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幕間2(3)

幕間2完結。


 街の少し上空で、3体の黒いボロを纏ったものが眼下の様子を窺っていた。


「冒険者以外に神官連中も出てきたか。勢いづかせるわけにも行くまい。我らも行くとし恐怖を撒き散らさねば」


 3体は別々の場所に降りていく。

 そのうちの1体は、冒険者が固まり次々と配下のレイスが消滅させられている一角に向かう。




 神官や盗賊ギルドのメンバーと合流していた3パーティーが、レイスを手際よく消滅させていってると、背筋が凍りつく感覚に襲われた。上空から恐怖の波動を撒きながらボロを纏ったモノが現れたのだ。

 彼らは瞬時に理解する。自分達では太刀打ち出来ないことに。

 この恐怖の波動は、ある程度の精神力があれば抵抗はできる。自分の技量に自信がある者ほど抵抗し易い。彼らも技量に自信がないわけではなかったが、現れたモノが異質すぎた。存在感がレイスの比ではないのだ。心が折られた瞬間であった。

 恐怖に固まってしまった冒険者達を見て、ボロを纏ったモノは哄笑していた。


「この程度の者しかいないとは愚か。主人も慎重になるほどであったからどれほどかと思えば……」


「やっぱりコソコソしてる奴がいるんだな? まぁ、テメエらが何狙ってるか知らねえが親玉捕まえればいいか」


 急にどこからか女性の声が聞こえてきた。自分の波動を受けて無事な者がいる事に驚愕を受ける。しかし、骨のありそうな者の出現に不敵な笑みを浮かべて、


「貴様こそコソコソしてないで出て来たらどうだ? 声をかけて来たと言うことは、奇襲するつもりもなく腕に自信があるのだろ?」


 3階建ての建物の少し上空から眼下を探す。冒険者らもキョロキョロしていた。

 すると、建物の間からタンッタンッとリズミカルな音が聞こえたと思うと、人影が屋根の上に現れた。


「出て来てやったぜ。他にもいるんだろ? サクッと終わらせてもらうぜ」


 大剣を片手に女が言った。ハーフプレートを全身に纏った戦士が、どうやってここまで登って来たのか? 魔法を使った残滓は見受けられない。

 大剣片手に、兜を被っていない素顔で不敵に笑み、


「かかってきな」


 半身に構え大剣の先をボロを纏ったモノに向ける。


「吐かせっ」


 素早く呪文の詠唱を終わらせる。レイスが使っていた呪文と比べるべきもない魔力が込められていた。

 主人からは出来るだけの破壊はするなと言われていたが、そのモノは焦っていた。大剣をこちらに向けられた際に感じた剣気が、恐怖を呼び起こしたのだ。リッチとなったこの身には、恐怖を起こさせる事はあっても恐怖を感じることなど主人以外にはなかった。

 その女を消滅させるつもりの魔法を放つ。特大の火炎球だ。

 女は臆することなく火炎球に向かって走った。


「危ねぇだろうが、こんなもんぶっ放しやがってっ!」


 そう叫ぶと、大剣を両手で握り火炎球に対し切り上げる。魔力を刃に纏わせわざと切れ味を落とし、火炎球を打ち上げる。

 上空に打ち上げられた火炎球は盛大な花火となった。


「馬鹿な、なぜ跳ね返せる……」


 通常では考えられないことであった。攻撃魔法というものは、概ね接触と同時に衝撃を撒き散らすものだ。反属性による相殺も可能ではあるが、同じ魔力量と質量がぶつかることで可能であり、戦闘中など瞬時の判断を要する場合などに、一瞬で演算出来るものなど皆無であろう。ならば、なぜ爆発せずに打ち返せたのか? 原理は簡単である。剣の表面に魔力を纏わせ切れ味を鈍らせるようにする。魔力には風属性を持たせ、固定するのではなく高速で流動させ空気の層を創り同化させ、軌道を変えただけである。

 一流の戦士でも難しいことを簡単にやってのける技量を持っているだけのことであった。


 動揺し動きの止まったリッチへ瞬時に接近し、その首に剣を突きつける。


「日頃の努力だよ」


 それだけ言うと一瞬で首を刎ねた。


(まさかこれほどの戦士がいようとは……迂闊であったわ。魔力も乱されており、報告もできんとは……)


