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1話目 



エイブリィは暗い迷路を歩いている。これは夢じゃない。意識はあるから。


「ここはどこなの?アイリス!フィービー!」

呼びかけても返事はない。そして意識が消えた。


次にまだかすむ目に映ったもの。それは視界全体を覆う

薄暗い空と、瞬く星々。


つまり、自分は屋外にいる。そして、あおむけで横たわっている、、こう思った。


深夜ではない空の色。でも時間はわからない。


――早朝?それとも夕方?今何時よ?


時計は持ってきたが、全部あえて止めている。頼れない。


エイブリィの後頭部が痛みだす。ジンジンとくるあの痛み。

体もいつもの寝起きと違う。うまく動かない。


少しずつ身体を起こさなくては。目的地に着いているのだろうか?


ハリウッド女優3人がわざわざ、あやしい話に乗ってあげたんだから。


もしヴェルサイユ宮殿に着いていなかったら、死ぬほど腹が立つ。


あの扇にも、自分にも、だわ!そんな悪態とともに周りを見ようと試みるエイブリィ。


「そうだ、宮殿は?」 


らしき建物はある。


「暗くてよく見えないじゃないの!」 


薄暗い中では、すべてがぼんやりとしか見えない。確かめられない。


――うまくタイムスリップできていなかったら・・どうしよう。でも隣にちゃんと二人はいる。



「アイリス、起きて!」

「フィービー、あなたもよ。起きて」


横に倒れている女性に声をかける。

いずれも薄明りでも、目を閉じていても、その美しさは眠れる森の美女のようにまばゆい。


21世紀ではまず誰もはかない超ロングスカート、床すれすれのロングスカートをまとっている。エイブリィも同じだった。


呼ばれたアイリスとフィービーは、エイブリィの声でやっと目を覚ませたようだった。


「ぅ、うぅぅん」


赤毛を揺らしながらアイリスが手をついて、身体を起こそうとする。


「エイブリィ・・無事なの?」 膝からよろよろと立ちあがりながらもエイブリィを気遣う。


視線をあちこちに動かしている。立ち上がれるだけ、すごい。


最初に目を覚ましたエイブリィは、まだなんとか上半身を起こしただけだ。指のしびれが気になって仕方がない。


「ええなんとか無事よ。ねぇ・・アイリス、ここは間違いなく18世紀のヴェルサイユ?」 


エイブリィは自分で判断できず、アイリスに頼った。


アイリスは視線をあちこちに動かす。赤毛が揺れる。

そして、エイブリィを見下ろし、微笑みながら言う。


「ヴェルサイユの庭・・だと思う」



「じゃあ、あのうすぼんやり見える建物がヴェルサイユってことでいいの?」 


エイブリィはいつものアイリスの声を聞き、ホッとする。 


落ち着いた独特の声。

アイリスのファンは彼女の声を「アイスシャーベットの様に冷たくて甘い」と表現する。

聴いていると、なぜかひれ伏したくなるようなうっとりする声だった。



「でも18世紀かどうかまではわからないわ・・・ウィーンのロケ地じゃないことだけは確かよ」


「そうよね、アイリス。ウィーンは撮影であちこち行ったけど・・・この雰囲気、違うわよね」


「とにかく2つ確認しましょう。18世紀にタイムスリップしたのか、ヴェルサイユなのかどうか。さあエイブリィ、早く立って」


しっかりとした口調のアイリス。エイブリィに手を貸して立ち上がらせる。


「あたりの雰囲気は21世紀じゃないわ。でも17世紀なのか18世紀なのか19世紀なのかまだわからない」


アイリスはかなり、冷静に判断をしている。



そこへ最後まで横たわっていたフィービーも何とか身体を起こしてきた。

よろけつつ、埃をかぶった金髪を直す。


「起きた?フィービー」 


アイリスが心配そうに声をかける。そしてフィービーの頭の後ろ側についたゴミをとる。


「目覚めはめっちゃ悪いけど起きたわ、やだ、髪も服も泥が」


赤毛の美女の次に、目を覚ましたのはブロンド美女。

あどけない顔でありながらセクシー。

ロングスカートの乱れを直しながら答える。


「アイリスママ、また会えて感激だわ。エイブリィあなたも!で、私達三人、タイムスリップできたの・・・?それともやっぱり騙されていただけ?」 


フィービーは、少し年上のアイリスを「ママ」と呼び、慕っている。


フィービーとアイリス、エイブリィ三人はお互いの目をしっかり見つめ合う。

周りも明るくなってきた。顔の表情もはっきり見える。



アイリスが指をさす。


「マリア・テレジアに騙されてはいなかったみたいよ。あれ見てーー」


指さす方には豪華な建築物が、今やかなりはっきりと見える。


「あの建物――――私たちの目的地ヴェルサイユよ」


エイブリィもフィービーもその方向を見つめる。早朝の光の中に荘厳な建物が見える。


その圧巻の建物は、写真で見て目に刻んだヴェルサイユ宮殿と同じだ。

何回も見て目に刻んできたから間違うはずはない。


「ヴェルサイユ宮殿に来たのね、三人無事に!」



「きゃああ!あり得ないと思ってたのに―――!本当だったのよ」 

フィービーに向かい、手をたたくエイブリィ。


「やだ、信じられない、タイムスリップよ!タイムスリップ!」 

フィービーもテンション上がっている。


マリア・テレジアの扇は嘘つきじゃなかった!マリア・テレジアの魔法は効いたのだ。

マジでタイムスリップ出来たのだ。


エイブリィが聞いた荒唐無稽な話は真実だったのだ!


