2章 39話 「諦めも肝心という話」
どうもこんにちは、キアーラ・カサッツァです。
世の中には負けるが勝ちという言葉があります。
これは勝負事において一端その場は負ておいたほうが、その後の展開を有利に進めることができるという意味です。例えばATK1500のモンスターを攻撃表示で出して、ATK1800のモンスターで殴ってもらったほうが、戦闘破壊によるリクルートができたり、次の自分のターンにより強いモンスターで殴れてアドが取れたりということですね。
よくよく考えると、世の中勝ってマウント取るより、負けて相手に気持ち良くなってもらったほうが仕事ってうまくいきますよね。勝負に勝ったほうがいいのって、勝ち負けを仕事にしている人か、小学生までの児童かもしれませんね。
「いや、しかしそちらの娘さんも随分とヤンチャな様子。淑女たるものあまり下品なお顔をするものではないですよ? いや、本当に」
肩をすくめながら、俺を嗜めるように言ってくる署長。その顔には俺に対する怯えの色も怒りの色も見えない。あるのは胡散臭い笑みだけだ。
至って冷静なその佇まいと表情だけを見れば、とても今しがた自分の部下を射殺した人物とは思えない程に落ち着いている。
「やはり、品格というものは表情にでますのでね、下品なお顔をすると言うことは、それだけ品性に欠けると、そう思われてしまうわけです。いや、私が思っているのではなく、極一般的な意見としてね? 」
まるで説教をするように人に品性云々言ってくるが、奴の足元には至近距離から銃弾をしこたま打ち込まれた隊員が倒れている。さっきまで顔を真っ赤にしながら鼻水垂らして喚き散らしていた、こいつには言われたくない。
「さっきまでのあんたの方が下品で品性を疑われるような顔だったと思うがね?」
言われたくないし、煽り耐性が皆無のこいつを煽れば、仲間割れを起こして勝手に数を減らしてくれる可能性があると言うなら、その思いを口から溢れさせるのもやぶさかではない。
「いや、それを言われるとこちらも弱いです。いや、本当にお恥ずかしい限りですな」
しかし俺の思惑とは裏腹に、キレれる事なく軽くあしらってくる署長。
絶対子供のように喚くと思っていた俺は、呆気に取られてしまう。
「しかし、失敗から学び次に活かしていけるの精神もまた品性だと思うんですよね?」
そう微笑みつつ言いながら、署長は空になった自分の銃に弾を込め直し始めた。
その手は震えておらず、さっきまで取り乱し醜態を晒していたとは思えないほど落ち着き払っている。
「どうしたよ? 顔を赤くして怒らないのか? 小娘に馬鹿にされているんだぜ? またひえって言って見せてくれよ? 部下からのウケもいいみたいだしさ?」
仕方ないので、自分でもあからさま過ぎるかと、不安になるくらいに煽り倒す。
品性何それ美味しいの? 勝てば官軍という名ゼリフを知らないのかよ?
しかし署長は俺の煽りもどこ吹く風で涼しい表情だ。
ち……これは無駄か。一人殺って賢者タイムってか?
ってことは、次の行動は……。
「いや、本当にヤンチャなお嬢さんだ。全くもって___度し難い」
そう言いながら署長は銃口をこちらに向けてくる。
それと同時に王虎が俺を庇うように前に出る。手にはまだリーダーを持ったままだ。
そして乾いた破裂音がしたかと思えば、王虎が持っているリーダーにバスバスと弾が当たる音がする。どうやら署長はお構いなしに発砲したようだな。
リーダーの呻き声と何回かの発砲音が続いた後、向こう側の隊員から声が上がる。
「署長! おやめください!」
どうやらまたあちらに犠牲者が出るようだ。そう思った俺だが、意外にも銃声が止まった。
王虎の影から顔を出し様子を伺うと、署長が銃を下ろしていた。
なんだ、部下の意見具申に耳を傾けられるほどに冷静になったのか?
「ふぅ……」
パン!
