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第一話 夢の中の少女


 『今日は私と一緒に居てくれてありがとう……』


 夕暮れ時の河原の土手。

 目の前には白いつば広の帽子にワンピースを着た幼い少女がいる。

 彼女は目を潤ませ悲しそうに俺を見つめている。

 そうか、お別れなんだね。


『これを持っていて、いつかあなたが困った時には私を思い出して……』


 少女は俺の手の平の上に何かを乗せ握らせる。

 手の平を開くとそこには紅く透き通る宝石があった。

 楕円形の美しい宝石、知識が無くてもこれはガラス細工ではない事がありありと伝わって来る。


『さようなら、またいつか会いましょう……』


 少女の身体が徐々に透けていく。

 そしてすぐに彼女に姿は俺の前から消えて無くなった。


「待ってくれ!!」


 俺は勢いよく上体を起こし右手を突き出していた。


「あれ? 今のは夢?」


 俺の目には幾度となく見慣れた部屋の景色が飛び込んでくる。

 案の定俺が今いるのは自分のベッドの上だった。

 

 この夢を見るのは何度目だろうか、十歳ころから見るようになり最近はかなり頻繁に見るようになっている気がする。

 しかし俺にはあの近所の河原であの白い少女に遭った記憶が無い。

 夢であるからには別に記憶を完全に再現するとは限らない。

 もっと奇想天外で有り得ない事が起こる事も珍しくない。

 確かに夢であることには変わりがないが、しかしこれが夢ではないという確信が俺にはあった。


 枕元にあるちいさな収納の引き出しを開けると中には紅い宝石があった。

 もちろんこの宝石は俺が買ったのでも家族や友達から貰った物でもないしそんな記憶も無い。

 これこそ夢の中であの少女が俺に手渡してくれたものと瓜二つなのだから。


「恭ちゃん~~~美鈴ちゃんが迎えに来たわよ~~~早くおきなさい~~~」


「分かった!! 今行くよ!!」


 階下から実におっとりとした声が響く。

 声の主は俺の母さん静子だ。

 いい加減名前を呼ぶ時の『ちゃん』付けは止めて欲しいんだがなぁ、俺もう高校生だぜ?

 何はともあれ大急ぎで学生服に着替える。

 鞄を持ちあとは下に降りるだけだがふと先ほどの宝石が気になった。

 たまには持っていこうか、俺は引き出しから宝石を取り出し胸ポケットに入れた。

 しかしこの時どうしてそんな気になったのだろう、ここ数年見る事すらなかった宝石を持ち出すなんて。

 おっと、もの思いに耽っている場合では無いな、急がないとアイツがうるさい。


「ちょっと恭!! またギリギリまで寝ていたの!?」


 ほら来た、階段を降りてすぐの玄関で腰を手に当て仁王立ちしている少女がいる。


「仕方ないだろう、俺は朝に弱いんだ、幼馴染みなんだから知ってるだろう?」


「そう言う事じゃないでしょう!? 私たちはもう高校生なんだからもっとシャキッとしなさいって言ってるの!!」


「あーーーもう、うるさいなぁ……」


 このショートカットの気の強い女は御堂美鈴、近所に住む俺の幼馴染だ。

 毎朝俺を学校に行くため迎えに来る。

 別に頼んじゃいないんだがな。

 それだけじゃない、事あるごとに俺に構ってくるので正直ちょっとうざったい。

 しかしこんな気の強い跳ねっ返り娘の美鈴であるが、学校の男子からの人気は高い。

 幼馴染みの俺から言わせてもらっても確かに目はクリっとして大きく、目鼻立ちもまあ整っている。

 告白も量の手の指で足りない程されているらしいが何故か全て断っているらしい。

 何故だろう?


「その様子だとまた朝ごはん食べてないでしょう!!」


「ああ」


「恭ちゃん、朝ごはん抜きは身体に悪いわよ~~~、これだけでも食べて行きなさい~~~」


 母さんが皿に載った食パンを玄関先に持ってきた。


「ありがとう、もう行くわ」


 俺は食パンをふんだくると急ぎ靴を履き玄関から飛び出す。


「へへっ、お先!!」


「あっ、待ちなさいよ!!」


 食パンを咥えたまま俺は猛然とダッシュし美鈴を置き去りにした。

 美鈴の奴は虚を突かれて出遅れ、必死に俺を追いかけて来る。


「ふ・ざ・け・ん・な!! 迎えに来た私を置き去りにするとか!!」


「わわっ!! もう追い付いて来やがった!!」


 美鈴が鬼の形相で追いかけて来る。

 さすが陸上部の期待の新人、脚力と体力が半端ではない。

 まあこれが俺の朝の日課、何時もの日常だった。


 しかしその日の内にこの日常ががらりと変わってしまうとは誰が予測できたであろうか。

 そう、《《アイツ》》に遭うまでは……。

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