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15話

お待たせしました。待ってた人はいるのか?


「柔らかっ! ほろほろと崩れる食感がたまんないわ。ワインで煮てるんだろうけど、肉に染みついてるこの香りはなに? ワインに負けじと肉を主張してくれてるわぁ。前に薄切りのすじ肉を焼いたの食べた時、噛み切れなかったし臭みがあったのに、全然違うものになってますね!」


 新しい食材を試食するとき、年齢層や男女による好みもリサーチしてる時があり、あの時は顎が痛かった。飲み込めなかったもん……


「香り付けは新しい香草を試したんだが当たりだったな。後は手間ひまかけた仕込みで食感を作ってる。もう少し煮込んで、明日はこれに特製のソースをかける」


「このままでも十分じゃないですか? 凝り性だな。でも、明日また違った風味を楽しめるんなら来なきゃ損ですね」


「ちゃんと来るんなら残しといてもいいぞ。ミーヤのその反応なら、売り切れ確実そうだしな」


「絶対ですよ。マスターはやさしいなぁ、気が利くし料理上手だし、こんないい人なのになんで独身なんですか? 奥さんもらって一緒に働くとかしたらいいのに」


 マスターはもう40歳になるというのに未だ独身である。以前、カレナの元カレの時に男性側の意見を参考に聞いてみた時に知ったのだ。彼女さんと別れたのも随分前と濁してたな。


「俺のことはいいんだよ。ミーヤはどうなんだ? 来る時いつもひとりだろ? ここに女性でひとりで来るのはミーヤと後数人くらいだな。遊んでばかりいないでそろそろ紹介しろよ?」


「言うほど遊んでませ〜ん。私のお眼鏡に叶うのがいないだけですぅ。マスターだって同じようなもんじゃないですか」


「この歳で、なかなか彼女なんて出来るわけないだろうが。まぁ、気になってる娘はいるが。仲良くはなってるが進展はしてねぇな」


「ほほぅ……どんなコですか? 気になるわぁ、教えてくださいよ」


「バカヤロウ、お前に教えたらどこに広がるかわかんねぇじゃねえか。今いい感じなんだから邪魔されたくねえわ」


 マスターもまだまだ若いね〜。人の恋バナはいい酒のつまみなのになぁ、と思ってるとすじ肉無くなった。お肉成分の補充にウインナーの燻製を頼む。今日はワインで飲もう。


「燻製か、作り置きが切れてるから時間少しかかるぞ。ワインでいくなら……すぐ出来るのは魔魚のサモを使ったカルパッチョを先につついたらどうだ?」


「じゃあそれお願い。魚には白だね」


 赤を飲み干し、すぐに白で口をすっきりさせる。飲み終えた頃に、サモのカルパッチョがきたんでまたお代わりだ。


 マスターは他の客の注文も聞いていたので、そちらの方に行ってしまった。


 カルパッチョを摘み、白ワインを堪能しながら店内を見渡す。

 今日も落ち着いた雰囲気で皆さん呑んでいる。

 珍しく冒険者が1人居る。見たことのない顔だ。ギルドに顔出してないってことは、通りすがりか依頼主と一緒か何かで、この街に寄ったのだろう。のんびりとご飯を食べてるようだ。知らん人だしほっとこ……

 それに珍しく、吟遊詩人が落ち着いた音楽を奏でているのが和むわ。今日の疲れを癒す心地である。

 カウンター席からテーブル席までは、そんなに離れていないので、他のお客さんの会話も聞こえてくる。少し耳を傾けてみよう。


「そう言えばよっ、聞いたか? なんでも森に巨人が現れたって話だぞ」


「あの森にそんなの居なかっただろう? どっからきたんだ? 誰からの話だよ?」


「木こりのジンからだよ。なんか奥に採取に行ったところ、冒険者に危ないからって止められたらしいんだわ。事情も教えてくれなかったらしいが、代わりに採取しといてくれるってんで帰ってきたらしいんだわ」


「冒険者が見張ってるんなら、まぁ安心か。しばらくすれば落ち着くだろ。それよりもよ、今日、薔薇小路に行ったらエロい姉ちゃん見ちまってよ」


「昼間っからどこほっつき歩いてるんだよ。……詳しく教えろよ?」


 森の話がもう出てきてるんだね。冒険者もいい判断してるじゃない。被害がないから大した騒ぎになってないのはいいことだわ。最後の話は聞かなかったことにしようか……チクるか? 

