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小学校の水槽

作者: マジコ

 明け方、とある小学校の教室に水槽では2匹の魚が泳いでいた。人間たちは2匹の魚をそれぞれ名前で呼ぶが、この2匹の魚は何故そんな名で呼ぶのか、皆目見当もつかなかった。

 2匹のうち1匹は黒と白の縞模様の魚で、もう一匹は明るい青い魚であった。

 この2匹はいつも朝から晩まで口をぱくぱくさせて話し込んでいた。他にすることがないのだ。ただ、日長一日、教室を見渡して、会話して過している。

 水槽の外では人間たちが忙しく走り回る時間になってきた。

 また、賑やかな日が始まるなと縞模様の魚は言った。

 そこに一人目の人間が入って来た。ここ最近、朝の早い女子生徒である。

 赤いランドセルを自分の机に置いたその子は、水槽の前に来て


「していればしていれば」


 とぶつぶつ言いながら餌を水槽に入れる。

 縞模様の魚は言う。


「いつもこの時間に入れてくれるのはいいけど、ぶつぶつうるさいわ。」


 青い魚は不思議そうに


「朝早く来だした時は楽しげにしていたのに、しばらくしたら俯いて入ってくるようになって、今は何かに取り憑かれているような様子だね。」


 縞模様の魚が素っ気なく


「まぁ、そのうち憑き物も取れるでしょう。」


 と言った。

 この子は餌を与えると教室から出て行った。 

 それから少しすると大人の女性、まぁ先生が入って来た。きょろきょろしている。段差に躓きながら、教卓の中を覗き込んでいた。一回ため息すると教卓から何かノートを取り出して、誰もいないのに誰にも見つからないように去っていった。


 青い魚は


「いつもあの人困ってるよね。今日も何か忘れて困ってたのかな。」


 と言った。

 縞模様の魚も頷きながら


「子どもたちに見られたらまずいものかしら。」


 と言った。


「そんな大したものじゃない気がするけど。」


 と青い魚は言った。

 また、先生が入って来た。壁に貼ってある紙を剥がして、また、別の紙を貼っていた。まったく、忙しく動く人である。

 2匹の魚はそれを見届けてから再び口をぱくぱくしていると、だんだんと子どもたちが入って来た。教室は騒がしくなった。こうやって賑やかになってくると現れるのが、水槽を突っつく奴である。2匹の魚はそれが嫌だった。初めてそれをされた時はびっくりして逃げたものである。今でも突かれるとびくっとする。

 授業が始まり、終わり。給食が始まり、終わり。再び授業が始まり、終わり。放課後になると子どもたちは次々と帰って行き始める。

 そうした子どもの中で二人の男の子が、水槽の前で立ち話をし始めた。一方は半袖短パンの外遊び大好きのやんちゃ坊主といった出で立ちの男の子と、一方は細身で長袖長ズボンの眼鏡をかけた優等生といった出で立ちの男の子だった。

 二人はゲームの話をしていた。やんちゃ坊主の方が自分のパーティーの話をすると、優等生は軽く溜め息して持論の解説を始めた。

 2匹の魚には何の話をしているか、まったく分からなかったが、楽しげであるのは理解した。やんちゃ坊主は嬉しそうに話すし、優等生の方も真面目な顔をして話すので、内心楽しんでいるようだった。 

2匹の魚は微笑ましく思いながら二人の男の子を見ていた。

 二人の男の子が教室から出ていくと、教室にはほとんど人がいなくなった。

 そこに少し機嫌の悪そうな女の子が一人やって来た。


「たく、朝、餌だけあげるんだから。」


 と言いながら水槽を重たそうに抱えながら教室の外の流し台に運んだ。水槽の魚たちにとって、教室の外を見る唯一の機会である。

 青い魚はこれが楽しみだった。変わり映えのしない世界から一時でも解放される気分を味わえるからである。

 

「ここも毎日見ているのに定位置と違うだけで新鮮さを感じてしまう。」


 青い魚は語る。

 それに縞模様の魚が口をぱくぱくさせて頷く。


「同じことをやっているだけでも、少し日常から外れるという気分に浸れるのがいいんだろうなぁ。」


 青い魚は語る。いつもここに来ると多弁になる。きっと気分が高揚しているのだろう。逆に縞模様の魚は口数が減る。ちょっと、不安なのだろう。

 バケツに一旦、移されて魚たちが大人しくしている間に水槽は綺麗に洗われた。そして、魚たちが戻された水槽は、教室のいつもの定位置に置かれる。

 2匹の魚は綺麗になった水の中を泳ぎ回った。泳ぎ回るのをやめた頃、教室には誰もいなくなり、明かりも消された。2匹の魚はまた口をぱくぱくさせて談笑するのであった。

 

 

 

 


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