クリスマスSS ポーの生誕祭2 (後編)
今日中に後編をアップすると言ったな? すまんがアレは嘘だ。
いや、ワンチャンロスタイムでまだクリスマスの可能性もあるのでは?
……申し訳ありませんでしたぁ!!!! 続きです。
『はぁ……。むっ』
深くため息をついたその人物は、無意識に自分から漏れたそれ気づいて驚いた顔をする。
眉を上げ目を丸くするという、ともすれば滑稽なその表情もであるが、彼女がすることで人を惹きつける一種の芸術であるかのように完成されたものに昇華される。
左右対称の柳眉に、常に潤んだような大きな眼。通った鼻先に、ぷくりとやわらかそうな唇は瑞々しく濡れている。絹のように滑らかな肌、同じく絹のようにサラサラとした髪。
それらが黄金比と呼ばれる最も美しい比率で配置されている。
その存在自体が計算し尽くされた絵画のようであるのに、更には悪魔的な妖しいオーラを纏っているのだから、凡庸な人には抗う術もなく魅了される事だろう。
まぁ悪魔的ではなく悪魔そのものなのであるが。
『まるで人間のようだね?』
彼女は肩をすくめて取り繕うように独言つ。
自然と人間のように振る舞う自分が妙に恥ずかしかったのだ。
自分は日の本で顕現し生まれ落ちてから一度として人間であったことなどないというのに。
まぁ、生まれた時はルナ・インヴァイトなどという名前でもないし悪魔でもなかったが。
そもそも肉体を持たない彼女には呼吸の必要がない。酸素が必要ないからだ。
さらには肉体がないのだから筋肉の緊張というものもない。
だから酸素を補給して緊張した筋肉をほぐそうとする、溜め息という生理的な反応も必要ないのだ。
『四六時中、彼と一緒にいるから感化されたのかな?』
そう言いながら彼女は取り憑き先で、命のやり取りの対戦相手たる幼女の姿を思い浮かべる。
偽悪的に振る舞う事で格好をつけている彼であるが、姿形が可愛らしい幼女のそれであるため背伸びしているように見えて、微笑ましい。
まぁ、その振る舞いに時たま本気でイラッとすることもあるのだが。
『うん。悪魔たる僕にため息をつかせるような言動をする彼が悪いね?』
日頃から悪魔の自分に臆するどころか寧ろ揶揄するような言動をする彼であるが、ときたまこちらがついていけない程にテンションが振り切れる時がある。
特に彼の妹が絡むともうダメだ。
毎度毎度怒涛のように妹を褒めそやかす言葉が永遠と続き永遠と聞かされる。
他の人間は彼が言葉に出したものだけ聞けばいいが、自分は彼が思考した部分も聞かされる。彼がこちらに聞こえないように思考をシャットダウンしてくれればいいのだが、むしろ彼はこちらに聞かせようとしているため全てを聞かなくてはならない。
こちらから止めようものなら、妹の素晴らしさについて更に幾度も演説されることとなる。
いくら悪魔でも、永遠と同じ話をそれもついていけないテンションで繰り返されれば疲れるのだ。
『斬新な悪魔の撃退法だよね?』
古今東西シスコンぶりを持って悪魔を撃退した人物があったであろうか?
もしかしたら自分は歴史的な快挙に立ち会っているのではないか?
