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異世界吟遊 〜魔法のメロディ〜  作者: 死馬奇大造
ようこそ異世界
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Episode.1《したよ転生》

 ──夢は、世界を駆け巡る歌手になること。


「演技ができてバラエティいけてダンスも踊れる。そういったオールマイティなヤツじゃなきゃこの業界は生きていけないんだよ」


 ──歌を、たくさんの人に聴いてもらいたい。


「歌は悪くなかったけどね。ただ歌一つで勝負してる割にはパンチが無さすぎたかな。君は女なんだからもっと筋トレをして筋肉を付けるべきだね」


 ──ただ、歌っていたいだけなのに。生きていく上では、それはあまりにも、使い物にならない。



 オーディションに挑戦すればこの有様で、ボイストレーニングに通えば、胸の使い方やお尻の筋肉が大事だの言ってセクハラされるし。

 バイト代は主にその二つに費やしているのに、思い通りの結果が出ないままもう二十二歳。まともなご飯すら最近は食べれていない、惨めなフリーター女。


 ────それが僕、“山本(やまもと)来実(くるみ)”。



 ここは東京。僕は高校を卒業してすぐ両親の反対を押し切って上京してきた。お母さんもお父さんも好きじゃない、あんなつまらない大人……。今の住所も教えてないし、色々と苦しいけど、助けなんて絶対に求めない。


 自分の力で夢を掴んで、見返すの──。



 ふとスマホを覗くと、通知欄に「くるみん、これから会えない?」と友人からAINE(アイン)でメッセージが来てた。

 とても嬉しいけど、正直お金もないし、そんな事をしている暇があったらバイトや歌の練習をしろと、脳が語り掛けてくるから断った。


 僕は下を向きながらネオンに照らされる街を歩き、時々路上ライブをしている駅前にやってきた。



 もう何も考えずに只々今の思いを込めて、唐突にアカペラで熱唱した。僕は生まれつきハスキーボイスで、海外の伝説のロックミュージシャンに憧れていた。


 でも僕の歌声は、理想のものとは程遠い。どうやら僕は筋肉が付きにくい体質らしい。

 所謂、横隔膜を使って腹式呼吸をするとか、下腹部や脚を使って声を支えるとか、そういう歌には必要な事が不得意な、とことん歌に向いていない人間。


 そう、セクハラボイストレーナーに言われた。


 歌に関しては確かな実力を持っていたから、間違った事を言っているわけじゃないんだと思う。

 認めたくはないけどね。



 僕は駅前の路上で、夢中になってかれこれ一時間くらい歌っていると、警官がやってきて注意された。僕はしょんぼりして、その場で俯いた。

 少しして俯いていた視線の先に、こちらに歩み寄る足が見え、僕は顔を上げて年老いた男性の姿を目に映した。


 男性に手を貸して欲しいと言われ、僕は困惑しつつも手を出すと、男性が急に握ってきてこう伝えられた。


「心に染みる歌声ですね……あなたは誰より優しい。きっといつか、その声に救われる者が現れることでしょう。良ければもう一度、聴かせて頂けますか?」


 普通なら気持ち悪くて手を離していた。でも何故か離せなかった、いや離したくなかった。

 男性は僕の目をじっと見つめ、言葉では伝わらない何かを訴えている気がしたから。


 男性に言われたように僕は今一度、警官はまだすぐそこに居るというのに、歌おうと口を開く。

 しかし同時に、スマホが勝手に喋りだした。


 ────地震です、と。


 スマホが地震警報を鳴らしてからほんの一瞬で、下から突き上げるような大きな揺れが発生して、気づくと僕はビルの大きな看板の下敷きになっていた。



 ◇◇◇◇



 こうして……僕の人生、夢が潰えた。不思議なことに悲しみよりも、もう頑張らなくていいんだという安心感がある。まるで誰かに抱擁されているかのようだ。


 あれ? でも変なの。


 意識の奥に微かに、光が見える。いや、それどころか五感すら復活してきているような……。


 ──め、目が……開けられる?!



 幸か不幸か、まだ生きていたらしい。僕は目を開くと、外国人の女の顔が視界一面に広がっていた。


 一体誰なんだろう? というか顔、近っ。


 あと恐らく病院であろう部屋に、もう一人男の外国人がいる。これまた誰? 僕はあの地震の後、怪我をして病院に運ばれてきた。ここまでは分かる。


 なのに目を覚ますと、知り合いでもなんでもない謎の外国人に、暖かい目で見守られている。

 これは本当に、どういう状況なのか理解できない。



 外国人の二人が知らない言語で会話を交わしながら、僕を見てとても幸せそうに微笑んでいる。

 馬鹿にされているという訳ではないみたい。嫌な感じはなく、むしろすごく心地がいい。まるで僕が、赤ん坊として新たに生まれ変わったようで……。


 ──ん? 今、自分の言葉にハッとした。


 まさか、ね……夢か、夢なのか? いや、この背中を優しく包み込むような感覚は夢とは思えないほど鮮明で、加えて我が子を見つめるような外国人の表情……。


 間違いない。現在、僕は抱っこ状態にある。

 要するに──転生(・・)したようだ。



 ◇◇◇◇



 転生したと分かってからは一瞬だった。もう五歳。やっとこの世界の、というか両親が話す言語が分かってきた。


 特に難しい訳でもなくて、自然と覚えることが出来た。どうやら前世の記憶はあれど、ちゃんと年齢に相応しい学習能力があるっぽい。非常に有難いことだ。


 しかしあまりにも衝撃的だったことが一つある。それは性別が、()として生まれてきてしまったことだ。

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