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8話


 半分ほどパスタを食べ終えて、なんだか少し気持ちが落ち着いた。

 お腹が満たされると、心も満たされた気分になるわ。


「アデルさん。これ美味しいですね。トマトソースの酸味と、ピリッとした辛さ。……この赤いのは、唐辛子ですか? でも、舌を刺激する辛さはなんだろ? 黒い粒が入ってるってことは黒胡椒かな? それにこの塩加減、疲れた身体に沁みるようです。刻んであるこれかな? ……魚の塩漬け? このパスタ、幾らでも食べれそうな気がしますよ」


 カレナに料理を教わってる時に、『しっかり味を確かめなさい。舌で味を覚えてると、大抵のものはちゃんと食べれるものになるわ』って教わってから、分析する癖がついちゃった。……結局、料理は覚えず、食べ専ですけどね。


 気持ちも落ち着いたところで、イレーヌさんに質問だ。


「そういえば、シフォールさんもヴィメラさんも、イレーヌさんが私に話しかけてきた時に注意したじゃないですか? 私、何かされてました?」


 ちょっとジト目で、イレーヌさんを睨んでみる。

 イレーヌさんは、ふんわりとした優しい笑顔で、


「ふふっ……イ・タ・ズ・ラ」


「なんですか、それ。わかんな〜い」


「私のお仕事の『技術』ね。害はないから安心してね?」


「充分、害になってるわよ。ミーヤちゃんに悪いこと教えないでよね。こんなスレた娘になっちゃダメよ?」


 ヴィメラさんが、なぜか私の頭を撫でている。……解せん。


「職業に関する技術ですか? 受付嬢としては気になるお話ですね。そういえば、初めて挨拶した時も名乗ってなかったのに、私の名前知ってましたよね? 事前にシフォールさん達から聞いていたとか?」


 残りのパスタを頬張りながら問いかける。


「ん〜ちょっと違うけど、似たようなものかな? 種明かしは秘密。職業でいえば、情報収集が得意だから知っていたってとこかしら」


 パーティーのリーダーって、情報の把握と精査、素早い判断力に決断力が求められるって聞いたことあるけど、ウチの冒険者達からはあまり感じられなかったな。仕事中をみたことがないから、解らないだけかも知れないけれど、イレーヌさんみたいに滲み出る雰囲気がないもんな。


「なんか、デキる人って羨ましいです。カレナもしっかりしてるし、ヴィメラさんもいい奥さんしてるじゃないですか? イレーヌさんも才色兼備ってのがぴったりだと思うんですよね。私にも、何か取り柄でもあれば、変な男をつかまないで済むかなぁって考えちゃいます」


 最後、一口分残っていたサラダを食べてため息。


「あんまり人と比べて落ち込むことねぇぞ。誰もが、自分と違うところを持っている人を羨ましいって、感じながら生きてるんだ。ミーヤも、お前にしかない魅力を持ってる。皆に好かれてるのがいい証拠だ」


 アデルさんはそう言うが、


「具体的に、何処が魅力なんですかぁ〜? 教えてくださいよ」


「あ〜そうだなぁ……なんていうか、そうっ! その素朴さがいいんだよ!」


「なんですかそれ? 田舎娘って馬鹿にしてるんですか? もうヤダ……下手な慰めなんて最悪ですよ」


 なんだか余計に落ち込んじゃうじゃない。食べ終わった食器は、ヴィメラさんが手早く片付けてくれてたので、空いたカウンターに突っ伏した。厨房の方から、『バシっ』という音が聞こえてきたが、見ないでおこう。

 

 そんな私の背中を誰かが優しく撫でている。あったかいな……なんだか、小さい時にお母さんに撫でられてたような安心感だ。手の動きの感触からそちらを見てみる。やっぱり、イレーヌさんだ。

 頬杖つきながら、優しい笑顔で私を見つめている。憧れちゃうな。


「そんなに、自分をみじめに思わなくてもいいのよ? 私達だって最初からこうじゃなかったんだから。ヴィメラも言ってたじゃない? 私が小さい頃から生意気だったって。今思えば、負けず嫌いだったからね。人が出来てることを出来ないと、悔しかったもの。いろんな努力したわよ? 経験を積み重ねて人は形成されるの。今の私を、ミーヤちゃんは褒めてくれるけど、私はまだ自分に納得してないからね」


 ヤダ……急にそんな言葉もらったら泣きそうになるじゃないですか。

 ヴィメラさんも声をかけてくれる。


「ミーヤちゃんも、これからいっぱい色々なこと経験していくんだから、すぐにいい女になれるわよ。でも、友達のために変な男に捕まっちゃダメ? ……あっ……」


 んっ? はいっ?! なんで!? バッと飛び起き、ヴィメラさんを見る。


「なんで、ヴィメラさん知ってるんですか? 誰にも言ってないのに!」


 しまったって顔してるヴィメラさんが、アデルさんの方を見た。


「あ〜、ちょっと知り合いから変な話を聞いてな。調べてみたら、ミーヤが関わってたからよ。ウチの奴が可愛がってる娘達に、おかしなことしないように釘をさしてはおいたからよ。変な奴にはもう絡まれねぇとは思うぜ」


 私と目を合わせないようにしながら、洗い物をしている。


「あれから、あいつらしつこく付きまとってくるかなって思ってたのに、何も言ってこなかったのって、アデルさんが何かしてくれてたんですか? でも、何処からそんな話を?」


「いいんだよ。大人の事情ってやつだ。常連客が来なくなったら、うちも潰れそうだからな!」


 ガハハっと大笑いしながら、奥に引っ込んでいった。


「あらあら、照れ屋で困っちゃうわね。ごめんなさいね。言うつもりなかったんだけど、話の流れでついね」


「知らなかったら、もっと大変なことしてたかも知れないじゃないですか? こんな私でも、見守られてたんだなって感謝しないと。ありがとうございます。でも、カレナには、絶っ対! 言わないでくださいね?」


「わかってるわよ。カレナちゃん怒ったら怖いもの」


 クスクスと笑いあったら、なんか元気出てきた。

 これからは、ヴィメラさん達にも相談するようにしよう。この街でもう少し、安心できる友達を増やしていこう。

 ちょっとした決意を、ヴィメラさんに伝えようとすると、


「たのも〜!」


 入り口から可愛らしい声が響いてきた。





なんとか書けた。

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