21話
今回は軽くグルメもどきです。
「それにしてもさ、お客さん相手の商売って凄いなって感心しちゃう。ギルドの受付も冒険者だけなら気が楽なんだけど、依頼の受注とか有ったら交渉で気をつかっちゃいますしね。ここなんて、マスターひとりで切り盛りしてるじゃない? 料理作って、お客さんとの会話に話のタネの収集と、お店が終わったら今度は掃除に仕込みでしょ? 私だったら、疲れて頭まわんないわよ……おいしっ、何これ? コクのあるピリ辛にちょっと酸味が効いてていくらでも食べられるわ」
「新しく仕入れた発酵調味料がいい感じでな。これも客との会話から知って、こないだ手に入れたところだからな。行商人とかと話すと、王都や地方の郷土料理とかも聞けるから創作意欲が湧くんだ」
「仕事してる分で楽しいっていいよね……」
ちょっと物悲しい気分になっちゃった。
「どうした? 仕事嫌になったのか?」
「そんなんじゃないよ。仕事自体は楽しいの……でも、なにか物足りないの。一日の充実感ってのが無くって。好きなことを出来てる人が羨ましく見えちゃって、なんか嫉妬してるみたいで自己嫌悪しちゃう」
グデっとカウンターに突っ伏す。おつまみだけが口に放り込まれていく。
「なんだ、そんなことで悩んでるのか? 確かに、周りが上手くいってることへの嫉妬だな。嫉妬してる分だけお前さんは何かを頑張っていたか?」
グサッと来るな、もう。
「辛辣ですね、泣きますよ。でも、思い当たる節もあるから反省はします。……でも嫉妬はやめません!」
ガバッと起き上がり、エール酒をまたあおる。今日何回目だ? いいのだ! お酒は心の清涼剤なのだ。空になったジョッキをマスターに突きつける。
「おかわりは同じのでいいか? 特別に変わったやつを出してやるから呑んでみろ。それにこれも奢りだ」
なんか、透明な卵みたいなのが出てきた。言うなれば、カエルの卵みたいに透明なゼリー状に包まれている見た目だ。しかし大きさが鳥の卵の倍くらいの大きさである。青色で見た目もマダラ模様が気持ち悪い。
「やんっ、なにこれ? 気持ち悪っ。久しぶりにゲテモノ出してきたわね」
たまにあるのだ。味はいいんだが見た目に嫌悪感を抱かせる食材がっ! 前には、虫が姿揚げで出てきたのは悲鳴あげちゃった。5センチはある黒いアレだ。食用としてちゃんと衛生管理して飼育された別個体だったらしいが、見た目アレである。目の前でマスターがバリバリ食べるもんだから、食べてみたのだが……美味しかったです。殻は薄くパリッと香ばしく、中からはクリーミーな……体液と内臓……味と食感は例えるならマカロニグラタン。見た目さえマトモならおかわりしちゃう。
家で見るアレは決して食べてはいけません! 寄生虫に病原菌、卵も熱などに強いため体内に入ったら、内臓から……ヒィ〜想像したくない。
今回出てきたコレはなんだろう? 見た目からして、両生類や爬虫類系の卵だろうと予想するが、この色と大きさ……なんの魔物? スプーンでつついてみると、しっかりした弾力がある。それに嗅いだことのない甘い感じでアルコールの匂いがする。
「なんか甘い匂いしてるんだけど、デザートじゃないですよね?」
見た目ゼリーだしな。マスターはお菓子類は作らないもんな。お酒に合うのしか作らないだろうが、エール酒にゼリーはないだろう……ワイン? 無いな。
「これは滅多に市場に出ねえぞ。しかも時価だ。新しい仕入れ先が珍しい物を持っててな、お酒も変わったのが入ったんで今回のこれよ」
自信たっぷりに、今度は珍しく小さめのグラスで、透明な液体を出してきた。匂いは少しアルコールがキツめの感じがする。透明なお酒は初めてだ。
「ふゎ〜綺麗な透明感。こんなの初めてみた」
「和酒って呼ばれてるらしい。遠方の国で作られたらしいが、こっちには滅多に入ってこないってよ。仕入れ出来たのが10本だけだからな。貴重だぞ」
「奢りって言ったよね? 出した感じと話からお高そうなんですが」
