2章 27話 「藪をつついて蛇を出す話」
どうもこんにちは。キアーラ・カサッツァです。
藪蛇という諺がありますが、いらん事をしたら災いが降りかかるという意味です。
しかし、世の中には結果的にいらん事だったとしても、その時は藪を突くのが必要な事だったと言うのは往々にしてあると思うのです。
ましてや突ける距離に蛇が居るのであれば、音もなく這い寄られる前に先制攻撃するのは当然のことではないでしょうか?
「そりゃどう言うこった?」
そう問いかける王虎の声はだいぶ苛立ちを含んだものだった。
その声を向けられ、萎縮するように身を縮めた男は、額から汗を流しながら俯いている。
背も低く小太りで毛根に力が無くなってきたのが見て取れるこの男は、うちがアイドルライブ(ビンゴ大会)の開催を予定していた劇場の館長だ。
最近はライブ兼ビンゴ大会も賑わいを見せており、路上でのステージライブでは客を収容できなくなってきたからな。そのため大した規模ではないが劇場を借りていたのだ。
今日も本来なら、うちのライブがここで開催される予定だった。
だが今、舞台上でライブを行なっているのはウチではなく、別のアイドルグループだ。
そしてそのアイドルグループこそ、先日キースから告げられたフェアリー・ドーンだった。
「……ですから、今後の公演スケジュールが予約で埋まってしまいまして」
その構成は十数人からなり、年齢も種族もまちまちでごった煮の様相を呈している。
幼く見える子もいれば、熟女の域に片足を突っ込んでいる女性もいる。
獣人もいればエルフもいるし人間もいる。
そんな統一性のない彼女達だが、共通するのは着ている衣装で、布面積が少なく動きやすい、ほぼ下着や水着といった形状のものに薄衣を羽織っている。
「だから、うちの公演を今後受けつけたくないと?」
「いえ、受け付けないと申しますか、受けたくても出来ないと申しますか……」
劇場の事務所、備え付けられた皮のソファに座った王虎にしどろもどろに館長が答えている。怯えているわりにはこちらの要望は聞く気がないと言う意思が感じられる。
「予約が埋まってるわりに、今舞台の上で踊っている奴らは随分と出演しているみたいだが?」
ここから見ることはできないが、王虎が言うように舞台の上ではフェアリー・ドーンのメンツが踊っていることだろう。
「まぁ、その……。彼女達の踊りは上の方々にも人気がありまして」
額の汗をハンカチで拭きつつもそう言ってくる館長。
上の方々に人気なのでそちらを優先するのは当たり前。
上の方々を満足させるために公演回数を多くするのも当たり前。
言外にそう館長は言っているのだ。
「俺たちは人気がないから、後回しと言うわけだな?」
「いえいえ! そんなことはございませんとも!」
半ば揚げ足取りのような形で文句を言う王虎に、掌を振りながら答える館長。
「私も長くこの仕事をやっておりますが、今まで見たこともないような新しい歌と踊りですし、それに観客が参加できるビンゴ大会と中々に面白い試みだと思います。実際に人気は出ていると思いますよ」
館長はどうやらお世辞で言っているわけではなく、実際にそう思っているのか、興奮気味に言ってくる。だが一つ咳払いすると言いにくそうに続けてきた。
「ですが……、お金を支援してもできるのが握手だけと言うのがなんとも……」
館長が王虎の横に座っていた俺にチラリと視線をむける。
その中に見える欲望に背筋が凍るが、ぶん殴るわけにもいかん。
正体を隠すことにした俺の今の立場は、アイドルたちのマネージャー的な一職員でしかないのだから。だがぶち殺すぞという意思を持って睨みつける事ぐらいはしておこうと思う。
「いや、私はどうこう思わないのですが、お客様の中にそう思う方もいらっしゃって、私どもの方にも本当に握手だけなのかと言うお問い合わせがあったりするので、一般的な意見として申し上げたまでですがね?」
慌てて言い訳するように俺から目を逸らし、まくし立てる館長。
一職員のガンつけにビビるとはやはり小物……。
だが館長の言っている事もわからんでもない。
金を出したんだからいい思いをさせて欲しい。
そう思う客が多いのだろうと思う。
そして女性ばかりの集団相手に望む、いい事がそう言う事だろうと言うのもわかる。
だが、前に俺がマダムに言ったようにうちの子たちに客を取らせるつもりはないのだ。
「前に説明したと思うが、金を支援してもらっているつもりはない。あくまで握手するのはビンゴシートを買った時のちょっとした余興だ」
その事を重々承知している王虎が釘を刺すよう言う。
確かに、うちはアイドルがビンゴカードを売り、その購入された枚数で順位を競うという、人気投票を行なっている。
このビンゴシートを購入するときにアイドルと握手をすることができるわけだが、見方によっては握手をするために金を払っているように見えなくもない。
