“当人は”平和がちょっと乱されたくらいでやってます
今度こそはということでちゃんと依頼を受けてきた。マリーさんの小動物を見守るような視線を受けて死ぬところだった。
しかし《叡知》ナビで迷うこともなく森にたどりつき、さらには採取もすぐに終わった。
……なんかあっけないなぁ。こういう時ってよくないことが起こるんだよ……
そう思っていた矢先に、ガサッと何かが動く音がした。
「ひっ……」
果たしてそこにいたのは……一匹のゴブリン?ゴブリンと呼ぶのがただしいような醜い子鬼だった。
さて、一般的ゴブリンと言えば駆け出し冒険者の美味しいエサだ。
貧弱なうえ、知性も低い。普通に見かけたら襲いかかって来るあたりまさに格好の獲物みたいなものだ。それにしても目と目が合ったらって……それはどこのポケ◯ン?
だけど私はゴブリンをかなり恐れている。てかたぶん恐れていないモンスターなんていないけど……
アレは私がネットの海を泳ぐより少し前の話。私は何かしらの影響でライトノベルにハマっていた。
有名どころでそこまでえげつない作品を読んだことがなかったのが悪かった。私は読んでしまった。
ある、ゴブリンを退治する人達の話、その序盤を。
ゴブリン達に襲われて無惨な状態になっていく者達の姿を見て……その惨状から目を逸らしてたまらなくてすぐに読むのをやめて古本屋にポイしてきた。
アレもまた一種のトラウマだ……だから私はゴブリンにも非常にビビってる。
そんなことを思ってるうちにゴブリンは近づいてきていた。えっ、3体くらいいない……?無理だよ?私には無理だよ?
いや、ここから逃げ出す方法がないわけではない。しかし……
実はこの世界のゴブリンは、いわゆる「最弱モンスター」の立ち位置にいる。
ゴブリンにビビって逃げ帰ろうものなら冒険者としてどうかという話にまでなるのだ。ヤバい。働き口がなくなる。
これが遭遇しなかったってことならいい。だけど遭遇して一目散に逃げたというのは……うん、さすがに……
だって私あの辺境で見たもん。5歳くらいの子供達が囲ってゴブリン倒すのを。ここで引こうものなら私は5歳児以下になってしまう。
あ、この言い方だと語弊がある。私がまるでそこらの5歳児に勝ってるように聞こえてしまう。いやもう私なんかよりは当然そこら辺の5歳児の方が優秀ですよ、はい。
ただ、私個人としてはよくても世間一般から見れば「ネガという7歳の女子は5歳より劣ってる」という評判になる。
ここでコミュ障ぼっちの解説をしよう。
私達コミュ障ぼっちは、いやまぁ私だけかもしれないけど、自分の中で自分を卑下することになんら抵抗を抱かない。そりゃあ劣ってる自覚があるのにそれを認めないのもどうかってとこだろう。
世間一般からも格下ってイメージを持たれていると仮定して下級人類だと思って生きてる。
だけど……実際本当にたいしたことないやつではありたくないのだ。
もちろん自分の評価としては低いし、そう思われてる前提で生きていることを踏まえたうえで何かをすることがあったとき、「んだよコイツ使えねーな」とは思われたくない。せめて迷惑をかけないように行動だけは人並みでありたい。あわよくば「ふーん、思ったより使えんじゃん」くらいには思われたい。そういう思いが、私にはあるのだ……
だから評価が低いのは承知のうえで、だけど人並みくらいのことはしたい。ここでいう人並みとは何か?当然ゴブリン討伐である。5歳児にできて私にできないことは数多くあるけどそれでも5歳児にできることくらいはしてみたいのだ。できるといいな。
というわけで「銀のナイフ」を売って手に入れたお金を合わせて買った短剣を構える。
相手は3体、いずれも棍棒持ち。対してこちらは一人。当然武器も短剣一本のみだ。
服は「ぬののふく」から一切変わっていないので、一発攻撃を食らえばアウト。かなりリスクが高い。
私はとりあえずもう慣れた魔力操作で肉体を強化した。およそスペック10倍。まぁ7歳だし元が弱いからアレだけど……0に何をかけても0理論ではあるだろうけど……
そして同時に《叡知》を発動する。最もいつもの検索モードではなく、ちょっとした特殊モードだ。これならまだなんとかなるかもしれない。
そして深呼吸を一つして、ゴブリンに向かって駆け出した。
高評価いただきました!嬉しいです!
ブクマもちょっとずつ増えてるのでこの調子で頑張ります!