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2話

「ようこそ、ユーデリッヒの街へ。これ、あそこの冒険者さん達からの奢りだそうです」


 いつの間に戻ったのか、デイトンさんは冒険者達のところに混じっていたので、ニコリと笑顔で合図を送る。それを察した様に苦笑を浮かべながら、近くに居た冒険者さん達と数人でグラスを掲げた。

 お姉さん達は、キョトンとしながら、


「ここは変わった歓迎の仕方するんだな?」


 大剣持ちのお姉さんはそう言うと、私の持ってきたエール酒を一気に飲み干して、冒険者さん達に挨拶するようにグラスを高く掲げた。

 冒険者の皆んなもそれに呼応するようにグラスを掲げ、賑やかな雰囲気で笑い声が溢れてきた。


…………でも、誰も近寄ってこないけどね。


「いつもなら、新参の方達が来たら話す口実に絡んでくるんですけどね。何故か、今日は大人しいんですよ。だから代わりに、私がおしゃべりに来ました」


 大剣持ちのお姉さんと、細身のお姉さんの2人はお互い顔を見合わせて、プッと吹き出す様に笑い、エルフの子はキョトンとした顔で冒険者達の方を見た。

 細身のお姉さんとエルフの子も、私の持って来たグラスを受け取り、お姉さんは冒険者達に笑顔で会釈をし、エルフの子は、


「ゴチッ」


と、グラスを掲げた。


「なんだか気を遣わせたみたいで悪いわね。ありがたくいただこうかしら」


 そう言って細身のお姉さんも一気にエール酒を飲み干し、グラスを掲げた。

 豪快な呑みっぷりに、冒険者達も負けじとグラスを空にし騒ぎだした。

 でも、やっぱり誰もこないけど。

 

 折角、話をする権利を得たのだから、ゆっくりお喋りを楽しませてもらうとしますか。


「いい呑みっぷりですね。皆んな喜んでますよ。絡みにくる勇気はないみたいですけどね」


 クスッと笑いながら、冒険者達の方をチラッと見る。

 お姉さん達も肩をすくめて苦笑した。


「ご挨拶が遅れました。ここのギルドで受付を担当しています、ミーヤと申します。こちらの街は初めてですよね? 暫く滞在されるのですか? よろしかったら、滞在中楽しんで頂ける様に、相談や案内など何なりとお聞き下さい」


 営業スマイルで、そう挨拶をする。


「期間は特に決まってないね。うちのリーダー次第かな?」


 大剣持ちのお姉さんはそういうと、人差し指で天井を示す。

 あの人がやっぱりリーダーなんだ。


「ここしばらく、忙しかったからね。この街でちょっとゆっくりするのも、有りなんじゃない? 一応、届け物も持ってきたし。じいじ達からは急げとは言われてないんだし、持ってきたモノの鑑定、検証もすぐには出ないんじゃないの?」


 と、細身のお姉さんが言うと、


「そうね。ここはなかなか良さそうな街だわ。ギルドの簡易食堂で、このレベルなら期待持てるんじゃないかしら?」


 エルフの子供っぽい人がそう言った。食事が終わり、口元をハンカチで拭っている。他の2人はその様子にクスッと微笑み、


「私はミリア。見ての通り戦士だ。こっちが……」


 と、親指で隣の細身のお姉さんを指し、


「私は、シフォール。神官みたいなものね」


 そして、2人の視線はエルフの子供っぽい人に向いた。

 ジュースを飲みながら、その視線にめんどくさそうな表情で、


「ティッチ。……この見た目でわかる通り、エルフの血が入ってるわ。ハーフなんだけどね。背は少し小さいけれど、これでも成人女性だからね」


 向こうで聞き耳を立てていた冒険者が数名、噴き出すような音が聞こえてきたが、放っておこう。私もビックリした。

 

 エルフの成長速度と外見は、人間で言うと15〜18歳くらいまでは同じで、そこから外見的な成長は止まるらしい。個体差にもよるみたいだが、平均で300歳くらいまでは若い姿のままだとか。肉体的なピークが過ぎると徐々に老化が始まると言われるが、人の老化よりはゆっくりらしい。