 リッチは内心で主人に謝罪し、ボロボロと崩れていった。


 下にいた冒険者達は屋根の上で戦闘が始まっただろうことは理解していた。上空に激しい爆発が起こったからだ。しかし、それから何も戦闘の気配を感じられない。あの寒気のする気配も消えている。

 皆が屋根の方を見上げ、


「どうなった? 何が起きたんだ?」


 誰かが呟いた。その時、屋根の上から大剣を肩に担いだ女戦士が覗きこんできた。


「大丈夫か? こっちは片付けたから後のレイスは任すわ」


 それだけ言うと屋根に消えた。


 唖然とした冒険者達であったが、誰かが呟く。


「あれって、昼間のAランクパーティーのヤツじゃねえか?」






 街の中心辺りの路地裏で、女性2人が地面に手をつき呪文を詠唱している。子供と思わしき女性が、


「接触できたわよ。範囲と地脈は問題無いわね。地脈からの魔力量も問題無いわ。魔力操作の補助も……大丈夫よ」


「ありがと。じゃあ流すからパス繋げてね? …………やっぱ広いわね。行き渡らせるのにちょっと時間掛かるわ。操作は……問題無いわね」


 2人を中心に魔法陣が浮かび上がり、地面に消えていく。微かに光が漏れており、次第に範囲を拡げていった。






 街を展望しやすいように、上空にその女性はいた。魔力隠蔽と隠密の技能により、存在を認識出来ているものはいないだろう。


「下はなんとか大丈夫そうね。結界の準備も……あと少しね。さて、何処に居るのかしら?」


 両手を合わせ、呪を空に刻む。呪の紋様は足元に浮かび上がった魔法陣に組み込まれ、外側に紋様が足されて広がっていく。

 5メートルほどの大きさに拡がり、ゆっくり回転を始めた。魔法陣から微小の光の粒が街全体に降り注いでいく。


「どこの網にかかるかしらね~」


 女は随分と楽しげな様子で、魔法陣から眼下の街を眺めていた。


「……残滓発見~、神殿か。まぁモノがアレだからそう考えるか。シフォール、聞こえる? 準備できたら直ぐ張っちゃっていいわよ」


“わかったわ。もうすぐ全体が繋がるから足止めお願いね“


 頭の中に声が響く。魔力波を登録した契約陣の魔道具による念話であった。

 女は神殿に向け落下していく。





 神殿の中で1人の司祭が宙に浮いていた。苦悶の表情を浮かべ、身動きが取れなくなっている。全身に圧力がかかり握り潰されるようであった。


「どこにある? 最近に何者からか預かった物があるであろう? 寄越せば命は助けてやる」


 司祭から少し離れた場所で、漆黒のローブを纏ったモノが問いかけていた。


「知らん! 預かった物などないっ」


「では、質問を変えよう。最近この街の者ではないのが訪れなかったか?」


 司祭は握り潰されそうな圧力に耐えていたのだが、その質問に心当たりがあり、つい表情に出てしまった。


「ふむ……訪れた者はいるか。どれ、どんな奴か見せてもらうとしよう」


 漆黒のローブのモノは、司祭へ滑るように移動し頭に手をかざそうとした。


「あら〜、こんなところで妙なモノがいるじゃない? この規模の聖域じゃ、あなたにとってはなんてことはないでしょうけど、場違いよ」


 いつの間に現れたのか、3メートル程背後に女が立っている。この距離まで存在を気付かせなかった女に驚愕するも、たかだか人族の女1人に臆することも無いと冷静に観察した。


(気配は隠密を纏っているようだな。魔力は遮断されているようでわからないが、恐らく魔道具か何かか。服装からして軽装備。魔術を使える盗賊か軽戦士であろう。しかし、我の波動を受けても影響がなさそうであるか。油断は出来ない技量ではあるな)