 いつの間にかマスターも戻って来ていて、ウインナーの燻製を出してくれる。ちょうどカルパッチョも無くなったし、次は赤ワインをおかわりして音楽を聴きながら舌鼓をうっていた。




 なんだか外が騒がしい気がする。マスターも気付いている様子だ。


「マスター、外で何かあったのかな?」


「ああ、なんか警笛の音も聞こえてるみたいだな。人を集めてるのか?」


「警笛? なんだろ? 見に行ってみようか?」


 素早く席を立つが、


「女の子が、なに野次馬根性出してるんだよ。危ないからやめとけ。すぐに誰かが教えてくれるよ」


 ほろ酔い気分で盛り上がりかけたのに、釘を刺されてしまった。

 舌打ちして席に座り直すと、扉をいきおいよく開けて、冒険者が入って来る。


「大変だ。街中にレイスが大量に現れた。危険だから戦えない奴らは外に出るなよ! 戦えるヤツは気をつけてくれ」


 そう言って店内を見渡した若い冒険者は、私を発見し親指をたてウインクしていた。


「なにそれ?」


 冷ややかにジト目で、文句混じりに問う。


「緊急クエストになるだろ? ギルドからの報酬、期待してるぜ」


 知りませんよ、只の受付嬢にそんな権限ないから。ボランティアですと内心で答え、ニッコリと、


「気をつけてね、頑張って」


 と、軽く手を振る。

 なんか、気合の入った声をだして出ていった。


「おいおい、あんなこと言って大丈夫か?」


「知りませんよ。私は『頑張って』としか言ってないし、『気をつけてね』も怪我しないようにって労いの言葉ですからね。何か勘違いしても自己責任でしょ?」


「いや、あれは報酬目当てじゃないだろ。変に期待させても大丈夫か?」


「ふぇっ?」


 変な声で返事しちゃった。よくわからないと、困った顔してマスターを軽く睨む。


「まぁアイツ、ヘタレだからなんもないか」


 1人で納得して、私を可哀想な目で見ている。

 ヘタレって腕前? レイス相手に焚きつけたってこと? 大丈夫かしら……ふと扉の方を振り返り、


「あっ、マスターどうしよっ!? 帰れないじゃん」


「しばらく様子見るしかないだろ? 他の客も帰れないことだしな」


 まだ呑み足りないが、帰り道が心配なんであと1杯だけ呑んでご飯にしよ。




 お腹も満たされ、しばらくマスターとおしゃべりしたりして、ぐでっとしてるとチラホラと帰る人たちが出てきた。様子見に行ってた客が、大通り沿いなら冒険者も多いし、今は落ち着いてるようだと言っていた。

 私も一緒に帰ろう。だいぶ遅くなった。


 帰り道に、見知った冒険者や警らの人たちもいて、私の家の方面は今は大丈夫らしいと聞いた。見回りついでと、同じ方角に行く冒険者2人に途中まで同行してもらった。レイスが出るかもしれないのに、か弱い乙女を1人で帰らせるんだと愚痴ってみるものだ。


 それにしてもなぜレイスなんて大量に現れたんだろ? レイスって元は魔法使いが術に失敗した成れの果てと聞いている。生前の記憶もあり、魔法も操れることから脅威である。もちろん、幽体であるから通常の攻撃では傷つけられないので、戦えるものも限定される。魔法の武器や魔力を武器に纏わせることができるものだけだ。


 家の近くまで何事もなく無事に来れたので、同行してくれた冒険者にお礼を言って別れた。

 ひとり暮らしの部屋に帰ってくると、寒い雰囲気に包まれる。3階から見える景色も普段とは違って見える。


「レイスに覗かれたりしたらやだな……」


 独言しカーテンを閉め、軽くブランデーを飲みベッドに横になる。なんだか無性に人肌恋しくなってきた。か弱い女性の1人暮らしに心細くなりながらも、いつの間にか眠りに落ちていた。




次回、幕間になります。

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