 若い姿で長生きするって、羨ましいけど恋人としてはあまり欲しいとは思わないな。だって、彼氏は若いまんまで私だけ歳を取っていくんだよ。あり得なくない? おばさん過ぎた頃には、虚しくなって泣くわ。


 ティッチさんはエルフのハーフらしいが、どう見ても外見年齢が10歳位にしか見えない。本人曰く、成人しているとのことだが、15歳ってことはないだろう……ミリアさんやシフォールさんと同じくらいなら20歳くらい? 見た目、詐欺すぎるでしょう。

 向こうで噴き出していた人達がコソコソとなんか話している様を、ティッチさんは一瞥してから、ひとつ溜息をつき、


「こんな見た目だから、よく子供に見られがちだけれど、特に困った事もないから気にしないかしら。子供扱いされるとちょっとムカつくけどね。便利な時もあるのよ」


「困った事はいっぱい起こしてるじゃねぇか。いつも1人で彷徨くから、どんだけ人攫いに狙われたと思ってるんだ? 見た目、エルフの美少女が1人で路地裏とか、ウロウロするなっての」


 ミリアさんが苦言をこぼすと、


「あら? 美少女って褒めてくれるのね。でも、相手が勘違いして襲ってくるんだから、私は悪くないわよ。それにその度にそういうルートはいつも潰せていってるんだから、いろいろ貢献してると思うんだけど? もっと褒めてもいいのよ」


 ティッチさんはなんかドヤ顔で言い返しているが、シフォールさんも溜息混じりに、


「そうね。ティが騒ぎを起こして、街中に混乱が起きてから、私達が気付くって感じだけどね。面倒事を起こすってわかってて、放置してる私たちも同罪かしら」


 シフォールさんは呆れた顔でティッチさんを見て、また溜息をついていた。


 んっ? そういえば、ちょっと前にギルド内通信で、王都周辺の人身売買組織の減少による各地域の警戒と、活動把握の調査って連絡きてたけど、あなた方が関わっていたりします? 大物貴族と盗賊ギルドが粛清されたって聞きましたが。人身売買組織の減少は、ここの王国内だけじゃないから、かなり広範囲で潰されていってるみたいだけど、流石にこの人達だけの活躍ではないでしょうし、そこまで活動範囲広くないでしょ? それでも、そういう闇組織がなくならないんだから、世界の闇は深いわ。

 

 盗賊ギルドって言っても、本来は悪いことしているわけじゃないんだよ。治安維持の為に、街の暗部を管理している部署なんだから。やってることは怪しくみえるから、誤解されがちなんだけどね。その特殊な技術を使って、悪いことをしてる輩もいたりするから、いつまでたってもよく思われてないのが現状。

 今回は、盗賊ギルドの一部の幹部が不正で、かなり悪どい事を大物貴族としでかしてたらしいし。戒厳令が引かれてるみたいだから、市井の人には噂話もまだ出ていないみたいだけど、『人の口に戸は立てられぬ』って諺もあるように、時間の問題かもね。


 一部の人達のせいで、組織全体が悪く思われるのってやだな。受付ってのも、その組織の顔であるんだから、私も気をつけなくっちゃ。


 ティッチさんの話が何やら不穏な感じに……


「そうだぜ! あれは酷かった……ティがわざと連れ去られてから、アジトで監禁されるんだから尻尾を掴むには楽だからいいんだけどよ。ただ……街中の動物が一斉にアジトに詰め掛けるって、ナシだろ。私達が突入できないだろうが」


「イレーヌが突入できたら問題ないでしょ? 監禁のためのアジトの一角なんて、大した脅威にもならないわ。万が一危ないようなら、アノ子達を呼んじゃえばすぐに壊滅させ……」


 ミリアさんとシフォールさんは、ティッチさんの『アノ子達』って言葉に過敏な反応を見せ、


「街中でアレを呼ぶんじゃねぇ」

「アレはダメよ」


 と、同時に叫んで立ち上がっていた。

 ティッチさんは肩をすくめ、残念そうな表情で、


「可愛いあの子達の活躍を見てもらいたのが、親心ってものじゃない。まぁ、ビックリさせてしまうだろうから、街中では余程のことがない限りは呼ばないわよ。アノ子達を呼び出す時なんて、A級災害クラス以上の問題があった時くらいでしょ?」


