Episode.2《異世界の歌》
まずは朝ベッドから目覚めて、カーテンを開けて日光を浴びます。次に一階へ降りて父と母に朝の挨拶を交し、洗面台に向かい洗顔と歯磨きをします。そして朝食を取るために食卓に来たら、最初にお紅茶を一口啜り……。
「フレディ──そんなねっとりと水飲んでないで、早くご飯を食べなさい。いつまでも食器が片付かないから」
慣れないことを考えていたら母に叱られてしまった。前世の動画サイトでよく見ていたモーニングルーティンというものをやってみたんだけど。
「アレサ、そんなに食事を急かすのは良くな……」
「ならエルヴィス様が、料理も皿洗いも洗濯も掃除も、何もかもやってくれるのですか?」
父は怒られて、静かになってしまった。
「ふふっ」と僕は思わず笑いをこぼし、両親にどうしたのと聞かれたけど、なんでもないと返した。
どこの世界でも、夫婦の勢力関係は似ているんだなって考えたら、何だか笑えてきてしまった。
朝食を摂り終えると父は決まって大学へ行く。職業が大学教授で、学校では魔法を教えているらしい。
その名は──“エルヴィス・キンナーラ”。短髪で黒髪に口髭で、所謂ダンディーな男だ。
母は日中家にいて、家事と僕の世話を焼くのが仕事。正直やろうと思えば大体自分で出来るけど、せっかくだし甘えさせて貰ってる。
あと母はよくこの世界について教えてくれる。前世にはなかった魔法のことや地理のこと。
母の名は──“アレサ・キンナーラ”。青髪の長髪で、可愛いというよりかは綺麗な女だ。
よく覚えてないけど、前世の母も、僕が小さかった頃は優しくしてくれてたのかな……?
だとしても記憶にあるのは悔しいものばかり。
今頃、どうしてるのだろうか? 僕が死んだことに気づいてすらいなかったりして……。
あーもうやめやめ。前世のことは出来るだけ考えないようにしよう。僕は新しく生まれ変わったのだから。
──“フレディ・キンナーラ”として!!
容姿は、母から遺伝した青髪に、父から遺伝した凛々しい顔立ち。自慢にはなるけど、イケメンってやつだね。
いや、正確には前世の基準でいえば、か。恐らくこの世界の顔面偏差値は高い。故に普通くらいだろう。
僕は今五歳と幼いから、まだ実感は湧いてないけど、男になれたのは好都合だった。
前世の僕は筋肉がなさすぎて、大好きな歌も満足に歌うことが出来なかった。でも男なら、成長過程で自然と筋肉がついていくはず。
僕の前世の夢は、完全に潰えたかのように思えたけど、そうではなくなった。新しい人生でも夢は継続する。
────この世界でも僕は、ただ、歌っていたい。
「かしゅ……? フレディ、なぁにそれ?」
……なんてことだ。どうやら、この世界には歌手という職業、いや概念そのものが存在しないようだ。
僕は母に、希望に満ち溢れた瞳で、高々に歌手になりたいと宣言した。しかし僕の熱意とは裏腹に、母はポカーンとした表情を浮かべていて、僕は呆気に取られた。
とはいえ流石に、歌という概念自体が無いわけではないはずだ。僕がこの世界にやって来て五年。テレビなどで少なからず歌、というかメロディを耳にしていた。
だから信じて、期待して、僕は歌について尋ねた。
「んー歌ねぇ、魔法としてならあるけど。楽器や声を使って旋律を奏でて魔法を使う方法。だけど、それに特化している人は、なかなか居ないと思うわよ」
……そうか。要するにこの世界でいう所の歌は、魔法を使うための手段に過ぎないわけだ。それもマイナーな。
「だからよく【旋律魔法】が使われるのは、人の気分をよくしたい時ね。祝い事とか、逆にお通夜とかでも」
お通夜で!? 前世の音楽葬みたいなものなのか。つまり歌もとい音楽とは、賑やかしの付け加えってことかな。
前世ほどメジャーな存在では無くても、この世界でも似たような立ち位置ではあるのかもしれない。
僕はその旋律魔法のことについて更に深く聞こうとしたけど、やる事があるからと断られてしまった。
しかし母は「そんなに知りたいならパパに聞いてみなさい」といい、僕は確かにそうだと思った。大学で魔法を教えている父に聞いた方が、いいに決まってる。
黄昏時、母が夕食の準備を進めていると、父が帰宅した。
「ただいま」と、いつもと変わらない様子で優しいを笑みを浮かべている父に対して、僕は緊張していた。
もし父が旋律魔法のことに否定的だったら……前世のように親と対立し、同じことを繰り返すことに。
しかし僕は、それでも聞かずにはいられなかった。恐る恐る父に歌の魔法、旋律魔法のことについて尋ねた。
父は口髭に触れながら、難しい顔をしている。
「そうか、フレディは詩を用いて旋律魔法がしたいのか……素直に言ってくれてありがとう。実は私も、憧れていた時期があった。嘗て【ブレイバー】という、王族の元で、魔族軍を制圧するべく生まれた特別攻撃隊があった。その構成員の一人に、旋律魔法の使い手がいたんだ」
父も……同じだったんだ。一気に親近感が湧いた。いや、そもそも親なんだから親近感はあって当然なんだけど、やっぱり前世の記憶があるせいか、まだ……。
「彼女の名は“ホイットニー・シアラ”といい、私はその名をよく傍で呼んでいた」
「傍で……? パパは知り合いだったの?」
「私も、そのブレイバーの一員だった。そしてホイットニーは、愛した女の一人だった」
あー、憧れていたって、そういう……。




