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語らずの災女

 雰囲気が変わった。


 【幻帝】は己の攻撃を全て避ける少女を見てそのことに気がついた。


 先ほどまでは差が縮まらないのを焦りつつ逃げる人の態度だったが……今は「倒す」という意思が垣間見えていた。


 それを見た【幻帝】はそれを己に対する慢心とも思わなかったし、不快とも感じなかった。ただ……“面白い”と思った。


 黒騎士との戦闘で満たされていた【幻帝】は元々惰性で生きていたようなものだった。いっそ滅んでもいいとすら思っていた。ただ、仮にもSランクレベルの魔物である。己が認める者にしか殺されたくはなかった。


 そこに来てのこの少女だ。大人と比べるとあまりに小さく脆い存在。これまでも出会ったことがあったが、彼女くらいの少女は皆自身の偉容に怯え、ただ死を待つのみの弱者だった。


 一見すると、それはこの少女も変わらない。だけど今の彼女の瞳には己を殺す算段が見えているような気がしてならなかった。


 【幻帝】は己を殺すかもしれないこの少女に微かな期待を抱きつつ、襲いかかった。






 私が見抜いた……というよりは《叡知》が見抜いたんだけど、【幻帝】の弱点は刺さっている大剣にあった。


 魔物は生物なので頭部を潰されたりすれば当然死ぬが、それとは別に「魔核(コア)」と呼ぶものがあり、それを壊されると死ぬ。


 そしてなんと、【幻帝】の大剣は“魔核”の間近……どころか「魔核」にちょっと食い込んでた。これがどういう事かと言うと、大剣さえ押し込めれば私の勝ちということである。


 このまま永遠に鬼ごっこをするのは分が悪い。ならアレを使って【幻帝】を倒す方がよさそうだ……


 ……問題は倒した後の追求かな?またランク上げるとか表彰するとか言われようものなら私はあるいは泡吹いて倒れちゃう、かもしれない。てかたぶん倒れる。


 まぁもちろん【幻帝】倒すのも生半可な事では不可能なんだろうけど……やるかぁ。はぁ。


 私は魔力強化をし直す。感覚を研ぎ澄ませる。今だけは私は最強だ。どこにでもいる……いるかもしれない陰キャコミュ障ぼっちなどではなく、《叡知》さんによってつよつよになった【幻帝】を殺す者である。《叡知》頼りって意見は割愛する。


 私は突っ込む。【幻帝】も当然、私を殺そうと攻撃のモーションを見せる。しかしそれは“見えて”いる。確率と軌道が視界に映るけど、そこには確かな隙があった。


 その隙間を無理してでも抜け、攻撃を避ける。無茶な動きに身体が悲鳴をあげてるけど、無視!今は命を獲り合っている途中である。油断はできない。


 そして「魔核」を砕くべく、私の秘密にしてた貴重アイテムの「麻痺剣」を取り出す。効果は即効性が高い代わりにたった3秒ではあるが動けなくしてくれるものである。


 それを刺して動きが止まったところに、魔力マシマシの蹴りをいれる。それはなんとか上手く決まり、【幻帝】は大きな悲鳴をあげた。


 ……いけた。これで【幻帝】は確実に死ぬ。だけど私の命の危機はまだ去っていない。


 最期の一撃と言わんばかりに【幻帝】が私を攻撃しようとしてくる。軌道と確率が表示されようと、その確率を信じ切る事はできない。私は前世含めた最高の集中力で相手を見切ろうとする。


 慎重に見切り……“見え”た。私はその鋭い爪を短剣を捨ててでもズラして回避の道を生み出した。


 【幻帝】から距離を取る。警戒は解けないけど……動かない。私の勝ち、でいいんだよね……?


 最期に、どこからか「倒してくれたことに感謝する」って声が聞こえた気がした。






 ネガが【幻帝】を倒している中でも、マリーとフューズの会話は続いていた。


「ネガちゃんが【幻帝】を倒す?……さすがに信じられませんね。黒騎士ですら倒せなかった伝説の存在ですよ?」

「信じねぇならそれでもいいさ。まぁ心の準備くらいはしとけ。たぶん今日中には戻ってくるだろうけどよ。」

「……」

「まぁ、そんなに怪しいなら待ってればいいさ。そのうち来るぜ?ネガがマリーさんを呼んでほしいってな。」

「……やはり、にわかには信じられませんよ。」


 その後も怪訝とした視線を送るマリーと自信満々のフューズとの睨み合いは続き、なんとも居心地の悪い沈黙が漂っていた。


 およそ1時間が経過したところ、慌てた様子の職員がギルド長室に入ってきた。


「フューズギルド長!……ネガさんが帰ってきたんですけど、その……」

「おう、一応知ってると思うことだから言ってみろ。」

「本人は否定してるんですけど……黒騎士が失ったとされる「魔喰の大剣」を持っていて……」


 それを聞いてマリーは嘘でしょ……?という顔をし、フューズは言ったとおりだといわんばかりのドヤ顔をした。


「信じられませんね……天才、なんてところじゃすみませんよ。」

「あぁ、何故か会話をしないことも含めてミステリアスな謎の強者認定でもされるだろうな。」

「……変な二つ名がつけられないといいんですけど。シンプルにアレ、会話が苦手なだけらしいですよ?」

「ま、でも「話せない」よりは「語らず」の方が聞こえもいいだろ。なんなら二つ名つけて広めちまうか。」

「……まぁ有名になった方がいいことには違いないですしね。聞こえをよくして……“語らずの天才”でしょうか?」

「捻りがなさすぎるだろ。そうだな……いっそ大々的に……」


「“語らずの災女”なんてな。」

 とりあえずプロローグ的な部分はこれでほぼ終わりです!

 数話置いて章変わります

 普通にめっちゃ遅れました、すみません……

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