 悪戯っぽく、クスッと笑っている。

 2人は、呆れ顔になり席に座った。

 A級災害クラスに対抗するって、何を呼び出すんですか? 話の流れから、ティッチさんの職業が解らないんですが? エルフって精霊術士が多いと思うのだが、街中の動物を呼び寄せるって、テイマーにそんな大規模な数、出来るなんて聞いたことがない。

 話についていけていない私は呆然とし、小声で呟いていた。


「なんか、すごくヤバいことやらかしてたってことは、わかるんですが……」


 小声で言った呟きだが、3人には聞こえていたようでキョトンと見られて、苦笑された。


「悪い悪い。ティの軽口から、つい話がノって脱線したな。……で? どこまで話してたんだっけ?」


 ミリアさんはそう言い、シフォールさんに問いかけていた。シフォールさんは口元に指先をあて、少し考えてから、


「確か、この町で少しゆっくりしようかって話から、自己紹介し始めたところだったかしら?」


 そうそう、それからティッチさんのやらかしの話に脱線したんでした。

 さて、ここからどう会話を進めようかしらね。冒険者には、独自のノウハウや秘匿する経歴などがあり、突っ込んで聞きづらい話ってのがあるからね。さっきの話なんか色々と聞きたい事はあるけれど、今は違うわね。日常会話って、知らない人とだと難しいわ。つい、馴れ馴れしく話してしまいそうになるもの。


「そうでしたね。滞在の話はさておき、先ほどギルドマスターと話に行かれた方が、リーダーさんですよね? 随分と魅力的っていうか、女の私でもドキッとしちゃうような人、初めて見ました」


 私が素直な感想を言うと、3人は微妙に苦笑いを浮かべ、


「あいつの仕事柄、対人関係になると好都合な能力だからな。初対面の人間には効果的面ってやつだ」


「ここでは、特に仕事はしないはずだけど……悪い癖がでなければね」


「どこでつまみ食いするかわからない」


 なんか、一癖ありそうな物言いに困惑顔になった。仕事柄って、リーダーとしてのだろうか? 軽装備な感じだったが、職業はわからなかったな。スタイルは良かったです。

 それに、ティッチさんの一言、『つまみ食い』ってなんだろう? 大食いキャラっぽくは無かったが?

 まぁ、本人と話す機会があれば話のタネになるだろう。

 

「ゆっくりされるとの話でしたから、のんびりと滞在の予定なんですね。皆さん、Aランクですよね? リーダーさんのギルドカードが金色でしたし、やっぱり皆さんも同じかなって」


「そうね。確かに全員Aランクよ。……受付なら知ってると思うけど、特殊なのは内緒ね」


 シフォールさんは最後の方の言葉を小声で言うと、ニコッと圧力をかけた笑みを浮かべた。

 周囲にはこの気配が伝わっていないようだ。一瞬の事だったが、背中に冷や汗が出ていた。ピンポイントで殺気に似た圧力を、一般人に向けないでほしい。心臓止まるかと思った。

 軽く涙目になったが、グッと堪えて、


「承知いたしました。ゆっくりこの街を楽しんでいただけるように、全力でサポートしますね」


 鼻息荒く、気合を入れた。


「それにしてもAランクの方が来ることって滅多にないし、私は初めてのことなんで、色々お話聞かせてくださいよ。ここではBランクの依頼だって全然見たことないから、高ランクのお仕事ってどんなのか聞きたいです」


 ジャブ程度に、冒険譚を聞かせて頂けるように話を振ってみる。

 シフォールさんが主に、話を聞かせてくれた。

 

 彼女達は定住している所はなく、もう5年以上諸国漫遊と言ってもいいくらいに、旅をしているらしい。


 冒険者は基本自由だ。しかし、初心者の頃はある程度実力をつけるまで、地元なりのギルドに定住しているのが普通である。ギルドお抱えになり、有事の際の戦力として期待もされるし、領主や貴族からも優遇されたりして、地元から離れたりしなくなる人達も多い。有名になれば、それだけ安定した収入が得られたりするからね。


