29話
やっと書けた。
いつもの事ながら遅筆である……
「待ちなさいっ! 私だって忙しいんだから貴女達でなんとかしなさい」
補佐官は素早く私の襟首を掴み、
「ぐえっ」
突然首が絞まる苦しさで、咄嗟にカレナの服を掴む。両方からかかる圧力で更に首が絞まり、掴んでいたカレナの服を離してしまった。私の抵抗から解き放たれたカレナは、その勢いのままレムさんに突撃した。
ドベシャッ……派手に転ぶ2人。レムさんは顔面から倒れたような……カレナが上にのしかかったままだし。
「「あ〜……大丈夫?」」
補佐官と2人、声を揃えてカレナ達に声をかける。
「いったーいっ! もうなんてことするのよっ?! 引っ張られたと思ったら急に離すんだからっ、危ないじゃない」
私に文句を言いながらレムさんを抱き起こしている。レムさんは両肘の辺りを撫でていた。上手く受け身をとっていたようだ。顔面からじゃなくて良かった。
「ほんとですよぉ、なんでこんなことになってるんですか?」
カレナとレムさんのジト目が痛い。
「補佐官が急に私を捕まえるからですよっ」
キッと補佐官に向き直る。補佐官は溜め息をつき、
「はいはい、ミーヤを捕まえた私が悪かったわ。まさか道連れにしようとするなんて思わなかったし」
「だって、急に捕まえられたから咄嗟に手が出て、カレナの服を掴んじゃったんですよ〜」
「ほらぁ、やっぱりミーヤのせいじゃない。それにミーヤを犠牲にしても、結局私にまで被害が及ぶんだから逃げたりしないわよ」
「う〜……」
そうは言いますけどね、咄嗟のことに思考が追いつくわけないじゃない。恨みがましくカレナを拗ねた表情で睨んでみるが、頭をポンポンされただけだった。
レティシアを宥めた後、補佐官からは冒険者達が帰ってきた時の準備として、神殿と治療院の手配をするように言われ、今日は外食は無しでギルド内にいるようにと指示された。
ギルドマスターと補佐官は、通信室に篭るんだそうだ。聞けば、イレーヌさん達はやはり別働隊として朝から現地に行ってもらってるとの事。やっぱり、急な用件ってこの事だったんだろうな。……もし寝起きにイレーヌさんがいたら……なんて事を想像して頭を振る。こんな時に不謹慎ね。
イレーヌさんからは、状況の都度により報告があるそうだ。現時点での報告では現地に動きはなく、冒険者が到着次第に作戦を開始するとのこと。ちょっと気になり聞いてみた。
「さっき冒険者にレイドの説明がされてましたけど、あれって行動予測がされてる時の対応ですよね? 繭から出てくるのが前提みたいでしたけど、出てこなかった場合とかどうするんですか? ジャイアントじゃない違う何かになってたりとか?」
「貴女たまに面白い事言うわね。想像力が豊かなのかしら。そうね、今回の指示は通常の場合を想定してるわね。ただ、今回の件は前例がないので確かにあてにならない作戦かもしれないわ。だから、今回はあの人達がいてくれて助かってるの。現地での対応は丸投げになってしまうけど、特殊な状況に対応できるだけの経験があるのはありがたいわね。安心してレイドの指揮を任せられるもの」
「でも、イレーヌさん達って大人数のレイド経験ってあるんですか? 話を聞いた限り、単独パーティーでの経験しかなさそうですが」
そう、レイドにおいて重要なのは広い視野における状況の判断能力と各部隊への的確な指示である。複数のパーティーを管理するにしても、役割が決まっているとはいえ知らないもの同士では実力の差を把握しきれず指示が上手く機能しない時もあるのではないか? 冒険者達も、騎士団みたいに日頃から団体訓練をしているのならば揃った行動は可能であろう。しかし冒険者パーティーが合同で仕事をするにしても、2〜3パーティーが普通である。そして、合同受注のクエストは概ね護衛任務が多い。守ることは慣れているだろうが、攻撃隊としての連携はどうなのだろうか? 今回メイン攻撃隊が9組、兵站の役割でEランクも2組出て4組の計13組もいる。イレーヌさん達はやはり攻撃隊であろうから10組になるか。
戦闘行動の知識は一応勉強はしているが、実戦って見たことはないですけどね。ギルド内訓練所での模擬戦闘は見たことあるが対人戦だし。他の街では闘技場があって、捕獲した魔獣と戦闘する賭け事があるとか。一度見てみたいものだ。ひと月ほどは仕事休まないといけないから無理だし。
素人が口出し出来るようなことでもないんだが、心配で気になるんだから心労軽減のために聞いてもいいよね。
