序章
この世の中に、今どれくらいの物語があるんだろうか。
物語は、色々な形を使って僕達に色々な想いをくれる。
時には泣いたり、笑ったり、怒ったり……。
主人公を通じて成長して、ヒロインを通じて想い合う力を信じ、周りの仲間達を通じて、理不尽な壁にぶち当たっても挫けない心を学ぶ。
僕は、また1つ本を閉じ、思いに耽った。
とてもいい話だった…。
物心が着いた頃から、僕はよく物語を読んでいた。
絵本に始まり、本を読み、映画やアニメを見て、ゲームをして。
1つが終わる度に虚しい気持ちになった。
物語の主人公はその中でしか生きられない。
現実に戻った僕はまた1つのモブに戻る。
想像の世界では、僕はミステリー小説の探偵にもなれた。ファンタジー小説の勇者にもなれた。恋愛シミュレーションゲームでは何の変哲もない主人公なのにとてもモテるし……。いや妄想ともいうけど。
「主人公になりたいなぁ。」
本を閉じ、お気に入りの音楽を聴くためにイヤホンをつけ直し、歩き出す。
叶いもしない願望を口に出すくらい、僕は飢えていたのかもしれない。
「さっきの物語はオチがアレだったけど、途中までの過程はすごい良かったよなぁ…僕だったらあの時の主人公の選択肢をあっちにしておけば…あ、でももしかしたらこっちの選択肢をあっちにしとけば……。」
そう、僕はすぐ妄想に耽る癖がある。
周りの状況も、周りの声もわからないほど、深く妄想する。
そして、次の瞬間、世界が揺れた。
凄くゆっくりに感じる…。
これ、走馬灯っていうんだっけ。確か過去の経験から、自分が助かる方法を探すとかってやつか…。
あ。でもこれよくある転生モノだったら導入シーンなんじゃないか?
よかった…。現世ではモブ中のモブだったし、転生したら大体凄いスキルを使えたりする主人公になれるし…。
あ、でもいつも導入部分気になってたんだよな。人に迷惑かけずに転生したいなって。
トラックに轢かれると、トラック運転手に迷惑かけるし…。
ゆっくりした世界から視界を取り戻すとどうやら階段を落ちてるみたいである。この時間だから人も少ない。
これなら、安心して転生できるな。
僕の走馬灯は最早助かることより、次の世界への想いに馳せていた。
1日1話更新します。
末永くお付き合い下さい!