……とおもったら、そんなことはなかったようだ。
声を上げた隊員が撃たれていた。
だが、やはり幾らかは冷静なようで、足に向けて発砲したようだ。
撃たれた隊員は足を押さえてうずくまるだけで死んではいない。
署長はその隊員に向かって諭すように声をかける。
「いいですか? まず、いちいち私のやることに異議を挟んではいけません」
パン。至近距離からの発砲で隊員が倒れる。
「グゥあっ!」
「次に、いちいち私のやることに説明を求めてはいけません」
パン。また同じところに発砲。
「ガァっ!」
「そして、何か間違ったことをしたら責任を取らなくてはいけません」
パン。のたうち回る隊員の動きを足で止めて、また同じところに発砲。
「ギャァあ!」
「わかりましたね?」
足を何度も撃たれた隊員はのたうち回りながら、何度も頷いている。
「よろしい」
署長はそう満足げに言いながら向き直る。
そして、拳銃をこちらに向けると無造作に引き金を引くが、当然その弾は王虎が盾に使っているリーダーに当たる。
「さて、あなた達はあの隊員が人質に取られてまごついていたようですが、それは間違いです」
そう主張しながらも署長は引き金を引く。
もはやそれを止める隊員はいないようだ。
そして雲行きが怪しくなってきた。
継続して撃たれているので、王虎も手に持つリーダーを投げつけることができない。
振り上げた瞬間に一撃貰ってしまうからだ。
「なぜなら彼は先ほど私を笑った隊員の教育に失敗しているからです。部下の失敗は上司の責任です」
その間も署長は隊員に説明を続けている。
部下の失敗が上司の責任なら、全部の責任はお前にあるのではとツッコミはしない。
社会人なら常識だが、この場合の上司とは中間管理職までを指すからだ。
それより上の上司は部下の責任は取らない。組織が回らなくなるからな。
どうやらそれは異世界でも変わらないらしい。
「よって彼は責任を取らなくてはならない。しかし、彼の今までの功績も加味しないといけません。彼は優秀な警察官でした。その事実は失敗があったとしても消えないわけですから」
そうリーダーを褒めながらも、銃を撃つのをやめない。
王虎もリーダーに死なれると人質の意味がないので、回避をし始める。
だが俺が後ろにいるので大きくは避けられない。
このままではリーダーの耐久値が先に切れるぞ……。
「そんな優秀な彼が、今や人質となって悪党に良いように利用されてしまっている。そんなことを彼が良しとするでしょうか? 答えは否です」
リーダーが本当にそう思うかどうかは知らないが、勝手にその思いを代弁し出す署長。
要するに彼もそれを望むはずなので、まとめて掃射してしまおうって話だ。
そして今しがた恐怖を受けつけられた隊員達はその命令を拒否できないだろう。
そうなればこちらは詰みだ。怪我をしている王虎も、ましてや獣人ではない俺も避ける事は叶わず、蜂の巣待ったなしだ。
「まずいな。もうもたねぇ」
それをわかっている王虎も焦ったような声をあげる。
有効だと思った人質が裏目に出てしまった。
このままでは文字通り足手まといになってしまう。
「どうする? 今この瞬間なら盾を放り出しても、撃ってくるのは署長一人だと思うが、強行突破するか?」
王虎が次善策を提案してくる。
「そうだな、その人質を捨てるなら今しかないか……」
俺は王虎の背中にでも飛びついて……と考えたがどうやらタイムアップのようだ。
「彼の今までの奉公に報いるためにも、かの悪党もろとも撃って上げるのが我々に出来るせめてもの手向けなのです。と言うことで、総員構えっ!」
署長の号令とともに一斉に銃を構える隊員達。
今度は王虎の手にカーテンはないし、代わりにあるのは、人質の価値がなくなった気絶した人間。不意をつくことも予断を誘うことももうできない。さらに真後ろにいる俺のせいで大きな回避ができない。
「こりゃあ、絶体絶命ってやつだな……」
王虎がポツリと呟く。
「そうだな、このままだとお前は大ピンチを超えて大ミンチになっちゃうな」
俺が戯けて言うと王虎が、じゃあ俺の来世はハンバーグかと鼻で笑う。
「さて、真面目な話、多分詰みだろう。俺を置いて逃げろよ。それならワンチャンあるぜ?」
署長を甘く見ていたな。あいつが出てきたことで、プランが狂った。
目の前で率先して仲間をぶっ殺す様を見せつけられたら、人質なんてなんの意味もない。
考えた上での行動かどうかは知らんが、現状最も効果的なチョイスだったよ。
もはや勝ちは絶対にない。負けが確定している。
だが、実際王虎一人なら逃走はなんとかなると思うんだよ。俺が囮になれば成功率は結構上がるだろう。俺がそういうと王虎が即反応する。
「バカ言うな。これから先お前がいなけりゃ俺が生きていても意味ないだろうが」
そう王虎が真顔で言ってくるので俺は大層気分を害す。
「ウエェ。まるでプロポーズのようではないか。気持ち悪ぅい」
俺はBLには興味がないって言ってるだろう。
「馬鹿野郎、そう言う意味じゃねぇよ気持ち悪りぃ」
王虎も思いっきり顔を顰めてフレーメン反応みたいな表情になる。
気持ち悪いとはなんだこの野郎。こちとら幼女だぞ。可憐で清楚だぞ!
まぁ、バンビーニのことを考えると俺も王虎も両方必要ってのは同意できるがね。
「いっそ、命乞いでもしてみるか?」
俺が再度どうしたものかと呟くと、今度は王虎が戯けて言ってくる。
……それもありか? 割と良い案かもしれん。
その場合は俺の貞操はないなるだろうけど。この世界もロリコン多いし。
まぁ、優先順位を間違いたりはせんよ。それで命を拾えるなら安いもんよ。
大体、命乞いが成功するかもわからんしね!
よし、いってみようやってみよう!
と、俺が無理やり気勢を上げていると、署長の方から先に声がかかる。
「さて、一応お決まりのお約束みたいなものなので、お聞きしますがね?」
やれやれと困ったような顔をしている署長。
もはや勝敗が決まって優越感を隠そうともしていない。この後俺たちを蜂の巣にする妄想でも既にしているのかもしれない。そんなことはしないと思いますがと続けてくる。
「いや、本当に面倒ですが、一応、一応ね? 言わないと。慣例ですからね。いや、本当に。んっん! あぁーあー。では。……あなたちは包囲されています。無駄な抵抗をやめて投降しなさい。頭の後ろに手を組んで跪きなさい!」
お? なんだか向こうからチャンスをくれたぞ?
俺と王虎はお互いに目を合わせると頷き合い
「「命だけはご勘弁を! 投降します!」」
人質を放り出して言われた通りに跪くのだった。
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