「そうね、彼女達がどんな訓練してきたのか聞きたいとこだけど、ここだけの話で過去に騎士団200人の指揮をとったりしたことはあるみたいね。最悪、彼女達だけでなんとかしちゃいそうだけど……こちらの立場は考えてくれてるみたいだけど、危険度が上がらないことを祈るわ」
そう言って補佐官は事務所内にも指示を飛ばしていく。
それなりにバタバタとして時間が過ぎていった。
「ふゎーお腹すいたぁ。今日は外食なしか……ここでのお昼も久しぶりね。今日の定食な〜にっかなっ?」
「ミーヤってば、ご飯は妥協しないもんね。ここの味もミーヤがうるさくなったから良くなったしね」
「あらっ? こんな身体にしたのは誰のせいかしら? 元はカレナが私に料理を教えたせいなんだからね」
私は料理するのは諦めた。食べるのと作るのは全く違うのだ。私には味の組み合わせの才能はないのである。分析は得意なのよ。しかし、食材に合わせる味付けが何故か上手くいかない。ちゃんと分析はするんだよ……足りないと思う味を足していくだけのはずなのに、何故か不味くなる……解せん。
「料理を教えてあげて、悪く言われるなんて思わなかったわ。味にうるさかったら普通は料理も出来るはずなんだけど、ある種の才能ね」
カレナと駄弁りながら受付で食事だ。他の職員もギルド内でお昼を取るので各自の席で食事をしている。今日は社員割引があるからいつもの半分の金額で済んだ。最近使い過ぎてたから有り難いな。しかも、さすがは冒険者相手の食事処だ。基本ボリュームがある。お肉メインも嬉しいところだ。
「ローストビーフ〜、サラダ仕立てなのがにくいわね。冒険者相手じゃないからオシャレに作ってくれてるわね。それとお豆腐を使ったカプレーゼも、普段こんなの出さないでしょ? スープも春雨使ってボリューム出してるじゃん。どこで覚えたの?」
配膳してくれている時に料理長であるロンディウムさんが居たんで声をかける。ロンディウムさんはギルドの料理長として13年も君臨している。今でこそ気軽に声をかけれるが、入った当初は恐いおっちゃんでした。研修の頃はギルドで食事をしていたのだが、研修が終わり外に食べにいくことが多くなった私達に文句を言ってきたのが始まりだ。味は悪くなかったのよ。でも、普通。そこらの酒飲み相手に出してる料理と大した差がなかった。冒険者相手ならそれで満足していたのだろうが、私達はうら若き年頃の乙女である。オシャレに食べたいのだ。優雅な気分で心も満たされたいのだ。そんなことを話したりして今のメニューになっていった。女性職員には概ね好評のようである。
「なんだ? また生意気なこと言ってるじゃねえか。ろくに俺の飯を食わねえくせに評価だけは一丁前にしやがって。気にいらねぇなら下げるぞ」
そう言って私のお膳だけを下げようとする。
「やめてぇ〜! 褒めてるじゃないですかっ!? なんで私にはそんないけずするんですか?」
お膳を取り返し抗議する。
「あぁんっ? 生意気な小娘にはお仕置きが必要だろうがっ」
ロンディウムさんはポケットから小瓶を取り出し、私のローストビーフに何か緑色の液体をかけていた。
「ぎゃーーーっ!? 何してんですか? 何かけたんですか?!」
「生意気な小娘のためのスペシャルソースだ。とくと味わえっ」
そのまま笑いながら去っていった。
恨みがましく睨めつけたが、諦めた。
「もうっ! なんなのよ、この緑のやつなによ?」
フォークに少しつけて舐めてみる。
「んっ……辛っ!? やばっ……水、水」
鼻がツーンときた。なんだこの強烈なやつは……カレナも興味津々でフォークにつけて舐めてから、私と同じリアクションをしていた。
「せっかくの甘いオニオンソースになんてもんかけるのよっ!」
しかも何故か上手いことソースに絡まるようにかけてくれている。我慢して食べるしかないじゃん……
さっきのツンとくる感覚を思い出し、オニオンソースに絡まった緑の液体と一緒にローストビーフを恐る恐るパクリッ…………んっ? さっきのツンとした風味が、オニオンソースの甘味と混ざり合いさっぱりとした風味になってる。
「うんまっ!? 何これ? カレナも食べてみなさいよっ」
怪訝そうな表情をしながらカレナも、
「ホントだ。さっきの辛味が嘘みたいな風味になってる。なんだろうね、これ?」
意地悪をされたと思ったのに、まさかのサプライズに気分上々と美味しいお昼をいただけました。
ギルドマスターや補佐官もあれから出てこない。する事も無くなり、手持ち無沙汰になった私達は雑用をこなしながら時間は悶々と過ぎていった。
終わりが見えてきました。
次はまた幕間となります。戦闘シーンを上手く書けるか心配である。