惜しむらくは自分が撃退される側であるということか。
『本当に彼は興味深いね?』
そもそも、自分の命を狙っている悪魔と普通に接することができる事自体が異常だ。
言うなれば常に喉元にナイフを突きつけている人物と笑顔で雑談ができるという事なのだから。彼の特異性は永く人間を見てきた彼女を持ってしても面白い。
『だけど、僕に対して畏怖の感情が全くないのは納得がいかないね?』
むしろ、舐められていると言ってもいい。
まぁ、色々な葛藤の末の態度だとわかっているが、納得できるかどうかはまた別だ。
なんだかんだと馴れ合ってしまている自分にも問題があるかもしれない。
『だからまぁ、こうして偶には距離をおいた方が息抜きができるね?』
まるで熟年夫婦のような結論に至ったルナだが、彼女の言う通り今は取り憑き先であるキキから離れて一人でスラムを散歩中なのだ。
彼女が彼の転生に合わせてこの世界に着いてきたのは、彼を監視するという名目であった筈で、それこそ24時間つきっきりである必要があるのだが、事故死などを防ぐ加護を与えてからは割と気楽にそばを離れたりしている。
なんなら目を離しても大丈夫なように加護と言う名のセフティーを設けたと言ってもいい。
ずっと一緒にいると気疲れしてしまうと言う理由からだ。
彼の魂は欲しいし、虎視眈々と狙ってはいるが、この世界にこれたことで焦る必要は無くなっている。あれば目的を達成するための大いなる助けになるので諦めるつもりもないが。
『おや?』
そんなことをつらつらと考えながらスラム上空を漂っていると、ふと気になるものを見つける。スラムにたつアパートメントのでも、歴史が古い方に入る建物の入り口で二人の女が問答をしているのだ。
「ねぇ、頼むよ。またお金がなくなって食べ物が買えなくなっちゃったんだよ。だからさ、お金を貸しておくれよ」
それは年若い娘とそれに縋り付くように金の無心をする中年の女であった。
「またそんなことを言って! この前お金を渡したばかりじゃない!」
どうやら縋り付く女は何度も金の無心を繰り返しているようだった。
『ふむ?』
しかし、ルナはその光景を見て首を傾げた。
自分がこの光景の何が気になったのかわからなかったからだ。
「そう言わずにおくれでないかい。たった一人の母親じゃないか」
どうやらこの二人は母娘のようだ。
母親が娘に金の無心。それ自体はスラムでは珍しくはない。
むしろ有無を言わさず奪っていかないだけ良心的だといえる。
「私だって本当に食べ物の為にお金を使うんだったら文句は言わないわよ」
娘が諭すように母親に言う。だがそこには諦めのような物が含まれている。
言っても聞かないだろうという諦観だ。
「ねぇお母さん? お父さんも死んじゃって長いから、お母さんの恋愛にとやかく言う様なことはしたくないけど、あの人はやめた方がいいんじゃない? お金を貢ぐだけになってるじゃない」
それでも肉親の情からか、懇願するように娘がそう告げる。
それを聞いた母親はちらりと自分の部屋があるアパートの方をみた後、激昂したように大声を叫ぶ。
「何言ってんだい! あの人だけが私をわかってくれるんだよ! こんな私に優しくしてくれるのはあの人だけなんだ!」
突然声を荒げる母親を見て娘は声を失う。
『なるほど』
ルナは今のやりとりを見て自分が気になったものを理解する。
娘から逸らした時にはっきり見えた。気になるのは母親の目だ。
情けなくも娘に金の無心をし、あまつさえそれを男に貢いでいると言うのに、その目は争う者の目をしている。理不尽に対して憤り、そして打開しようとしている者の目だ。そしてそれは多分部屋にいるであろう人物に向けられている。
その闘う者の目は、それは先ほどまで考えていた自分の取り憑き先の彼の物に似ているのだ。それがスラムで見るには、とても珍しいものだったので気になったのだ。
「金だ! 金を寄越しなよ!」
なおも叫ぶ母親に娘は悲しそうな顔をして、懐から金の入っているであろう袋を渡す。
わざわざ袋に入れているところを見ると、この結果を娘も予想していたのだろう。
「このお金はね? 困っているならって彼がくれた物なんだ……」
よく見ればそう言う娘の方も気になる点があった。
