20話
いつもの事ながら、お待たせしました。
今回もなんだか尻切れとんぼで、切りが悪い。
いつも中途半端でごめんなさい。
ギルドから出ると夜の帳が下りてきている。いつもなら仕事終わりで陽気な雰囲気も、昨日の一件が影響しているのかなんだか暗い。皆、いそいそと家に帰っている様子だ。
今日は早くから警らの人達も巡回を始めている。まだ解決したと決まっていないのだから当然か。
リッチやデミリッチについてちょっと調べてみたのだが、厄介な存在である。どうもヴァンパイアと同じように、特殊な倒し方をしないと復活するらしい。魔物って、ただ倒したらいいってものじゃないんだね。
ヴァンパイアはさすがに知ってる。日光に弱いとか銀製の武器でダメージ与えれるとか。でもその場で殺せない存在ではない。なんか上位のヴァンパイアはそうでもないのがいるらしいが、これはドラゴンってよりエルダー並みの存在らしい。……ヴァンパイアはまぁ、置いといて。
リッチって元は魔術師だったものが多く、その点はレイスと酷似していると思ってた。でも全然違う存在なんだよね。レイスは劣等生、リッチは優等生。又はレイスは失敗例、リッチは成功例と言ったところか。レイスは不死を得るための儀式に失敗し、幽体としてしか存在できず、リッチは肉体を不死化させる事に成功したものである。不死なだけで不老ではないから、身体は劣化していく。だからあんなガイコツになるんだね。しかし、生命の核を違う物に移してるから、肉体(?)を破壊されてもしばらくすれば復活してしまう。完全に消滅させるにはその核を移した物を破壊しなければいけない。
ということは、今回現れたリッチやデミリッチは何処かで復活するってこと? ヤバいじゃん……また襲撃されちゃうの?
そりゃあ、警戒体制解けないわけだわ。昨日の今日ですぐに同じやつが現れないとは思うが、デミリッチはどうなったのかわからない。イレーヌさんからの報告を聞かされてないのがもどかしい。
親玉が直接仕掛けてきたのか……考えたくはないが、デミリッチを使役するような存在がいるのか?
そんなの人に対処出来るの? 嫌な予感に不安が頭をよぎる。
すれ違う人達の表情も、なんだか暗く見えるのは私の心情のせいだろうか。なかには元気な人達もいて、笑いながら酒場に入って行く姿も見受けられるが。
精神の強い人も居るよね。それか、不安をかき消すために普段通りの行動をしているのか? 街の人達は正確な情報をまだ知らされていないはずだ。
街での事に森での事と、ギルドの職員として一番に情報を把握している者としては、不安になっていてはいけない。街の人達は正確な情報もなくウワサが尾ひれをひくときもあり、もっと不安なのだろうから。
考え事しながらだと、いつの間にかお店に着いちゃった。
うん! 美味しいもの食べて、楽しくおしゃべりしてこのモヤモヤを吹き飛ばしちゃおっ!
軽くほっぺを両手で叩いて、いざっ! 笑顔で私の戦場へ。
なんとなく、扉をそっと開けて中を覗いてみた。予想はしていたが、今日はこの時間なのにいつもの半分くらいしかお客さんがいない。マスターは料理してるみたいね。
いつものカウンター席に座り、
「マスター、いつもの燻製ちょうだい。エール酒と」
「おう、いらっしゃい。約束通りきたな。かけつけはいつものだけでいいのか? 昨日のワイン煮もしっかり仕上げてあるぞ」
手早くエール酒を出してくれた。それを一気にあおる。
「ぷはぁ〜、おかわりっ」
なんか、マスター呆れた顔してるんですが……
「どうした? フラれたって感じじゃなさそうだが。なにかあったのか?」
そう言いながらもマスターは仕事の手を緩めない。お待ちかねの魔物の魚卵の燻製とエール酒のおかわりもすぐ出してくれる。
「う〜ん……なんていうか、いろんな事あって気持ちがモヤモヤするっていうのか……なんか発散したい気分だったの」
「仕事疲れか。まだ若僧の域を抜けてないのにその辺のオッサンみたいになってるぞ。まぁ、ここはそういう奴らが集まってるようなもんだからな、色気なんて関係ないか」
ハハハと笑ってくれてます……ちょっと聞きずてならないんだけどっ!
