10話
裏口からコソッと事務所内を覗く。ギルド内が慌ただしい。
休憩時間を大幅に過ぎた私のせいじゃないよね? 今なら誰にも気付かれずに、受付にしれっと戻れるかもしれない……なんて甘い考えでした。
「ミーヤっ!! この忙しい時に何やってるの? コソコソしてないで早く手伝いなさい。詳しい事はカレナにでも聞いて。カレナ! ミーヤに説明してあげて」
補佐官に見つかった。説教が短い時は本当に忙しい時だ。
受付の方でカレナが手招きしてる。カウンターに大量の書類が積んであった。休憩処でも、冒険者達が集まって何か話し合ってるようだ。
「ほらっ、ぼさっとしない。ちょっと大変なんだから。この資料から大森林関係だけ抜きだして」
「お昼に行ってる間に何があったの? 冒険者までなんか殺気立ってるみたいだし。あんな人達、初めて見たわ」
カレナに問い掛けながら、資料に目を通して選別していく。
「私も、帰ってきたらこんな状況だったからびっくりよ。なんでもそこの森林で巨人族が出たらしいわ」
「えっ?! 今までこの辺で出たとか聞いた事ないじゃない? でも、なんでここまで大騒ぎになってるの? 集団で侵略でもされた?」
ちょっと場を和ませようとしたのに、呆れた顔をされてしまった。
「バカね、もっと大騒ぎになってるじゃない。はっきりとは分かってないみたいだけど、採取依頼のパーティーが異変として報告にきたらしいわ。なんでも特殊個体と思われる巨人が3体もいるらしいの」
「お〜特殊個体?! すご〜い! なになに? どんなの?」
思わずカレナに詰め寄る。
「知らないわよっ。ほらっ、手が止まってる。何呑気なこと言ってるのよ? 特殊個体が現れるのって、何かしらの異変の前兆だって言われてるんだから。近隣でそんなの出たなんて大変なことよ!」
特殊個体は、どの種族でも現れることがある。たとえゴブリンであっても、脅威になり得るのだ。
数百、数千に1体現れることがあるらしい。能力は種族により異なるが、総じて高い知能を有し、固有能力を持っていると聞いている。そういえば、シフォールさんから聞きそびれていた“ネームド“ってのも特殊個体って言ってたっけ? 詳しい事を聞けなかったのが残念だが、今回の件の参考になるんじゃないだろうか?
「大森林の資料を調べてるって事は、フォレストジャイアント? でもあそこ遠いよ? 今までそんなのが移動してきてるなんて報告も入ってないじゃない?」
「そうね、外見はそうだったらしいわ。ただ、全身刺青で、2回りも大きかったらしいわね。だから特殊個体として調べてるみたい。巨人族の中で刺青なんて、伝承にあるストームジャイアントくらいしか思い浮かばないわね」
「そんなのいたんだ。物知り〜でも、3体だっけ? 森で何してるのかしら?」
「さぁね。なんか、別行動してるらしいから人手が足りないって、1人が応援を呼びにきたみたいよ。走って帰ってきたみたいだから、あそこでのびてるわ」
カレナはそちらに目線を向けて、私に教えた。
奥で床に寝転がってるわ。森林まで確か、徒歩で鐘一つ分の時間じゃなかったかしら? 無理……すごいな冒険者の体力って。
「あの人のパーティーって探索組だったよね? 6人だっけ。 確かに人足りないね。もう誰か出たの?」
「パーティーとしてではなく、個別で4人程行ったらしいわね。探索、捜索が得意な人達がね」
「じゃあ、次に報告が帰ってきたら何かわかるか。でも夜になりそうだね。なんか今日って調べ物ばかりしてる気がするなぁ」
いつもはしない事務仕事って、目が疲れるし肩が重くなっちゃう。溜め息をついて愚痴っていると、
「ほらほら、どこまで纏まってる? 次の情報までに、今までの報告で似た様なのがないかも調べないとダメなのよ。類似するものは全て洗い出ししてちょうだい」
補佐官が肩を力強く揉んでくれている。どこにそんな握力を隠してたんですか? 痛い……
「補佐官〜そのジャイアントって森で何してるんですか? 何か被害があったんですか?」
肩揉みをやめて、分けた資料を確認しながら、
「そうね、今のところ森を荒らしてるくらいかしら? 何か探し物をしてるらしいって、報告もあるけど確認は取れていないわね。気になることもあるけど、次の報告待ちね。討伐も視野に入れないといけないから、冒険者達に選別させてるわ」