母親がボロと言うほどではないが、使い古された服を着ているのに対し、娘の方はとても良いものを着ている。スラムにいて、そして母親を見ていなければ彼女がスラムの住人だとは誰も思わないだろう。
そんな娘が差し出した金の入った袋を、母親は瞬きほどの一瞬だけ躊躇い、そして笑顔を浮かべながら奪い取る。
「ありがたいねぇ! それでこそアンタを産んだ甲斐があるってもんだよ!」
その言葉を聞くと娘は悲しそうに顔を歪める。
「それじゃあ、まるでお金のために私を産んだみたいだね?」
「…………」
俯いてそうこぼす娘に母親は目を見開き声を上げようとするが、続く言葉に口を閉じる。
「本当はね? 今日ここにくる筈じゃなかったんだ。と言うよりもう此処にはこないつもりだった」
娘の告白に母親は押し黙る。
「彼の兄弟がね? ずっと私と彼の結婚を反対してたんだけど、最近になって認めてくれる様になって……。そうしたらトントン拍子で結婚が決まったんだ」
俯いたまま、めでたい筈のことを言う娘に、母親は再度驚きに目を見開くがその表情は喜色に染まっている。だが俯いたままの娘はその表情を見ることはない。
「でも、彼との結婚の条件がもう、お母さんと会わないこと」
母親の息をのむ音に娘はますます顔を上げられない。
「彼の家は旧家だから、親族に出来損ないがいるのは困るって……。彼は構わないって言ってくれるんだけど、やっぱり対外的な立場が悪くなるみたいで……」
出来損ないという言葉は、彼のことを心酔している? 溺愛している? 娼館の娘のフレアに聞いた言葉だ。獣人でありながら獣人の特性を一部しか持たず生まれたか、もしくはその種族が求める特性でなかったか。その様なものを指していう言葉だったはずだ。
そんな差別的な言葉を母親に向ける娘の声は震えている。
「だから、もうお母さんに会わない方がいいって。あっちゃダメだって」
それを聞いてむしろ母親は優しく微笑む。なぜならそれでも娘は自分の前にいるのだから。
「あのね? 本当はね? 今日結婚式なの」
娘の突然の報告に母親は歓声をあげそうになるが慌てて口を抑える。
「絶対にお母さんには言っちゃダメだって言われたんだけど、それでもお母さんに来てもらいたかったから……。だから彼に説得してもらって、条件を出してもらったんだ」
___金を用意し、それを無心しなければ。
娘の婚約者の親族はそう条件をつけた。
それはスラムの人間が金を前にして求めないはずがないという侮蔑が多分に含められたものだった。条件は満たされないと思っているがゆえに出された物だ。おそらく手切金も含まれたものだろう。
「だからね? お母さん。そのお金を返してくれれば、そんな事なかったことになってね? お母さんも結婚式来てもらえるんだよ?」
だが娘は例え馬鹿にされても見下されても自分の母親に結婚式に来てもらいたかった。
育ててもらった母親に自分は幸せだと伝えたかったのだ。
それを聞いた母親は愛おしそうに柔らかく微笑み、一粒の涙を流す。
だが、やはりそれを娘が見ることはない。これから先ずっと。
母親は息を大きく吸って、顔を歪めて怒りの表情を作ると叫ぶ。
「なんて親不孝な娘なんだ! 実の母親を出来損ない呼ばわりした上に、結婚式を黙ってるなんて! しかも金を返せだって?! 馬鹿にするんじゃないよ! アンタは自分が出来損ないじゃないからって私を馬鹿にしているんだ、そうなんだろ!」
自分の思いを踏み躙るかのような母親の叫びに、娘は顔を上げて醜く歪んだその表情を見る。そして自分の努力が無駄であったことを悟る。
例えそれが母親の思い通りの結果だったとしてもそれに気づくことはない。
「金は返さないよ! 金を持って来るからこれ迄我慢してきたけど、アンタを見てるとイライラするんだよ!金をよこさないなら、もう、アンタとは親でも子でもない! 2度とその顔を見せるんじゃないよ!」
そう言いながら母親はアパートの中に入っていく。
娘との訣別を決定的なものにするかのように大きな音を立てて扉を閉めながら。
それを見た娘はしばらく佇んでいたが、ヨロヨロとその場を立ち去る。
その先には彼女を心配そうに見ていたタキシードを着た青年が待っており、その横には監視でもしているかのような鋭い目つきの運転手が控えている。