 それだけ判断すると、片手を女の方に向け、


「お主の方が情報を持っていそうだな……1人でのこのこと出てくるとは、愚か」


 呪文詠唱なしで、手の先から魔力の紐が女を拘束するために飛び出す。


「初対面で強引なのは嫌われるわよ? まずは優しくエスコートすること」


 女はまるで、男が肩に手をかけてこようとするのを振り払うようなしぐさで、右手を軽く振った。ローブの男が放った魔力の紐が弾かれる。


「女、何をした?」


「言ったじゃない? 強引な男の誘いを振っただけよ」


 女の右手から銀色に光る糸が垂れていた。


「気の強い女を陵辱するのは嫌いではない。強引に組み伏せ、気が狂わんほどの快楽を与えてやろう」


 女の足元に突如、魔法陣が出現する。女を閉じ込めるように、魔法陣から赤い光の柱がたった。


「どうだ? 身体が疼いてきておろう? その陣の中では魔力を練ることも出来まい。その快楽と共に我の糧となれ」


「あら〜随分えっちな魔法陣だこと。生前はずいぶんと女遊びしてたんじゃない? そんなアナタにプレゼント」


 女は軽く指を鳴らす。すると、ローブの男の足元にも同じような魔法陣が浮かび上がり、男を包む。


「何っ?! なぜキサマがこれを使える? これは我のオリジナルだぞっ!?」


「簡単よ。コピーしただけだもん。そして、こんなことも」


 さらに指を鳴らすと、女を閉じ込めていた魔法陣が砕け散った。

 これにはローブの男も驚愕した。自身の力量に絶対の自信があり、並の術士など問題にしない存在のはずであったのだから。


「キサマ、何者だ?」


 ローブの男はそれだけ言うので精一杯であった。自身の魔法陣の効果か、快楽を感じるはずのない身体が快楽に包まれている。


「あなたよりも術が得意なだけよ。デミリッチさん」


 自分の正体さえもバレている。デミリッチは確信した。この女がアレを持っていると……しかし、この女は危険だ。この場をなんとか逃げ切り、主殿に報告するのが先である。


「ぬかったわ。まさかこれほどの者がいようとは」


 デミリッチは自身を拘束している魔法陣の解除を試みる。元は自身の魔法であるので簡単に解除した。

 神殿内の雰囲気が変わっている。聖域の力が増しているようだ。

 このままでは不味い。逃げる為の準備を進める。足元に魔法陣を浮かび上がらせ、さらに頭上にも大きな魔法陣を出現させる。


「のんびり見てあげてるわけないでしょ! 逃さないわよ」


 女も術式を完成させる。デミリッチの周辺に重力魔法が発動した。3倍の重力の影響がデミリッチにかかるが、発動していた魔法陣の魔力結界により阻まれる。デミリッチはニヤリと笑い、魔法を発動させた。

 女の魔法の影響で発動が遅れていたが、足元の増幅の魔法陣から頭上の魔法陣に力を流し込み、さらに詠唱を始めた。


「名残惜しいが、この場は大人しく立ち去るとしよう。最後に私の贈り物を喜んでくれたまえ!」


 魔法陣から周囲に魔力風が吹き荒れる。神殿内に魔力が満ち大規模な爆発が起こった。デミリッチは増幅の魔法陣に巧妙に隠していた転移陣を同時に発動させ、街からの脱出を試みていた。この爆発であれば神殿はおろか、半径100メートルは更地にしたことだろう。女もあの至近距離から防御陣を張っていたとしても、ただでは済むまい。


 転移先に出現した。


「なぜだ……」


 驚愕の表情になる。目の前にあの女がいたのだ。しかも転移先は街の上空ではあったが、当初の位置ではない。


「街全体に遮断結界張ったもの。あなたの魔法の影響も半減しているわよ。逃さないって言ったでしょ?」


「なぜあの爆発で生きている? あの周囲一帯吹き飛んだはず……」


 眼下の街を見下ろし、更に驚愕した。爆発の跡がないのだ。神殿も健在であった。


「神殿にいた時、すでに隔離結界を張ってたもの。ただの爆発でどうこうなるわけないじゃない? 中は流石にグチャグチャだけどね」


 女はずいぶんと愉快げに説明していた。


「ゆっくりとお話したいから、2人っきりになれるところに行きましょ。女好きでしょ? 楽しませてあげるわ」


 女が指をパチンと鳴らすと、2人の姿はかき消えていた。






 街の中心あたりの路地裏にいた2人の女性は上空を見上げていた。


「イレーヌはちゃんと誘い込んだみたいね、あとはこの結界内ならレイスも弱体化するから、残りはここの人達に任せましょうか」


「ちゃんと仕事してもらわないと困るわよ。いつも遊んでるんだから。美味しいとこだけ持っていくし」


「ティだって似たようなものじゃない」


 2人は和んだ会話をしながら路地裏をあとにした。




 明け方になる前にレイス騒動は鎮静化した。


時間かかりました。三者視点をちゃんと書けていただろうか?

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