今日はお昼ご飯の出費が大きかったからね。ティッチさん達は、まとめたら大したことない金額だからいいとは言ってくれたんだけど、やっぱり気持ちの問題がね。あれだけの料理の数なら、確かに私たちが払ってもはした金くらいなものでしょうけど。ランチ定食代と同じ30コパちゃんと出してきました。
「料理は奢りだ。酒も時価だが安くしとく。食通もどきと言われてるミーヤにこんな組み合わせだと、どんな感じか参考にしようと思ってな」
「食通もどきってなんですか? 誰がそんなこと言ってるんですか? 食通気取ってなんかいませんけどっ」
マスターは笑って誤魔化しているが、誰だ? ムスッとしながらも、まずはお酒をいただこう。
独特な芳醇な香りが鼻孔をくすぐる。ひと口含み、その独特な風味を堪能し飲みこんだ。
「香りがいいですね。ちょっとクセのある味だけど、魚系の出汁を使った煮物が合いそうですね。でも、あっさりした揚げ物もいいかも」
お次はこのゼリーの物体だ。スプーンで弾力を確認する。プニプニだが意外としっかりしてる感触を、一口分すくいとり口の中へ。
「ふゎっ……」
甘く香ってたのが、口に入れるとほのかな香りに変わり、ほろほろと溶けるように崩れていく。しつこくない甘味が残ってるうちに和酒をひと口。
甘味に和酒……これは合うわ。
「マスター、これは新しい呑み方だわ。甘味にお酒って意外な組み合わせだね。でもこのゼリーの物体に合わせれるお酒が限られるね。あれっ? このゼリーって、この和酒使ってる?」
「ほう、流石だな。当たりだ。元は独特な臭みがあってな、この和酒に漬け込んで試してみたんだ。3日間漬け込んで臭みをとったんだが、この酒の成分か食材の性質かでこの弾力と食感になったんだが、まるでデザートだろ? この和酒には合うんだが、他がなかなかなくてな。実は試作品だ」
ハハハと笑ってますが、いつもの試食じゃん……でも、これお高いですよね……
「甘味好きとか、女性向けになりそうだからマスターのお店には合わないんじゃない? しかも両方とも滅多に入らないし、時価なんでしょ? 冒険するの程々にしないと。他にも試してるみたいだけどそんなに作れないでしょ? 変わった食材好きなんだから……そういえば今日、竜泉の酔いどれ亭に行ったんだけど、あそこも変わった料理出してたよ。元Bランク冒険者の料理人だから、冒険中にいろんな食材を扱ってたんだろうね」
「あぁ、フォードルさんの店か。確かに変わった料理出してるな。あそこは仕入れ先が大手だから、常時高級食材が手に入れ易いから出来るんであって、ウチじゃあ真似できねぇしな。ただ、参考にさせてもらうのに何回か食べに行ってるぞ」
さすがマスター。食への飽くなき探究心てやつですかね。
「ミーヤの給料ではいつも行けるようなところじゃないだろ? 今日の支払い大丈夫か?」
「失礼なっ! ちゃんとマスターんとこの支払い分はおろして来てますぅ」
ジトっとひと睨みしてみるが、マスターはニヤッと笑い、
「時価のお酒分があるぞ?」
「うっ……安くしてくれるって言ってましたよね? ちなみにおいくらですか?」
時価なんて一般人の扱うもんじゃないわ。ちゃんと金額提示しててよ。
「特別に一杯7コパ(700円)だな。普通にもらうなら15コパにするがな」
きゃー、通常価格ならエール酒15杯分じゃん。この小さいグラスでですか。ジョッキの三分の一しかないのに。もう半分飲んじゃったよ。
「まだこれ残ってるし、思い切っておかわりしちゃう。料理は試食分だからタダよね?」
上目遣いで懇願アピールだ。
「それはいいぞ。ミーヤにしか出せねえなと思ったからな。おかわりも特別価格にしとくが、3杯目はちゃんともらうぞ」
今月、お給金日まであと5日。今日はご褒美としよう。
「マスター? そういえばこの卵みたいなのなんだったの?」
スプーンでプルプルと揺れるのをつつきながら聞いてみた。
「ああそれはな……」
「たのも〜」
どこかで聞いたことのある掛け声が聞こえた。
はい、てんどんしてしまいました。
キリの良いとこを作るのに悩みました。
お酒のおつまみの元ネタ想像つくひといるかな?