だがそれは王虎が言ったようにあくまでオマケなのだ。
メインはビンゴ大会。そこはブレてはいけない。
俺がアイドルライブを思いついたのは、まずビンゴ大会を成功させるという前提があり、ビンゴシートの購買意欲を向上させるためだ。
流通がそこまで加速していない現状で、アイドル活動だけでは大きな商いにはならない。
仮にグッズ展開をしたとしてもそれらの売り上げだけではこれから先の資金源としては心もとない。そのためギャンブルであるビンゴを主軸に据える必要があるのだ。
「確かに説明されました。ですが、それを建前だと思う方々がいるのですよ」
館長は呆れたかのように肩をすくめて言う。
そんな事もわからないのかいう態度がありありと出ている。
「そしてそれは大金を動かす方々に多い傾向があります。その方々が望んでいるのであればサービス内容の変更をご検討された方が商売が上手くいくのではと、私もお伝えしたと思いますが」
金儲けのチャンスをみすみす逃していることに対してか、はたまたその方々とやらの代弁をすることで虎の威でも借りたつもりか、怯えて震えていた館長の目にはこちらを見下すような色が混じる。
「俺たちには俺たちの商売の仕方がある。お前にガタガタ言われる筋合いはない!」
実際に空気を震わせ圧力を持って届く王虎の声に、館長は短く悲鳴をあげてまた震えだす。
だが今度はダラダラと汗を流しながらも俯きはしなかった。
「でっ、であれば私たちにも私たちの商売の仕方がございます。私たちは今舞台上で行われているダンスが、当劇場をご贔屓にしていただいているお客様のご要望に、よりお応えできると判断したまでです!」
ガクガクと震えているくせに、妙に強気に王虎に食ってかかる館長。
それは商売人としての気概からくるものか、それ以外からくるものなのか。
確かに今この劇場にはフェアリー・ドーンのダンスを見に多くの男性客が詰めかけている。
扇情的な衣装を身につけた女性たちが、公演のたびにその肢体を見せつけるように踊るのだ。前世で言うところのストリップにほぼほぼ近い。そりゃあ流行るだろう。
前世でもちょうどこれくらいの時期に、有名なムーランルージュなどでストリップの原型とされるショーが行われ流行った。俺からしてみれば、いわばストリップは勝利が約束された催し物と言える。
だが、それは俺からしてみればと言う話だ。
この小心者の館長に、俺たちを相手にする程のリターンが見えているとは思えない。それほどの器ならば内心はどうだったとしても、外面は取り繕って怯えたところなど見せないだろうからな。
つまりは館長が強気に出られるだけの何かがあるわけだ。
そうでなければ、俺たちが借りていた劇場の全てが俺たちを締め出すわけがない。
俺たちの公演を断ってきたのはこの館長だけではない。
突然全ての劇場が取りつく島もなく断ってきたのだ。
キースがあの手この手で交渉を試みるも失敗。
そして、この劇場が最後の場所だったために、王虎が直接出向いてきたのだ。
「随分と吠えるじゃねぇかよ……。え?」
地響きのような低い声で王虎が館長に言う。
グルグルと虎が威嚇するような唸り声も上げ怒りをあらわにしながら、気づいた時には王虎は館長の頭を鷲掴みにし吊るし上げていた。
「あっ、がっごぉっ」
ギリギリと締め付けられる激痛にジタバタともがく館長。
世論を味方につけていくと言っても舐められる訳には行かない。
当然相応の対応が必要だ。
商売上の契約を反故にされた報復と、舐めた対応をしたことに対する見せしめを行うために王虎を連れてきたのだから。
まぁ、そっちは俺にとってもののついでだ。
館長は俺たちに敵対したと言うほどでもないからな、ほどほどにお仕置きする程度だ。
メインの用事は別にある。その為に態々今回はこの館長に予めアポイントを取って来館したのだから。
俺たちを相手にしても問題ないだけの何か、強気に出れる何か。
恐らくは俺たちに対抗できる何がしかの勢力。
多分はマフィア。それが館長らの後ろ盾。
今日王虎がくることを館長はそいつらにに相談したはずだ。
そして館長が強気に出たと言うことは、そいつらはこの場に来ている。
助けてもらえると思っていたから、強気に出られたのだから。
それを引きずり出すのが今日のメインの目的だ。
館長には腕の一本でも折れてもらおうと、王虎に声をかけようとしたその時。
勢いよく扉が開かれ人がなだれ込んでくる。
そして叫んだ。
「動くな! 警察だ!」
拳銃を王虎に向けて構える制服の集団はマフィアではなく、その天敵である警察官達だったのだ。
お読みいただき誠にありがとうございます!
ポイント評価・ブックマークも大変嬉しいです!
これからも頑張ります!
と、言っておきながらハイパー難産中。体調不良も相まって大ピンチ!
命削っても良作ができないのが面白いところですな。




