7話
「今日も、いつものとこで良いかな」
いつもカレナと一緒に行く事が多いデザートの美味しいお店に行く事にした。
食事処としては、まあ普通。でも、お店の雰囲気がいいのよね。女性客が多いけど、カップルなんかもよく見かけるわ。若い夫婦で経営していて、客席は17席でこじんまりとしている。
カウンターの向こうはすぐ厨房になっており、厨房から店内が見渡しやすい作りになっていて、お客さんの反応をよく観察している。
ウェイトレスをしている奥さんがまた、背が高いのだが可愛いのだ。接客してるだけあって気配り上手だし、料理人である旦那さんとの仲睦まじいところが女性陣に人気で、カップルでよく使われてるデートスポットでもあったりする。
お店の入り口は、天気の良い日は開放されており、可愛いレースの刺繍で飾られたお洒落なカーテンが掛かっている。奥さんの手作りらしい。
「こんにちは〜」
カーテンをくぐり、店内を見渡す。カウンター5席、4人掛けテーブルが2卓、2人掛けテーブルが2卓だ。今日はいつもより遅い時間帯になったからか、人は少ない。カップルが2組と、カウンターに女性が1人座っている。
「いらっしゃいませ〜、あら? いつもより遅いわね、今日は1人なの?」
この店の店主の奥さんで、ウェイトレスであるヴィメラさんがカウンター席の向こうから声をかけてきた。
奥で休憩をとっていたのだろうか? 立ったままだが、カップを手にくつろいでいたようで、私に声をかけ微笑みながら、湯気のたつカップを口にしていた。
「そうなんですよ。今日は浮気されちゃって1人です。久しぶりに忙しくてこんな時間になっちゃいましたが、いいの残ってます? 甘味に飢えてま〜す」
ケラケラと笑いながらそう答え、どこに座ろうかともう一度店内を見渡す。よく見ると、カウンターに座っている女性客の後ろ姿に見覚えがあった。
イレーヌさんだ。
店主で料理担当のアデルさんと話をしているようだ。そういえば、ヴィメラさんもカウンター奥の厨房の方から出てきたから、3人で話していたのだろうか?
イレーヌさんとは挨拶くらいしかしていなかったなと思い出し、他の人たちはいないんだなと思った。まぁ、いつもパーティーが一緒に行動してるわけないよね。
せっかくだし、イレーヌさんともおしゃべりしたいなとカウンターに向かってると、ふとシフォールさんの言葉を思い出した。
『悪い癖だわ……悪戯がすぎるのよ』
何かされそうになったんだろうか? その時の様子を思い出してみる。
ウインクされてドキドキしてしまった事に、ちょっと恥ずかしくなった。女の人にドキドキするなんて初めてだもんな。あの時、何かされたような感じでは無かったが、解らないものを考えても仕方ない。
1人の食事も味気ないものだし、せっかくのおしゃべりタイムを不意にするのも勿体無いと思い、イレーヌさんの左隣の席に腰掛けた。
「こんにちは。隣、よろしいですか?」
イレーヌさんを覗き込むように挨拶する。座るときに目線だけがこちらを見たから、気づいていただろう。
「偶然ね。今からお昼? 此処にはよく来てるみたいね。オススメされた中に無かったみたいだけど?」
悪戯っぽい笑顔で、こちらに振り向く。
「そんな意地悪言わないでくださいよ。この街に初めてくる方の好みもわからないのに、沢山のお店の中から選ぶのも大変なんですよ」
ちょっと膨れてみながら、料理を作っているアデルさんに声をかける。
「アデルさん、今日のオススメってなんですか? あと、デザート何が残ってます?」
「オススメねぇ。うちをオススメに入れてくれないお嬢さんに出すオススメは難しいな」
笑いながら意地悪な返しをしてくるアデルさんを、ヴィメラさんが諫める。
「そんな意地悪言っちゃダメじゃない。こんな小さなお店を、凄腕の冒険者さんに紹介できるわけないでしょ?」
「あれ? なんでイレーヌさんが凄腕の冒険者って知ってるんですか? 私が来る前に3人で話してたみたいだから、その時にお話を?」
ヴィメラさんに視線を向け聞いてみた。
「そんなところね。それより、今日のオススメはパスタだけどいいかしら? デザートはいつもの2種類と、ブランデーを使ったパウンドケーキが2種類よ」
「いいですね、パスタ。パウンドケーキの2種類ってなんですか?」
「普通にデザートとしてのケーキと、お酒好き用のブランデー漬けフルーツが入った濃い目のやつね。お仕事中にはどうかしらね? ミーヤちゃんは強い方だけどお酒臭くはなるわよ」
ほんわかとした笑顔で説明された。どっちも捨てがたい。
「お昼は普通のでお願いしようかな。お持ち帰りしてもいいですか? 濃い目の方を2つ。カレナにお土産で」
ヴィメラさんは笑顔で答え、厨房に入った。
おっと、時間がかかりすぎた。慌ててイレーヌさんに向き直り、
「先ほどは、挨拶の途中でシフォールさん達が邪魔しにきたようでしたから、中断してましたね。改めてご挨拶を、ミーヤです。滞在中は何かありましたら、なんでも言ってください」
ぺコリと頭を下げる。
「本当よね。あいつらったらすぐ邪魔しにくるんだから。プライベートは干渉しないでほしいわ。今は邪魔者もいないし、ゆっくりお話できるわね」
軽くウインクをしてくる。
「あら〜? 邪魔者はあの子達だけじゃないかもしれないわよ?」
ヴィメラさんが、お水とスープ、サラダを持ってきてそう言った。
「貴女までそんなこと言うの?」
イレーヌさんは、片肘をつき手で顎を支え、呆れたような顔でヴィメラさんに向き直る。
んっ? お二人は知り合いでしたか?