青年は娘に駆け寄ると、崩れ落ちそうになる娘を支えて車に乗り込む。
それを上空から見ていたルナは向かう先に教会があることを確認できた。
本当にギリギリで娘は母親に会いに来たようだ。それだけ親族の説得に時間がかかったということだろう。
ルナは車が見えなくなってもそちらの方を眺めていたが、暫くすると母親がいるであろうアパートの一室に侵入する。
そこには先ほどの母親と、ひとめ見ただけでろくでなしだとわかるような獣人の男が話をしていた。
「しかし、お前も酷いよなぁ。俺が死んだことにするなんてよ。俺はれっきとしたあいつの父親だぜ?」
ニヤニヤとしながらそういう男に母親は冷めた表情で言う。
「そんなのわかるもんか。アンタに何人の相手をさせられてと思ってんだ。金のためにさ。誰が父親かなんてわかりゃしないよ」
吐き捨てるように言いながらも、女は先ほど娘からもらった金が入った袋を男に投げ渡す。
「へへへ、それもそうだな」
男は下品に笑い袋の中身を確認する。
「おぉ、こりゃ随分たんまり入ってるじゃねぇか」
「……その金があれば、約束の額に足りるだろ? これでもう私らとアンタは赤の他人さ」
涎を垂らさんばかりに喜んでいると男とは対照的に、女は侮蔑の眼差しを男に向けている。男はしばらく袋の中の金を数えて嬉しそうにしていたが、何かを思いついた表情をすると、ニチャリと笑みを浮かべた。
女はその表情に嫌な予感を覚える。
「あぁ、そうだなこの金額で約束の金額は達成だった筈なんだけどよぉ、足りなくなったんだわ」
男は真剣そうな声音でそう言うが、顔はいやらしく歪んでいる。
「なにを……いってるんだい。その金額を稼ぐのに私がどれくらい苦労したか!」
女は恥も外聞も捨てて、文字通り身を削ってまで稼ぎ、足りない分は申し訳なく思いながらも娘からもらった。それもこれもこの男に金を返すためだった。
相手の男は金貸しであった。
思えば自分の人生が転落したのはこの男に金を借りたところから始まった。
初めは生きるためだった。当時は出来損ないの自分を雇ってくれるところもなく、その日を生きる食い扶持を稼ぐこともできなかった。
そんなところでこの男と出会ったのだ。
あとはどこにでもある話。借金の返済をするために落ちるところまで落とされた。
何度も命を絶とうと思ったが、それでも生きてきたのは娘のためだった。
父親もわからない娘であったが、それでも確かに自分の娘で、愛情があった。
自分のような人生を歩ませないように死に物狂いで稼いだ。
間違っても目の前の男の毒牙にかからないように。
自分が金を稼いだ方が、娘を売るより儲かるように利益が出るようにしてきた。
それもだんだんキツくなってきたが、今回もらった金額で返済が完了する筈だった。
これでこの男の呪縛から親子共々逃れらる筈だった。
……だと言うのに。
「上の方が利子の割合を上がられちまってさ、この金額じゃ足りなくなっちまったんだよ」
___嘘だ。
見るのも嫌になるくらい憎い顔だが、それでも長年見てきたからわかる。
こいつは嘘をついている。
ただ単に大きな金額を前にして目が眩んだのだ。
「でも心配すんなよ。今度はお前からは貰わないからよ。さっき窓から見えたけど、娘の相手がくれたんだろ?」
男の言葉に女がハッとする。
この男は窓から覗き見をしていたようだ。
「タキシード着てたなぁ。そんで娘と一緒に教会の方に車で向かっていったぜ? 結婚そんだろ? あの金持ちっぽい坊ちゃんと」
女からは見えなかったが、どうやらお相手の男性が娘を迎えに来ていたのだろう。
それをこの男に見られてしまったのだ。
「金はあるところから、貰えばいい。そうだろ?」
いかにも名案であるかのように、得意げに言う男を女は睨みつける。
「今から、ちょっくら行くとしようか」
そう言いながら懐に金の入った袋をしまいながら男は立ち上がり女の腕を掴む。
それに抵抗し振り解こうとするも女は殴られて意識を失ってしまった。
「今更、抵抗なんてしてんじゃねぇよ! お前は死ぬまで俺に貢いでりゃいいんだ!」
そう言いながらまた男は女を殴る。
すでに相手は意識を失っていると言うのに。
『ちっ』
それを見ていたルナは顔を歪めて舌打ちをする。
『本当に男というのは度し難い』