「あ〜だから、あんなに殺気立ってるんですね。巨人の討伐経験のある人いるんですか?」
「貴女達が来る前に、ヒルジャイアントが現れたことがあったのよ。その時は1体だけだったからまだマシだったかしら。それでもBランクとCランクの混合10名だったわね」
「そんなに強いんですか? 今いる冒険者総動員してギリじゃないですか?」
計算が早いですね、カレナさん。今この街にいるのは、Bランク2組9名、Cランク5組24名、Dランク4組23名いる。E、Fランクは除外だ。B、Cがメイン攻撃隊としてDがサポート、1体あたり10名程だが、相手は特殊個体と思われるので危険度は上がるだろう。
「そうね。こんな時になんだけど、今回はタイミングが良かったわ。彼女達が来てるのは助かるわ」
補佐官はなんだか嬉しそうだ。
「補佐官? あのお姉さん達のこと知ってるんですか?」
「それはもちろん。上層の人間には、ある程度話はまわってくるわよ。ただ、話せないから聞き出そうとしてもダメよ。知りたければ、もっと頑張って昇任しなさい」
カレナと視線を合わす。お互い考えてる事は一緒のようだ。カレナが先に口にする。
「私は無理ですよ。家庭を作って寿退社する予定ですもん。ミーヤは今は1人だから、上を目指すのは最適じゃない? 出来る女性はモテるわよ〜補佐官もそうでしたもんね〜?」
はい?! まさかの裏切りっ!
「ちょっと? 『でした』ってなんで過去形なのよ? ここではそんな浮いた話出てないけど、王都に行った時はお誘いあるのよ。バツはついてるけど、子供だっているんだから。王都の学院に通ってるからなかなか会えないけどね」
「えっ?! わたし初耳ですけど、本当ですか? カレナ知ってたの?」
カレナはしてやったり、て顔してる。
補佐官は溜め息ひとつつき、
「聞かれてないことベラベラというわけないでしょう。カレナからは、結婚について相談にのった時に話したのよ。ミーヤもいい人出来たんなら、人生の先輩として相談乗るわよ」
カレナが結婚? その話も初耳なんだけど。
唖然とした表情でカレナを見つめる。
「けっ、結婚って……もうそんなとこまで進んでたの? まだ付き合って3ヶ月じゃない……ディルムとの仲を邪魔しないように気を使ってたら、まさか……そんな……」
ショックで俯いた私に、
「バカね。まだに決まってるでしょ。ディルムの将来性も考慮して候補にしてるところよ。乙女の盛りはあっという間なんだから、ちゃんと将来設計は考えとくものよ。その為に料理や、家事全般できるようにしてるんじゃない。ミーヤって、不器用だからその辺がね……だ・か・ら、補佐官みたいに仕事のできる人になれば、いい人が寄ってくるわよ。ねっ? 補佐官もそうでしたもんね」
「あら、料理とか人並みにできるわよ。ミーヤは確かに不器用よね。料理が出来ないとは思わなかったけど、実家では教えてもらわなかったの?」
「家では、仕事の手伝いとかして帰ったら、すぐ寝転がってましたもん。疲れてそんな気力なかったです」
カウンターに突っ伏し、のの字を描く。
「甘やかされてたのね。優しいお母さんじゃない。それで喧嘩して一人暮らしって、甘えたの典型的な我儘娘ね」
補佐官は腕を伸ばして突っ伏している私のワキをくすぐってきた。
「アヒャッ!?」
変な声出て、飛び起きた。
「何するんですか〜ワキはダメですよっ、ワキは!」
抗議虚しく、頭にチョップをくらった。
「貴女はズボラだけど、意外と気立いいんだから。頭だって悪くないんだし、もっとシャンとしたら魅力的に見えるわよ」
褒められてる? おだてられてるだけ? なんだか疑心暗鬼で、
「ム〜ッ……」
ふくれっ面になった。
そんな私を2人して微笑んで見てる。
「はいはいっ! ちょっとは気分転換になったかしら? まだまだ資料は纏まってないからもう少し頑張って」
補佐官はそう言い、事務所内に戻っていった。
「さぁ、頑張ろうか? ミーヤもふてくされてないで頑張ろ」
「いいもん。お土産買ってきてたけど、1人でやけ食いするもん」
「えっ?! 何? 何買ってきてくれてたの? 私にもちょうだいよ〜」
無駄口を叩きながら資料整理を進めていった。




