4話
しばらくぼぅっとカレナと、ギルドマスターが上がっていった階段を見つめていたら、お姉さん達がこちらにやって来た。
「私だけ挨拶がまだだったわね。私はイレーヌ。このメンバーのリーダーを任されているわ。さっきの、ギルマスとの会話も聞こえていたでしょうけど、しばらく滞在する事にしてるから、よろしくね。カレナに……ミーヤ」
イレーヌさんはカウンターに肘をついて、カレナと私の方に指を差しながら名前を呼ぶ。
「えっ? 私達、まだ自己紹介していませんよね? なんでわかるんですか?」
「さっき、ギルマスが名前呼んでたじゃない? 情報収集は専門だからお手のものよ」
あんなちょっとの時間に、しっかり覚えているんだ。すごいなAランク。
でも、感心してる私と違って、カレナが疑問を投げかける。
「ちょっと待ってください。私は、ギルドマスターと話してたから名前も呼ばれていたけど、ミーヤの名前は出ていませんでしたよね?」
おう!? そういえばそうだ。受付した時も名乗ってなかった気がするし。
「ふふっ……さて、なんででしょう?」
イレーヌさんは悪戯っぽく微笑み、私に向かってウインクしてきた。
顔がボッと、赤くなるのがわかった。なんでドキドキしてくるの? イレーヌさんは、美人で魅力的だけれど、女性だよ? 私が男だったら、一発で落とされそうな仕草ではあるけれども……
そんな私の反応に、妖艶と言うのがピッタリな微笑を浮かべ、私を見つめている。……ヤダっ……直視出来ない。真っ赤になり、俯いたその時、
「可愛……って、ちょっと!?」
イレーヌさんが何か言おうとした時、間に誰か割り込んできた。
何? って思って顔を上げてみると、シフォールさんがイレーヌさんを押し退けていた。抵抗しようとするイレーヌさんを、後ろからミリアさんが口を押さえ羽交締めにしている。
何事っ? 隣のカレナもびっくりしている様子で、2人揃って目をパチクリとしていた。
そのまま、奥に連れて行かれるイレーヌさんを呆然と見送り、入れ替わったシフォールさんに、
「いいんですか、あれ?」
あっちで、説教をされているみたいなイレーヌさんを眺め呟く。
「いいのよ。悪い癖だわ……悪戯がすぎるのよ。節操なしなんだから……」
深い溜め息をついて、眉間に皺を寄せているシフォールさん。
「あんなの相手にしたらダメよ。ところで、しばらくこっちに居てるんだし、どっかオススメの宿屋ないかしら? 入浴ができるところが良いわね。大きい街だし、貴族御用達のところでも私達は問題ないわよ」
「おいしい食事処も教えて」
いつの間にかシフォールさんの隣に、頭をカウンターに乗せてこちらを見ているティッチさんが居た。
びっくりしたなぁ、もう。生首に見えたわ。
2人の要望に合うような宿屋と食事処を、カレナと相談してオススメした。食事処に関しては、私達もリサーチしてるから自信がある。ティッチさん以外は、酒場も好きそうだったのでそちらも紹介した。
そうこうしていると、イレーヌさんとミリアさんが帰って来た。
「もうっ! せっかく仲良く話ししてたのに、なんで邪魔してくるのよ……ねっ? ミーヤちゃんもそう思わない?」
「お前は度が過ぎるんだよ。仕事の時は仕方ないが、一般人にするもんじゃねぇだろうが」
「あら? プライベートにまで干渉されたくありませんけど〜? そんなんだから男も寄り付かないのよ」
「関係ねぇよ。そういうことは自然とフィーリングがあったらなるようになるもんだろうが」
「あら〜? 意外と王子様を待っているタイプですか?」
「あん?! 喧嘩売ってんのか? わかってていってるだろ、てめえ。昔のことを思い出させるんじゃねよ」
「……ごめん。そういうつもりじゃなかったんだけどね。アレがあったから、あなたはここまで強くなったんだもんね」
言い争っていた2人をシフォールさんが宥める。
「ちょっと、こんなところで言い合ってるんじゃないわよ。お嬢さん達が困っちゃうでしょ?」
「本当だわ。そんな事を言い合って何が楽しいのかしら?」
ティッチさんも会話に割り込んできたが、
「「「お子ちゃまに何がわかるのかしら?」」」
3人に笑い返されていた。
「ちょ……私の魅力がわからない男が多過ぎるのよ!」
この場に居る全員が、なんだか微笑ましいものをみるようにティッチさんを見つめた。
「……何よ。失礼しちゃうわ」
プクッと頬を膨らませている。そんなところが子供っぽくて、可愛らしいのですが。
このパーティーほんとに仲が良さそうだ。そういえば、組んでいるパーティーで名前を持っていたわよね? もしかしたら、聞いたことのある名前かも知れないと思い聞いてみたが、
「「「「ナイショ」」」」
4人同時に声を揃え、笑顔で躱されてしまった。
「え〜、なんでですか? お姉さん達くらいなら有名そうじゃないですか? 今まで若い女性だけのAランクって聞いたことなかったんですもの」
「そうですよね。ギルド内でも話題にならないってなにかあ、る……」
カレナがそう言ってる途中で、何かに気付いたようにハッとした顔をした。
「どうしたの? なんかあった?」
苦笑いのカレナに視線を向けると、
「あらっ? カレナちゃんは気付いちゃったかな? 思い出してくれたかしら、私のカードを」
イレーヌさんが小声でそう呟いた。
カード? ギルドカードっ?! そうだった。特殊仕様の黒カード。
「あっ!? 黒カード!!」
つい、そう口走ってしまった。間髪入れずにカレナに口を押さえられる。
「バカっ、あんた何言ってるのよ!」
そのままヘッドロックをかけられた。
ギブ、ギブッ。ロックをかけている腕に必死でタップする。30回くらいタップしてやっと解放された。
カウンターにグテッとなりながら、チラッと冒険者達の方を見てみると、何遊んでんだ? って感じかな?
「よかった。聞こえてなかったみたい」
「何言ってるの? 普通の冒険者が知ってるわけがないでしょう。ギルド職員でも、ちゃんと覚えている人少ないんだから。ミーヤもね」
クスッとカレナに笑われた。確かに、言われるまで思い出せなかったですけど、仕方ないんじゃないかな? 普段から取り扱ってないと、10年以上見たことがないものなんて補佐官だって忘れているわよ。……たぶん。
「そういうこと。女は秘密がある方が魅力が増すのよ。でも、私たちには噂にならない秘密があるけどね。さて、ゆっくりお風呂に入りたいわ〜」
イレーヌさんは意味深な言葉を残し、4人は宿を見てくると言ってギルドを後にした。