そう言いながらもルナは彼らをどうこうするつもりはない。
取り憑き先の彼ならまだしも、下手な干渉は自分の存在をこの世界の神に悟られてしまう可能性がある。
___今はまだ早い。
あの憎きクソ野郎に自分の存在を悟られるのは、あのゲス野郎の鼻面をしこたま殴りつける直前でいい。
ルナは自分にそう言い訳しながら、イライラする気持ちを抑えつつ、男が女を引きずりながら車に乗り込む様を眺める。
そして車が発進した後もイライラしながら後を追う。
車が教会に近づくにつれイライラが増していく。
このままではこの女のしてきたことが無駄になてしまう。
娘が気にしない様に隠しながら借金を返済してきたことも、娘に悪の手が伸びないように死に物狂いで稼いできたことも。今後万が一にも娘に類が及ばないようにわざと嫌われて縁を切ったことも全てが無に帰す。
それが……母親が子供のためにしたことが無駄になるのは気に入らない。
『ちょっとくらいなら、大丈夫かな?』
そう言いながらルナは指を鳴らす。
それと同時に男と女が乗った車のタイヤがパンクし、スピンをして木にぶつかり停まってしまう。
「畜生! なんだってんだ!」
男は頭から血を流しながら車の外に出る。フラフラしながらも文句を言うと車を蹴りつけた。その衝撃で女が目を覚まし、その目の前に何処からか短いナイフが落ちてくる。
果物を剥くような小さなナイフだ。
女はそのナイフを握りしめながら外に出る。
「おいおい、そりゃぁなんの真似だ?」
それを見た男は、怒りの表情を浮かべながら女に問いかける。
「このままアンタを行かせやしないよ……」
ナイフを構えながら女は答えたが、男は懐から銃を取り出し女に向ける。
「手間をかけさせるんじゃねぇよ。お前がいないと先方から金を貰えないだろうが? えぇ? おい」
男がイラつきながら言うも、女はナイフを下ろそうとしない。
「ちっ! そんな小せぇナイフでどうこうなるわけねぇだろうが! 無駄だからやめろや!」
男の言う通り、女の持つナイフでは男に傷をつけるのも難しいだろう。
目の前の男は自分と違って出来損ないではない獣人なのだから。
しかし、だからと言って女がナイフを下ろす理由にはならない。
なぜなら、自分はどんなに碌でもない生き方をしていたとしても、あの娘の母親なのだ。
「あの子は……、パメーラは幸せにならなきゃならないんだ! パメーラは私が守るんだ!」
女はそう言いながらナイフを構え男に突進する。
それを見て男は舌打ちをしながら女に向けて引き金を引く。
___このままでは女だけが銃に撃たれて死ぬ。ただの犬死で終わる。
ルナは冷静にそう状況を分析する。悪魔の自分は命を奪うことはあっても守ることはしない。
だからこの女が死ぬことは決定事項。
だが、犬死ではなくすることはできる。
死人を増やすことは悪魔的にはなんの問題もないのだから。
『今日はポー生誕祭だったね? それなら僕もパメーラにプレゼントを用意しなくちゃね?』
彼の妹であるポーと同じ名前である、パメーラに今まさに銃を発射した男の魂をプレゼントしよう。発射された弾丸は彼女の母親の命を奪うけれど、その母親の持つナイフが男の命を奪える様にしよう。
そうしてルナが再度指を鳴らすと事故で破損した車が爆発する。
驚き、振り返ろうとする男に爆風が襲い掛かり、男はナイフを構える女の方に吹き飛ばされる。自分からナイフに刺さりに行くように胸を突き出して。
かくして、男が放った弾丸は女の胸を貫き、女のナイフは男の胸に突き刺さる。
崩れ落ちる二人にルナは近づいた。
「あぁ、お迎えが来たんだね? どうやら私は地獄に行くらしい。まぁ、当然か」
倒れた女はルナの方を見てそう呟く。
本来であれば常人には自分を見ることは叶わない筈だが、黄泉国に向かいかけている彼女には見えているのだろう。当然だ。黄泉国の女王たる自分が見えなければ、屍人は惑って現世に戻ってしまう。
「でも、少しだけ待っておくれよ。今から私の人生のクライマックスなんだ。それが済めばどんなところにだって行って償いをするよ」
そう言いながら女はふらつきながらも立ち上がる。
既にほぼ死人であるのにも関わらず、傲慢にも死すらねじ伏せようとする。
