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異世界吟遊 〜魔法のメロディ〜  作者: 死馬奇大造
エーデル学園編
11/12

Episode.11《アドラドールの猿》

 ノア・レノン曰く、僕らを閉じ込めた魔法はシャドームといい、魔族の専売特許のようだ。


「じゃあ、僕と先輩を閉じ込めた……このシャドームとやらを今まさに発動しているのは、魔族ってことですよね?」

「普通の魔族ではない……上級魔族、いや最悪の場合──」


 ……っ!? な、なんだ?


 ノア・レノンが何かを言いかけた時、シャドームの天井にブラックホールのような円形の大穴が出現した。


 更に少しすると、そこから禍々しい存在が落ちてきた。


 三メートルはある巨体を持ちながら、地面に着地する様子はとても身軽そうで、その姿は──()だった。



 ノア・レノンを横目に見ると、絶望と覇気を感じさせる顔をしていて、この猿の危うさを悟っていた。


 猿は血の滲んだ目で僕ら二人を凝視し、掠れた声で「ひゃっほっほっ!」と鳴くと、続けてこのように言った。

 

「おいらは魔王崇拝者【アドラドール】が一人──」

「“魔猿(まえん)のアッフェルノ”……か?」


 ノア・レノンが名乗り口上を奪った。


「え、あぁなんだよ! 知っているんだねぇ」



 僕はあまりの衝撃に「アドラ、ドール……あの?」と声を漏らして、ようやく事の重大さをまともに理解できた。


 魔族の住む大陸には純血の魔族はもちろん、ハーフやクォーターもいて、加えて他種族にも拘わらず、自らの意思で望んで魔族に服従する【魔族崇拝者】というのがいる。


 そして魔族崇拝者の中でも、魔王たちにその力を買われ、魔王配下として仕える者共が存在する。


 それが魔王(・・)崇拝者──通称【アドラドール】。


 魔王たちが他種族に争いを仕掛ける時には、大抵の場合、アドラドールを駒として使うという……。


 過去、幾度となく人族は、それで命を失ってきた。


 手が震える……これは、今この瞬間だけが怖いんじゃない。これから起こるかもしれない厄災を想像したからだ。



「おいらの事を知っているくせに、なんでこんなに警戒されているのだぁ? 恐怖を感じる対象は唯一、得体の知れないものだけだぞ。おいら如きもう怖くないでしょうが」


 そういい頭をポリポリ掻くアッフェルノとかいう猿。


 何を言っているだこいつは……。


 口を閉じているのに鋭利な牙が見えていて、暗緑色の剛毛を身に纏い、極端に短い脚と長い腕。

 白い皮膚の顔には赤い紋々が刻まれていて、頭部には巻き角が生えている……加えてこの巨体。


 これを前にして、恐怖しない者なんているわけない。


 僕は疎か、ノア・レノンだって尻込みして何も出来ていない状況だ。恐らく僕と同じで、ノア・レノンも既に死を覚悟しているだろう。


 ただし僕と彼の違うところは、戦意喪失しているかしていないかだ。僕は正直している。だけどノア・レノンの目は、まだ生き残りたいと訴えている。


 だからアッフェルノが襲ってこないという僅かな可能性を信じて、下手にやつを刺激できないんだ。



「こらこら恐れるなってぇ! ほらあんたら、あれの餓鬼共なんだろ? ブレイバーの(・・・・・・)死に損ない(・・・・)の。幾年か前に魔大陸に攻め入ってきやがったがあっさり散って、もうてっきり全滅しているかと思っていたがねぇ!」

 

 あーだこーだ言連ねて、不敵な笑みを浮かべている。


 ブレイバーの生き残りって、父のこと……? ノア・レノンでいうと、ルーバン・レノンか。

 そうか、つまり嘗てのブレイバーは、アッフェルノ含めたアドラドールを前に……敗れていた。


 魔族から見て、全滅したはずの父たちが生き残っていて、その息子である僕とノア・レノンを殺しに来たのか?!

 

 僕がそう悟っていると、ノア・レノンが声を振り絞って、恐る恐る同様の問いかけをアッフェルノにした。



「ひゃっほっほっ! そんな取って食うようなこと、今はするつもりないぞぉ……だから恐れても意味ないのだ」


 アッフェルノは高笑いをしつつ、更にこういった。


「もうすぐ、いやぁまだ先か? とにかく近いうちに、人族は魔王に──殲滅される。直々に魔王さんのおいでだ」


 は? 魔王自ら……人族を襲うっていうのか?


「そこでせめてもの情けってことで、前もってあんたらにこうやって教えに来てやってんのさぁ!! まんまブレイバーの死に損ないに伝えてくれよぉ……最後まで醜く抗ってみろってなぁ!! ひゃっほっほーい!!」



 怒涛のように捲し立てた後にアッフェルノは、一瞬にして姿を消した。伴いシャドームの魔法が解かれ、急に降り注いだ陽の光が眩しくて僕は手をかざす。


「たす、かった……のか?」


 横を見ると、ノア・レノンは座り込んでいる。そして僕も途轍もない緊張感から解き放たれたからか意識が飛んだ。


 眠った僕とノア・レノンの元に、すぐさま先生たちが駆け寄ってきたっぽい。シャドームの外側で、ずっと僕らを助けようとしてくれていたのだろうか?


 とりあえず、一安心のようだ。

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