「ミーヤちゃんは大事な常連客だもの。おかしな事したらダメよ?」
そう言いながら、私に抱きついてくるヴィメラさん。
「お二人は知り合いなんですか? でも、イレーヌさんこの街初めてですよね?」
「ええ、実は、イレーヌの事はよく知ってるわよ。でも何年振りかしらね? この街にきて4年になるから……もう6年? 7年だったかしら?」
「そうね。7年になるかしら? 私の研修が終わった時に、最終試練に付き合ってもらった時以来ね」
「あんなにちっちゃくて可愛い子供だったのが、こんな大きくなるなんてね。生意気なところは変わってないけど」
「どんな話が出回ってるのか知ってるけど、鵜呑みにしないでよね? それに仕事で来てるんだから、あんまり遊んだりしないわよ」
「あらあら、私は現役引退してるもの。詳しいことは知らないわよ。今は旦那様と普通によろしくやってるもの」
「まさかこの街で会うなんて思わなかったしね。旦那さんがアデルってのも、驚きだったけれどもね」
「アデルさんともお知り合いなんですか?」
びっくりだ。世間って意外と狭いのかしら? 昔のイレーヌさんの事とか聞いてみたいなとか思ったが、
「おいおい、昔話はやめてくれよな? 嬢ちゃんには聞かせらんねぇぜ!」
料理を作りながら、アデルさんがストップをかける。チッ……先手打たれた。
「え〜〜ズルいですよ」
残念そうな顔して抗議する。
3人が少し笑いあったあと、イレーヌさんが私の頬を突いて、
「拗ねないの。知らない方がいいこともあるのよ」
どこかで聞いたセリフだなぁ……片肘をつき、悩ましげな流し目をして、笑顔で私を見ている。
ヤダッ、色っぽい……これが大人の色気なんだろうな。また顔が赤くなったのがわかる。私にもこんな色気が出せる日が来るのだろうか?
「コラっ、誘惑しちゃダメよ。それにしても、あの時からさらに磨きが掛かってるわね。姐さんでも勝てないんじゃない?」
「さぁ、どうかしら? こればかりは個性だからね。通用しないこともあるわよ」
ん? 私、何かされたのかしら?
2人を交互に見ていると、
「はい、お待たせ。今日はこのメンバーに因んで、特別にプッタネスカ風だ。疲れてそうだから食欲が増しそうなのにしてみたぜ。こいつらの話は聞き流せよ。知らぬが仏って言うしな」
アデルさんが私の目の前に料理を置いた。トマトソースのいい匂い。
「え〜気になりますよ。誘惑されちゃいそうなくらい、イレーヌさんって色気ありますもん。どうしたら、そんな大人の魅力を身につけられるんですか?」
3人はお互い顔を見合わせて、
「ミーヤちゃんはそのままが一番いいわよ。無理に大人ぶらない方が可愛いわ」
ヴィメラさんが代表するようにそう言った。
「もうっ! みんなして子供扱いですか!? どうせ私はまだまだお子様ですよ」
そう言って膨れっツラになりながら、大口を開けてやけ食いを始めた。
本日なんとか書き上げれました。
明日は無理かも。
プライベート暴露で、24時間勤務後日勤があるので体力がないかもです。
日勤中にハイなら興が乗ってるかもしれないがwww