そんな傲慢な女の向かう先は娘が結婚式を挙げているであろう教会だ。
だが、いくら傲慢な人間でも胸に数発の弾丸を受けていてはたどり着く前に間違いなく死ぬだろう。その人生のクライマックスとやらを見る前に。その事実にルナは顔を顰める。
『はぁ。どうにも弱い。彼奴の甘さと弱さがうつったのであろうな?』
そう言いながらルナは空間を払うように腕を横に払う。
いつの間にか手に持った扇子に付いた鈴がシャランと音を立てると、周りの景色が変わる。
そこは今まさに新郎新婦が誓いのキスをしようとする教会であった。
不思議なことに周りの人間は二人が突然現れたのに、見えないかのように騒ぎもしない。
「あぁ…………。見ておくれよ。あの娘の幸せそうな顔を」
だが、そんなことは女にはもはや目に入っていない。
彼女の目に映るのは宝物の笑顔だけだ。
少しだけ目が赤いのは、自分のせいだろう。
きっと心優しい彼女の娘は、自分との別れを悲しんで泣いてしまったのだ。
こんなどうしようもない母親だって言うのに。
でも、どうやら彼女の選んだ相手は随分とデキる男らしい。
誓いのキスがすんだ娘の顔は幸せで満ちている。
彼が慰めたのだろう。
母親と絶縁した直後の娘に笑顔で結婚式を行わせるとは恐ろしい手腕というべきか。
どうやら自分がいなくなっても安心して娘を任せられるらしい。
それがなんだか嬉しくなって女はふふふと笑ってしまう。
それに合わせて娘が何かに気づいたようにこちらを向くが、彼女がその表情を見ることはもう二度とない。
「これでクソッタレた私の人生も全部チャラさ。世界で一番幸せだ。あの娘が幸せなら私の人生は意味があった」
満面の笑顔でそう呟く母親の顔をその娘が見ることはもう二度とないのだ。
「あぁ……最高だ……」
その呟きを最後に女の姿が消えていく。
ルナはそれを暫く見ていたが、つまらなそうに鼻で笑うと踵を返し教会を後にした。
空を飛びながらルナはポツリと呟く。
『本当に男なんて碌でもないね?』
その顔は無表情で感情を窺い知ることはできない。
『そう考えると彼はましな方だね? 母親を大切にするしね?』
自分の取り憑き先の人物を思い浮かべながらそう独りごつ。
ちょっとマザコン気味だが母親を蔑ろにするよりは何倍もいい。
マザコンを拗らせて女性の豊かな胸に目がないのも仕方ないと言える。
姿も性別も女なのに女性が好きなのも、男を好きになるよりかは万倍いい。
やはり転生にあたって、彼の性別を女にしたのはファインプレーだったといえる。
最近は彼も自分が幼女であることを気にしなくなってきた。
多分フレアが良い仕事をしている。具体的に何をとは言わないが。
そんな事をつらつらと考えながらルナは彼がいる家へと帰っていくのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「「「わーっしょい! わーっしょい! わーっしょい!」」」
ルナが家に帰るとそこには神輿を担ぐ男衆と、神輿に取り付けられた椅子に座りキャッキャキャッキャと喜んでいるポーがいた。
『なにコレ?』
思わずルナがそう呟くと、神輿の先端に乗りながら大きな団扇を扇ぐように振り回していたキキが気づく。
___お、帰ってきたのか。
そう、頭の中で彼が声をかけてくる。
『なにをやっているんだい?』
見てわからんか? 神輿を担いでいるんだ。
『それは見ればわかるけど、聞きたいのは何故神輿を担いでいるのかって言う方だね?』
___うむ。教えてやろう。去年のポー生誕祭の失敗はスラムの住人に協力を得られなかった所為であるが、本来であれば金がなくても民草はポーを祝う筈なのだ。なぜならポーは大天使だから。
そう言うキキの顔は大真面目だ。
___では何故去年は、そうならなかったのか? これは俺の不徳の致すところである。
『不徳の致すところねぇ? 確かに存在が不徳みたいな物だね?』
___誰が歩く不道徳か?! んっん! つまりはだな。布教が足りなかったんだよ!!
『な、なんだってー(棒)』
___ポーの存在を知らない愚民たちにポーを崇めよと言うのは確かに酷であった。愚かであるが故にポーを崇め奉るのだからな。
もう、ほぼほぼ危険思想の狂信者と化しつつあるキキはどこに向かっているのだろう?