「ヴェルサイユよ、ヴェルサイユ!アイリス、フィービー!早く宮殿に行きましょうよ」


「やだ、エイブリィ、今は早朝よ。誰も起きてないわよ」 フィービーが笑う。


「いえ、大丈夫よ。近衛兵がいつも警備しているはず。とにかく今がいつの時代かはっきりさせないと」アイリスがいう。


「じゃあとにかくいくわよ!荷物を集めて!」


ヴェルサイユの庭に 半径30メートルくらいのエリアにトランクやら、箱やら荷物が散乱している。

全部、3人が持ってきたものだ。 タイムスリップの時に散らばったのだろう。


本当は、それこそコンテナにひとまとめにしたいほどだった。もちろんコンテナなど撮影のロケ地に持参していなかった。とにかく手近なバッグ・トランクに何でも詰め込んだ感じだ。


かき集める。


「あら、馬車が来るわよ!気をつけて」 フィービーが注意喚起する。


馬車!18世紀っぽい!

早朝なのに、馬車に乗る人がいるのだ。

100メートルくらいだろうか、黒い馬車が、がたがた言わせて走ってくる。

車と比べたら圧倒的に遅いが、土ぼこりを巻き上げている。


―――パン屋か何かかしら?


どこの世でも早起きの職業はパン屋と決まっている。馬車に一番近い場所にいても、エイブリィはのんきなものだった。


そのまま、もってきたものを拾い集め続ける。バッグから零れ落ちた荷物がないかと、しゃがみながら。


ぐんぐん馬車がエイブリィに向かってくる。

御者と目が合う。あろうことか、馬に鞭を当てる。


――こっちに向かってくるわけ?まさかね。荷物と私はよけなさいよ!


一直線にエイブリィのいるあたりを走り抜ける。黒いバッグを平気で踏みつぶし、アイリスとフィービーのいる方向に向かっていく。


「きゃあああ」 エイブリィが声を上げる。


馬車は止まる気配なくどんどん、アイリスたち二人に向けて走ってくる。その後ろで

エイブリィが馬車に叫んでいる。


「ちょっと何をするのよ?どうしてくれるのよ?」


フランス語が通じるかどうかなんて気にしない。多少学んだけれど。

それより人の荷物をあえてつぶすとは!

ハリウッド女優の発声をなめてはいけない。早朝だろうが、通る声で遠くまで届けられる。


フィービーも通り過ぎる馬車の横で一緒に叫ぶ。

「止まりなさいっ!わざと踏みつけたでしょう!」


「二人とも!大ごとにしちゃダメよ。あのバッグには壊れ物は入ってないから!」アイリスが二人の興奮をたしなめる。



馬車は数十メートル先で止まった。

馬が騒々しい。ヒヒンとか唸っている。8頭もいる。えらく豪華な馬車といっていい?パン屋ではなさそう。


「私一言言ってくるわ!」

エイブリィは馬車に駆け寄る。今まで馬車なんて、撮影の小道具でしか見たことないけれど

これが本物の馬車なのね。へええ。


「どういうつもりなの?私の荷物が見えたでしょうに!」


御者が降りてくる。


「これはこれは大変申し訳ございません。こちらも急いでおりまして」


「急ぐとかそういう問題じゃないでしょうに。ひとの荷物が見えたのに平気で踏みつぶすなんて」


「そうおっしゃられましても、早朝のヴェルサイユにあちこち物を散らばせているそちらさまの方が・・」


「なんですって!壊れ物だってあるのよ、何なのその態度」


アイリスが近寄ってくる。フィービーは荷物番をしている。


「エイブリィ、大丈夫よ、あのバッグには布製品しか入ってないから。ここは穏便に」


その時馬車の窓のカーテンが開けられた。


「ジェラール。女性たちに失礼よ。謝りなさい」


綺麗な女性が窓から少しだけ顔を出す。彼女はエイブリィの立場に立ってくれた。


「わかっていただけてよかったわ、これからはゆっくり走るといいわよ」


腹立ちを抑えつつも、嫌味を少し込めた物言い。 


エイブリィは、アイリスの顔を伺いながらなんとか怒りを収める。


その女性が出した顔をひっこめた。 奥にもうひとり、女性がいる。


エイブリィとアイリスは愕然とする。


・・ちょっと。馬車の奥にいるのって・・・もしかして。

こちらをちらと見ている女性、扇で顔を隠しながら見ている女性は・・・


マリー・アントワネット!


朝帰りのマリー・アントワネット!


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