕に一端の魔術師になって欲しいんだろう。父もブレイバーという特別攻撃隊の構成員だったみたいだし、魔術師の階級は知らないけど、如何にも凄そうな王級魔術師とかいう称号があるようだから。


 息子には、同じように立派な魔術師に、いやそれどころか超える存在になって欲しいくらいに思っているのかも……。



 僕が不服そうに顔を背けていると、父はこう言った。

「そうだ、フレディ。なにも旋律魔法にこだわる必要はないのではないか? 詩を歌うなら嗜む程度でいくらでも……」


 僕は何を血迷ったのか、父の言葉を遮るように反射的に歌いだしてしまった。父と母は呆然とする。

 否定的な意見が聞きたくなくて、掻き消したくなって、怒りを抑えきれずに、つい……。


 少ししてワンフレーズを歌い終えると、母が「それはなんて曲なの?」と聞いてきて、僕はその曲の名を教えた。

 よく前世で歌っていた曲だった。



 未だに目を見開き、呆然としている父。僕は完全にやらかしたと思い、目を背けて怯えていると──。

「これは驚いた……フレディ、お前は怖いほど賢い男だ。どこで覚えたのか、それは“ハルモニア”で使われている言語によく似ている」


 父がそういい、母も「言われてみれば確かに」と同調し、二人とも不思議そうな顔で僕を見るから、焦った。

 前世の歌に使われている言語、つまり日本語(・・・)……それと同じ言葉を使う国がこの世界にも存在するのか?


 この時、僕にはこのような懸念が生じた。前世記憶保持をしている僕、つまり山本来実という存在を、この世界の人に知られてはいけないのではないかと。

 同じ言語を使う者とはいえ、僕は飽くまで別の世界線からやってきた異物に過ぎない。仮にその事実を知られてどう転ぶかは分からないけど、新しい人生としてやっていく為には、隠し通すべきなんだと思う。


 故にこの世界では極力、前世で歌っていた曲は歌わないようにする必要がある。とても残念だけど。


 しかしハルモニアか──是非行ってみたい。もしや容姿も日本人みたいだったりするのかな?



 僕はつい歌ってしまった前世の曲のことを、テレビで聞いたとか何とか言って誤魔化し、本題に戻った。


「パパ、それなら基本の魔法もちゃんとやるよ。だけどやっぱり旋律魔法もやってみたい」


 正直父の言う通り、別に魔法に拘らず、思う存分好きなように歌うだけでもよかった。

 でもどうしてか、この世界において魔法ではない歌というのは、前世以上に生きていく上で、使い物にならない気がした。嗜む程度で生きた僕は、孤独の一途を辿ることになるのではないか。


 父は、僕が歌に対してどこまで執着しているかを知らない。恐らく単なる子供の気まぐれだ、とでも思っている。けど違う……僕は奇跡的に再び、夢を掴むチャンスを得た。


 ────歌で、世界を駆け巡るという夢を(・・)


 それをそう簡単に諦められるわけが無い。嗜む程度ならもう充分やってきた。だからこの世界では旋律魔法として、僕の歌を沢山の人に届けたいんだ。



「いいだろう。あと二年もすれば、フレディも学園に通うことになる。そこで通常の魔法は勿論、旋律魔法のこと、更には世の理についても色々と学ぶといい」


 やった……なんとか納得して貰えた。本当に人と衝突するのは嫌いなんだよ。胸がズキズキするから。


 にしても、学校か──。



 ◇◇◇◇



「やあ、フレディお兄ちゃん! 私はマライア!! あなたの妹だよ! よろしくね!」

 母が赤ん坊の右手を優しく持ち、僕にその手を握らせながら人形ごっこのように声を当てて挨拶をする。


 “マライア・キンナーラ”。

 ────僕に、五歳下の()ができた。

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