___故に俺は万民にポーの存在を知らしめる方法を勘案した! それがこの、神輿で街を練り歩いて、どいつもこいつも雰囲気に充てられちゃうから集まってきて、祭りの様相を呈して財布の紐も緩んじゃって、食べ物の一部をポーに備えるのをルール化しちゃえば万事うまく行っちゃうんじゃないか大作戦だ!
『昨今のラノベタイトルよりも長い作戦名だね?』
まぁ、最近は内容を全部説明してしまうタイトルも下火になってきて、どんなジャンルなのかというだけにするのがスタンダードみたいだが。もう遅いとか。悪役令嬢ですがとか。
___現在は神輿の練習中であったが、大天使ポーが乗ってみたいと言うから乗せたら喜んでいるのと、そろそろ日が沈んで外が寒くなるから、外出は許可できないというクレア母さんのお言葉により室内での作戦決行となっている!
『それじゃあ、誰も寄ってこないんじゃぁ……』
そうルナがいかけたところで家のドアが激しくノックされる。
「こんばんは! キキさんのベストパートナー、フレア・バートンがポーちゃんのためにケーキを買ってきましたよ!」
「ウホ」
「ラララー、ライブが終わったからみんなできたよ〜♪」
「やれやれ、年寄りはもっと労わるもんさね」
「フレドくんはいるかしら〜? 差し入れを持って来たわよ〜」
「「「ソニーく〜ん! ……きちゃった! きゃーー!」」」
たくさんの声が聞こえてきて、大勢が集まったことがわかる。
ガヤガヤと大勢が詰めかけるなかキキがルナに声をかける。
「ん? お前なんかあった?」
怪訝な顔をしながら聞いてくるキキにルナは少し驚くが、いつもの飄々とした笑顔を浮かべると何もないと答える。
「……そうか。なら良いけどな」
そう言いつつもキキはゴソゴソとテーブルの方から何かを持ってくる。
「ほらコレやるよ」
他の人間から見えないようにひっそりと渡されたのはスウィートポテトで出来たケーキであった。
「お前だけケーキなしはあれだからな」
そう言いながら頭をガシガシ掻く様は、男の子が照れている様で微笑ましい。
『ツンデレだね?』
「ちげーし!」
「フレド、またキキが一人で叫んでいるんだぜ?」
「きっとまた、妖精さんと話しているんだよ」
「俺はキキの将来が心配なんだぜ……」
「僕はそれよりもソニー兄さんが刺されないか心配だよ?」
「「「ソニーくん……。さっきまで鼻の下伸ばしながら見ていた、あの女は誰?」」」
「え……?! 三人とも顔が怖いんだぜ? それに鼻の下なんて伸ばしてないんだぜ! フレアさんにはキキがお世話になってるから、そんな邪な感情はないと断言できたりできなかったりだぜ!」
「断言しないところが兄さんの美点であり欠点だね。それと多分お世話してるのはキキの方っぽいよ? なんのお世話かまでは言わないけど」
「どう言う意味なんだぜ?」
「さーねー?」
「おい! 回転しながら去っていくんじゃないんだぜ! フレド、おい!」
「「「ソニーくん、あっちで少しお話しよう?」」」
「料理できたから持って行ってちょうだーい」
「まかせろ母さん!」
「キキさーーーん!! どこですか?! あなたのフレアですよ!」
どうやら今年のポー生誕祭は去年と違って賑やかになるようだ。
それを見ながらルナはたまにはこんなのも悪くないと考えるのであった。
超絶遅れた上にクッソ長くなってしまいすいませんでした!
SSって会話増えるから長くなりがちなんすよ……。
多分そうなんすよ。
あと遅れたことに関しては、決してクリスマス配信を見ていたからではありません。
そんなの見たこともない。人狼も見ていないし歌枠も見ていない!
悪魔っぽいコアラの結婚式も見ていない!
やめろ! 言いがかりだ!