「もうっ! 女の子だって、お酒で発散したり嫌な事忘れたい時だってあるんですぅ。1人の時は尚更……寂しさを紛らわせてる憂いな雰囲気をさらけ出して誘惑するんです〜」
燻製を一口齧り、風味を味わってからエール酒をゴクリゴクリとふたくち呑む。……至福。
「オッサンみたいに呑んでる女の子が、オッサンら相手にか?」
ぐぅ、そうきたか。そんなニヤニヤとして揶揄わないでほしいものだ。
「うぅ確かに……マスターのお店ってシブいどころが多いよね? たまに若いのも見るけど、親方連中と一緒だから大人しいし。こんな若い娘が来てるんだからちょっとはアプローチしてくれてもいいようなもんですが?」
少しふてくされたような表情を作り、マスターをジト目で見てみる。
「あ〜……俺の店ではナンパは諦めろ。ミーヤからナンパするのは大目に見てもらえるだろうけどな」
んっ? よく意味がわからない。少し悩んでいると、
「そういえば、昨日のレイス騒動は結局なんだったんだ? はっきりしたことがわからないから聞こうと思ってたんだ」
「ここだけの話、正直原因はまだ判明してないですね。強力な個体も出てきてたみたいですが、ちゃんと撃退してるんで被害は少ないはずですよ?」
「あぁ、それは聞いてる。いつも来る連中からは、レイスに追いかけられて死にかけたとか、家の中覗かれたとか言ってたな。他の店では店内で冒険者がレイスと暴れてたってのも聞いたな」
「それ、報告書で見ました。被害額を報酬から差っ引かれてましたね。暴れるところ考えたらいいのに。まぁ街全体でいえば、一般人に被害が少ないのが幸いでしたね」
「そこが気になってたんだよ。あれだけのレイスが襲撃してきて、それだけの被害しかなかったってことは、目的はなんだって話で持ちきりでな。神殿の司祭が何か知ってるんじゃないかとかな」
マスターは探るような目で私を見ている。流石に街の噂話は流れるのが早い。神殿のことまで流れてるんだ。
「噂話って怖いね。どんな事を言われるかわかったもんじゃないわ。どうせ尾鰭ついて流されるんだろうし。ギルドとしてはハッキリとしたことがわかるまでは、不確かな事は流さないようにしてますから、私からは知ってても言えないのが現状ですね」
毅然とした態度をとり、チラッとマスターを見る。なんかニコニコしてるんですが?
「なんで笑ってるんですか? なんかおかしなこと言いました?」
「いや、ちゃんと一人前っぽく仕事してるなと思ってな。感心感心」
「むー、まだ子供扱いしてっ。ちゃんと弁えてますよ。そんなペラペラと軽くないです」
ちびちび食べてた燻製の残りを口に放り込み、エール酒をまたあおった。
「すまんすまん。お詫びにこれは奢りだ。ワイン煮はもう食べるか? 今日は一夜干しのいいのもあるぜ。そういえば最近、お連れの娘連れてこねえな? 彼氏と上手くいってるのかい?」
「一夜干しは〆のご飯でいただこうかな。今はエール酒だから……野菜の和え物なんかある? ってか、なんでマスターがカレナの彼氏知ってるの?」
「野菜か? キャベツのピリ辛和えなんかどうだ? そうそうカレナちゃんだ。その娘の彼氏はディルムだろ? そこの親父がたまに来てるからな。女に入れあげてて困ってるとか言ってな」
「ピリ辛和えかぁ、エール酒に合いそう。それちょうだい。お父さんから見てもそうなんだ。カレナから色々とノロケ話を聞かされてるから、なんとなくわかるわ。昨日の騒動があったから、今日も連れ込んでるわよ。喜んで帰っていったもの。まったく……」
愚痴を言うと何故だろう、お酒が進んでしまう。おつまみの前に飲んじゃいそう。
「でも、ホント酒場の情報量ってすごいよね? 冒険者の人達からよく聞くけど情報の宝庫だわ。マスターからもいろんな話聞かせてもらってるもんね。よくそんなに覚えれるもんだね」
「これが仕事だからな」
おつまみも出てきて、取りとめのない話で盛り上がっていた。
やばい……死にゲーにハマって余計に寝不足になりそう……