 彼女達は結成当初から、実力のあるパーティーであったらしい。初めての依頼は、ゴブリンキング率いる集団の討伐だったらしく、初めての殲滅作戦であった為、連携がイマイチ取れずに、取りこぼしをして師匠に小言を言われたと愚痴っていた。


 ゴブリンキング率いる集団って、100匹以上のゴブリンがいるはず。しかも、キングの部下にはジェネラルやソーサラーという、高レベルのゴブリンも率いてるのではなかったか? 集団と言うより軍隊だ。普通はギルドでレイドが組まれて、討伐するような対象である。最低でも、Bランク相当の実力のあるパーティーがリーダーを務め、総勢20〜30名からのDランク以上の実力ある冒険者達に課すような依頼だ。

 それをたった4人で受けるなんて。依頼したギルドも何を考えていたのだろうか? その当時なら、明らかに冒険者なりたての若い女の子達だったろうに。


 そんな疑問を問うてみれば、師匠って人達がギルドマスターにゴリ押ししたらしい。しかも登録したてから、Aランク試験もクリアして飛び級でAランクになったとか。普通ではあり得ない事が出来る、その師匠達って何者なんでしょうか?

 他には、邪神崇拝の召喚儀式の阻止なんてのもあったらしい。これには古龍の協力も必要であり、頑固者で説得するのに苦労したとか。古龍って、ほとんど伝説みたいな怪物じゃないですか? 生息地でさえ、秘境と言われている様な所という噂ですが、行った事あるんですか? 諸国漫遊なんてレベルの旅どころではないじゃないですか……Aランク冒険者ってそんなレベルの依頼ばかりなんですか? 


 でも、Aランク昇格試験の内容は知ってるけど、Bランククラスのオーガ等を単独で討伐するとか、ドラゴンの素材の入手とかで、個人もしくはパーティーの高い実力を示すってのだったはず。

 

「お姉さん達の依頼って、もうAランクじゃないですよね?」


 ポツリと呟いてしまった。

 

 シフォールさんは、私から目線を斜め上に逸らし、ミリアさんは完全に顔を背けている。ティッチさんは、トテトテとカウンターに行き、何やら注文をしているようだ。

 規格外だって自覚はあるんですね……


「そうそう、面白いので言えば、ネームドって知ってる? 特殊個体のモンスターなんだけど……」


 シフォールさんが、話を逸らそうと変わったモンスターの話をし始めた時、上の階からギルドマスターとあのお姉さんが降りてきた。

 ギルドマスターは、私がシフォールさんと話をしているのを見つけ、


「なんだ珍しいな。随分と下が静かだと思っていたら、野郎どもが大人しいじゃねえか? 代わりに、お前が居るってのもどうかと思うけどよ……戻って仕事しろ!」


「え〜。これから面白そうな話聞かせてもらえるところだったんですよ! 私は、ここのギルドを代表して、この街を楽しんでいただけるように全力で接客していたんです!」


 まだまだ話し足りないのに、いいところで中断させられそうになり、フンすと握り拳を作り抵抗してみた。


 ギルドマスターは呆れた顔をし、一喝。


「やかましいわ! 仕事の話の方が優先だ。こいつらが暇になってから相手してもらえ!」


 ギルドマスターはそう言うと、リーダーのお姉さんの方に視線を向けた。


「ごめんね。そう言う事だから、少しうちの人達連れて行くけど、後でゆっくりお話ししましょうね」


 お姉さんは3人に目配せをすると、シフォールさん達は軽い感じで手を振って皆で上に行った。

 私はため息混じりに受付カウンターに戻り、カレナに愚痴っていた。


お読み頂きありがとうございます。

年越し仕事で、今日も夜勤だが暇を見ては編集し、サボりながらと不真面目な社畜でございます。

どのような感想でも頂けたら、脳内補完のポジティブ思考が歓喜すると思いますので宜しくお願いします。

次話が少し遅くなるかも。

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